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8番目の患者申出療養「遺伝子変異に対応した分子標的薬治療」、リキッドバイオプシーも検査対象に追加―患者申出療養評価会議

2021.10.18.(月)

8番目の患者申出療養である「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」について、血液を検体として複数遺伝子変異を検出できるリキッドバイオプシ―を検査項目に追加する―。

また当該技術の対象となっている2薬剤(▼タフィンラーカプセル/メキニスト錠(併用療法)▼オプジーボ点滴静注―)について、予定された50症例が確保されたため、今後は新規登録を停止し、データ解析段階に入る―。

10月18に開催された患者申出療養評価会議で、こういった点が了承されました。

リキッドバイオプシーは、▼医学的理由で「腫瘍細胞を検体としたパネル検査」が困難▼腫瘍細胞を検体としたパネル検査で「包括的なゲノムプロファイル結果」を得られない―患者が対象となっており、こうし患者でも「遺伝子変異に対応する、最適な抗がん剤治療」にアクセスしやすい環境が整えられることになります。

10月18日に開催された「第29回 患者申出療養評価会議」

「遺伝子変異踏まえた分子標的薬治療」技術にリキッドバイオプシー検査も盛り込む

我が国では公的医療保険制度(健康保険組合、協会けんぽ、国民健康保険など)が整備され、すべての国民がなんらかの公的医療保険制度に加入することとなっています。公的医療保険制度においては、「安全性・有効性の確立された医療技術」は、基本的にすべて保険適用されます。結果、患者は医療費の1-3割を負担するのみで、優れた医療を受けることができるのです(年齢、収入によって負担割合は異なり、さらに高額療養費制度により1か月の自己負担は一定額に抑えられる)【保険診療】。

逆に、「安全性・有効性の確立されていない医療技術」を受ける場合には、原則として医療保険は使えず、全額自己負担となります【保険外診療、自由診療】。保険診療の安全性・有効性が脅かされてしまう恐れがあるためです。

ただし、「高度な先端的医療の有効性・安全性確認のために、症例を確保する」ことや「保険診療を受けながら特別の療養環境向上を可能とする」ために、保険診療と保険外診療を組み合わせる仕組みも用意されています【保険外併用療養制度】。

患者申出療養は、2016年4月1日からスタートした新たな保険外併用療養制度です。傷病と闘う患者が「海外で開発された未承認(保険外)等の医薬品や医療機器を使用した治療を受けたい」という希望・申し出を行った場合、これを起点に、当該医療技術(未承認の医薬品等)に一定の安全性・有効性があることを評価会議で確認した上で、保険診療との併用を可能とします。

これまでに、次の12種類の患者申出療養が認められています(ただし「4」「5」の技術は終了しており、現在、動いている患者申出療養は10種類、あわせて後述のとおり「2」の技術の終了が報告された)。
(1)腹膜播種・進行性胃がん患者への「パクリタキセル腹腔内投与および静脈内投与ならびにS-1内服併用療法」
(2)心移植不適応な重症心不全患者への「耳介後部コネクターを用いた植込み型補助人工心臓による療法」(関連記事はこちら
(3)難治性天疱瘡患者への「リツキシマブ静脈内投与療法」(関連記事はこちら
(4)髄芽腫、原始神経外胚葉性腫瘍または非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍患者への「チオテパ静脈内投与、カルボプラチン静脈内投与およびエトポシド静脈内投与ならびに自家末梢血幹細胞移植術の併用療法」(関連記事はこちら
(5)ジェノタイプ1型C型肝炎ウイルス感染に伴う非代償性肝硬変患者への「レジパスビル・ソホスブビル経口投与療法」(関連記事はこちら
(6)進行固形がん(線維芽細胞増殖因子受容体に変化を認め、従来治療法が無効、かつインフィグラチニブによる治療を行っているものに限る)患者への「インフィグラチニブ経口投与療法」(関連記事はこちら
(7)早期乳がん患者への「ラジオ波熱焼灼療法」(関連記事はこちら
(8)遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」(関連記事はこちらこちら
(9)HER2陽性の手術不能または再発の乳房外パジェット病患者に対する「トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ点滴静注用)静脈内投与療法」(関連記事はこちら
(10)ROS1融合遺伝子陽性の進行性小児脳腫瘍患者に対する「エヌトレクチニブ(販売名:ロズリートレクカプセル)の経口投与療法」(関連記事はこちら
(11)免疫グロブリンGサブクラス4自己抗体陽性難治性慢性炎症性脱髄性多発神経炎患者に対する「リツキシマブ追加投与療法」(関連記事はこちら
(12)BRAFV600変異陽性の進行性神経膠腫を有する小児を対象とした「ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法」(関連記事はこちら



10月18日の会合では、8番目の患者申出療養である「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」について計画の変更が了承されました。

