オンライン資格確認等システムを2023年度から保険医療機関等に義務化、導入促進に向け「初診料の新加算」創設—中医協総会(1)
2022.8.10.(水)
来年4月(2023年4月)からオンライン資格確認等システムの導入を、療養担当規則等の中で「保険医療機関等には原則、義務化」する(紙レセ医療機関等は例外)—。
このためオンライン資格確認等システムの導入促進に向けた、初診料の新加算【医療情報・システム基盤整備体制充実加算】を創設し、あわせて現行の【電子的保健医療情報活用加算】は廃止する。
新加算【医療情報・システム基盤整備体制充実加算】は、「通常の保険証利用の場合の点数」(月に1回・4点)よりも「マイナンバーカードの保険証利用を行った場合の点数」(同じく2点)を低く設定しており、「マイナンバーカードの保険証利用普及」を妨げない仕組みとしている—。
8月10日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こうした内容の短冊が厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長から提示され、原案どおり答申が行われました。今後、細部を厚生労働省で詰め、10月から施行されます。
なお、「診療報酬による看護職員処遇改善」(看護職員処遇改善評価料の新設)に関する答申も行われており、こちらは別稿で報じます
●答申等資料
・短冊
・概要
・新点数表(医科)
・新療担規則等
・新療担基準等
・答申書附帯意見
2023年4月から保険医療機関等でオンライン資格確認等システム導入を原則義務
Gem Medで繰り返し報じているとおり「オンライン資格確認等システムの導入」推進が非常に重要な政策テーマになっています。
オンライン資格確認等システムは「患者の資格確認(どの医療保険に加入しているのかの確認)を円滑・確実に行う」仕組みですが、そのインフラを活用して「患者の診療情報(現時点では特定健康診査情報、薬剤情報)を医療機関等が確認し、診療内容に活かす」ことが可能となっています(近くレセプト情報、さらに将来的に電子カルテ情報にまで情報共有を拡大していく、関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
こうした仕組みのメリットを最大限に活かすためには「すべての医療機関がオンライン資格確認等システムを導入・運用し、すべての患者がマイナンバーカードの保険証利用を行う」ことが求められ、導入促進に向けて(1)来年(2023年)4月から、保険医療機関・薬局において「オンライン資格確認等システムの導入」を原則義務化する(2)医療機関・薬局でのオンライン資格確認等システム導入を進め、国民のマイナンバーカードの被保険者証(保険証)利用が進むよう、関連する財政支援措置(【電子的保健医療情報活用加算】や、導入経費補助など)を見直す(3)保険証の取り扱いを見直す(原則廃止を目指す)—方針が厚生労働省から示されています(関連記事はこちら)。
これら方針の一部((1)と(2)の一部)を具体化する議論が中医協で始まり(関連記事はこちら)、8月10日には厚労省保険局医療課の眞鍋馨課長から次のような見直し案(短冊)が提示されました。
(A)上記(1)について、療養担当規則(保険医療機関及び保険医療養担当規則)などに次のような規定を盛り込む(来年(2023年)4月から)
▽保険医療機関・薬局は、患者資格確認の際、患者がマイナンバーカードを健康保険証として利用するオンライン資格確認による確認を求めた場合は、オンライン資格確認によって受給資格の確認を行わなければならない
▽現在「紙レセ」請求が認められている保険医療機関・薬局は義務付けの例外とする
▽例外を除く保険療機関・薬局は、患者がマイナンバーカードを健康保険証として利用するオンライン資格確認による確認を求めた場合に対応できるよう必要な体制を整備しなければならない
(B)上記(2)の一部について、現在の【電子的保健医療情報活用加算】を廃止し、新たに【医療情報・システム基盤整備体制充実加算】を設ける(本年(2022年)10月から)
