疾患により「有効な医療費適正化策」が異なる、糖尿病等の外来医療費縮減では生活習慣改善+後発品使用等による単価圧縮が有用—健保連
2024.9.11.(水)
2021年度における生活習慣病の医療費を分析すると、医科入院・入院外ともに「疾患それぞれの特性」を踏まえた医療費適正化対策(使用医薬品の後発品への置き換えを進める、疾患の発症予防に向けた生活習慣改善を図る、両者をセットで進める、など)が重要であることを確認できる—。
例えば、脳血管障害の入院医療費圧縮には「入院期間短縮」や「単価減」を進める必要が、糖尿病の外来医療費圧縮には「生活習慣改善などの予防+後発品使用等による単価減」を進める必要がある—。
健康保険組合連合会が9月5日に公表した2022年度の「生活習慣関連疾患の動向に関する調査」から、こういった状況が明らかになりました(健保連のサイトはこちら)。
脳血管障害の入院医療費圧縮には、入院期間短縮や単価減を進める必要がある
主に大企業の会社員とその家族が加入する健康保険組合(健保組合)の連合組織である健康保険組合連合会(健保連)では、加入者のレセプトなどをさまざまな角度から分析して各種提言を行うなど、かねてからデータヘルスに積極的に取り組んでいます。
「医療費が膨張し、健保組合をはじめとする医療保険者の財政、さらに我が国の財政を圧迫している」状況下では、「医療費の水準を国民が賄える水準に抑えていく」ことが極めて重要です(医療費適正化)。その一環として「加入者が自分自身で生活習慣や医療機関受診行動を変容させる」ことも極めて重要であり、保険者(健保組合等)が加入者の行動変容に向けて「データに基づいた支援」を行っているのです。
今般、健保連は、1310組合におけるレセプトを対象に、2022年度の生活習慣病(▼糖尿病▼脳血管障害▼虚血性心疾患▼動脈閉塞▼高血圧症▼高尿酸血症▼高脂血症▼肝機能障害▼高血圧性腎臓障害▼人工透析―の10疾患)医療費などについて分析を行いました。
2022年度における健保組合加入者の医療費は4兆6745億円強。このうち医科入院医療費は約8904億円弱で、うち生活習慣病10疾患分は約514億円弱・5.8%を占めています。
この「医科入院における生活習慣病10疾患医療費」(約514億円)を100として、疾患別の構成を見ると(1)脳血管障害:39.7%(前年度から0.1ポイント減)(2)虚血性心疾患:27.6%(同0.3ポイント増)(3)糖尿病:12.1%(同0.1ポイント増)(4)人工透析:8.6%(同0.8ポイント減)(5)高血圧症:8.6%(同0.3ポイント増)—などが多くなっています。
ところで「医療費を適正化する(縮減する)」という視点に立って分析を行う際には、▼「患者を減らす」(例えば、生活習慣を改善して病気にかからないようにしたり、不要な医療機関受診を控えるなど)ことを目指すのか▼「1人当たり医療費を少なくする」(例えば、検診等によって病気を早期発見し、早期治療に結びつけたり、不要な検査や医薬品投与を是正したりするなど)ことを目指すのか—と分けて考えることが有用です。
本稿では、後者の「1人当たり医療費」を詳しく見ていきます。
医療費統計において「1人当たり医療費」は、「医療費÷加入者数」(加入者1人当たり医療費)で計算することが多く、トップ5は(1)脳血管障害:747円(前年度から19円減)(2)虚血性心疾患:539円(同12円増)(3)糖尿病:221円(同11円減)(4)人工透析:169円(同13円減)(5)高血圧症:162円(同1円減)—となりました。5疾患の顔ぶれは前年度から変わっていません。
次に、これら「加入者1人当たり医療費」を、▼受診率(1000人当たり件数)▼1件当たり日数▼1日当たり医療費—の3要素に分解してみましょう。1人当たり医療費の高さが何に起因するのか(医療機関を受診する回数が多いからなのか(受診率)、治療期間が長いからなのか(1件当たり日数)、1日当たりの医療資源投入量が多いからなのか(1日当たり医療費))を探り、対策を立てやすくするためです。
2022年度における「加入者1人当たり入院医療費」の高い疾患では、次のような背景が分かりました。順位等に若干の変動はあるものの、概ね前年度と同様の傾向です。
(1)脳血管障害:「1件当たり日数」が2番目に長く(17.6日、前年度から0.2日減)、「1日当たり医療費」が3番目に高い(2万6464円、前年度から64円減)
(2)虚血性心疾患:「1日当たり医療費」が最も高い(3万3412円、同1941円増)
(3)糖尿病:「受診率」が2番目に高い(5.3、同変化なし)
(4)人工透析:「1日当たり医療費」が2番目に高い(3万3328円、同43円増)