この技術は、遺伝子パネル検査の結果「未承認の分子標的薬(抗がん剤)が奏功する可能性がある」と判明したがん患者について、迅速に当該分子標的薬を用いた治療が可能となるように、予め国立がん研究センターで「患者申出療養の計画」を準備しておき、患者から希望があった場合に、すみやかに当該抗がん剤治療ん実施を可能とするものです(関連記事はこちらこちら)。

「適応外の抗がん剤」治療で効果があると判明した患者が、一刻も早く患者申出療養を申請できるよう、臨床研究中核病院で「下準備」を進めておく



今年(2021年)の8月から、血液を検体として簡便かつ迅速に、がん患者の複数の遺伝子変異を一括して検出する遺伝子パネル検査(いわゆるリキッドバイオプシー)として「FoundationOne Liquid CDx がんゲノムプロファイル」が保険適用されている(関連記事はこちら(中医協総会の記事)こちら(関連通知の記事))ことを踏まえ、(8)の実施計画の中に当該検査が位置づけられることになりました。腫瘍細胞を検体とすることができない患者等でも、血液を採取して遺伝子パネル検査を受け、そこから「最適な抗がん剤」にアクセスできる可能性が広がりました。がん患者にとっては非常に大きな朗報と言えるでしょう。

あわせて患者への説明同意文書(技術の内容やメリット・デメリットなどを分かりやすく患者に説明する)において「体調に変化があれば、すぐに主治医等に連絡してほしい」旨の記載追加が行われます。適応外の抗がん剤治療を行うため「予期せぬ副作用」などが生じる可能性もあり(技術との関連性は不明であるが、不幸にも治療継続中に患者が亡くなった事例もある)、そうした事態に速やかに対応することが狙いと考えられます。



ゲノム(遺伝情報)解析技術が進む中で、「Aという遺伝子変異の生じているがん患者にはαという抗がん剤投与が効果的、Bという遺伝子変異のある患者にはβとγという抗がん剤の併用投与が効果的である」などといった情報が明らかになってきています。こうしたゲノム情報に基づいたがん治療(がんゲノム医療)が我が国でも積極的に進められています(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。



複数の遺伝子変異を網羅的に分析・検出する遺伝子パネル検査の保険適用が進み(関連記事はこちらこちらこちらこちら)、さらに上述のように血液を検体とした遺伝子パネル検査の保険適用も行われており(関連記事はこちらこちら)、「遺伝子変異に対応した最適な抗がん剤を選択できる」下地が整ってきています。

しかし、「選択された抗がん剤が適応外である」(Xがんについては有効性・安全性が確認され保険適用されているが、別のがんについては保険適用されていないなど)というケースが少なくなく、そこでは保険診療と保険外診療(適応外の抗がん剤使用など)を併用できる「患者申出療養」が有力かつ魅力的な選択肢となります。もっとも、通常の患者申出療養制度では「実際に患者が現れてからプロトコルを立て、実施計画を作成する」ことになるため、申請から治療開始までには相当の時間がかかってしまいます(評価会議へ申請するまでに相当の時間が必要となる)。

そこで、「一刻も早く、効果が期待される抗がん剤治療を受けたい」という患者の思いに応えるために、事前に「いくつかの抗がん剤使用に基づく治療計画」を用意しておく(8)の「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」が患者申出療養として導入されたのです(昨年(2019年)9月)。計画に該当する患者から申出があった場合に、即座に治療を実施できる体制を整えておくものです(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」の実施計画概要(1)(患者申出療養評価会議1 200213)



患者視点に立った極めて画期的な仕組みで、これまでに▼対象薬剤を拡大する(これまでの薬剤はすべて製薬メーカーから無償提供されている)▼小児患者に対応できる計画(雛形)を作成しておく―などの改善が図られており、今般も「リキッドバイオプシーを加える」という画期的な改善が計られることになります。

タフィンラー+メキニスト・オプジーボ―を用いた患者申出療養、50症例を確保し解析へ

ところで、この(8)「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」では、現在、18種類の抗がん剤が対象薬剤となっています(2種類の併用療法を含む)。各薬剤については、探索的な検討が可能になると考えられる「50症例」の登録上限が設けられています。それぞれの抗がん剤について50人のがん患者まで患者申出療養の対象とする、といったイメージです。

(8)の技術において、ノバルティスファーマ・中外製薬・小野薬品・ファイザー・大塚製薬から抗がん剤が無償提供されている(黄色部分が新規の無償提供)(患者申出療養評価会議2 210121)



今般、18種類の薬剤のうち▼タフィンラーカプセル/メキニスト錠(併用療法)▼オプジーボ点滴静注―の2薬剤について、登録症例数が予定された「50」に達したことが報告されました。

