2024年度診療報酬改定に向け「新規医療技術の保険適用」「データに基づく既存技術の再評価」の検討を開始―中医協(2)
2023.2.16.(木)
安全性・有効性が確認された医療技術については、原則として保険適用が行われる。2024年度の次期診療報酬改定でも学会等から提案などを踏まえて、新規医療技術の評価を行い保険適用すべきか否かを決する―。
また既存の医療技術のうち「レジストリ登録が義務付けられている」ものなどについては、その効果を検証し、必要に応じた再評価を検討していく—。
2月15日に開催された中央社会保険医療協議会の診療報酬基本問題小委員会、および引き続き開かれた総会で、こうした方針が了承されました。まもなく関係学会等から「新規医療技術の保険適用に係る提案書」「既存医療技術の再評価に向けた報告書」の受け付けが開始されます(提案書は6月上旬締め切り、報告書は4月下旬締め切り)。
なお医療技術の評価に関し「どの会議体で、どういった事項を審議するのか」に関する整理も行われています。
目次
2024年度の診療報酬改定に向け、新規医療技術の保険適用提案などを学会等から募集
医療・医学の水準は日進月歩しており、その成果・果実を広く国民が享受できるよう、安全性・有効性を確認したうえで保険適用が順次進められます(この点、医療保険制度の持続可能性を考慮し、保険適用の在り方を考えるべきとの議論もある点に留意が必要である)。
2年に一度行われる診療報酬改定では、多くの新規医療技術の保険適用が行われますが、効率的かつ公平・公正な検討を行うために2018年度の診療報酬改定から、▼関係学会から提案された新規医療技術▼先進医療で実施されエビデンスの整った新規医療技術―について、中医協の「医療技術評価分科会」で評価を実施し、その結果を、中医協で審議し、どの技術を保険適用するべきかを決するという仕組みが設けられています。専門家で構成される医療技術評価分科会において、より幅広い視点・公平な視点で保険適用の可否を検討するものです。
また、より科学的な視点に立って検討を行うために、2022年度の前回改定では次のような仕組みが導入されました。
(1)診療ガイドライン等に基づく医療技術の評価
(2)レジストリに登録され、実施された医療技術の評価
まず(1)は、学会からの「この技術を保険適用してほしい」との提案書の中に「診療ガイドライン等における当該医療技術の位置づけなどを明示する」ことを求めるものです。ガイドラインに位置づけられている技術は、「専門家の間で有用性・安全性が相当程度確認されている」と言え、優先的に保険適用していくことが国民にとって有益なためです。2022年度の前回改定ではガイドライン等で記載のあった技術は113 件(未収載技術36件、既収載 77 件)でした。
また(2)は、「新たな医療技術が、既存の技術に比べてどれだけ優れているのか」を確認するために、学会に症例登録(レジストリ登録)を求めるものです。このデータを活用し「既存技術よりも優れた効果がある」と確認できれば、診療報酬点数の引き上げなどを検討することになります。2022年度の前回改定では、13件の医療技術についてレジストリを用いた効果検証が行われ、▼胃がんに係る内視鏡手術用支援機器を用いる手術について点数を引き上げる▼食道がん、胃がん、直腸癌に係る内視鏡手術用支援機器を用いて行う手術について 施設基準を見直す(緩和する)—といった見直しが行われています(関連記事はこちらとこちら)。
2月15日の中医協では、2024年度の次期診療報酬改定に向けて「2022年度改定と概ね同様の考え方」(一部修正)に立って、新規医療技術に関する保険適用の可否を検討する方向が確認されました。その大枠は次のとおりです。
▽評価・審議時間が限られていることから、評価対象となるのは▼診療報酬点数表の「医学管理等」(Bコード)から「病理診断」(Nコード)に該当する▼「アウトカムが改善する」などの有効性をデータで示すことができる―医療技術、および「先進医療で実施されている医療技術」に限定する
▽学会等は、「保険適用の必要がある」と考える医療技術について、▼技術名とその内容▼主たる診療科▼対象疾患▼類似の医療技術▼概要▼実績▼保険適用が必要な理由▼診療ガイドラインでの位置づけ▼予想される影響額―などを提案書に記載し、厚労省に提出する
▽提案書には「当該医療技術に関連して減点や削除が可能と考えられる医療技術」「現に 当該医療技術の対象となる患者に対して行われている医療技術」も記載する
厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長は「2月中旬から6月上旬まで学会からの提案書を受け付ける」考えを示しています(具体的な日付はさらに調整)。「この技術を保険適用してほしい」と考える学会等は急ぎ提案書を準備する必要があります。
新規の医療技術が登場した場合、「既存技術は効果が劣り、使われなくなる(新規技術に置き換わる)」という事態も生じえます。新規技術の提案では、この点についても記載することが求められ、データを踏まえて「既存技術の減点や、保険からの削除」なども併せて検討されます。この点について支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)はこの点に大きな関心を寄せており、今後の医療技術評価でも重要ポイントの1つになる可能性があります。
既存医療技術(148件)についてデータをもとに効果などを再検証
また、医療技術評価分科会では、すでに保険適用されている医療技術の評価」(再評価)も行われます。すでに昨年(2022年)10月26日の中医協で決定された事項で(関連記事はこちら)、次のような内容です。技術の効果を検証し「優れていれば増点を、効果が芳しくなければ減点を検討していく」ことになるでしょう。
