既に指定難病と認定された患者、新診断基準に関わらず「引き続き指定難病患者と取り扱う」が、重症度分類は新基準適用―難病対策委員会
2025.1.7.(火)
医療費助成が行われる「指定難病」について、最新の医学的知見を反映した診断基準・重症度分類(新基準)が登場してきている。新たな【診断基準】は新規認定患者に適用することとし、既に過去に「指定難病患者である」と診断された患者は、引き続き当該指定難病患者とし取り扱うこととする—。
【重症度分類】については、新規申請・既認定に関わらず「一律に、新たな重症度分類を適用」する—。
12月26日に開催された厚生科学審議会・疾病対策部会「難病対策委員会」と、社会保障審議会・小児慢性特定疾病対策部会「小児慢性特定疾病対策委員会」との合同会議(以下、単に「合同会議」とする)で、このような点が固められました。
既に指定難病と認定されている患者、新診断基準に関わらず「指定難病患者」と扱う
国の定めた以下の要件を満たす「指定難病」については、患者の置かれている厳しい状況に鑑みて、重症の場合に医療費助成が行われています(要件見直しに関する記事はこちら)。
▽発症の機構が明らかでない
▽治療方法が確立していない
▽長期の療養が必要である
▽希少な疾病で、患者数が我が国で一定数(現在は18万人、人口の0.142%)に達していない
▽客観的な診断基準、またはそれに準ずる基準が確立している
ところで、医療・医学の進歩とともに指定難病の診断基準や重症度分類もアップデートされます(関連記事はこちらとこちら)。
そうした中で「診断基準等がアップデートされた場合」に次のような考え方をしてはどうかとの議論が行われています(関連記事はこちら)。
【本年度(2024年度)に公表し、来年度(2025年度)から本格適用するアップデート(2025年度アップデート)の対象疾患】
(1)新規申請患者(本年度(2024年度)より前に認定を受けていない患者)については、来年(2025年)4月1日以降、「2025年度アップデート後の診断基準等」(新診断基準、新重症度基準)を適用する
(2)更新申請患者(本年度(2024年度)より前に認定を受けていた患者)については、来年(2025年)4月1日以降、まず「2025年度アップデート後の診断基準等」(新診断基準、新重症度基準)を適用し、クリアしない場合に「旧診断基準、旧重症度基準」を適用する(最新のものから順に適用する)
→▼まず新基準を適用する▼新基準で要件等をクリアできない場合に旧基準で救済する—というイメージ
【来年度(2025年度)中に公表し、再来年度(2026年度)から適用予定のアップデート(2026年度アップデート)の対象疾患】
(1)新規申請患者(本年度(2025年度)より前に認定を受けていない患者)については、再来年(2026年)4月1日以降、「2026年度アップデート後の診断基準等」(新診断基準、新重症度基準)を適用する
(2)更新申請患者(来年度(2025年度)より前に認定を受けていた患者)については、再来年(2026年)4月1日以降、新しい基準から順に適用していく(「2026年度アップデート後の診断基準等」→それより前の基準)
→▼まず新基準を適用する▼新基準で要件等をクリアできない場合に旧基準で救済する—というイメージ
すでに「指定難病である」と認定されている患者については、仮に「新基準を用いると指定難病には該当しない」と判断されたとしても、「旧基準を用いて指定難病に該当する」と最終判断されますが、合同会議では「旧基準で指定難病と判断された患者などを、新基準でとらえ直すことはナンセンスで、科学的にやってはいけない」(竹内勤委員:埼玉医科大学学長)、「将来的に、既認定の患者が認定から漏れてしまう可能性がある」(辻邦夫参考人:日本難病・疾病団体協議会常務理事)などの問題点を指摘する声もありました。
そこで厚労省は、こうした意見にも配慮し次のような整理案を12月26日の合同会議に提出しています(ただし、考え方・結論は上記と同様になる)。
【診断基準】
▽既認定者については、引き続き当該指定難病の患者として取り扱う(過去の診断基準に基づき診断された患者に対して、過去の検査の閾値等を現在の基準に置換して適用することは困難なため)
▽新規患者は新たな診断基準を適用する。また「過去の診断情報が不明な場合」もこれに準ずる
【重症度分類】
▽現時点における状態について評価するため、重症度分類については「一律、新たな重症度分類を適用」する
指定難病については、冒頭に述べたとおり(1)【診断基準】に照らして「指定難病に罹患しているかどうか」を判断する→(2)指定難病罹患患者について【重症度分類】に照らして「医療費助成の対象となる重症患者かどうか」を判断する→(3)重症患者でなくとも、「年に3月以上、月の医療費総額が3万3330円を超える患者」(軽症高額者)では医療費負担に配慮した助成を行う—という形で医療費助成が行われます。
上記の考え方に照らせば、既に指定難病と診断された患者については、(1)で「新基準に基づいて指定難病ではない」と判断されることはありません。なお、上記の「過去の診断情報が不明な場合」(新規患者と同様に扱われる)とは、例えば「いったん指定難病と認定されたが、海外に移住するなどし、認定(1年間有効)が途切れ、新規扱いとなる」ようなケースが想定されます。ただしこの場合でも、「過去に指定難病と認定された」事実を担当医が臨床調査個人票(臨個票、指定難病の診断基準を満たしているかを医師が記載した調査票)に記載することで、認定判断の重要要素として勘案されることになります。
また、「既に小児慢性特定疾患の患者である」と認定されて医療費助成を受けている患者が成人になった場合には、指定難病制度に移行して医療費助成を受けることになります。その場合、同じ疾患であれば「小児慢性特定疾患の認定」事実が、指定難病制度に移行する場合にも引き継がれることになります(指定難病移行の際には「新規申請」ではなく「既認定患者」と扱われる)。
他方、医療費助成が行われている患者については、(2)(3)で「新基準に基づいて助成対象から外れる」ことがありえます。「重症で医療費負担が重い患者の生活を支援する」という考え方に照らして妥当な判断と言えるでしょう(例えば、基準は変わらずとも「症状が軽快した」場合に助成対象から外れることと同じ考え方)。
この新たな整理案に異論は出ておらず、今後、事務連絡発出などの手続きが進められます。
指定難病患者等、紙受給者証不要で「マイナ保険証」1枚で医療費助成も受けられるように
また、12月26日の合同会議では難病・小児慢性特定疾病医療費助成制度に関するPMH(Public Medical Hub)による資格確認のオンライン化方向も了承されています。「紙の受給者証」が不要となり、マイナ保険証1枚で「指定難病の治療を受ける」にとどまらず、「医療費助成を受けられる」ものです。
すでに昨年度(2023年度)と今年度(24年度)に一部自治体(183自治体:22都道府県、161市町村)が先行実施事業(いわばモデル事業)に参加し、医療費助成へのオンライン資格確認等システム活用に大きなメリットを感じています(小児への医療費助成などで大きな負担軽減効果が出ている)。こうした声も踏まえて厚労省は、「順次、参加自治体を拡大しつつ、2026年度以降(具体的には2027年度から)全国展開する」考えです(関連記事はこちら)。
厚労省では、こうしたメリットも強調し「全自治体において、医療費助成へのオンライン資格確認等システム活用を行ってほしい」と呼び掛けています。
合同部会では、こうした考え方に異論・反論は出ておらず、厚労省は必要な法律改正等を進める考えです。
なお、2024年の障害基礎年金2級の支給額が約80万9000円(年間)となったことを踏まえ、低所得I・IIの所得区分基準である「年収80万円以下」を「年収約80万9000円以下」に改正することも報告されました(本年(2025年)7月施行)。
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