入院基本料引き上げが困難ならば、患者に「入院環境維持コスト」を一部負担してもらうことも検討せざるを得ない—日病・相澤会長
2025.2.18.(火)
病院経営が危機的な状況にあり、その要因の1つに「診療報酬の水準や要件・施設基準」があると言える—。
例えば、病院の収益増を狙って加算を取得するとなった場合、「新たな専門人材の配置、新たな設備の導入」などに加えて、「各種の記録」など新たな業務が発生する。すると「本来の診療行為とは別の業務で多忙となる」→「医療人材のモチベーションが下がり、離職してしまう」→「病院の収益が下がる」という悪循環に陥ってしまい、病院自らの努力では抜け出せなくなってしまう—。
また入院基本料は、消費税率アップへの対応や人件費充当のための引き上げはなされているものの、それを除いた「入院環境の整備、看護提供、医学管理」といった基本的な診療部分の評価は2012年度から据え置かれている。物価や人件費の水準が上昇していること、昨今の一般の宿泊料が上昇していることなどを踏まえれば、これはあまりにもおかしい。もし、診療報酬での対応が困難なのであれば、例えば「入院環境の維持に必要なコストの一部」を1日1000円や2000円といった形で患者に求めることなども考えなければいけなくなる—。
日本病院会の相澤孝夫会長が2月18日に定例記者会見を開き、こうした考えを述べました。6月下旬に取りまとめられる予定の「骨太方針2025」への意見反映、2026年度診療報酬改定での対応を目指し、早ければ3月中にも日病内で「医療制度改革に向けた意見」をまとめ、国に要望する考えです。

2月18日の定例記者会見に臨んだ日本病院会の相澤孝夫会長
「加算取得で業務増→スタッフの疲弊・離職→収益減」という悪循環に陥っている
Gem Medで繰り返し報じているとおり「病院経営の厳しさ」が増しています(関連記事はこちらとこちら)。
こうした状況を放置すれば、医療機関の倒産・閉院が相次ぎ、地域の医療提供体制が崩壊してしまいます。日病幹部(会長、副会長、常任理事)の間では「単に報酬上の手当てをすれば解決する問題ではなく、医療保険・医療提供体制全体を見直されなければ根本的な解決、病院の安定的な経営はおぼつかない」との考えで一致し、提言を行っていくことを決めました(関連記事はこちら)。
また2月15日の幹部会合(常任理事会、会長・副会長・常任理事による討議の場)では「診療報酬の問題点」について意見交換が行われたことが、2月18日の定例記者会見で相澤会長から明らかにされました。
診療報酬の問題点として、例えば「水準」や「要件・施設基準」があると日病幹部は指摘します。
まず後者の「要件・施設基準」に関しては、例えば、病院の収益増を狙って加算を取得するとなった場合、「新たな専門人材の配置、新たな設備の導入」などが必要になるとともに、「各種の記録」など新たな業務が発生します。。すると「本来の診療行為とは別の業務で多忙となる」→「医療人材のモチベーションが下がり、離職してしまう」→「病院の収益が下がる」という悪循環に陥ってしまい、病院自らの努力では抜け出せなくなってしまうと相澤会長は問題点を分析しています。
また前者の「水準」に関し、例えば入院基本料は、消費税率アップへの対応や人件費充当のための引き上げはなされているものの、それを除いた「入院環境の整備、看護提供、医学管理」といった基本的な診療部分の評価は2012年度の創設時点から据え置かれていると相澤会長は指摘。

消費税対応などを除外した入院基本料の推移(日病会見1 250218)
物価や人件費の水準が上昇している(診療報酬と同様に公定価格となっている郵便料金、物価水準の目安とされるビッグマック価格ともに上昇している)こと、昨今、一般の宿泊料が上昇していることなどを踏まえれば、「12年以上も価格が据え置かれている」状況はあまりにもおかしく、もし、診療報酬での対応が困難なのであれば、例えば「入院環境料などの名目で、1日1000円や2000円といった特別負担」を患者に求めることなども考えなければいけなくなると相澤会長は強調しています。

宿泊料の推移(日病会見2 250218)

公定価格である郵便料金の推移(日病会見3 250218)

価格推移で指標とされることの多いビッグマック価格の推移(日病会見4 250218)
さらに相澤会長は「物価は絶え間なく変動し、診療報酬での対応には時間がかかる。中央社会保険医療協議会で議論し、答申→告示→適用となるまでには物価がさらに変動してしまっている(例えば、中医協議論時よりもさらに高騰している)こともありうる。個人的な見解であるが、予め『物価変動等に対応するための緊急支援金』などの仕組みを準備しておき、迅速に対応できるようにすべきであろう」との考えも披露しました。
このように、日病幹部の間では「診療報酬だけで病院経営を維持することは困難であり、診療報酬と補助金・支援金を組み合わせる必要がある。例えば、電子カルテシステムなどの医療DX対応経費、災害・感染症対応経費などについては補助金・支援金で賄う必要がある」との方向で議論が進んでいます。
今後、さらに議論を深め、6月下旬に取りまとめられる予定の「骨太方針2025」への意見反映、2026年度診療報酬改定での対応を目指し、早ければ3月中にも日病内で「医療制度改革に向けた意見」をまとめ、国に要望する考えです。
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