糖尿病・虚血性心疾患・脳内出血・脳梗塞で「男性の入院が多い」ため、外来での適切な病状管理等が重要に—健保連
2026.1.14.(水)
2023年度における生活習慣関連疾患の医療費を分析すると、医科入院・入院外ともに「疾患それぞれの特性」を踏まえた医療費適正化対策(使用医薬品の後発品への置き換えを進める、疾患の発症予防に向けた生活習慣改善を図る、両者をセットで進める、など)が重要であることを確認できる—。
例えば入院では、糖尿病・虚血性心疾患・脳内出血・脳梗塞のいずれも「男性で入院が多い」ことが分かり、外来での適切な病状コントロールが重要になると考えられる―。
また入院外では、糖尿病・高血圧症・高脂血症などで非常に受診率が高く「生活習慣の改善による発症予防」が重要となり、人工透析では「1日当たり医療費」(単価)が非常に高いことから、後発医薬品の使用促進など「単価の圧縮」に努めることが医療費適正化に向けて重要になると考えられる―。
健康保険組合連合会が1月8日に公表した2023年度の「生活習慣関連疾患の動向に関する調査」から、こういった状況が明らかになりました(健保連のサイトはこちら(医科入院外)とこちら(医科入院))(前年度調査に関する記事はこちら)。
糖尿病、虚血性心疾患、脳内出血、脳梗塞のいずれも、男性で入院患者が多い
主に大企業の会社員とその家族が加入する健康保険組合(健保組合)の連合組織である健康保険組合連合会(健保連)では、加入者のレセプトなどをさまざまな角度から分析して各種提言を行うなど、従前よりデータヘルスに積極的に取り組んでいます。
「医療費が膨張し、健保組合をはじめとする医療保険者の財政、さらに我が国の財政を圧迫している」状況下では、「医療費の水準を国民が賄える水準に抑えていく」ことが極めて重要です(医療費適正化)。その一環として「加入者が自分自身で生活習慣や医療機関受診行動を変容させる」、つまり疾病予防・生活習慣の改善を促すことがあげられ、医療保険者(健保組合等)が加入者の行動変容に向けて「データに基づいた支援」を行っているのです。
今般、健保連は、1380組合におけるレセプトを対象に、2022年度の生活習慣関連疾患の医療費を分析しました。対象疾患は、医科入院外では▼糖尿病▼脳血管障害▼虚血性心疾患▼高血圧症▼高尿酸血症▼高脂血症▼肝機能障害▼人工透析―の8疾患、医科入院では▼糖尿病▼虚血性心疾患▼脳内出血▼脳梗塞—の4疾患です。
まず「医科入院」における生活習慣関連疾患(糖尿病、虚血性心疾患、脳内出血、脳梗塞)の状況を見てみましょう。
2023年度における4疾患の医療費・1人当たり医療費(医療費÷加入者数)を見ると次のようになっています。
(1)糖尿病
▽医療費:63億6734万円(男性40億2089万円(63.1%)、女性23億4645万円(36.9%))
▽1人当たり医療費:男性282円、女性182円
(2)虚血性心疾患
▽医療費:240億9158万円(男性211億219万円(87.6%)、女性29億8938万円(12.4%))
▽1人当たり医療費:男性1480円、女性232円
(3)脳内出血
▽医療費:192億1551万円(男性122億1998万円(63.6%)、女性69億9553万円(36.4%))
▽1人当たり医療費:男性857円、女性544円
(4)脳梗塞
▽医療費:221億5194万円(男性147億2745万円(66.5%)、女性74億2450万円(33.5%))
▽1人当たり医療費:男性1033円、女性577円
「医療費を適正化する(縮減する)」という視点に立って分析を行う際には、▼「患者を減らす」(例えば、生活習慣を改善して病気にかからないようにしたり、不要な医療機関受診を控えるなど)ことを目指すのか▼「1人当たり医療費を少なくする」(例えば、検診等によって病気を早期発見し、早期治療に結びつけたり、不要な検査や医薬品投与を是正したりするなど)ことを目指すのか—と分けて考えることが有用です。
そこで、各疾患における1人当たり医療費を▼受診率(加入者1000人のうち何人が当該疾患で医療機関を受診(ここでは入院)しているのか)▼1件当たり日数(入院期間は何日程度なのか)▼1日当たり医療費(言わば単価はどの程度なのか)—に分けてみると、次のような状況が明らかになりました。
(1)糖尿病
▽受診率:男性0.765、女性0.483
▽1件当たり日数:男性9.13日、女性9.33日
▽1日当たり医療費:男性4万389円、女性4万484円
→「1件当たり日数」が比較的長い
(2)虚血性心疾患
▽受診率:男性1.796、女性0.357
▽1件当たり日数:男性4.96日、女性5.22日
▽1日当たり医療費:男性16万5947円、女性12万4714円
→「1日当たり医療費」が最も高く、男性で受診率が最も高い
(3)脳内出血
▽受診率:男性0.927、女性0.613
▽1件当たり日数:男性20.43日、女性20.78日
▽1日当たり医療費:男性4万5233円、女性4万2651円
→「1件当たり日数」が最も長い
(4)脳梗塞
