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13番目の患者申出療養、「BRAF V600変異陽性の小児固形がん」への抗がん剤併用療法を条件付きで承認―患者申出療養評価会議

2022.12.26.(月)

13番目の患者申出療養として「BRAF V600変異陽性の局所進行・転移性小児固形腫瘍に対するダブラフェニブ・トラメチニブの第II相試験」を認め、保険診療との併用を可能とする―。—。

ただし、半年後に「症例確保の状況」「多施設共同での実施検討状況」などを確認するという「条件」を付す—。

12月22日に開催された患者申出療養評価会議で、こういった点が了承されました。

12月22日に開催された「第36回 患者申出療養評価会議」

類似技術が九大病院で実施されているが、新規の症例登録が付加である・・・

患者申出療養は、傷病と闘う患者の「海外で開発された未承認(保険外)等の医薬品や医療機器を使用してみたい」という希望・申し出を起点に、当該医療技術(未承認の医薬品等)に一定の安全性・有効性があることを評価会議で確認した上で、保険診療との併用を許可する仕組みです(2016年4月スタート)。

これまでに、次の12種類の患者申出療養が認められています(ただし「2」「3」「4」「5」「10」の技術はすでに終了)。
(1)腹膜播種・進行性胃がん患者への「パクリタキセル腹腔内投与および静脈内投与ならびにS-1内服併用療法」
(2)心移植不適応な重症心不全患者への「耳介後部コネクターを用いた植込み型補助人工心臓による療法」(関連記事はこちら
(3)難治性天疱瘡患者への「リツキシマブ静脈内投与療法」(関連記事はこちら
(4)髄芽腫、原始神経外胚葉性腫瘍または非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍患者への「チオテパ静脈内投与、カルボプラチン静脈内投与およびエトポシド静脈内投与ならびに自家末梢血幹細胞移植術の併用療法」(関連記事はこちら
(5)ジェノタイプ1型C型肝炎ウイルス感染に伴う非代償性肝硬変患者への「レジパスビル・ソホスブビル経口投与療法」(関連記事はこちら
(6)進行固形がん(線維芽細胞増殖因子受容体に変化を認め、従来治療法が無効、かつインフィグラチニブによる治療を行っているものに限る)患者への「インフィグラチニブ経口投与療法」(関連記事はこちら
(7)早期乳がん患者への「ラジオ波熱焼灼療法」(関連記事はこちら
(8)遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」(関連記事はこちらこちら
(9)HER2陽性の手術不能または再発の乳房外パジェット病患者に対する「トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ点滴静注用)静脈内投与療法」(関連記事はこちら
(10)ROS1融合遺伝子陽性の進行性小児脳腫瘍患者に対する「エヌトレクチニブ(販売名:ロズリートレクカプセル)の経口投与療法」(関連記事はこちら
(11)免疫グロブリンGサブクラス4自己抗体陽性難治性慢性炎症性脱髄性多発神経炎患者に対する「リツキシマブ追加投与療法」(関連記事はこちら
(12)BRAFV600変異陽性の進行性神経膠腫を有する小児を対象とした「ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法」(関連記事はこちら



12月22日の会合では、13番目の患者申出療養として「BRAF V600変異陽性の局所進行・転移性小児固形腫瘍に対するダブラフェニブ・トラメチニブの第II相試験」が認められました。

九州大学病院で実施されている(12)の技術と類似していますが、(12)の技術は▼脳腫瘍(神経膠腫)のみが対象である▼新規の症例登録が終了している—ことから、新たな患者申出療養の申請となったものです。また九大病院の(12)計画を修正する(対象疾患の拡大、新規組み入れへの拡大など)手法も考えられますが、すでに発端となる患者が死亡するなど「実施を急ぐ」必要性が強いことなどから、新規申請となりました。

さらに、製薬メーカーから薬剤の提供を受けるために患者申出療養とする必要があった(他の仕組みでは有償であっても薬剤提供が受けられないと実施医療機関である北海道大学病院が説明)という背景もあります。この点については後述のように「製薬メーカーへの批判」の声も出ています。



本技術は、保険適用済みの遺伝子パネル検査によって「BRAF V600変異陽性」と判明した局所進行・ 転移性小児固形腫瘍のある生後12か月-15歳の小児患者に対し、適応外である▼ダブラフェニブメシル酸塩(タフィンラーカプセル)▼トラメチニブ・ジメチルスルホキシド付加物(メキニスト錠)―を併用投与するものです。

