血液から最適な抗がん剤を選択する検査(リキッドバイオプシー)、2021年8月に初めて保険適用―中医協総会(2)
2021.7.15.(木)
血液を検体として、鑑別かつ迅速に、がん患者の複数の遺伝子変異を一括して検出する「遺伝子パネル検査」を8月から保険適用する―。
7月14日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こういった点の審議も行っています。がん患者にとって「効果的な治療法を選択する」ための重要な武器がまた1つ増えたことになります。
組織検体を採取できない場合などでも、血液を検体として「最適な抗がん剤」を探る
ゲノム(遺伝情報)解析技術が急速に進む中で、「Aという遺伝子変異の生じているがん患者にはαという抗がん剤投与が効果的である。一方、Bという遺伝子変異のある患者にはβとγという抗がん剤の併用投与が効果的である」などの情報が明らかになってきています。こうしたゲノム情報に基づく治療法(抗がん剤など)の選択が可能となれば、1人1人のがん患者に対し最適な治療法を提供することができ(効果の低い治療法を避け、効果の高い、最適な治療法を優先的に実施できる)、▼治療成績の向上▼患者の経済的・身体的負担の軽減▼医療費の軽減―などにつながると期待されます。
我が国でも、産学官が一体的に「がんゲノム医療」を推進すべく「がんゲノム医療推進コンソーシアム」(共同体)が構築され、▼がんゲノム医療を提供する病院(がんゲノム医療中核拠点病院)の指定▼遺伝子情報に関するデータベースの構築と運用―など、がんゲノム医療が強力に推進されてきています。もちろん実績も積み重ねられており、例えば▼2020年の1年間で9446例の遺伝子パネル検査が登録された▼2019年9月から2020年8月までの1年間で、遺伝子パネル検査に基づいて最適な治療薬が投与された患者が607名おり、検査受検者の8.1%となった―などのデータが明らかにされています。
がんゲノム医療は、大きく次のような流れで提供されます。
(1) 患者の同意を得た上で、患者の遺伝子情報・臨床情報を、「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT、国立がん研究センターに設置)に送付する
↓
(2) C-CATで、送付されたデータを「がんゲノム情報のデータベース」(がんゲノム情報レポジトリー・がん知識データベース)に照らし、当該患者のがん治療に有効と考えられる抗がん剤候補や臨床試験・治験などの情報を整理する
↓
(3) がんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)において、C-CATからの情報を踏まえて当該患者に最適な治療法を選択し、これに基づいた医療を提供する
このうち(1)の「患者の遺伝子情報」の解析については、「多数の遺伝子変異の有無を一括して検出する検査(遺伝子パネル検査)」が注目され、我が国でも検査の保険適用が進んでいます(2つが保険適用され、ほかに先進医療として実績を積んでいる検査技術がある)。
(A)FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル
(B)OncoGuide NCC オンコパネル システム
さらに今般、(A)の改良版とも言える、新たな遺伝子パネル検査「FoundationOne Liquid CDx がんゲノムプロファイル」を保険適用することが中医協総会で了承されました。名称から分かるように、いわゆるリキッドバイオプシー(血液などを用いて、がんの診断や治療効果予測を行う技術)で、▼がん組織を検体とする検査と比べて、血液検体ゆえに採取が容易であり、結果判明までの時間が短い▼組織検体による検査が困難な場合(組織採取が困難、組織検体の品質が十分でない、早急な検査結果の確認が必要など)でも、包括的ながんゲノムプロファイルの取得や医薬品の適応判定の補助を行える―というメリットなどが、中医協で高く評価されたものです。
本検査は、「固形がん患者の包括的なゲノムプロファイルを取得する」だけでなく、抗がん剤の適応判定(いわゆるコンパニオン診断)としても用いられます。検査目的に応じて、本検査を実施した場合の評価が次のように設定されました。
【次の医薬品の適応判定の補助を目的とした場合】
▼非小細胞肺がん患者において「アレクチニブ塩酸塩」(アレセンサカプセル)、「クリゾチニブ」(ザーコリカプセル)、セリチニブ(ジカディア錠)の投与が有効な「ALK融合遺伝子」があるか
↓
D004-2【悪性腫瘍組織検査】の「1 悪性腫瘍遺伝子検査」の「イ 処理が容易なもの」の「(1)医薬品の適応判定の補助等に用いるもの」(2500点)を準用して算定する
