医療費助成の対象となる「指定難病」、2021年度の対象疾患拡大に向けた議論スタート—指定難病検討委員会
2020.10.22.(木)
医療費助成の対象となる「指定難病」の対象疾患拡大に向けて、研究班や学会に対し「追加候補疾病」を募ることとする—。
また難病制度見直しの一環として「指定難病の現状に関するフォローアップ」や「重症度基準の標準化」に向けた検討を研究班に依頼する—。
10月21日に開催された厚生科学審議会・疾病対策部会の「指定難病検討委員会」で、こういった検討が始まりました。指定難病の要件を満たすと判断された疾患については、所定の手続きを経た後、来年度(2021年度)中に医療費助成の対象に追加されます。
目次
医療費助成の対象となる「指定難病」、2021年度にも対象疾病拡大の方向
▽発症の機構が明らかでない▽治療方法が確立していない▽希少な疾病である▽長期の療養が必要である—という要件を満たす「難病」のうち、▼患者数が我が国で一定数(現在は18万人、人口の0.142%未満)に達していない▼客観的な診断基準、またはそれに準ずる基準が確立している—という要件を満たした【指定難病】の罹患者については、患者の置かれている状況に鑑みて、重症の場合には医療費助成が行われます。
なお、「がん」など他の施策体系が樹立されている疾患は指定難病に該当しないこととされていますが、この点、「▼髄膜▼脳▼脊髄▼脳神経▼その他の中枢神経系―に発生した腫瘍は、良性であっても『がん登録』の対象となり(がん登録推進法施行令第1条第2項)、指定難病には該当しない」「それ以外の部位に生じた腫瘍は、良性であれば『がん登録』の対象にならず、指定難病に該当する可能性がある(他の要件を満たすことが必要)」という基準の明確化もなされています(関連記事はこちら)。
ある疾病が指定難病の要件を満たすか否かは、研究班や関係学会の提出した情報をもとに、専門家で構成される指定難病検討委員会で判断されます。これまでに333疾患(2015年1月実施分:110疾患、2015年7月実施分:196疾患、2017年4月実施分:24疾患、2018年4月実施分:1疾患(あわせて5疾患を他の指定難病と統合)、2019年7月実施分:2疾患)が指定難病に該当すると判断され、重症患者について医療費助成が行われています。ただし、333疾患の中には「複数の病名」が含まれており、病名ベースで考えると「1000疾患を優に超える」ことになります。
今般、「2021年度実施分」に向けて、研究班や関係学会に対し「追加候補の募集」行うことが決まりました。従前通り、次の疾病が「追加候補」となります。
▼2018年度・2019年度・2020年度の難治性疾患政策研究事業において「指定難病の検討に資する情報が整理された」と研究班が判断し、研究班から情報提供のあった疾病
▼小児慢性特定疾病のうち、「指定難病の検討に資する情報が整理された」と日本小児科学会が判断し、同学会から要望のあったもので、研究班や関係学会から情報提供のあった疾病
「追加候補」の募集期間は、従前どおり1か月程度とされましたが、石毛美夏委員(日本大学医学部小児科学系小児科学分野准教授)からの「各学会での推薦手続きなどに時間がかかることも考えられる」との指摘を受け、厚生労働省健康局難病対策課の担当者は「一定の柔軟性を持たせられないか検討したい」旨の考えを示しています。
今後、研究班からあがってくる「追加候補」について冒頭の要件を満たしているのかを指定難病検討委員会で審査。親組織である疾病対策部会の了承、厚生労働大臣による告示を経て、2021年度に「医療費助成」が開始される運びとなります。この点、山下英俊委員(山形大学医学部眼科学教室教授)からの「要件を満たせば医療費助成の対象となる疾患数の上限(予算を踏まえた上限)はないのか」との質問がありましたが、厚労省担当者は「上限は考えていない。要件に合致すれば医療費助成の対象に追加される」旨を説明しています。
また、今回「追加候補」とならなかった疾病に対しても難治性疾患政策研究事業等による研究支援が行われ、必要な情報が得られた段階で、指定難病検討委員会での審議対象となることが確認されています。