すでに、▼BRAF遺伝子変異を有する悪性黒色腫▼BRAF遺伝子変異を有する切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん―の治療では「両剤の併用投与」が認められており、「BRAF V600変異陽性の局所進行・ 転移性小児固形腫瘍(小児)」にも、両剤が奏効する(効果的に腫瘍の増殖を抑えられる)のではないかと期待されます。

技術の評価は「測定可能病変を有する患者の治療開始後24週までの奏効率」や「測定可能病変の縮小度合」「無増悪生存期間」「全生存期間」「有害事象」などを指標として行い、安全性・有効性を確認したうえで「薬事承認→保険適用」(適応拡大)を目指します。

▼対象患者:「BRAF V600変異陽性」のある局所進行・ 転移性小児固形腫瘍のある生後12か月-15歳の小児患者
▼目的:ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法の有効性と安全性を評価する(患者データを、治験データなどとあわせてエビデンスを構築し、将来の保険適用を目指す)
▼主要評価項目:測定可能病変を有する患者の治療開始後24週までの確定したRECIST version1.1に基づく奏効率
▼期間:患者申出療養制度承認後から2027年3月31日
▼研究対象者数:測定可能病変を有する者18名、測定可能病変を有さない者0-10名
▼予想される有害事象:QT延長、皮疹など

「BRAF V600 変異陽性局所進行・転移性小児固形腫瘍に対するダブラフェニブ・トラメチニブ投与」の概要(患者申出療養評価会議2 221222)

「BRAF V600 変異陽性局所進行・転移性小児固形腫瘍に対するダブラフェニブ・トラメチニブ投与」の薬事承認申請までのロードマップ(患者申出療養評価会議2 221222)



本技術の内容そのものには異論は出ていませんが、▼18名の対象患者を確保できるのであろうか(主担当である山口俊晴構成員:がん研究会有明病院名誉院長)▼北大病院では「患者の意思決定に対する配慮」が欠けているのではないか(副担当である松井健志構成員:国立がん研究センターがん対策研究所生命倫理・医事法研究部長)—といった疑問の声が出ています。

山口構成員は「稀な疾患であり、北大病院だけで当該症例を確保できるか疑問である。多施設共同研究も積極的に勘案すべき」「本技術は内服薬を投与するもので、特殊な機器を用いたりするものではない。北大病院でなければ実施できないわけではなく、多施設共同で実施可能とすれば、患者・家族の通院・滞在負担も大幅に軽減できる」と提案。また松井構成員は「当初の計画書から『患者の意思決定』を軽んじている部分が散見され、北大病院の倫理審査委員会にも極めて大きな問題がある」と強い調子で非難しました。

また松井構成員は「患者申出療養でなければ薬剤提供ができない」とした企業の姿勢も問題視。「人道的見地からは、企業は積極的に薬剤提供を様々な仕組み(拡大治験など)の中で行うべきである。患者申出療養での薬剤無償提供が、企業のイメージアップ戦略として用いられていることは遺憾ではないか」とコメントしています。

なお、直江知樹構成員(名古屋医療センター名誉院長)は「本技術は小児がんの1つである『ランゲルハンス細胞組織球症』(ランゲルハンス細胞と同じ形質を持った異常なLCH細胞が増殖して、皮膚や骨、内臓などさまざまな部位に多彩な症状をきたす希少疾患)にも奏効する可能である。北大病院や関係学会に働きかけ、当該疾患も対象に加えることなどを検討すべき」と提案しています。

こうした意見点を踏まえ、福井次矢座長(東京医科大学茨城医療センター病院長)は、実施から半年後に▼症例確保の状況▼多施設共同に向けた検討・取り組み状況—を確認するという「条件」を付したうえで、患者申出療養として認める考えを提示。構成員もこの考えに賛同しました。

半年後に状況を確認し「症例が確保されてない」「多施設共同の検討も進んでいない」状況が判明した場合には、改めて「対応を検討する」ことになります。後者の多施設共同での取り組みは「患者・家族のアクセス面での利便性」を確保することが大きな狙いの1つです。例えば、本州の病院(東京の国立がん研究センターなど)や、すでに神経膠腫で本技術を実施している九大病院などとの連携が検討されることに期待が集まります。



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