病院の電子カルテ等のクラウド化・共有化、2025年度目途に国が標準仕様示し、30年までに希望病院が導入できる環境整える—厚労省
2025.1.22.(水)
病院においては、電子カルテやレセプトコンピュータ、各部門システムなどの情報システムについて「院内にサーバーやネットワーク機器、ソフトウェアなどを設置するオンプレミス型」が採用されているが、サイバーセキュリティ対策の確保、IT人材の確保、診療報酬改定等の制度対応などに円滑に対応できるよう「病院情報システムのクラウド化」を進める—。
その際、「インフラからアプリケーションまでを共同利用する」こととし、医療機関ごとに生じていた個別カスタマイズを極力抑制する—。
2025年度を目途に国がクラウド型病院システムの「標準仕様」を示し、2030年までのできる限り早い時期に「希望する病院が導入できる環境」を整備する—。
厚生労働省が1月22日に「『医療DX令和ビジョン2030』厚生労働省推進チーム」(以下、推進チーム)を開催し、こうした方針を固めました。
インフラからアプリまで複数病院で共同利用し、病院ごとのカスタマイズを極力抑制
診療情報(レセプト情報や電子カルテ情報、処方箋情報など)を集積し、患者自身はもちろん、全国の医療機関で共有・閲覧可能とする(医療DX)ことで、例えば「この患者にはAという薬が処方されている。今、Bという薬を処方しようと思ったが、併用に注意点があるので、別のB1という薬に変更しよう」、「この患者にXという検査を行おうと思ったが、すでに先週、別の医療機関でXを包含する検査を行っているようだ。その検査結果を活用しよう」、「私は●●の検査結果が改善していない、かかりつけの医師の指示をもとに生活習慣を改善しよう」といった具合に質の高い効果的・効率的な医療提供が可能になると期待されます。また、記憶に新しい能登半島地震では、こうした過去の診療情報を活かし「患者にどのような治療が行われ、どのような薬が処方されているのか」を把握し、適切な医療提供が可能となったとの実績もあがっています。
政府は、こうした医療DXの動きを加速化するために、昨年(2023年)6月2日に「医療DXの推進に関する工程表」を取りまとめ、例えば▼全国の医療機関で電子カルテ情報を共有可能とする仕組みを構築し、2024年度から順次稼働していく▼標準型電子カルテについて、2030年には概ねすべて医療機関での導入を目指す—などの具体的なスケジュールを示しています。
厚労省もこの工程表に則り、▼電子カルテ情報共有サービスの実現▼標準型電子カルテの普及▼医療・介護情報の2次利用推進—などの取り組みを進めており、武見敬三厚生労働大臣は「近未来健康活躍社会戦略」の中で「医療・介護DX」を更に推進していく方針を明確にしています。
1月22日の推進チームでは、(1)2040年に向けた医療提供体制の総合的な改革における医療DXの制度的対応(2)電子処方箋の現況と今後の対応(3)病院の情報システムの刷新に係る方向性—を確認しました。
この点について推進チームでは、「現在のオンプレ型システムを刷新し、電子カルテ/レセコン/部門システムを一体的に、モダン技術を活用したクラウド型システムに移行する」こととともに、以下のような方針を確認しています。
▽現在のオンプレ型のシステムを刷新し、電子カルテ/レセコン/部門システムを一体的に「モダン技術を活用したクラウド型システム」に移行する
→「2030年までのできる限り早い時期に希望する病院が導入できる環境」を整備する
→「複数病院で共同利用する方式」、「クラウドのメリットを活かすためのマネジドサービスの活用」を図る
→医療従事者の負担軽減やより安全で質の高い医療につなげるべく、最新技術やサービスを活用しやすくするためのAPIの組み込み等を行う
→「画像等の一部の部門システム等で病院の判断でオンプレ型を残存させる」場合でも、標準化やセキュリティ対策の強化を図る
