患者申出療養で実施される保険外の医療技術、しかるべき時期に安全性・有効性の評価が必要—患者申出療養評価会議
2021.1.22.(金)
患者申出療養の1技術である「腹膜播種・進行性胃がん患者への『パクリタキセル腹腔内投与および静脈内投与ならびにS-1内服併用療法』」について、昨年(2020年)12月時点で8症例に治療継続がなされている。腫瘍増悪などが認められるまで治療が継続されるが、しかるべき時期に安全性・有効性の評価を行い、「保険適用に向けた準備を進める」などの次ステップに向けた検討を行うべきではないか—。
1月21日に開催された患者申出療養評価会議において、こういった議論が行われました。
患者申出療養の安全性・有効性をしかるべき時点で評価を
患者申出療養は、2016年4月1日からスタートした新たな保険外併用療養制度で、傷病と闘う患者の「海外で開発された未承認(保険外)等の医薬品や医療機器を使用した治療を受けたい」といった希望・申し出を起点として、当該医療技術(未承認の医薬品等)に一定の安全性・有効性があることを評価会議で確認した上で、保険診療との併用を可能とするものです。
これまでに、次の10種類の患者申出療養が認められています。
(1)腹膜播種・進行性胃がん患者への「パクリタキセル腹腔内投与および静脈内投与ならびにS-1内服併用療法」
(2)心移植不適応な重症心不全患者への「耳介後部コネクターを用いた植込み型補助人工心臓による療法」(関連記事はこちら)
(3)難治性天疱瘡患者への「リツキシマブ静脈内投与療法」(関連記事はこちら)
(4)髄芽腫、原始神経外胚葉性腫瘍または非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍患者への「チオテパ静脈内投与、カルボプラチン静脈内投与およびエトポシド静脈内投与ならびに自家末梢血幹細胞移植術の併用療法」(関連記事はこちら)
(5)ジェノタイプ1型C型肝炎ウイルス感染に伴う非代償性肝硬変患者への「レジパスビル・ソホスブビル経口投与療法」(関連記事はこちら)
(6)進行固形がん(線維芽細胞増殖因子受容体に変化を認め、従来治療法が無効、かつインフィグラチニブによる治療を行っているものに限る)患者への「インフィグラチニブ経口投与療法」(関連記事はこちら)
(7)早期乳がん患者への「ラジオ波熱焼灼療法」(関連記事はこちら)
(8)遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」(関連記事はこちらとこちら)
(9)HER2陽性の手術不能または再発の乳房外パジェット病患者に対する「トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ点滴静注用)静脈内投与療法」(関連記事はこちら)
(10)ROS1融合遺伝子陽性の進行性小児脳腫瘍患者に対する「エヌトレクチニブ(販売名:ロズリートレクカプセル)の経口投与療法」(関連記事はこちら)
1月21日の会合では、(1)と(8)の技術、さらに全体の実施状況などを議題にしました。
まず(1)の技術については、従前から「安全性・有効性を適切に評価し、次のステップを考える時期に来ているのではないか」との指摘が患者申出療養評価会議の構成員から出され、同日にも同様の意見が出されています。
本技術は「腫瘍の進行が確認されるか、有害事象により継続困難となるまで反復(継続)する」こととされ、全111症例中「8症例」で継続されています(昨年(2020年)12月18日時点)。1月21日の会合では「治療継続中の8例では腫瘍増悪が認められていない」などの中間報告が行われ、今後も継続実施されます(1年ごとに延長)。
一方、類似の技術が先進医療Bとしても先行実施されており(すでに終了)、そこでは「標準治療に対する優越性は認められない」との最終結果が出ています(先進医療Bも患者申出療養と同じく、保険外の医療技術を保険診療と併用することを認める仕組みで、「未承認の医薬品等を使用する保険外の医療技術」の保険適用を目指すもの)。
このため「患者申出療養における本技術」についても、しかるべき時期に安全性や有効性に関する評価を行い、次のステップ(保険適用を目指すのか、技術実施をストップするのか)を考える必要があるのではないか、との指摘が出ているのです(関連記事はこちら)。
最終的な安全性・有効性の解析は、全症例の効果が明らかになった時点で行われますが、上述のように「腫瘍の進行が確認されるか、有害事象により継続困難となるまで反復(継続)する」とされているため、最終解析がいつなされるのかは見通せません(1年ごとに本技術の終了予定日を「1年間延長」することが続けられる)。
また安全性・有効性の解析には相当なコストがかかるために、「現時点で治療継続中の症例も含めた全体の解析を行う」ことも困難とされています。
こうした状況に対し天野慎介構成員(全国がん患者団体連合会理事長)や宮川政昭構成員(日本医師会常任理事)は、「最終解析がいつになるのか見通せないが、それが遅くなるほどエビデンス構築が遅くなり、かえって患者全体に不利益が生じることはないのか」「新規の症例組み入れ(111症例以外の患者への本術の実施)は行われていないが、自由診療の中で『患者申出療養として実施されている技術である』として本技術が行われているという噂も聞く。藁にも縋る思いの患者は、そうした謳い文句に踊らされてしまいかねない。患者申出療養についての解析がなされないために、安全性・有効性が不確かな技術が、見えない部分で、自由診療の中で実施されてしまうことは好ましくない」などと指摘し、治療継続症例、それ以外の症例を含めた中間解析を行い、次のステップ(継続、停止など)を考える必要があると強く求めました。福井次矢座長(聖路加国際病院院長)も、この要望に一定の理解を示しています。
