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新型コロナ対策 医療崩壊の真実

遺伝子パネル検査踏まえて「最適な抗がん剤」投与できた患者は8.1%―がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議

2021.3.5.(金)

がんゲノム医療が推進し、多数の遺伝子変異を一括して検出できる「遺伝子パネル検査」の保険適用や、がんゲノム医療を提供する中核拠点病院・拠点病院の指定などが進んでいる。これまでに、我が国のがんゲノム医療に係るデータベースに登録された遺伝子パネル検査は1万1558症例となった。

また一昨年(2019年)9月から昨年(2020年)8月に遺伝子パネル検査は7467名のがん患者に実施され、ゲノム医療の専門家会議で最適な抗がん剤が選択され、実際に投与されたのは607名・8.1%である。この成果をどう考えるか―。

3月5日に開催された「がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議」で、こういった議論が行われました。

また、がんゲノム医療を提供する中核拠点病院・拠点病院などで、「インフォームドコンセント」や「成果」などに格差が生じていることも明らかになってきています。厚労省は「実態調査」を進める考えを明確にしており、今後、現状を明らかにしながら課題解決に向けた議論が進められると期待されます。

がんゲノム医療、中核拠点病院12施設、拠点病院33施設、連携病院161施設で実施

ゲノム(遺伝情報)解析技術が進み、▼Aという遺伝子変異の生じたがん患者にはαという抗がん剤投与が効果的である▼Bという遺伝子変異のある患者にはβ抗がん剤とγ抗がん剤との併用投与が効果的である―などの知見が徐々に明らかになってきています。こうしたゲノム情報に基づいて最適な治療法(抗がん剤)の選択が可能になれば、がん患者1人1人に対し「効果の低い治療法を避け、効果の高い、最適な治療法を優先的に実施する」ことが可能となり、▼治療成績の向上▼患者の経済的・身体的負担の軽減▼医療費の軽減―などにつながると期待されます。

我が国においても、産・学・官が一体的となったコンソーシアム(共同事業体)を設け「がんゲノム医療」の推進が目指されています。

産学官連携でがんゲノム医療を推進するコンソーシアム(共同体)を構築し、段階的に拡充している(がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議1 210305)



制度面からの「がんゲノム医療」推進策としては、例えば(1)多数の遺伝子変異の有無を一括検出できる検査(遺伝子パネル検査)の保険適用(2)がんゲノム医療を提供する医療機関の整備(3)迅速に患者申出療養を実施可能とする仕組み―などが整備されています。

まず(1)では、2種類の遺伝子パネル検査がすでに保険適用されており(NCCオンコパネル、FoudationOne CDx)、先進医療(保険診療と保険外診療とを併用できる仕組み)でも実施が進められています。

また(2)では、▼12のがんゲノム医療中核拠点病院▼33のがんゲノム医療拠点病院▼161のがんゲノム医療連携病院―が指定されています。中核拠点病院と拠点病院については来年(2022年)3月に再指定が行われ、連携病院は「中核拠点病院・拠点病院が選定し、厚生労働省に届け出を行う」こととなっています。

がんゲノム医療連中核拠点病院・拠点病院(がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議2 210305)

がんゲノム医療連携病院(がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議3 210305)



さらに(3)は、遺伝子パネル検査と結果解析により「未承認の分子標的薬(抗がん剤)が奏功する可能性がある」と判明したがん患者について、迅速に当該分子標的薬を用いた治療が可能となるように、予め国立がん研究センターで「患者申出療養の計画」(プロトコル)を準備しておく仕組みが設けられています。

患者申出療養は「傷病と闘う患者の『海外で開発された未承認(保険外)等の医薬品や医療機器を使用したい』という希望・申し出を起点に、保険外の医療技術と保険診療との併用を可能とする」仕組みですが、▼かかりつけ医との相談▼臨床研究中核病院への相談▼臨床研究中核病院における診療計画(プロトコル)作成―などが必要で、これらの手続きに少なくとも数か月かかってしまいます。

