2020年1月に向け、難病対策・小児慢性特定疾患対策の見直しを検討―厚科審・疾病対策部会
2019.4.5.(金)
4月4日に厚生科学審議会・疾病対策部会が開催され、医療費助成の対象となる指定難病に、新たに▼膠様滴状角膜ジストロフィー▼ハッチンソン・ギルフォード症候群―の2疾患を追加することを了承するとともに、2020年1月に向けて難病対策等の見直し論議を行っていく方針を確認しました。
新たな指定難病2疾患に罹患し、重症度基準を満たす患者には7月上旬から医療費助成が行われる予定です。
指定難病は333疾患に、重症者には医療費助成
難病は、▼発症の機構が明らかでない▼治療方法が確立していない▼希少な疾病である▼長期の療養が必要である—という要件を満たす疾病と定義されます。さらに、難病のうち、▼患者数が我が国で一定数(現在は18万人、人口の0.142%未満)に達していない▼客観的な診断基準、またはそれに準ずる基準が確立している—という要件を満たした【指定難病】については、患者の置かれている状況に鑑みて、重症の場合には医療費助成が行われます。
これまでに331疾患(2015年1月実施分:110疾患、2015年7月実施分:196疾患、2017年4月実施分:24疾患、2018年4月実施分:1疾患(あわせて5疾患を他の指定難病と統合))が指定難病に該当すると判断されています。
今般、研究班や関係学会から38疾患について「指定難病に追加すべきでないか」との情報提供が行われ、疾病対策部会の下部組織である「指定難病検討委員会」での詳細な検討の結果、次の2疾患が上記の指定難病の要件を満たすと判断されました(指定難病は2019年度から合計333疾患となる)(関連記事はこちら)。
【膠様滴状角膜ジストロフィー】
角膜実質にアミロイドが沈着することにより、眼痛などの不快感とともに著明な視力低下を来たす遺伝性の眼疾患。視力維持のために若年から生涯にわたり角膜移植を繰り返す必要があり、角膜移植の合併症や移植後の緑内障の発症により失明に至るケースも多い。我が国の推定患者数は400名程度。
【ハッチンソン・ギルフォード症候群】
遺伝性の早老症の1つ。生後半年から2年で、▼水頭症様顔貌▼禿頭▼脱毛▼小顎▼強皮症―を呈するが、精神運動機能や知能は正常である。▼脳梗塞▼冠動脈疾患▼心臓弁膜症▼高血圧▼耐糖能障害▼性腺機能障害―を合併し、対症療法のみ。平均寿命は14.6歳と報告されるが、国内では20歳を超えた生存例も報告されている。我が国の推定患者数は100人未満。
疾病対策部会では、この内容を了承。これを受け、厚生労働省は5月上旬に告示改正等を行い、7月上旬から医療費助成を開始する考えです。
なお、患者代表である森幸子参考人(日本難病・疾病団体協議会代表理事、疾病対策部会・難病対策委員会委員)は、さまざまなルートを使って、2疾患の患者に「指定難病に追加され、重症度基準を満たせば医療費助成が行われる」情報を確実に伝わるよう求めています。
2020年1月に向けて難病対策見直しを検討、軽症患者の臨床情報収集などが課題
4月4日の疾病対策部会では、「難病対策の見直し」に向けた議論の進め方を確認しています。
「指定難病への医療費助成」や「難病医療体制の構築」などの難病対策は、2015年1月に施行された難病法(難病の患者に対する医療等に関する法律)に基づいて実施されています。難病法では、附則において「施行後5年以内を目途に、施行状況を勘案して必要があれば見直しに向けた検討を行う」旨が規定されていることから、厚労省は施行から5年後である「2020年1月」を目途に、見直しに向けた検討を開始する考えを示しました。
小児の難病である「小児慢性特定疾患」対策を規定する児童福祉法についても、同様に「2020年1月」に向けて必要な見直しの検討が求められており、「難病対策委員会」(疾病対策部会の下部組織)と「小児慢性特定疾患児への支援の在り方に関する専門委員会」(社会保障審議会・児童部会の下部組織)が合同で議論を行っていきます。
難病対策や小児慢性特定疾患対策の課題を洗い出し、対応案を検討していくことになりますが、例えば(1)効果的な患者臨床情報の収集とその活用(2)小児慢性疾患患者の成人期医療への移行支援(3)指定難病における重症度分類・基準の在り方(4)指定難病の要件を満たさなくなった場合の取り扱い―などが検討項目案として既に浮上しています。
