難病の治療法開発等のため、軽症者含めた高精度データベース構築が不可欠—難病対策委員会
2019.6.13.(木)
2020年1月に向けて難病等制度の見直しを検討する。その際、難病の病態解明・治療法確立のために「精度の高いデータを格納したデータベース構築」が必要となるが、現在、軽症者は医療費助成の対象から外れているため、データ(臨床調査個人票)を格納しないケースも少なくない。今後、軽症者のデータ登録を促進するための方策などを考えていく必要がある―。
6月13日に開催された厚生科学審議会・疾病対策部会「難病対策委員会」と、社会保障審議会・児童部会「小児慢性特定疾患児への支援の在り方に関する専門委員会」との合同会議で、こういった議論が行われました。
目次
2020年1月を目途に、難病等制度の見直しを検討
「指定難病への医療費助成」や「難病医療体制の構築」などの難病対策は、2015年1月に施行された難病法(難病の患者に対する医療等に関する法律)に基づいて実施されています。難病法の附則では、「施行後5年以内を目途に、施行状況を勘案して必要があれば見直しに向けた検討を行う」旨が規定されており、また、いわば小児の難病である「小児慢性特定疾患」対策を規定する改正児童福祉法でも、同様の見直し規定があることから、厚労省は施行から5年後となる「2020年1月」を目途に、見直しに向けた検討を合同会議で始めています(関連記事は こちら)。
6月13日の会合には、厚生労働省から「論点案」が提示されました。多岐にわたるため「医療に関連の深い論点案」を中心に眺めていきましょう。
治療効果の大幅改善した疾患など、「医療費助成対象から除外」する仕組みを検討
まず制度全体については、「法の趣旨・目的(良質かつ適切な医療の確保、療養生活の質の維持向上)に合致した運用がなされているか」を確認しつつ、「多様な患者ニーズに対応していくために、どのような支援や仕組みが必要かを検討してはどうか」との考えが示されています。
趣旨・目的にある「良質かつ適切な医療の確保」の一環として、難病等患者の中で一定の要件に合致する場合には「医療費の助成」が行われます。成人では、▼発症の機構が明らかでない▼治療方法が確立していない▼希少な疾病である▼長期の療養が必要である▼患者数が我が国で一定数(現在は18万人、人口の0.142%未満)に達していない▼客観的な診断基準、またはそれに準ずる基準が確立している—という「6要件」を満たす疾患を【指定難病】と位置づけ、一定の重症度基準を満たす場合には医療費助成が行われるものです。
この医療費助成については、さまざまな論点がありそうです。
まず、医療費助成の対象疾患、つまり「指定難病」をどう考えるかという論点があります。この点、「ある疾病が指定難病の6要件を満たしているか」を審査する指定難病委員会では、▼追加検討の対象疾患は、診断基準や重症度分類について関係学会が承認しているもののみとする▼過去に「要件を満たさない」と判断された疾患を追加検討する場合には、研究班からの新たな知見報告等を求める▼指定難病の中にも、調査技術や医療技術の進展などにより「治療効果が大幅に改善」したものもあり、フォローする▼実際に医療費助成の支給認定を受けた患者がいない疾患や、当初予測に比べて大幅に患者が少ない疾患については、研究班に理由の報告を求める―という意見をまとめています(関連記事はこちらとこちら)。
現在の難病法等には、「調査技術や医療技術の進展などにより『治療効果が大幅に改善』したもの」、つまり「指定難病とは言い難くなった疾病」を指定難病から除外する規定がないため、「医療費助成」が継続されることになります。しかし、他の疾患に罹患している患者からすれば、こうした事態は「不公平である」と感じられ、また限られた財源の有効活用という視点からも問題が出てくるでしょう。このため合同会議では、「調査技術や医療技術の進展などにより『治療効果が大幅に改善』したもの」、について、「除外する手続き」などを検討課題の1つに据える方向です。
なお、「医療費助成の対象となる指定難病の6要件そのものを検討しなおすべき」との意見はこれまでに出ておらず、今後も「6要件に基づいて指定難病を指定する」方針は維持されると考えられます。