厚生労働省保険局医療課の担当者も「実施医療機関(東京大学医学部附属病院など)に意見を伝え、何らかの対応を行えないか調整を進めていく」考えを明らかにしました。
なお、消化器がん治療・研究の第1人者である山口俊晴構成員(がん研究会有明病院名誉院長)も「本技術の対象である腹膜播種陽性・腹腔細胞診陽性の胃がん症例では、予後が半年程度と考えられているところ、治療継続している8症例では、もうすぐ『5年生存』を達成し、『治癒』と考えることすら可能である(技術開始の2016年10月から治療開始されたと考えれば、昨年(2020年)12月には4年2か月を経過)。一定の時期に最終報告を求め、次のステップに向けた討議をする必要がある」との考えを示しています。
例えば、「腫瘍の進行が確認されるか、有害事象により継続困難となるまで反復(継続)する」こととは別に、治療継続症例が「5年生存」を達成した時点で、全症例について安全性・有効性を解析するとなれば、治療継続中の患者に不利益を被らせずに、一定のエビデンスを構築できることとなるでしょう。もちろん病院側の負担にも配慮する必要がありますが、積極的な情報開示に期待が集まります。
小児がん患者にも、効果的な抗がん剤候補を提示可能へ
また(8)の技術は、遺伝子パネル検査と解析によって「未承認の分子標的薬(抗がん剤)が奏功する可能性がある」と判明したがん患者について、迅速に当該分子標的薬を用いた治療が可能となるように、予め国立がん研究センターで「患者申出療養の計画」を準備しておくものです(関連記事はこちらとこちら)。
当初は、対象患者を「16歳以上」に限定していましたが、「16歳未満の小児がん患者が分子標的薬(抗がん剤)の適応外使用を希望した場合にも、迅速の治療実施できるよう、実施計画を見直す(対象患者の拡大)」ことを検討。今般、次のように実施計画を見直すことが了承されました。
▽技術を小児に拡大する場合でも、原則として「小児に対する用法・用法が存在する薬剤」を対象とする(実施計画の中に「薬剤投与方法にした規定」を残す)
▽ただし、「小児に対する用法・用量が存在しない薬剤」についても、海外のデータ等をもとに「小児に対する用法・用量を定めて、本技術の対象とする」ことについて製薬メーカーとの合意が得られる場合には、対象に含める
▼まず、すでに実施計画に規定される薬剤について「小児に対する用法・用量」の検証・検討を進める
▼今後、新たに実施計画に追加される薬剤については、追加の時点で「小児に対する用法・用量」の検証・検討を行う
あわせて、対象薬剤の追加(製薬メーカーから当該薬剤が「無償」提供される)、実施医療機関の追加(静岡県立静岡がんセンター)なども行われています。
一般医療機関でさらに「患者申出療養」への理解・利活用が進むことに期待
また1月21日の患者申出療養評価会議には、これまでに患者から特定機能病院等になされた全ての「申し出」の状況が厚生労働省から報告されました。
2016年4月から昨年(2020年)12月末までに145件の「患者からの申し出」があり、うち10件(6.9%)で「患者申出療養」が実施されています。
それ以外の135件の状況を見ると、▼拡大治験(日本版コンパッショネートユース)等の治験、先進医療等、他の臨床試験へ参加:22件▼既承認の患者申出療養に参加:5件▼相談継続中:3件▼制度一般に関する照会など、具体的な技術に関する相談ではなかったもの:46件▼一度相談があったが、その後、現在までに相談がないもの:29件▼医療機関等で「患者申出療養として実施困難」と判断したもの:30件―となっています。
2018年8月末時点と比べると、申し出件数が16件増加(129件→145件)、患者申出療養実施件数が3件増加(7件→10件)しています。
この1年余り(2018年8月から2029年12月)は「申し出が16件」と少ないように思われますが、その背景には「新型コロナウイルス感染症の影響」「制度の浸透により、患者申出療養に相応しいもののみが申し出されている」ことなど、さまざまな要素があると思われます。今後の状況を注視していく必要があります。
この点、天野構成員は「患者が主治医に患者申出療養について相談しても、『複雑で時間がかかるので無理である』とされ、特定機能病院等への『申し出』『相談』に至らないケースもあると聞いている」と指摘。高度技術を実施する特定機能病院(大学病院)や臨床研究中核病院のみならず、一般医療機関においても患者申出療養制度について理解が進むことに期待を寄せています。
例えば、上述した(8)の、遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」などは、病院サイドの事務負担が大きく軽減されています。治療法を模索するがん患者に、迅速に「奏功の可能性がある抗がん剤」の選択肢を提示し、患者の費用負担を軽減するためにも、患者申出療養の利活用が進むことに期待が集まります(ただし、抗がん剤開発が進んでおらず、選択肢が提示されないケースのほうが多い点にも留意)。
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