このうち(1)の「患者臨床情報の収集」については、とくに軽症患者の臨床情報をどのように収集するか、という点に注目が集まっています。指定難病等に罹患している患者のうち、重症者については医療費助成の申請と併せて、患者臨床情報を収集する仕組みが設けられています(臨床調査個人票)。収集された患者臨床情報はデータベース(指定難病患者データベース、小児慢性特定疾病児童等データベース)に格納され、治療法の研究開発などに活用されます。
しかし、軽症患者では医療費助成がなされないことから、患者臨床情報が提出されないケースも少なくありません。このため、「指定難病患者データベース等が不完全なものになってしまっている」との指摘があるのです(関連記事はこちら)。
4月4日の疾病対策部会でも、「小児に対しては自治体が医療費助成を行うこともあり、小児慢性特定疾患の申請をしないケースもある。当然、患者臨床情報も収集されない」(錦織千佳子委員:神戸大学大学院医学研究科教授)、「軽症者への臨床情報提出に向けたインセンティブや、軽症者であっても臨床情報提出を求める仕組みなどを検討する必要がある」(水澤英洋部会長代理:国立精神・神経医療研究センター理事長)といった意見が出されました。厚労省は「臨床情報収集に協力してくれた患者には、当該疾病の研究等に関する最新情報を提供する」ことなどを検討してはどうか、どの考えを示しています。
さらに、患者臨床情報を収集するための臨床調査個人票(臨個票)について、「記載項目が膨大で医師の負担が大きい」「過去のカルテからのコピーペーストで済ませてしまっているケースもある」「医療費助成のために症状を重く書いてしまうこともある」といった課題が指摘されており、この点の見直しも検討されることになるでしょう(関連記事はこちら)。
データベースの利活用(成人(指定難病)データと小児データとの突合なども含めて)も検討課題の1つですが、その前提として「正しく広範な(偏りのない)データの収集」が不可欠となるため、さまざまな角度から検討が行われる見込みです(関連記事はこちら)。
なお、患者臨床情報を活用するためには、患者の同意が必要です。この点、▼成人(指定難病)と小児では同意書の内容が異なっている▼活用先(データの提供先)に文部科学省の研究班(科学研究費)が含まれていない―といった課題を踏まえた「同意書の見直し」が行われます。この見直しは、難病対策等の見直しを待たずに行われ、厚労省健康局難病対策課の川野宇宏課長から「各自治体で新たな同意書に移行し、2020年3月にまでに移行が完了する見込みである」とのスケジュールが報告されました。
また、医療・医学等の進展にともなって小児慢性特定疾患児の予後が改善しています。小児慢性特定疾患児が成人になれば「指定難病」の対象となることから、(2)の「移行期支援」などが重要となります。すでに難病対策委員会等では一定の方向性(都道府県における移行期医療支援センターの設置など)が示されていますが、さらなる支援策も検討課題となりそうです(関連記事はこちら)。
(3)の重症度分類・基準については、指定難病検討委員会において「厳しすぎるのではないか」「疾病によってバラつきがあるのではないか」との指摘も出ており、どういった検討が行われるのか注目があつまります。なお、指定難病の指定要件(患者数が我が国で一定数(現在は18万人、人口の0.142%未満)に達していない、など)見直しが検討されるかは不透明です。
ところで、医学・医療等の進展で、ある疾病について、例えば効果的な治療法が明らかになってきたり、日常生活が相当程度行えるようになってきたような場合でも、現在は「指定難病」から除外する規定が整備されていません(「指定難病に追加する」規定のみ整備されている)。この点も(4)として検討されることになるでしょう。
見直し内容は年内(2019年内)を目途に取りまとめられる見込みで、難病対策委員会等の議論によっては「難病対策等を大幅に見直す必要がある」と判断され、難病法等の改正が行われる可能性もあります。
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