▽受診率:男性1.365、女性0.799
▽1件当たり日数:男性15.67日、女性16.04日
▽1日当たり医療費:男性4万8268円、女性4万4995円
→「受診率」が高く(女性では最も高い)、「1人当たり日数」も比較的長い
これらを比較すると、(1)の糖尿病と(3)の脳内出血、(4)の脳梗塞については「入院日数の短縮化」、(2)の虚血性心疾患では、例えば後発医薬品の使用等による単価の抑制が医療費適正化に向けて重要になると考えられます。
ところで「加入者1人当たり医療費」は、医療費÷加入者で計算する際の分母に「受診していない者」(健康な人など)も含めてしまっています。そこで、「実際に当該疾病で医療機関に入院した人」にどれほどの医療費がかかっているのかを表す「推計 1 入院当たり医療費」(入院患者1人にかかる、入院してから退院するまでの医療費の推計値)を見ると次のようになっています。
(1)糖尿病
▽男性:50万9039円
▽女性:52万6340円
↓
これを「推計平均在院日数」と「1日当たり医療費(単価)」に分解すると次のようになる
▽男性
・推計平均在院日数:12.60日
・1日当たり医療費(単価):4万389円
▽女性
・推計平均在院日数:13.00日
・1日当たり医療費(単価):4万484円
↓
▼ここから、女性では在院日数と単価の双方が男性よりやや大きく、結果、1入院あたり医療費が大きくなることが分かる
(2)虚血性心疾患
▽男性:95万719円
▽女性:75万9680円
↓
これを「推計平均在院日数」と「1日当たり医療費(単価)」に分解すると次のようになる
▽男性
・推計平均在院日数:5.73日
・1日当たり医療費(単価):16万5947円
▽女性
・推計平均在院日数:6.09日
・1日当たり医療費(単価):12万4714円
↓
▼ここから、男性では在院日数は女性より短いものの、単価が大きく、結果、1入院あたり医療費が大きくなることが分かる
(3)脳内出血
▽男性:270万7175円
▽女性:268万9865円
↓
これを「推計平均在院日数」と「1日当たり医療費(単価)」に分解すると次のようになる
▽男性
・推計平均在院日数:59.85日
・1日当たり医療費(単価):4万5233円
▽女性
・推計平均在院日数:63.07日
・1日当たり医療費(単価):4万2651円
↓
▼ここから、女性では在院日数がやや高いものの、男性では単価がやや高く、結果、1入院あたり医療費は男女で大きな差がないことが分かる
(4)脳梗塞
▽男性:150万4559円
▽女性:147万2388円
↓
これを「推計平均在院日数」と「1日当たり医療費(単価)」に分解すると次のようになる
▽男性
・推計平均在院日数:31.17日
・1日当たり医療費(単価):4万8268円
▽女性
・推計平均在院日数:32.72日
・1日当たり医療費(単価):4万4995円
↓
▼ここから、女性では在院日数がやや高いものの、男性では単価がやや高く、結果、1入院あたり医療費は男女で大きな差がないことが分かる
さらに、入院治療を行った患者の医療費を、▼加入者1000人当たり推計新規入院件数▼推計平均在院日数▼推計1入院当たり医療費—に分解してみると、次のような状況が分かりました。
(1)糖尿病
▽男性
・加入者1000人当たり推計新規入院件数:0.55
・推計平均在院日数:12.60日
・推計1入院当たり医療費:50万9039円
▽女性
・加入者1000人当たり推計新規入院件数:0.35
・推計平均在院日数:13.00日
・推計1入院当たり医療費:52万6340円
(2)虚血性心疾患
▽男性
・加入者1000人当たり推計新規入院件数:1.55
・推計平均在院日数:5.73日
・推計1入院当たり医療費:95万719円
▽女性
・加入者1000人当たり推計新規入院件数:0.31
・推計平均在院日数:6.09日
・推計1入院当たり医療費:75万9680円
(3)脳内出血
▽男性
・加入者1000人当たり推計新規入院件数:0.32
・推計平均在院日数:59.85日
・推計1入院当たり医療費:270万7175円
▽女性
・加入者1000人当たり推計新規入院件数:0.20
・推計平均在院日数:63.07日
・推計1入院当たり医療費:268万9865円
(4)脳梗塞
▽男性
・加入者1000人当たり推計新規入院件数:0.69
・推計平均在院日数:31.17日
・推計1入院当たり医療費:150万4559円
▽女性
・加入者1000人当たり推計新規入院件数:0.39
・推計平均在院日数:32.72日
・推計1入院当たり医療費:147万2388円
これらを総合すると、(1)糖尿病(2)虚血性心疾患(3)脳内出血(4)脳梗塞—のいずれでも、男性で「受診率や新規入院患者が多い」ことが医療費の高さの背景にあります。とりわけ(2)の虚血性心疾患では、受診率・新規入院患者のどちらも、男性は女性の「5倍」となっています。入院加療が必要とならないように「外来で病状をコントロールする」「そもそも罹患しないように生活習慣等を改善する」ことが極めて重要と言えます。