ただし、患者代表の1人として議論に参画する森幸子委員(日本難病・疾病団体協議会理事)は、「指定難病以外の患者も多くの不安を抱えて、厳しい生活を送っている」状況を強く訴えており、指定難病とは異なる枠組みでの支援などを検討する必要があるかもしれません。
医療費助成の対象となる「重症者」の基準、バラつきなどが生じないように
指定難病に罹患する患者がすべて医療費助成の対象となるわけではありません。研究班が検討・作成し、指定難病委員会が審査を行った「重症度基準」をクリアした患者のみが医療費助成の対象となります。限られた財源を「より厳しい状況にある重症者に集中する」ことで、重症者を手厚く救済することが狙いです。仮に軽症者をも交えた支援を行えば、財源が限られていることから、1人当たりの助成額などが少なくなり、重症者の救済度合いが低くなってしまうためです。
ただし、▼重症度基準の運用にバラつきがあるのではないか▼重症度基準の設定方法そのものにバラつきがあるのではないか―という課題もあるようです。合同会議では、「同一の疾患群に属する疾病であっても、▼疾患群共通の基準を採用している疾病▼疾患特異的基準を採用している疾病―があり、前者(共通基準)を使用する際の基準を明確にする」必要があるとの考えを示しています。
また、重症度基準の採用は、逆側から見れば「軽症者には助成が行われない」ことを意味します。上述のように「重症者を手厚く救済する」ためのものですが、軽症者であっても「経済的に厳しい」状況にあることが森委員から指摘されました。とくに、従前の特定疾患治療研究事業(56疾患が対象)では軽症者も医療費助成の対象であったため、当該疾患の軽症者は「指定難病への移行に伴い、医療費助成がなくなってしまった」形です(経過措置が設けられていた)。
合同部会では、こうした事情なども考慮し「軽症者の実態やニーズを踏まえ、どのような支援が必要か、検討を行う」考えです。後述するように、この「軽症者」対策は、データベースの構築・治療研究の進展にもつながる重要課題となりそうです。
臨個票、個人情報保護に配慮した上で、オンラインでの記載・登録ができる仕組みを検討
指定難病はもちろん、難病は、前述した要件にあるとおり「発症の機構が明らかでない」「治療方法が確立していない」ため、現時点では完治が見込めません(対症療法にとどまる)。この点、研究を進め「発症の機構の解明」「治療方法の確立」が切望されており、そのためには患者のデータを集積(データベースに格納)し、さまざまな角度から分析・解析していくことが不可欠です。
この患者データは、成人の指定難病患者については、担当医が「臨床調査個人票」(通称、臨個票)に記入し、患者の同意を得たうえで、都道府県がデータベース(指定難病患者データベース)に入力・格納する形になっています(小児慢性特定疾患患者でも同様の流れで小児慢性特定疾患児童等データベースに格納)。
ただし、この「臨個票」に対してはさまざまな課題が指摘されています。この点について羽鳥裕委員(日本医師会常任理事)は、日本医師会を中心に実施した調査結果を報告。次のような状況が分かってきました。
▽半数の医師が手書き(診療所の医師に限れば85%)である
▽1通当たり15-30分程度の作成時間が必要であり、中には1時間以上かかるケースもある
▽とくに基本情報(毎回記載しなければならない、患者の氏名や性別、年齢など)の記載に負担を感じる医師が4割以上にのぼる
羽鳥委員は、現場では「臨個票の記入項目を最小限とする」「基本情報などは過去の記載を活かせる形とする」「オンラインでの登録・データ提出を可能とする」という声が多いことも併せて紹介しています。合同会議でも「指定医が患者データをオンライン上で直接登録できる仕組みの整備について検討する」方向を示し、千葉勉委員長(関西電力病院院長)は「電子カルテからデータをエクスポートできるような仕組みも構築する必要がある」と踏み込んだ考えを述べています。
ただし、臨個票には「疾患の状況」や「既往歴」「家族の状況」など極めて機微性の高い情報(当然、個人情報も含まれる)が記載されており、「セキュリティの確保」などを十分に検討すべきことが石川広巳委員(日本医師会常任理事)から指摘されています。