まず(A)の療担等見直しについては、診療側・支払側ともに「オンライン資格確認等システムは今後の医療情報に関する全国プラットフォーム、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)のベースとなるもので、積極的に推進していくべきである」として、従前から賛意を示しています。
ただし、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)らは「療養担当規則に違反すれば、最終的に『保険指定取り消し』もなされる重いものである。離島・へき地、光回線の導入遅れ、ベンダーの対応遅れなどで来年(2023年)4月のオンライン資格確認等システム導入が、やむを得ず間に合わない場合の救済措置・弾力的措置」を要望。これに対し、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「顔認証付きカードリーダーの申し込みが遅れ、それに伴ってベンダー対応が遅れるケースなどは『やむを得ず間に合わない』とはいえない。真に『やむを得ない』ケースについてのみ救済すべき」との考えを示しました。
この点、「本年(2022年)末頃の導入状況を点検し、地域医療に支障を生じるなど『やむを得ない』場合の必要な対応について、その期限も含めて検討する」旨の附帯意見を示すことで両者は納得しています。
▼原則「義務」とする▼例外規定は「紙レセ」医療機関のみとする▼ただし、本年(2022年)末の状況を見て「救済措置・弾力運用」の必要性などを検討する—という3段構えで進められることになります。
なお、オンライン資格確認等システムの導入促進に向けて、システム改修費の補助を▼病院について補助率2分の1は維持するが「補助上限の引き上げ」を行う▼クリニックについて補助を実質10分の10とする—といった拡充が行われる(厚労省と財務省との調整が整った)ことが、厚労省保険局医療介護連携政策課の水谷忠由課長から報告されました。本年(2022年)6月7月から本年末(2022年末)までにカードリーダーを申し込んだ医療機関等が補助充実の対象となり、詳細は別途、詳しく報じます。
2022年10月から新たに【医療情報・システム基盤整備体制充実加算】を創設
また(B)は「マイナンバーカードの保険証利用を進めるとしながら、【電子的保健医療情報活用加算】により患者負担増となり、矛盾が生じている」との指摘を受け、次のような見直しが行われるものです。
(a)【電子的保健医療情報活用加算】は廃止する(本年(2022年)10月に廃止)
(b)新たに初診時を対象とする【医療情報・システム基盤整備体制充実加算】を設ける(本年(2022年)10月から新設)
後者(b)の【医療情報・システム基盤整備体制充実加算】は、「初診時に医療機関等において、適切な診療を行うために患者情報を収集する」点を診療報酬で評価する新加算です。
まず、以下のような施設基準を満たす医療機関では、初診時に【医療情報・システム基盤整備体制充実加算1】(1か月に1回・4点、薬局では6か月に1回・3点)の算定が可能となります(施設基準は満たしていれば良く、届け出は不要となる見込み)。上記の「患者情報収集に係る事務的コスト」などを評価するものと説明されています(初診料のほか、初診料が包括評価されている小児科外来診療料、外来リハビリテーション診療料、外来放射線照射診療料、小児かかりつけ診療料、外来腫瘍化学療法診療料でも加算を算定可能)。
【施設基準】
▽電子情報処理組織を使用した診療報酬請求(オンライン請求)を行っていること
▽オンライン資格確認を行う体制を有していること。なおオンライン資格確認の導入に際しては、医療機関等向けポータルサイトで「運用開始日の登録」を行う
▽以下の事項について「医療機関の見やすい場所」および「ホームページ等」に掲示すること
▼オンライン資格確認を行う体制を有していること
▼当該医療機関を受診した患者に対し「受診歴」「薬剤情報」「特定健診情報」「その他必要な診療情報」を取得・活用して診療を行うこと
一方、この施設基準を満たしている医療機関がオンライン資格確認等により情報を取得等した場合には、上記加算1よりも低い【医療情報・システム基盤整備体制充実加算2】(1か月に1回・2点、薬局では6か月に1回・1点)を算定することになります。▼オンライン資格確認等システムを活用することで医療機関等の事務負担が軽減されている▼マイナンバーカードの保険証利用を妨げるべきではない—点を踏まえた点数設計となっています。
