患者申出療養から「初の薬事承認・保険適用」技術登場、抗がん剤「適応拡大」にも期待集まる―患者申出療養評価会議
2022.1.24.(月)
3番目の患者申出療養である難治性天疱瘡患者への「リツキシマブ静脈内投与療法」のデータや、別に走る治験データなどから、昨年(2021年)末に、リツキシマブについて「難治性天疱瘡」への効能・効果追加が行われた。患者申出療養として初めて「保険適用というゴールにたどり着いた技術が現れた」ことになる―。
現在、▼タフィンラーカプセル/メキニスト錠(併用療法)▼オプジーボ点滴静注―の適応拡大(対象がん種の拡大)に向けた解析も進んでいる―。
1月21日に開催された患者申出療養評価会議で、こういった状況報告・議論が行われました。
また7番目の患者申出療養である「早期乳がん患者へのラジオ波熱焼灼療法」について、実施から2年半の間に「80症例・81乳房」に実施され、重篤な有害事象は認められていないことが明らかとなり、「今後も、患者申出療養としての継続を認める」ことが承認されています。
目次
患者申出療養から「初」の「薬事承認→保険適用」技術が登場
我が国では公的医療保険制度が整備され、すべての国民が何らかの公的医療保険制度に加入することとなっています(健康保険組合、協会けんぽ、国民健康保険など)。公的医療保険制度では「安全性・有効性の確立された医療技術」は基本的にすべて保険適用され、患者は医療費の1-3割を負担するのみで優れた医療を受けることができるのです(年齢、収入によって負担割合は異なり、さらに高額療養費制度により1か月の自己負担は一定額に抑えられる)【保険診療】。
逆に、「安全性・有効性の確立されていない医療技術」を一部でも受ける場合には原則として医療保険は使えず、一連の治療すべてが全額自己負担となります【保険外診療、自由診療】。保険診療の安全性・有効性が脅かされてしまう恐れがあるためです。
ただし、「高度な先端的医療の有効性・安全性を確認するために症例数確保する」「保険診療を受けながら特別の療養環境向上を可能とする」などの観点から、例外的に「保険診療と保険外診療を組み合わせる」仕組みも用意されています【保険外併用療養制度】。
この保険外併用療養の1つに「患者申出療養」があります。2016年4月1日からスタートした新たな仕組みで、傷病と闘う患者が「保険適用されている現在の技術では病状が改善しない。海外で開発された未承認(保険外)等の医薬品や医療機器を使用してみたい」という希望・申し出を行った場合、これを起点に、当該医療技術(未承認の医薬品等)に一定の安全性・有効性があることを評価会議で確認した上で、保険診療との併用を許可するものです。
これまでに、次の12種類の患者申出療養が認められています(ただし「2」「4」「5」の技術は終了しており、現在、動いている患者申出療養は9種類)。
(1)腹膜播種・進行性胃がん患者への「パクリタキセル腹腔内投与および静脈内投与ならびにS-1内服併用療法」
(2)心移植不適応な重症心不全患者への「耳介後部コネクターを用いた植込み型補助人工心臓による療法」(関連記事はこちら)
(3)難治性天疱瘡患者への「リツキシマブ静脈内投与療法」(関連記事はこちら)
(4)髄芽腫、原始神経外胚葉性腫瘍または非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍患者への「チオテパ静脈内投与、カルボプラチン静脈内投与およびエトポシド静脈内投与ならびに自家末梢血幹細胞移植術の併用療法」(関連記事はこちら)
(5)ジェノタイプ1型C型肝炎ウイルス感染に伴う非代償性肝硬変患者への「レジパスビル・ソホスブビル経口投与療法」(関連記事はこちら)
(6)進行固形がん(線維芽細胞増殖因子受容体に変化を認め、従来治療法が無効、かつインフィグラチニブによる治療を行っているものに限る)患者への「インフィグラチニブ経口投与療法」(関連記事はこちら)
(7)早期乳がん患者への「ラジオ波熱焼灼療法」(関連記事はこちら)
(8)遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」(関連記事はこちらとこちら)
(9)HER2陽性の手術不能または再発の乳房外パジェット病患者に対する「トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ点滴静注用)静脈内投与療法」(関連記事はこちら)
(10)ROS1融合遺伝子陽性の進行性小児脳腫瘍患者に対する「エヌトレクチニブ(販売名:ロズリートレクカプセル)の経口投与療法」(関連記事はこちら)
(11)免疫グロブリンGサブクラス4自己抗体陽性難治性慢性炎症性脱髄性多発神経炎患者に対する「リツキシマブ追加投与療法」(関連記事はこちら)
(12)BRAFV600変異陽性の進行性神経膠腫を有する小児を対象とした「ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法」(関連記事はこちら)
1月21日の会合では、これら技術の実施状況などが報告され、とくに「薬事承認に向けた準備状況等」に注目が集まりました。上述のように患者申出療養も「新規医療技術の保険適用」を目指す仕組みで、当該技術に用いる薬剤や医療機器が「薬事承認→保険適用」となることが目指すべきゴールであるためです。
