指定難病の軽症者に「登録書証」交付し、悪化した場合の医療費助成前倒しなど検討—難病対策委員会
2020.10.20.(火)
指定難病の軽症者について、データ登録を促進するために「登録者証」(仮称)の交付を行ってはどうか。「登録者証」(仮称)を、福祉サービス利用の都度に必要となる「医師の診断書」の代替として用いることを可能とするほか、悪化時に「登録者証」(仮称)を交付されていた場合、医療費助成の前倒しを行うことなどを検討してはどうか―。
また指定医サイドの負担を軽減するために、臨床調査個人票の記載項目を簡素化したうえで、オンライン登録を進めることとしてはどうか―。
10月16日に開催された厚生科学審議会・疾病対策部会「難病対策委員会」と、社会保障審議会・児童部会「小児慢性特定疾患児への支援の在り方に関する専門委員会」との合同会議で、こういった議論が行われました。
指定難病の軽症者「登録者証」を交付し、データ登録のメリットをPR
「指定難病への医療費助成」や「難病医療体制の構築」などの難病対策は、2015年1月に施行された難病法(難病の患者に対する医療等に関する法律)に基づいて実施されています。難病法は、「施行後5年以内を目途に、施行状況を勘案して必要があれば見直しに向けた検討を行う」旨が規定されており、また小児の難病である「小児慢性特定疾患」対策を規定する改正児童福祉法でも、同様の見直し規定があります。
これまでに合同会議で「論点整理」を行い(2019年6月)、下部組織である▼医療費助成の在り方、治療研究の推進、医療提供体制の整備に向けた技術的事項などを検討する「難病・小児慢性特定疾病研究・医療ワーキンググループ」▼療養生活の環境整備、就労支援、福祉支援、小児の自立支援の在り方などに関する技術的事項などを検討する「難病・小児慢性特定疾病地域共生ワーキンググループ」―で専門的な検討を行ってきました(2019年末・2020年初めにそれぞれ報告書を取りまとめ)。その後、合同部会で取りまとめ論議に入りましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で議論が一時中断。今般、議論が再開されたものです(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
これまでの議論を振り返ると、例えば、▼医療費助成の対象とならない「指定難病に罹患した軽症者」について、臨床調査個人票の作成頻度や内容を簡素化するなどしてデータベースへ登録しやすい環境をさらに整え、登録者に「指定難病登録者証」(仮称)を発行し、福祉サービスの円滑利用を可能にしたり、重症化した場合には速やかに医療費助成が行われるようにするなどの制度を整える▼「重症者から軽症者まで悉皆性のある指定難病のデータベース」を構築し、NDB(National Data Base)などの他の公的データベースとの連結解析を行い、病態解明や治療法開発などにつなげる、このため、さらに医師の負担軽減のために「データ登録のオンライン化」を進める―といった方向が検討されてきています。
10月16日の会合では、▼オンライン化▼患者データ登録の在り方▼「登録者証」(仮称)の在り方—などについて、さらに議論を詰めました。
いずれにも共通する視点は、上述したとおり「軽症者のデータ登録をいかに進めるか」というところにあります。現在でも、医療費助成の対象とならない「軽症者」についてもデータを登録する仕組みがありますが、「助成に繋がらないにもかかわらず、登録・データ入力を行うことは負担でしかない」と考える指定医・患者が少なくないため、データベースに偏り(軽症者データが極めて薄い)が生じてしまっているのです。
指定難病の原因や治療法の研究に当たっては、軽症から重症まで多くの患者のデータが集積されていることが必要となり、「軽症者のデータ登録を進める」ことが極めて重要なテーマとなるのです。このためには患者サイド、指定医サイドの双方への働きかけが重要となり、患者サイドへの「メリット」の1つとして「登録者証」(仮称)が、指定医サイドの負担軽減の1として「オンライン化」が浮上しているのです。
まず「登録者証」(仮称)について見てみましょう。上述のとおり「医療費助成がなされないのであれば登録する意味がない」と考える患者も少なくありません。この点「軽症者にも医療費助成を行ってはどうか」という考え方もありますが、予算は限られているため、結果として「重症者への助成が弱くなってしまう」というデメリットがあります。そこで、軽症者には「医療費助成以外のメリット」を享受しやすく環境を整備する方向で検討が進められてきました。
厚労省健康局難病対策課の尾崎守正課長は、「登録者証」(仮称)に次のような機能を持たせ、軽症者がメリットを感じやすくしてはどうか、との考えを提示しています。