そこで、事前に「患者申出療養の計画」(プロトコル)を作成しておき、実際の患者からの申し出があった場合に速やかに保険外の医療技術(ここでは適応外の抗がん剤使用)を可能とするものです。これまでに「製薬メーカーの協力による無償提供抗がん剤の拡大」「小児がん患者への適用拡大」などが行われています(関連記事はこちらこちらこちら)。

最適な抗がん剤を迅速に患者申出療養で投与可能とする仕組み(がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議7 210305)



がんゲノム医療は、大きく次のような流れで実施されます。
(1)がんゲノム医療を希望する患者に対し、中核拠点病院等が十分な説明を行い、同意を得た上で、検体を採取する

(2)検体をもとに、衛生研究所などで「遺伝子情報」(塩基配列など)を分析し、「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT、国立がん研究センターに設置)に送付する

(3)中核拠点病院等は、患者の臨床情報(患者の年齢や性別、がんの種類、化学療法の内容と効果、有害事象の有無、病理検査情報など)をC-CATに送付する

(4)C-CATでは、臨床情報と遺伝子情報をもとに、がんゲノム情報のデータベース(がんゲノム情報レポジトリー・がん知識データベース)に照らして、当該患者のがん治療に有効と考えられる抗がん剤候補や臨床試験・治験情報などの情報を中核拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)に返送する

(5)中核拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)において、当該患者に最適な治療法を選択し、これに基づいた医療を中核拠点病院等で提供する

がんゲノム医療の流れと、C-CATの役割(がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議4 210305)

遺伝子パネル検査で最適な抗がん剤が見つかり、投与された割合は8.1%

3月5日には「2020年12月までにおけるがんゲノム医療の実施状況」が報告され、例えば次のような状況が明らかになっています。

▼C-CATに累計1万1558例の遺伝子パネル検査結果が登録されている(2020年に9446例が登録)

これまでに累計1万1558件の遺伝子パネル検査結果がデータベースに登録されている(がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議5 210305)



▼遺伝子パネル検査の年間実施件数(2019年9月から2020年8月)は、中核拠点病院では100件以上が83.3%、拠点病院では30.3%、連携病院では0%(99件以下)

中核拠点病院では年間100件以上の遺伝子パネル検査が実施されているが、拠点病院・連携病院ではそれほど行われていない(がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議6 210305)



▼遺伝子パネル検査の結果「エキスパートパネル(専門家会議)で提示された治療薬」を投与された患者の割合は8.1%(2019年9月から2020年8月までの7467名中607名)



海外の専攻研究では、遺伝子パネル検査によって最適な抗がん剤が見つかるケースは全体の10-20%にとどまる(米国の研究では▼「既承認の抗がん剤が効く」ケース:9%程度▼「既承認の抗がん剤を適応外使用(例えば「肺がん」治療に効果が認められている抗がん剤を、効果が未確認の「胃がん」治療に用いるなど)することが考えられる」ケース:9%程度▼「未承認の抗がん剤が候補となるであろう」ケースが18%程度―と推計)ことが分かっており、それと「同程度の成果」と言えるかもしれません。また、保険診療の中で遺伝子パネル検査を実施できるのは「標準治療を終えた患者」「標準治療のないがん種に罹患した患者」のみであり、「その中の1割弱が効果的な抗がん剤にアクセスできた点は大きい」(間野博行構成員:国立がん研究センターがんゲノム情報管理センター長(がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会座長))と評価されています(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

ただし、門田守人構成員(日本医学会会長/日本医学会連合会長)は「遺伝子パネル検査の必要性に疑うべき点はない。ただし『9割超が治療につながらない検査』が保険診療の中で行われている。保険診療が危機にあると指摘されている中では、現時点では保険診療でなく『研究費』の中で実施するべきとの考え方もある。がんゲノム医療を受ける当事者だけでなく、保険料を支払う側、つまり国民全体の満足度なども考える必要があるのではないか」との問題提起を行いました。