(5)高血圧症:「受診率」が最も高い(6.5、同0.1増)
ここから、医療費適正化のために▼脳血管障害・虚血性心疾患・人工透析については「1日当たり医療費」の縮減ができないか(例えば使用医薬品を後発品への置き換えるなど)▼糖尿病・高血圧症では「受診率」を低減できないか(端的に「患者を減らすための予防策」充実など)—が、最優先の検討課題であることを再確認できます。
ところで「加入者1人当たり医療費」は、医療費÷加入者で計算する際の分母に「受診していない者」(健康な人など)も含めてしまっています。そこで、「実際に当該疾病で医療機関に入院した人」にどれほどの医療費がかかっているのかを表す「受診者1人当たり医療費」を見ると、トップ5は次のようになっています(上位3疾患でとりわけ高い)。
(1)脳⾎管障害:582万548円(前年度から6万903円・1.0%減)
(2)人工透析:581万6672円(同15万5824円・2.6%減)
(3)虚⾎性⼼疾患:390万9725(同22万801円・6.0%減)
(4)動脈閉塞:157万3285円(同48万6339円・44.7%増)
(5)高血圧性腎臓障害:91万3638円(同27万2371円・42.5%増)
糖尿病外来医療費圧縮には、「生活習慣改善等予防」+「後発品使用等による単価減」を
次に、医科入院外の状況を見てみましょう。医科入院外医療費は約3兆350億円強で、うち生活習慣病10疾患分は約4082億円強・13.5%(前年度から1.3ポイント減)を占めています。
この「医科入院外における生活習慣病10疾患医療費」(約4082億円)を100として、疾患別の構成を見ると、(1)糖尿病:35.6%(前年度から1.4ポイント増)(2)高血圧症:23.7%(同0.2ポイント減)(3)高脂血症:17.8%(同0.2ポイント減)(4)人工透析:15.6%(同0.2ポイント減)(5)虚血性心疾患:2.2%(同0.5ポイント減)—などが多くなっています。前年度と比べると、▼糖尿病患者の比率がさらに大きく増している▼高尿酸血症と虚血性心疾患とが入れ替わっている—点が気になります。
「加入者1人当たり入院医療費」に目を向けると、トップ5は(1)糖尿病:5393円(前年度から307円増)(2)高血圧症:3546円(同10円減)(3)高脂血症:2643円(同34円減)(4)人工透析:2388円(同44円増)(5)虚血性心疾患:369円(同7円増)—となりました。
これら「加入者1人当たり医療費」を、▼受診率(1000人当たり件数)▼1件当たり日数▼1日当たり医療費—の3要素に分解すると、次のような背景が分かります。
(1)糖尿病:「1日当たり医療費」が2番目に高く(8205円、前年度から124円増)、「受診率」が3番目に高い(517.5、前年度から24.2増)
(2)高血圧症:「受診率」が2番目に高く(706.5、前年度から23.2増)、「1日当たり医療費」が4番目に高い(4262円、前年度から145円減)
(3)高脂血症:「受診率」が最も高い(706.7、前年度から27.8増)
(4)人工透析:「1日当たり医療費」(2万9684円、同400円減)、「1件当たり日数」(12.6日、同増減なし)がいずれも飛びぬけて最も高い
(5)虚血性心疾患:「受診率」が6番目、「1日当たり医療費」が6番目に高い
ここから、高血圧症・高脂血症については「受診率」を下げること、つまり「患者を減らすための予防策」(=生活習慣の改善)をより強力に進めることの重要性を再確認できます。
また人工透析については、後発品の使用等による「単価(=1日当たり医療費)の圧縮」などが極めて重要となります。
さらに糖尿病については、両者の取り組み(生活習慣改善による受診者減、医療費単価の圧縮)を同時に進めていくことが重要であると確認できます。
さらに、実際に当該疾病で医療機関を受診入院した人にどれほどの医療費がかかっているのかを表す「受診者1人当たり医療費」を見ると、トップ5は次のようになっています。
(1) 人工透析:450万4235円(前年度から5万8888円・1.3%減)
(2) 糖尿病:12万9109円(同1391円・1.1%増)
(3)脳⾎管障害:10万158円(同658円・0.7%減)
(4)高血圧症:6万1073円(同2224円・3.5%減)
(5)虚血性心疾患:4万9327(同319円・0.7%増)
人工透析については、例えば診療報酬改定の都度に「適正化」(例えば合併症治療薬の後続品登場を踏まえた点数の引き下げなど)が行われていますが、その効果も中長期データを眺めながら分析する必要がありそうです。
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