軽症者のデータ登録を促進する仕組みの検討も最重要課題
ところで「発症機構の解明」「治療法の確立」のために、データベースを構築し、データの分析・解析を行いますが、その前提として「データの精度が高い」ことが不可欠です。誤ったデータ、偏った不十分なデータに基づいた解析・分析は、誤った結果を生む可能性が高いためです。
この点に関連して、木村円参考人(日本医療研究開発機構戦略推進部難病研究課調査役)は、軽症者のデータ(臨個票)登録が極めて重要になることを強調しました。発症機構の解明などの出発点は「軽症から重症までの全病期の疾患理解」であり、とくに進行性の疾病の治療法開発に当たっては、「軽症例を対象とした治験・臨床研究が実施される」ことなどを踏まえた指摘です。
しかし、現在、指定難病制度において軽症者が医療費助成の対象から除外されているため、軽症者自身・医師の中には「医療費助成がなされないので、詳細なデータ(臨個票)を記載しても無駄になってしまう」と考え、データ(臨個票)記載をしないケースも少なくないと指摘されます。これでは木村参考人の強調する「軽症から重症までの全病期の疾患理解」が不可能となり、当然、病態解明・治療法確立は遠のいてしまいます。こうした面からも「軽症者に対する何らかの支援が必要ではないか」と指摘する声が出ているのです。合同部会でも「軽症者のデータ登録が促進される仕組みについて検討する」方向を打ち出す見込みです。
このほか、▼難病患者データベースと小児慢性特定疾病児童等データベースの連結解析に向けた「登録項目の統一化」▼指定難病・小児慢性特定疾病データベースと他の医療保険分野の公的データベース(NDB、介護DBなど)を連結させる仕組み▼医療費助成にかかる「支給認定の審査会」の運用状況の検証(地域差が生じていないか)▼移行期(小児から成人への移行期)支援―などが重要な検討テーマ候補として浮上しています(関連記事はこちらとこちら)。
厚労省とAMEDで調査研究を推進、十分な連携を
なお、難病の調査研究については、厚労省の「難治性疾患政策研究事業」と日本医療研究開発機構(AMED)の「難治性疾患実用化研究事業」からの補助(両者の合計で2019年度は100億円弱)に基づき、専門家による研究班で行われていますが、千葉委員長やは、「調査研究が厚労省とAMEDに分かれ、うまく進んでいる部分もあれば、分断されてしまった部分もある。一部疾患では病態解明の研究がストップしたとも聞く。厚労省とAMEDで十分に連携してほしい」と強く要望しました。
難病の診断・専門的治療を行う拠点病院、整備促進策を検討
また、難病患者への十分な医療提供体制を確保するため、合同会議ではこれまでに▼早期に正しい診断をするために、原則として都道府県に1か所【難病診療連携拠点病院】を指定する(総合的な拠点病院)▼専門領域の診断と治療を提供するために、【難病診療分野別拠点病院】を指定する▼拠点病院が患者に身近な医療機関と連携し、アクセスしやすい環境での治療を可能とする―といった方針を固めています。
ただし、今年(2019年)4月1日時点で、【難病診療連携拠点病院】は32都府県・65医療機関、【難病診療分野別拠点病院】は14県・33医療機関にとどまっており、西澤正豊委員(新潟大学名誉教授脳研究所フェロー)は「未指定道県のさらなる調整を促すような方策」を検討してはどうかと提案しています。
この点に関連して羽鳥委員は、「必要な検査の保険収載」「難病患者の治療と就労の良質を支援するための診療報酬上の評価」などについて、合同部会から中央社会保険医療協議会へ提言することも必要ではないかと訴えています。
6月末予定の次回会合で「論点整理」、つまり検討項目の確定を行い、その後、下部組織(ワーキンググループ)を設け、そこで個別論点について具体的に、かつ深く検討。秋頃にワーキングからの報告を受け、合同会合として年内(2019年内)に意見を取りまとめる予定です。
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