▽国が「システムの標準仕様」を示し、民間事業者(ベンダー)が「その標準仕様に準拠した病院の情報システム」を開発する
→国が2025年度目途に「標準仕様」を作成する
→小規模病院やグループ病院等から段階的な普及を図る
→現在、小規模医療機関を中心に「共同利用型のクラウド型電子カルテ」が普及し始めており、こうした製品の活用も図る
→複数病院で共同利用する際に「サイバー攻撃やシステム障害等によって全面障害となる」事態も想定してシステムの標準仕様を検討する
▽標準仕様に準拠した病院の情報システムは、「インフラからアプリケーションまでを共同利用する」こととし、医療機関ごとに生じていた個別カスタマイズを極力抑制する
→これらにより、▼病院情報システム費用の低減・上昇抑制▼病院ごとに生じていたシステム対応負荷の軽減—を図る
▽標準仕様に準拠したシステムへの円滑な移行のため「データ引継ぎの互換性の確保」などを図る
▽医療DXサービス(電子カルテ情報共有サービスなど)とのクラウド間連携を進める
▽上記と並行して、医薬品・検査等の標準コード・マスタ、並びにこれらの維持管理体制の整備を進めるとともに、現場における標準コード・マスタの利用の徹底を図る
この方針に沿って、今後の具体的な動きが加速化します。その動きに大きな注目が集まります。
このほか、1月22日の推進チームでは次のような医療DX推進方針や、電子処方箋の推進方策についても確認しています。
【電子カルテ情報共有サービス関係】
▽「電子カルテ情報共有サービス」を法律(地域医療介護総合確保法、感染症法など)に位置づけることで、患者の同意なく、医療機関等から支払基金へ電子カルテ情報(3文書(診療情報提供書、退院時サマリ、健康診断結果報告書)・6情報(傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報(救急及び生活習慣病)、処方情報))の提供(データ登録)を可能とする(ただし他医療機関がデータを確認するためには、患者本人の同意が原則として必要となる)(関連記事はこちら(医療保険部会)とこちら(医療部会))
▽支払基金における電子カルテ情報については「目的外利用」を禁止する(関連記事はこちら(医療保険部会)とこちら(医療部会))
▽運用費用の負担者(医療保険者等)・負担方法を明確化する
【PMH(自治体と医療機関・薬局をつなぐ情報連 携基盤)関係】
▽難病法などの公費負担医療制度各法、支払基金法、健康増進法などを見直し、▼マイナ保険証1枚で医療費助成を受けられる仕組みの整備(公費負担医療・地方単独医療費助成のオンライン資格確認の制度化)▼自治体検診情報の医療機関等への電子的共有—などを可能とする(関連記事はこちら(難病対策委員会等1)とこちら(難病対策委員会等2)とこちら(難病対策委員会等3)とこちら(医療保険部会))
【医療情報の二次利用関係】
▽地域医療介護総合確保法、がん登録推進法、児童福祉法、難病法、感染症法、健康増進法、次世代医療基盤法などを改正し▼厚生労働大臣が保有する医療・介護の公的DB(NDB、難病DBなど)から、研究者等へ「現行の匿名化情報の利用・提供」に加え「仮名化情報の利用・提供」を行う▼電子カルテ情報DB(今後構築)・自治体検診DB(今後構築)を新たに設置し、匿名・仮名化した情報の利用・第三者提供も行う▼仮名化した情報についての相互連結解析、次世代医療基盤法に基づく仮名加工医療情報との連結解析を行う—ことを可能とする(関連記事はこちら(医療保険部会)とこちら(医療部会)とこちら(2次利用ワーキング))
【支払基金の抜本改組関係】
▽支払基金を医療DXの実施主体とし、厚生労働大臣が「医療DX総合確保方針(仮称)」を策定し、支払基金が「医療DX中期計画(仮称)」を策定する(関連記事はこちら)
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