▽2022年度改定で▼「ガイドライン等で記載あり」とされた技術(113件)▼レジストリの登録を要件として保険適用された技術(35件)—について、関係学会からの提案とは別に「医療技術評価分科会での再評価」の対象とする
▽学会からの提案書様式について、臨床的位置づけや根拠の変化の有無を記載することとする
▽医療技術の再評価方法について検証を行うとともに、「既収載技術の再評価方法のあり方」について研究・検討を進める
眞鍋医療課長は「2月中旬から4月下旬まで学会からの報告書を受け付ける」考えを示しています(具体的な日付はさらに調整)。この点、上記の技術については報告書の提出が「義務」となっている点に留意が必要です。
このほか、「医療技術の体系的評価」を進める(STEM7)ために、▼1つのKコード(手術に関する診療報酬点数のコード)に対して「手術部位ごとにSTEM7が分類されている整形外科領域」の一部術式について体系化が可能と考えられたことを踏まえ、整形外科領域の同様の術式についても検証を進める▼関係団体等とも連携しつつ、2024年度診療報酬改定に おいて検証結果に基づくKコードの体系化を検討する▼DPCデータの麻酔時間を用いた現状の評価方法には一定の限界もあるため、関係学会の保有するデータベースを補完的に利用する等、関係団体等とも連携しつつ、更なる評価方法について検討を進める—方針も再確認されました(関連記事はこちら)。
医療技術の評価について「どこで評価論議を行うか」を整理
さらに「どの会議体で、どのような分野に係る技術の審議を行うか」という点についての整理も行われました。さまざまな医療技術(これまでに想定されてこなかった医療技術も含めて)が登場してきている事態を踏まえたもので、いわば「2024年度改定論議の中で試行を行い、必要に応じてブラッシュアップしていく」考えを眞鍋医療課長は示しています。
(A)基本診療料(Aコードの入院料やその加算など)の点数、算定留意事項、施設基準を変更するもの中医協総会で審議する
(B)特掲診療料(Bコード以降)に関するもののうち以下については、原則として従前のとおり学会等からの提案に基づき医療技術評価分科会で審議する
▼特掲診療料の施設基準を変更するもの
▼医学管理等に新たな技術料を設定するもの
▼薬事承認の範囲のうち「患者要件等により保険適用されない範囲」がある場合(承認事項一部変更承認によって保険適用されない範囲が生じた場合を除く)で、当該保険適用されない範囲の全部または一部を保険適用するもの(下図)
(C)上記(A)(B)に該当しないものについて、学会等から医療技術評価分科会に提案がなされた場合は同分科会で審議し、製造販売業者から保険適用希望書が提出された場合は従前のとおり保険医療材料専門組織(中医協の下部組織、保険医療材料の機能区分などを検討)で審議する
▼保険医療材料専門組織で審議する場合、保険適用希望内容のうち全部または一部について具体的な技術料の設定や見直しに当たり分野横断的な幅広い観点からの評価や他の既存技術に対する評価の見直しがあわせて必要と考えられる場合(下記を想定)などには、医療技術評価分科会での審議を求めることができる(下図)
・当該医療機器等を用いた技術を評価する場合に、類似する既存技術に対する評価との整合性の観点から、当該既存技術に対する評価を同時に見直す必要があるもの
・当該医療機器等を用いた医療に関する医療提供体制(オンライン診療、在宅医療等)のあり方について検討が必要なもの(「在宅療養指導管理料」に新たな技術料を設定するものを含む)
▼医療技術評価分科会での検討が必要とされた場合には、直近の診療報酬改定までに同分科会で審議を行う
こうした整理に異論は出ていませんが、支払側の松本委員は「医療技術の中に機器・材料が含まれるケースが増えてきている。可能な限り両者を分離して検討し、例えば機器・材料部分の評価では実勢価格などを勘案すべき」と、支払側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「医療機器、技術について特性に合わせた施設基準や算定回数などを設定していくべき。医薬品については保険財政への影響も踏まえて考えていくべき」とそれぞれ進言しています。
不妊治療技術、遺伝子パネル検査による分子標的薬投与など保険外併用療養が増加
このほか2月15日の中医協総会では、新規の医療技術の保険適用を了承するとともに、新たな先進医療および患者申出療養(保険外の医療技術を、保険診療と組わせて実施することを認める仕組み)の報告を受けました。
【新たな医療機器の保険収載】(今年(2023年)3月に保険適用予定)
▽ステロイド抵抗性または不耐容の慢性移植片対宿主病に対する体外フォトフェレーシス(ECP)である「Cellex ECPシステム」(保険償還価格は18万9000円)
【新たな先進医療】
▽MRI-経直腸的超音波 画像融合画像ガイド下前立腺標的生検、および経会陰式系統的12か所生検により前立腺内部におけるがん局在診断が行われた限局性前立腺がん症例に対する「高密度焦点式超音波療法を用いた前立腺がん局所療法」(東海大学医学部付属病院で実施、67万円が先進医療部分となり患者自己負担(ほかに保険診療分の自己負担もある))
【新たな患者申出療養】
▽生後12か月以上15歳以下のBRAF V600変異陽性進行・転移性固形腫瘍に対するダブラフェニブ・トラメチニブの第II相試験(北海道大学病院で実施、61万2000円が患者申出療養となり患者自己負担(ほかに保険診療分の自己負担もある)、関連記事はこちら)
また、不妊治療技術により先進医療が増加していること、遺伝子パネル検査に基づく分子標的薬により患者申出療養が増加していることなども厚労省保険局医療課医療技術評価推進室の中田勝己室長から報告されています。
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