▽「登録者証」(仮称)に、地域で利用できるサービスに関する情報の記載を可能とする(登録者証を保有すれば、地域の福祉サービス等の利用がしやすくなると期待される)
▽軽症者が各種福祉サービスを利用する際には「医師の診断書」が必要となることが多いが、「登録者証」(仮称)を「医師の診断書」に代わるものとして取り扱えるようにする(福祉サービス等利用の都度に医師の診断書を得る必要がなくなり、時間的・経済的コストの軽減につながる)
▽急な重症化がみられた場合に、「登録者証」(仮称)保有者については円滑に医療費助成が受けられる(医療費助成を前倒しで受けられる)仕組みを検討する
こうした提案に異論は出ておらず、今後、詳細を詰めていくことになりますが、委員からは「より明確なメリット」「データ登録の重要性・必要性」を打ち出す必要があるのではないかとの指摘も出ています。
関連して、「がん」については全症例のデータ登録が進められており、「がん登録の仕組みを参照し、難病患者のデータ登録を進めるべき」との声も出ています。ただし、尾崎難病対策課長は「がん登録では『患者の同意』が不要であるところが、難病患者の登録と決定的に異なる」ことを紹介しています。がん登録に類似した「難病登録」制度の創設には、大きな期待が集まるものの、検討すべき、クリアすべきテーマが多々あることが分かります。
指定医の負担軽減のために「臨個票」の記載項目の簡素化、オンライン登録を進める
難病指定医は、患者のデータ(基本情報や症状の程度など)を臨床調査個人票(以下、臨個票)に記載します。これが医療費助成を行うか否かを判断する際のベースとなり、また調査研究の重要資料となるわけですが、多忙な医師にとって「臨個票の記載などの手続きが、極めて大きな負担になっている」との指摘が医療現場から相次いでいます。軽症者の登録を促進した場合、指定医の負担はさらに過重になってしまうことから、「医師の負担軽減」が極めて重要となるのです。
この点、▼データ登録のオンライン化▼臨個票の簡素化―などが検討されています。
前者のオンライン登録については、2022年度からの運用が予定されています。そこでは「セキュリティの確保」が重要課題となり、例えば「電子カルテ等を活用して臨個票を作成し、それをデータ登録する場合には、外部接続のない閉鎖ネットワークの中で臨個票を作成し、それを暗号化してオンライン登録を行う」方策などが検討されています。もっとも、セキュリティ確保を厳格にすればするほど、データ登録を行う指定医の手間が増えてしまうため、両者のバランスをどう確保するかが、今後の重要検討テーマとなるでしょう。
また後者の「臨個票の簡素化」については、現在、専門家の研究班で研究が進められており、その研究結果を踏まえて検討することになります。あわせて「医療費助成の対象となる重症者」と「助成対象とならない軽症者」とで臨個票の項目を同じとすべきか、という検討テーマもあります。この点、「研究の促進」「混乱を避ける」ために「同じくすべき」との考えがある一方で、「負担軽減」のために「標準記載項目を定め、重症者ではより詳細なデータ記載を求める」という考え方もあります。厚労省は「項目は同じとしてはどうか」との考えを示していますが、千葉勉委員長(関西電力病院院長)は後者(項目を分ける)の考え方もありうるとして、厚労省に検討を指示しています。
なお、羽鳥裕委員(日本医師会常任理事)や井田博幸委員(東京慈恵会医科大学小児科学講座教授)からは「登録にかかる負担を診療報酬等で評価してほしい」との声も出ています。
関連して、「データ登録にかかる患者の同意」を誰が取得するか、という検討テーマもあります。上述のとおり、「がん」と異なり、指定難病にかかるデータの登録に当たっては「患者の同意」を取得することが必要となるのです。
この点、「データ登録の前提として診断・診察があることから『指定医』が同意取得をすべき」という考え方と、「指定難病患者では医療以外の福祉サービスも利用することが多く、そうした情報を保有する『自治体』が同意取得をすべき」という考え方があります(現在は自治体が同意取得を行っている)。双方にメリット・デメリットがありますが、患者代表の立場で参画する森幸子委員(日本難病・疾病団体協議会代表理事)や本間俊典委員(あせび会(希少難病者全国連合会)監事)ら、多くの委員は「患者の負担を考慮したとき、指定医による同意取得が好ましい」との考えを提示しています。
もっとも、指定医サイドの負担も考慮する必要があり、さらなる検討が進められる見込みです。
合同部会では年内を目途に意見を取りまとめ、その内容を踏まえて「改正法案」策定作業が年明けから進められることになるでしょう。
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