通常の保険証を利用した場合には【加算1】の4点が初診料に上乗せされるため、3割負担の場合の患者負担増は「12円」(4点×10円×0.3)となりますが、マイナンバーカードの保険証利用をする場合には【加算2】の2点が小診療に上乗せされるため、患者負担増は「6円」(2点×10円×0.3)にとどまります。ただし、「オンライン資格確認等システムを導入していない医療機関等」を受診した場合には、患者負担増はゼロ円(加算1・加算2のいずれも算定できないため)となり「通常の保険証で、オンライン資格確認等システムを導入していない医療機関を受診した場合が、もっとも患者負担が低い」というジレンマがあります。
このため中医協では「患者同意の下で活かせる健康・医療情報が拡大し、さらに安心・安全でより良い医療が受けられる環境が整備されていくことが患者・国民に広く浸透するよう、関係者が連携して周知を図っていく」べしとの附帯意見もまとめています。「患者負担が低い(=安い)」という理由でオンライン資格確認等システムを導入していない医療機関を選択する、ようなことがないよう、「診療情報の活用により、より質の高い医療を受けられる」点を国民・患者に丁寧にPRしていくことが極めて重要です。
なお、新設される【医療情報・システム基盤整備体制充実加算】は「初診時の患者情報収集」に着目したものであり、初診料にのみ上乗せされます(初診料が包括評価されている小児かかりつけ診療料などでも算定可)。一方、廃止される【電子的保健医療情報活用加算】は初診時以外(つまり再診時)にも算定できたため、その違いに留意する必要があります。したがって、現在、高血圧症などの慢性疾患で治療継続中の患者は、通常「再診料」等を算定しているため、多くのケースでは新加算の対象にはならないと考えられます。
こうした新加算創設に対し、診療側委員は賛意を示しましたが、支払側委員は▼初診時の患者情報収集は医療機関にとって「当然」のことであり、診療報酬による評価に馴染まないのではないか(問診表に記入するのは患者である)▼オンライン資格確認等システムの活用によるメリットが患者・国民に伝わっていない▼オンライン資格確認等システムを導入している医療機関等が少ない中で、新加算創設は時期尚早ではないか(義務化される来年(2023年)4月まで創設を待ってはどうか)▼通常保険証を用いて、オンライン資格確認等システム未導入医療機関を受診した場合がもっとも患者負担が低いという矛盾がある—ことなどを指摘し、新加算創設に難色を示しました。また、安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は「オンライン資格確認等システムの運用等経費は間接的に医療保険加入者が負担しており、医療機関等は負担していない」点も指摘しています。
もっとも、「新加算の創設が遅れれば、オンライン資格確認等システムの導入も進まない。まずは『医療機関へのオンライン資格確認等システムを導入』を優先すべき」(診療側の池端幸彦委員:日本慢性期医療協会副会長、長島委員ら)との意見や、「新加算の算定状況やシステム導入状況も踏まえつつ、患者・国民の声をよく聴き、取得した医療情報の活用による医療の質の向上の状況について調査・検証を行うとともに、課題が把握された場合には速やかに対応を検討する」との附帯意見に診療側も同意したことなどを踏まえ、最終的に「新加算創設」に賛同しています。
なお、眞鍋医療課長は、初診時の患者情報収集に向けて「初診時の問診票の標準的項目を新たに定める」考えも提示しています(薬局では、文書や聞き取りにより確認する項目を定め、当該情報等を薬剤服用歴に記録することを求める予定)(下図、下段右側を参照)。
今後、中医協委員の意見(もちろん上述してきた「附帯意見」も含まれる)を踏まえて厚労省で詳細を詰め、9月上旬(2022年9月上旬)に点数表等の告示・関係通知の発出などが行われます。
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