▼非小細胞肺がん患者において「エヌトレクチニブ」(ロズリートレクカプセル)の投与が有効な「ROS1融合遺伝子」があるか
↓
D004-2【悪性腫瘍組織検査】の「1 悪性腫瘍遺伝子検査」の「イ 処理が容易なもの」の「(1)医薬品の適応判定の補助等に用いるもの」(2500点)を準用して算定する
▼固形がん一般において「エヌトレクチニブ」(ロズリートレクカプセル)の投与が有効な「NTRL融合遺伝子」があるか
↓
D004-2【悪性腫瘍組織検査】の「1 悪性腫瘍遺伝子検査」の「ロ 処理が複雑なもの」(5000点)を準用して算定する
【医薬品の適応判定の補助を目的として「複数の検査項目」を併せて実施した場合】
▼「ALK融合遺伝子」「ROS1融合遺伝子」「EGFR遺伝子変異」のいずれかを併せて行う
↓
2項目の検査を行った場合には、D004-2【悪性腫瘍組織検査】の「1 悪性腫瘍遺伝子検査」の「注1」の「イ 2項目」(4000 点)を、3項目の検査を行った場合には、同じく「ロ 3項目」(6000点)を準用して算定する
▼「NTRL融合遺伝子」「METex14遺伝子」を併せて行う
↓
D004-2【悪性腫瘍組織検査】の「1 悪性腫瘍遺伝子検査」の「注2」の「イ 2項目」(8000点)を準用して算定する
【腫瘍の包括的なゲノムプロファイルを取得することを目的とした場合】
↓
ゲノムプロファイル取得時にはD006-19【がんゲノムプロファイリング検査】の「1 検体提出時」(8000点)を、患者への結果説明時には同じく「2 結果説明時」(4万8000点)を算定する
なお、保険診療においては、血液を検体とした遺伝子パネル検査は、▼医学的な理由で固形腫瘍の腫瘍細胞を検体とすることが困難な場合▼固形腫瘍の腫瘍細胞を検体として実施したパネル検査で包括的なゲノムプロファイルの結果を得られなかった場合―にのみ実施可能です(困難な理由のカルテ・レセプトへの記載が求められる)。
【次の医薬品の適応判定の補助を目的とした場合】
▼非小細胞肺がん患者において「アファチニブマレイン酸塩」(ジオトリフ錠)、「エルロチニブ塩酸塩」(タルセバ錠)、「ゲフィチニブ」(イレッサ錠ほか)、「オシメルチニブメシル酸塩」(タグリッソ錠)の投与が有効な「活性型EGFR遺伝子変異」があるか
▼非小細胞肺がん患者において「オシメルチニブメシル酸塩」(タグリッソ錠)の投与が有効な「EGFRエクソン20T790M変異」があるか
↓
D006-12【EGFR遺伝子検査(血漿)】(2100点)を算定する
また薬物療法、神経ブロック等によって十分な鎮痛・除痛効果が得られない体幹・四肢の慢性難治性疼痛を緩和する医療機器「メドトロニック Vanta PC」(償還価格183万円)の保険適用も了承されました。こちらは9月1日に保険適用される予定です。
●「FoundationOne Liquid CDx がんゲノムプロファイル」および「メドトロニック Vanta PC」に関する中医協資料はこちら
なお、「全身性強皮症に伴う難治性皮膚潰瘍」患者に対し、「自家骨髄単核球移植による血管再生療法」を新たな先進医療として実施することも報告されています(保険給付されない費用が20万4000円、保険給付される費用が35万2000円)。横間市立大学附属病院で12症例に対して実施され、「移植後3か月で皮膚潰瘍が治療されたか」「皮膚潰瘍の個数や面積はどう変化したか」「疼痛はどう変化したか」などを評価し、2-3年後の保険適用を目指します。
2022年度改定に向け「かかりつけ医機能」や「医師働き方改革」の状況など調査
また、7月14日の中医協総会では、2020年度の前回診療報酬改定の効果を検証する調査を本年度(2021年の夏から秋)に実施することが了承されました。次の6項目で、この調査結果も踏まえて、2022年度改定の内容を詰めていくことになります(2020年度調査に関する記事はこちら)。
▽かかりつけ医機能等の外来医療に係る評価等(その2、2020年度にも「その1」として調査を実施している、以下同。「その1」調査の結果に関する記事はこちら)
▽精神医療等の実施状況(その2)
▽医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進に係る評価等に関する実施状況(その2、「その1」調査の結果に関する記事はこちら)
▽かかりつけ歯科医機能の評価や歯科疾患管理料の評価の見直しの影響、および歯科疾患の継続的管理等の実施状況(初回)
▽かかりつけ薬剤師・薬局の評価を含む調剤報酬改定の影響および実施状況(初回)
▽後発医薬品の使用促進策の影響および実施状況(毎年実施)
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