病院経営維持のため地域医療介護総合確保基金をフル稼働せよ、医療費削減論踏まえ医療保険の給付範囲の在り方など議論せよ—日病・相澤会長
2025.3.18.(火)
病院経営が危機的な状況にある。病院経営を維持するために「期中改定も含めた診療報酬対応」のほか、執行状況が十分とは言えない「地域医療総合確保基金」のフル活用なども検討していくべきではないか—。
「医療費年間4兆円削減」論が浮上しているが、単に「目の前の保険料負担を軽減する」ことを議論するのではなく、「我が国の医療提供体制がどうあるべきか」「医療保険制度における保険給付範囲の在り方をどう考えるか」といった根本に遡って丁寧に議論していく必要がある—。
日本病院会の相澤孝夫会長が3月18日に定例記者会見を開き、こうした考えを述べました。

3月18日の定例記者会見に臨んだ、日本病院会の相澤孝夫会長
病院経営維持のために「地域医療介護総合確保基金」のフル活用なども検討せよ
Gem Medで報じているとおり、日病・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会・日本慢性期医療協会・全国自治体病院協議会の6病院団体による調査で「病院経営は危機に瀕しており、いつ何時、地域の病院が突然なくなる(倒産する)可能性もある」状況が分かりました。
こうした状況から脱却するために、6病院団体と日本医師会は次のような声明を発しています。
▽医療機関の経営状況は、現在著しく逼迫しており、賃金上昇と物価高騰、医療技術革新への対応ができない。このままでは人手不足に拍車がかかり、患者に適切な医療を提供できなくなるだけではなく、ある日突然、地域から医療機関がなくなってしまう
▽まず補助金による機動的な対応が必要だが、直近の賃金上昇・物価高騰を踏まえれば「2026年度の次期診療報酬改定の【前】に期中改定での対応」も必要と考える
▽さらに、2026年度の次期診療報酬改定に向けて以下の2点を要望する
(1)「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という社会保障予算の目安対応の廃止
→賃金上昇・物価高騰などを踏まえ、財政フレームを見直して目安対応を廃止し、別次元の対応を求める
(2)診療報酬等での賃金・物価上昇に応じて適切に対応する新たな仕組みの導入
→医療業界でも「他産業並みの賃上げ」ができるよう、賃金・物価上昇を反映できる仕組みの導入を求める
この点について相澤会長は、「診療報酬の伸びを超えて、物価・人件費・委託費等が高騰しているために赤字経営となっている」ことをまず確認。
そのうえで、病院経営維持のために、例えば「期中改定も視野に入れた診療報酬での対応が必要であるが、そこには大規模な予算確保が必要になる」ことも指摘。現在、国会で2025年度予算案が審議されており、そうした中で「別に大規模な診療報酬改定の予算を確保する」ことは、すぐには難しいでしょう。
そこで相澤会長は「十分に活用されていない施策のフル活用」を検討すべきと提案し、具体例として「地域医療介護総合確保基金」をあげました。
地域医療介護総合確保基金は、少子高齢化の下でも効果的・効率的な医療・介護サービスを確保できるように、例えば「医療機能の分化・連携の強化」、「地域包括ケアシステムの構築」、「医療・介護人材の確保」などを財政的に支援するために2014年度から各都道府県に設けられているものです(予算事業では「単年度事業」への補助とならざるを得ないが、基金創設により「医療機関の再編・統合」などを複数年度にわたる事業にも的確に補助が行える)。
国から都道府県に資金を提供し、各都道府県で基金を創設。基金を活用して次の7事業を活性化させることが各都道府県に求められます。
(1)地域医療構想の達成に向けた医療機関の施設・設備整備(I-1)
(2)地域医療構想の達成に向けた病床機能・病床数変更事業(機能転換、ダウンサイジング)(I-2)
(3)居宅等における医療提供
(4)介護施設等の整備(地域密着型サービス等)
(5)医療従事者の確保
(6)介護従事者の確保
(7)勤務医の労働時間短縮に向けた体制の確保

地域医療介護総合確保基金の概要(医療介護総合確保推進会議1 250303)
この点、医療分野(上記の(1)(2)(3)(5)(7)事業)については、2014-2022年度の9年間で、全体で7739億2000万円(うち国費は5195億4000万円)が交付され、うち5909億2000万円(同3968億7000万円)が執行(実際に活用)され、執行率は全体(国負担+都道府県負担)で76.4%にとどまっていることが示されている(事業別・地域別に見ると執行率に大きなバラつきあり)。

2014-22年度医療分の状況(医療介護総合確保推進会議2 250303)
基金がフル稼働、つまり執行率が100%に近くなれば、病院に「資金」が回り、経営面にも大きな効果が出ると考えられます。相澤会長は「個人的な考え」と前置きしたうえで、「今後の我が国の人口構造が変化していく。将来に向かって基金が活かされるようにするべき。今後、地域密着型の中小病院機能が極めて重要になる。こうした病院の経営が成り立つように支援していくことが必要ではないか」との見解を示しています。
なお、「2024年度補正予算でも一定程度の対応がなされているが、病院の赤字は、病院の規模にもよるが『1施設あたり億単位』であるのに対し、補正予算での補助は『数千万円単位』と一桁違っている。改めて別の何らかの対応を検討してもらうべく、声を上げていく」との考えも示しました(関連記事はこちらとこちら)。
「医療費年間4兆円削減」論、医療提供体制・医療保険制度の根本に遡った議論を
ところで、自由民主党・公明党・日本維新の会では「現役世代の保険料負担軽減→国民医療費の年間、最低4兆円の削減」方針を示しています(日本維新の会のサイトはこちら)。
具体的に「どの部分を削るのか」は今後の議論に委ねられますが、「OTC類似薬など(無価値医療、低価値医療などと指摘されることもある)を公的医療保険の給付範囲から除外する」ことなどが有力視されています。
この点について相澤会長は、「我が国の財政状況や、医療費増加のスピードを見れば、どこかで保険給付範囲の議論をしなければならない。それも概念論や感情論ではなく、科学的な根拠に基づいて『どこを保険給付から除外すれば保険医療制度を維持できるのか、どこを変えなければ国民、患者に明確がかかってしまうのか。お互いに譲り合える部分はどこなのか』を丁寧にかつ真剣に議論しなければならない。これまで通りの医療保険制度では、いずれ立ち行かなくなる」と冷静にコメント。
あわせて「私も花粉症だが、医療機関にはかからず、市販薬を薬局で購入して服用している。少しでも医療保険の負担増を回避しようと思っている」ことも紹介しています。
他方で、「今の診療報酬で病院医療が適切に評価されているとは思えない。新たな財源を確保するのか、医療費の配分方法を見直すのか、丁寧に検討していく必要がある。仮に医療費を4兆円削減するのであれば、病院経営を維持するための費用を別に確保してもらわなければならない。我が国の病院医療をどうしていくのかを根本的に議論する必要がある」とも指摘。
医療費年間4兆円削減論は、単に「目の前の保険料負担軽減」という小さな話ではなく、「我が国の医療提供体制、我が国の医療保険制度の双方の在り方を考えるきっかけ」となるかもしれません。
なお、医師働き改革の本格スタートから間もなく1年が経過しますが、相澤会長は「業務の実態は変わらず、単に『労働時間とするか、労働時間外(自己研鑽)とするか』というテクニック論が先行している可能性がある。医師の働き方が従来通りで良いのか?医師が働きやすい環境とは何かなど、根本に立ち返って改めて考える必要があるのではないか」との考えも示しています。
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