【看護職員処遇改善評価料】を新設し、コロナ対応病院に勤務する看護職員等の賃金引き上げを推進—中医協総会(1)
2022.8.3.(水)
「診療報酬による看護職員処遇改善」について、厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長が「短冊」(具体的な点数設計イメージ、改定内容案)を、8月3日の中央社会保険医療協議会に、を提示しました。
議論はまさに「大詰め」を迎えており、近く答申が行われる見込みです。
病院ごとの看護職員数・患者数に応じた「1点刻みの診療報酬」を数多く設定
Gem Medで報じているとおり、この10月(2022年10月)から「看護職員について、賃上げ効果が継続される取り組みを行うことを前提として、収入を3%(月額1万2000円)程度引き上げる診療報酬上の対応が行われます。
8月3日の中医協総会には、これまでの議論を踏まえた「改定内容案」(いわゆる短冊)が眞鍋医療課長から提示されました(関連記事はこちら(中医協論議)とこちら(入院外来医療分科会での技術的検討))。中医協委員等の意見を総合的に勘案し「入院の診療報酬のみで対応する」考えが採用されました。要件を満たす病院では、下記のように計算した点数(看護職員処遇改善評価料)を全入院患者(入院基本料、特定入院料、短期滞在手術等基本料を算定する患者)について、毎日算定できることになります。
●短冊はこちら(中医協資料)
(1)一定の要件を満たし、看護職員等の賃金改善をルールに沿って行う医療機関では、入院患者について、各医療機関の看護職員数・入院患者数に応じた【看護職員処遇改善評価料】を算定できる
(2)【看護職員処遇改善評価料】の計算方法
→「看護職員等の賃上げ必要額」(当該医療機関の看護職員等数×1万2000円×1.165(社会保険料相当))÷「当該保険医療機関の延べ入院患者数×10 円」で計算する(100種類を超える点数が設定される見込みで、医療機関は自院の看護職員数・入院患者数に応じて、該当する【看護職員処遇改善評価料】を請求する)
(a)「看護職員等の数」は、直近●か月の各月1日時点における看護職員数の平均値とする
(b)「延べ入院患者数」は、直近●か月の1か月あたりの延べ入院患者数の平均値とする
(c)毎年●、●、●、●月に上記計算式で算出し、区分に変更がある場合は地方厚生局長等に届け出る
(d)ただし、前回届け出時点と比較して、直近●か月の「看護職員等の数」、「延べ入院患者数」、「計算結果」のいずれの変化も●割以内である場合には、区分の変更を行わない
(3)対象医療機関((1)の「一定要件」)
(a)次のいずれかに該当する
(i)【救急医療管理加算】を届け出ており、救急搬送件数が年間●件以上(陳儀改善を行う期間を含む年度の「前々年度」実績)である
ただし、【看護職員処遇改善評価料】算定医療機関が上記実績を満たさなくなった場合でも、「賃金改善実施年度の前年度のうち連続する●か月間、救急搬送件数が●件以上」であれば基準を満たすものと見做す(いわば救済措置)
(ii)「救命救急センター」、「高度救命救急センター」、「小児救命救急センター」のいずれかを設置している
(4)算定要件((1)の「賃金改善ルール」)
(a)当該医療機関に勤務する看護職員等(保健師、助産師、看護師、准看護師(非常勤職員を含む)をさす、以下同)に対して、【看護職員処遇改善評価料】算定額に相当する賃金(基本給、手当、賞与等(退職手当を除く)を含む。以下同)の改善を行う
賃金改善は、基本給、手当、賞与等のうち対象を特定して行うとともに、特定した項目以外の賃金項目(業績等に応じて変動するものを除く。)の水準を低下させてはならない
(b)賃金の改善措置の対象者は、当該保険医療機関に勤務する看護職員等のほか、視能訓練士、言語聴覚士、義肢装具士、歯科衛生士、歯科技工士、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、管理栄養士、栄養士、精神保健福祉士、社会福祉士、介護福祉士、保育士、救急救命士、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師、公認心理師、その他医療サービスを患者に直接提供している職種も対象に加えることができる(補助金と同様)