なお、研究班も存在しない超希少疾病に関しては、「患者からの申し出を起点として、医療費助成の対象とすべきかを審査する」仕組みがすでに設けられています。患者の申し出を受け止めて、指定難病委員会で「どの研究班に研究を依頼するか」などを決め、研究を推進していく(そこで治験が得られれば、「追加候補」のルートに乗る)ことを目指すものです。
ただし「各都道府県において拠点病院が概ね整備されるのを待って稼働する」こととなっており、現在は「準備段階」であることも厚労省から報告されました。
指定難病の対象333疾患について、治療法の開発や患者数などの現況をフォローアップ
ところで難病制度に関しては「5年に一度の見直し」論議が進んでいます(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。その中で、▼指定難病の要件を満たさなくなった場合(例えば効果的な治療法が開発されたり、患者数が増加したりなど)の取扱い▼指定難病の要件・基準の標準化―も重要論点としてあがっています。
前者については、「要件を満たさなくなった場合には、指定難病から除外する」ことが本筋と言えますが、「いきなり除外するのではなく、まず各疾患の状況をフォローアップすることから始めてはどうか」というところに落ち着いています。指定難病から除外されれば、医療費助成が打ち切られることになりますが、これは患者・家族の治療継続や生活に極めて大きな影響を及ぼすためです。
このフォローアップについて指定難病検討委員会では、研究班に対し▼患者数の状況▼「発病の機構」の解明状況▼「効果的な治療方法」の進展▼「長期の療養」の変化―について調査・評価を求める方針を決定しました。
これらを取りまとめ、指定難病検討委員会でその後の対応(指定難病としての指定を継続するのか、など)を議論していくことになります。
後者は、333ある指定難病の疾患ごとに「重症度の基準」などにバラつきがあり「不公平が生じているのではないか」という問題意識に基づくものです。極論すれば、同じ指定難病であっても、A疾患では重症と判断されやすく(助成を受けやすい)、B疾患では重症と判断されにくい(助成を受けにくい)といった状況があるのではないか、という問題です。
もちろん様々な疾患が指定難病に指定されていることから、「すべてを一律の重症度で分類する」ことは不可能に近く、「同一の領域内で同様の症状等を評価する場合には、可能な限り当該症状等を評価する客観的指標の標準化を図る」という方針が示されています。この点、研究班等で「どのような領域を『同一』とするのか」「評価方法をどう考えるのか」を研究していく方向が固められました。
関連して千葉勉委員(関西電力病院院長、難病制度見直しを議論する厚生科学審議会・疾病対策部会「難病対策委員会」委員長)は、「難病情報センターにおいて333疾患の情報が整理され、患者向け・医師向けに必要な情報が整理され、非常に有用なサイトが構築されている。しかし、その情報がすべて最新のものになっているわけではないという課題もある。今後、研究班の情報のアップデートを行い、それを難病情報センターのサイト等に反映させられる仕組みを構築すべき」と提案しています。医学・医療の発展を「最新情報」にアップデートしていくことは非常に重要な視点と言えるでしょう。
臨個票の簡素化に向けて、まず「構成の標準化」を進める
なお、難病制度見直し論議では、「臨床調査個人票(臨個票)の簡素化」も重要テーマの1つにあがっています。研究班で工夫を凝らした臨個票が作成されているため、残念ながら「疾患によって臨個票の記載内容にバラつきがある」状況にもなっています。そこで「認定審査の適正性、調査研究の意義を損なわない範囲で項目の簡素化を図る」方針が固められつつあり、今後、研究班で「標準化・簡素化」に向けた検討が進められます。
この標準化・簡素化を進めるために、「診断基準や重症度分類に係る項目を明確に分けるために、まず臨個票の構成を変更する」方針が指定難病検討委員会で固められました。
臨個票の構成を標準化することで「バラつき」が確認しやすくなり、そこから具体的な「内容(項目)の標準化・簡素化」につながると期待されます。臨個票の標準化・簡素化が図られれば、診断を行う指定医の負担を軽減し、それが「軽症者の臨個票作成→データ登録→データベースの充実→研究の発展→原因究明、治療法の開発」に結びつくと考えられます。
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