12技術の薬事承認に向けた状況(今年(2022年1月時点)は下表のとおりで、「3」の技術で用いる「リツキシマブ」が昨年(2021年)12月24日に薬事承認を受けました。すでに「CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫」や「CD20陽性の慢性リンパ性白血病」などの効能・効果が認められており、今般、患者申出療養や別に走っている治験のデータを踏まえて「難治性天疱瘡」に対する効能・効果の追加が認められたものです。
2016年の制度発足から、ようやく「ゴールにたどり着いた」技術が現れたことに患者申出療養評価会議委員や厚労省担当者からは「喜びの声」が数多く出ています。難病患者代表として参画する辻邦夫構成員(日本難病・疾病団体協議会常務理事)は「各都道府県の難病相談支援センター等に情報提供するなどし、患者申出療養という仕組みがあり、成果が出ていることが難病患者等に伝わるよう国も支援してほしい」と要望しています。
ほかの技術については「薬事承認に向けた取り組み」(治療の実施によるデータ収益など)が進んでいる最中ですが、「8」技術のうち▼タフィンラーカプセル/メキニスト錠(併用療法)▼オプジーボ点滴静注―について予定症例数(50症例)が確保され、データ解析段階に入っている状況も再確認されています(関連記事はこちら)。安全性・有効性のエビデンスが示され「薬事承認(対象となるがん種の拡大)→保険適用」と進むことに期待が集まります。
関連して福井次矢座長(東京医科大学茨城医療センター病院長)や宮川政昭構成員(日本医師会常任理事)らから「8」技術について「個別薬剤の症例数や状況などを定期的に確認し、報告してほしい」との要望が出ています。
もっとも、患者申出療養は「個別患者の申し出」を起点に、「当該患者の『藁にも縋る思い』に応える」という制度側面に照らせば、「症例集積が難しく、安全性・有効性の明確なエビデンスを明らかにすることが困難」な技術も少なくありません。この点、「安全性・有効性が明確でない技術であっても、『当該患者の希望に可能な範囲で応える』という点では患者申出療養には大きな意義がある」ということを忘れてはなりません。
関連して天野慎介構成員(全国がん患者団体連合会理事長)は改めて「一部医療機関では、患者申出療養の対象技術を自由診療として実施している。倫理的にそうした対応が好ましいのか考えていく必要がある」と強調しています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
早期乳がん患者への「ラジオ波熱焼灼療法」、患者申出療養として継続認める
また1月21日の会合には「7」(早期乳がん患者への「ラジオ波熱焼灼療法」)について定期報告が行われました。
この技術は、ニードル電極針を経皮的に乳房内腫瘍に刺し「がん細胞を加熱・死滅させる」ものです。「侵襲が少なく、整容面で大きなメリットがある」ものの、「手術療法に比べ再発リスクが高い可能性がある」と指摘されたことから、「定期的に状況報告を受け、技術の継続実施を認めるか否かを判断する」こととされています(関連記事はこちら)。
今般、技術実施から2年半の状況が報告され、「80症例・81乳房に実施。重篤な有害事象が認められない」ことが明らかとなり、患者申出療養会議は「本技術を患者申出療養として継続実施する」ことを認めています(関連記事はこちら(実施から2年間の前回状況報告))。
本技術は「毎年50症例、6年間実施し、安全性・有効性のエビデンスを構築する」ことを目指しています。
特定機能病院への相談状況報告うける、2021年1年間で13件の相談など
また1月21日の患者申出療養評価会議には、これまでに患者から特定機能病院等になされた全ての「相談」の状況が厚生労働省から報告されました。
2016年4月から昨年(2021年)12月末までに158件(昨年1年間で13件)の「患者からの相談等」があり、うち12件(同2件)で「患者申出療養」が実施されています。
患者申出療養としての実施が行われなかった146(同11件)の状況を見ると、▼拡大治験(日本版コンパッショネートユース)等の治験、先進医療等、他の臨床試験へ参加:24件(同2件)▼既承認の患者申出療養に参加:5件(同ゼロ件)▼相談継続中:3件(同ゼロ件)▼制度一般に関する照会など、具体的な技術に関する相談ではなかったもの:50件(同4件)▼一度相談があったが、その後、現在までに相談がないもの:29件(同ゼロ件)▼医療機関等で「患者申出療養として実施困難」と判断したもの:35件(同5件)―となっています。
現下の「新型コロナウイルス感染症の流行」などにより患者申出療養の相談件数などが伸び悩んでいると見ることができますが、上述のように「薬事承認・保険適用というゴールにたどり着く技術」が現れてきたことが、今後の「相談件数増」などにつながる可能性もあり、状況を注視していく必要があります。
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