これを受け、患者申出療養評価会議では、この2薬剤について「新規登録を停止し、データの統計解析を進める」ことを了承しています。解析結果から「有効性が認められる」と判断されれば、治験などに進み、「効能効果追加」→「保険適用」へと進む道筋が見えてくるでしょう。「患者申出療養から保険適用に進んだ」事例はまだ現れておらず、患者申出療養評価会議の構成員の間にも「患者申出療養→治験など→保険適用という道のりが不明瞭である」との思いがあるようです。どのような解析結果が導かれるのか注目されます。

また、解析の結果、「有効性が乏しい」と判断されたとしても、それは「患者申出療養は役に立たない仕組みである」との結論には結びつきません。

患者申出療養には、大きく(1)今、現在、傷病と闘う患者の「奏効の可能性がある保険外技術を受けたい」という思いに応える(2)保険外技術の有効性等のエビデンスを構築し、保険適用を目指す―という2つの目的があります。仮に(2)のエビデンスが構築できず、残念ながら保険適用にはつながらなかったとしても、(1)の「患者の思いに応える」という目的は達成できるのです。こうした点を踏まえて、患者申出療養の運用・改善などを考えていくことが重要でしょう。

「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」の実施計画概要(2)(患者申出療養評価会議2 200213)



なお、上記2薬剤(▼タフィンラーカプセル/メキニスト錠(併用療法)▼オプジーボ点滴静注―)について新規登録は停止されますが、新たに「遺伝子パネル検査の結果、2薬剤が奏効する可能性がある」患者が現れた場合には、「現行の計画を見直して(50症例上限を60症例、70症例を拡大していくなど)、当該計画に組み込む」あるいは「新規の患者申出療養計画を立て、その中で実施する」という2つの選択肢が考えられます。当該、見直し・新規計画が患者申出療養評価会議で承認されれば、新たな患者も上記2薬剤のアクセスできることになります。

腹膜播種・進行性胃がん患者へのS-1等併用療法、中間解析結果を踏まえた議論に期待の声

また10月18日の患者申出療養評価会議では、次の2点も議題となりました。

▽上記(2)の技術(心移植不適応な重症心不全患者への「耳介後部コネクターを用いた植込み型補助人工心臓による療法」)について、すべての症例で登録・プロトコル治療が終了し、データ固定が管廊したため、患者申出療養から取り下げることをどう考えるか
→了承された(保険外併用療養ができなくなる)。近く総括報告書が提出される

▽「1」の技術(腹膜播種・進行性胃がん患者への「パクリタキセル腹腔内投与および静脈内投与ならびにS-1内服併用療法」)について、実施施設である東京大学医学部附属病院において、別途「自由診療」として実施されていることが確認されたが、これをどう考えるか



後者は、前回会合で天野慎介構成員(全国がん患者団体連合会理事長)から問題提起された論点で、厚生労働省が「自由診療として東大病院で実施している」事実を確認しました。

この点、「大学病院(しかも東大病院)で医師から『こういった治療法が自由診療として実施できる』との情報提供があれば、藁にも縋る思いの患者はそれに飛びつく。しかし当該技術については、先進医療Bにおいても有効性がまだ確認されておらず、また患者申出療養でも中間解析を待っているところである。そうした技術を患者申出療養実施施設で、自由診療として行うことに問題はないのか」という指摘があります(天野構成員)。また、コメントしては出ていませんが、「本技術実施を希望する患者が新たに現れた場合には、▼新たな患者申出療養としての実施▼既存の患者申出療養の計画変更(新規患者の組み入れ)―などを検討するべきではないか」という問題点もありそうです。

一方、本技術については「エビデンスは構築されていないが、『有望な技術である』可能性も決して否定することはできない。言語道断な不適切な治療が行われているわけではない」(山口俊晴構成員:がん研究会有明病院名誉院長)との声も出ています。

福井次矢座長(聖路加国際病院院長)は、こうした両意見を踏まえ「まず、患者申出療養としての中間解析結果を東大病院に急いでもらい。それを踏まえて検討していく」方針を固めました。本技術については「腫瘍の進行が確認されるか、有害事象により継続困難となるまで反復(継続)する」こととされ、現在、全111症例中「8症例」で継続されています。したがって「有害事象や病状悪化」が見られるまでは、「最終的なデータが固定されず、解析できない」ことになってしまいます。そこで、「現時点で治療が終了している症例を対象に、中間解析(主要評価項目(有害事象発現状況)・副次評価項目(全生存期間、奏効割合、腹水細胞診陰性化割合)に関する解析を繰り上げ実施)を行う」ことが決まっており(東大病院サイドもこれを了承)、その結果に注目が集まっています。

中間解析結果がいつ頃示されるのかは明確になっていませんが、いそぎ解析を進め、その結果を踏まえて、患者申出療養評価会議で今後の在り方(保険適用を目指すのか、技術実施をストップするのか、など)を近く検討することになります。



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