遺伝子パネル検査を保険適用する際にも中央社会保険医療協議会で論点となった事項で、厚生労働省健康局がん・疾病対策課の古元重和課長は「中医協の担当課(厚労省保険局医療課)にも、遺伝子パネル検査を受けた8.1%の患者で最適な抗がん剤にアクセスできたとの実績を報告し、検討してもらう」考えを示しています。



また、山口俊晴構成員(先進医療技術審査部会長、がん研有明病院名誉院長)は「『最適な抗がん剤にアクセスできた』ことだけでなく、『成果』を検証していくべきである」とコメントしています。今後、「成果」をどういった指標で把握していくのか、なども重要な検討テーマとなりそうです。

インフォームドコンセントや成果などで「病院間格差」も生じてきている

また、がんゲノム医療を実施する中で「課題」も浮かび上がってきています。

患者代表の1人として参画する天野慎介構成員(全国がん患者団体連合会理事長)からは「中核拠点病院においても主治医から遺伝性腫瘍についての説明はなく、『インターネットの情報を見てください』の一言で終わるなど、説明(インフォームド・コンセント)に関する病院間格差がある」ことが紹介されました。武藤香織構成員(東京大学医科学研究所公共政策研究分野教授/日本生命倫理学会理事)も、この点を重視し、「2022年3月の再指定の際には『患者サイドの評価』なども勘案すべき」旨の提案がなされています。

さらに、医療安全の専門家の1人である藤原康弘構成員(医薬品医療機器総合機構理事長)からは「エキスパートパネルで選択された抗がん剤使用による有害事象報告もある。『この選択は本当にエキスパートパネルで検討されたものか』と驚くものもある。エキスパートパネルの病院間格差がある」ことが報告されました。

また、上述したように「遺伝子パネル検査を受けた患者のうち、最適な抗がん剤にアクセスできた割合」は全体では8.1%ですが、病院ごとの状況を見ると「十数%からゼロ%まで幅がある」(成果の病院間格差)ことも厚労省から報告されています。

「がんゲノム医療中核拠点病院等連絡会議」や、その下部組織であるワーキンググループ(▼インフォームドコンセント・情報利活用WG▼二次的所見WG▼患者情報登録WG▼エキスパートパネル標準化WG▼医薬品アクセス確保WG▼診療WG―の6WG)でも、こうした格差の是正に向けた検討が進められています。あわせて厚労省は、今年度(2020年度)から「がんゲノム医療推進に向けたがん遺伝子パネル検査の実態調査研究」をスタートさせています。▼がん種▼前治療▼遺伝カウンセリング実施の有無▼その後の治療内容▼治療に結び付いた割合▼転帰▼患者の理解度・満足度―などを調べるもので、上記のさまざまな「病院間格差」の実態も、この調査で明らかになってくるでしょう。調査結果は、2022年3月の再指定や、今後の「がんゲノム医療中核拠点病院やがんゲノム医療拠点病院の指定要件」などにも利活用されると見込まれます。

中核病院の1症例当たりコスト、81-17万円(中央値36万円)と大きなバラつき

なお、中核拠点病院12施設における「1症例当たりの検査・治療コスト」が明らかにされました。それを見ると、最高で81万2840円、最低で17万4500円(中央値36万4267円)とバラつきが大きく、コストの内訳も中核拠点病院12施設間で大きく異なっていることが確認されました。

中核拠点病院における「1症例当たりコスト」(全体)(がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議8 210305)

中核拠点病院における「1症例当たりコスト」(治験対応、C-CAT対応など除く)(がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議9 210305)



遺伝子パネル検査などの「診療報酬」についても、こうしたデータを踏まえた見直しが検討されるかもしれません。





なお、3月5日の運営会議には「全ゲノム解析等実行計画」 の推進に向けての検討状況も報告されました。がんゲノム医療のさらなる推進に向けて重要な取り組みで、今後、具体的な実施体制・運営体制などを詰めていくことになります。



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