糖尿病・高血圧症・高脂血症では受診率が高く、人工透析では単価が高いなどの特徴
次に、医科入院外における生活習慣関連疾患(糖尿病、脳血管障害、虚血性心疾患、高血圧症、高尿酸血症、高脂血症、肝機能障害、人工透析)の状況を見てみましょう。
2023年度における8疾患の医療費・1人当たり医療費(医療費÷加入者数)を見ると次のようになっています。
(1)糖尿病
▽医療費:1557億7361万円(男性1061億5322万円 (68.1%)、女性496億2039万円(31.9%))
▽1人当たり医療費:男性7444円、女性3855円
(2)脳血管障害
▽医療費:73億3328万円(男性40億7624万円(55.6%)、女性32億5705万円(44.4%))
▽1人当たり医療費:男性286円、女性253円
(3)虚血性心疾患
▽医療費:100億9853万円(男性67億4929万円(66.8%)、女性33億4924万円(33.2%))
▽1人当たり医療費:男性473円、女性260円
(4)高血圧症
▽医療費:917億3735万円(男性600億3729万円(65.4%)、女性317億6万円(34.6%))
▽1人当たり医療費:男性4210円、女性2463円
(5)高尿酸血症
▽医療費:87億2771万円(男性81億5455万円(93.4%)、女性5億7316万円(6.6%))
▽1人当たり医療費:男性572円、女性45円
(6)高脂血症
▽医療費:717億22万円(男性427億4259万円(59.6%)、女性289億5764万円(40.4%))
▽1人当たり医療費:男性2997円、女性2250円
(7)肝機能障害
▽医療費:24億6558万円(男性16億716万円 (65.2%)、女性8億5842万円(34.8%))
▽1人当たり医療費:男性113円、女性67円
(8)人工透析
▽医療費:654億4159万円(男性466億9710万円(71.4%)、女性187億4448万円(28.6%))
▽1人当たり医療費:男性3275円、女性1456円
各疾患における1人当たり医療費を▼受診率(加入者1000人のうち何人が当該疾患で医療機関を受診(ここでは入院)しているのか)▼1件当たり日数(入院期間は何日程度なのか)▼1日当たり医療費(言わば単価はどの程度なのか)—に分けてみると、次のような状況が明らかになりました。
(1)糖尿病
▽受診率:男性632.52、女性428.19
▽1件当たり日数:男性1.23日、女性1.34日
▽1日当たり医療費:男性9596円、女性6744円
→「受診率」が高く、「1日当たり医療費」(とくに男性)も相当程度高い
(2)脳血管障害
▽受診率:男性37.23、女性27.39
▽1件当たり日数:男性1.40日、女性1.43日
▽1日当たり医療費:男性5471円、女性6482円
→「受診率」は低いが、「1日当たり医療費」は相当程度高い
(3)虚血性心疾患
▽受診率:男性112.61、女性67.28
▽1件当たり日数:男性1.51日、女性1.54日
▽1日当たり医療費:男性2787円、女性2508円
→「1日当たり医療費」が小さい
(4)高血圧症
▽受診率:男性872.13、女性554.08
▽1件当たり日数:男性1.15日、女性1.21日
▽1日当たり医療費:男性4180円、女性3659円
→「受診率」が非常に高い
(5)高尿酸血症
▽受診率:男性309.91、女性39.23
▽1件当たり日数:男性1.29日、女性1.67日
▽1日当たり医療費:男性1427円、女性681円
→男性で「受診率」が高いが、「1日当たり医療費」は小さい
(6)高脂血症
▽受診率:男性811.40、女性627.40
▽1件当たり日数:男性1.23日、女性1.27日
▽1日当たり医療費:男性3006円、女性2816円
→「受診率」が非常に高い
(7)肝機能障害
▽受診率:男性154.42、女性85.10
▽1件当たり日数:男性1.19日、女性1.26日
▽1日当たり医療費:男性612円、女性621円
→「1日当たり医療費」が非常に小さい
(8)人工透析
▽受診率:男性8.69、女性4.05
▽1件当たり日数:男性12.49日、女性12.56日
▽1日当たり医療費:男性3万165円、女性2万8643円
→「1日当たり医療費」が非常に高く、「1件当たり日数」も非常に長い
これらを比較すると、(1)の糖尿病、(4)の高血圧症、(6)の高血圧症では「受診率を小さくする、つまり生活習慣の改善により発症を予防する」ことが極めて重要であることが分かります。さらに(8)の人工透析では「1日当たり医療費」を小さく抑える(後発品使用等)ことが医療費適正化に向けて非常に重要と考えられます。
なお人工透析については、例えば診療報酬改定の折に「適正化」(例えば合併症治療薬の後続品登場を踏まえた点数の引き下げなど)が行われていますが、その効果も中長期データを眺めながら分析する必要がありそうです。
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