(c)安定的な賃金改善を確保する観点から、【看護職員処遇改善評価料】による「賃金改善合計額の3分の2以上」は、基本給または決まって毎月支払われる手当の引き上げにより改善を図る(一時金は3分の1未満としなければならない)
(d)【看護職員処遇改善評価料】の見込額、賃金改善の見込額、賃金改善実施期間、賃金改善を行う賃金項目、方法などを記載した「賃金改善計画書」を毎年4月に作成し、毎年7月に地方厚生局長等に提出する
(e)毎年7 月に、前年度の取り組み状況を評価するため「賃金改善実績報告書」を作成し、地方厚生局長等に報告する
これまでの議論を踏まえた内容であり、中医協委員からは特段の反論は出ていません。今後、「●か月」や「●割未満」などを含めた詳細を詰め、後藤茂之厚生労働大臣に対し中医協として「答申」を行うことになります。
この点、(2)「計算方法」の(a)(b)における「看護職員数、延べ患者数の実績」期間などについては、診療側の城守国斗委員(日本医師会常任理事)と支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)の双方から、▼実績の対象期間は3か月とする(看護職員数、患者数は過去3か月間の平均値を用いる)(→この場合(c)の届け出は4月、7月、10月、1月となるイメージ)▼3か月以内・1割未満の変動であれば届け出変更は必要としない—ことが適当との考えが示されました。急性期一般入院料などの「重症度、医療・看護必要度」の実績期間などに合わせる考えです。
関連して城守委員は「緊急対応が必要な場合の取り扱い」(3か月後の届け出を待てないほどの、大規模な患者数変動などが生じた場合の対応)を検討しておくべきと提案していますが、松本委員は「緊急対応については別途、中医協で議論すればよい」との考えを示しています。
また、(3)「対象医療機関の要件」のうち(a)の(i)では「救急搬送件数の年間実績」を求めています。これまでの経過(補助金、昨年末の大臣合意)に照らせば「200台以上」になるものと推測されます(関連記事はこちら)。
さらに、但し書きは「救急搬送件数は、病院の努力だけでは確保できない事情もある」点に考えた救済措置と言えます。例えば新型コロナウイルス感染症の爆発的増加が続き「行動制限」が求められた場合などには、「外出者の減少」→「交通事故の減少」→「救急搬送の減少」が生じるかもしれません。そうした場合に「貴院は救急搬送200台を満たせないので、点数算定を認めません」などと切り捨ててしまえば、「病院の収益源」→「看護職員等の処遇改善中心」などの大混乱が生じる可能性もあるためです。例えば「年間200台」でなく「6か月で100台」などの救済基準を置くことなどが検討されそうです(支払側の松本委員も指摘)。
他方、懸案となっている「外れ値」問題については、現時点では明確な内容は示されていません。
「看護師を非常に多く配置し、患者数が少ない」病院では、上記のように計算すると【看護職員処遇改善評価料】の点数が極めて高額になります(厚労省による補助金申請時点での試算によれば339点)。これに「どこまで対応すべきか」「対応する場合にはどのような手法をとるべきか」が問題になり、中医協総会・入院外来医療分科会でも様々な角度からの検討が行われてきています(関連記事はこちら(中医協論議)とこちら(入院外来医療分科会での技術的検討))。
この点、「診療報酬で対応する」方向は決まっていますが、後者の「どのように対応するか」については、▼何点まで点数を設定しておくか(極めて患者数が少なくなるケース(コロナ感染症大流行など)に備えて、1000点、1万点などを用意しておくべきか)▼点数の刻みをどう設定しておくか(1点刻みとするか、5点・10点などの幅を持たせた刻みとするか)—という大きく2つの論点があります。
前者の論点(上限をどこまで設定するか)はさらに詰めていく必要がありますが、後者については「一定の幅を持たせて、外れ値病院に対応する」(例えば、上限が仮に339点であったとして、その下に338点・337点・336点と1点刻みの点数を置くのではなく、「330点」「320点」など幅を持たせた点数を設置しておく)方向が概ね固まりました。支払側の松本委員が「幅を持たせた点数設定」に理解を示したためです。
今後、厚労省で「上限をどう設定するのか」「点数設定の幅をどう設定するのか」を詰めていきます。
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