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GemMed塾 病院ダッシュボードχ 病床機能報告

医療費助成対象とならない指定難病患者、「登録者証」発行するなどデータ登録を推進―難病等研究・医療ワーキング

2019.12.24.(火)

医療費助成の対象とならない「指定難病に罹患する軽症者」について、臨床調査個人票の作成頻度や内容を簡素化するなどしてデータベースへ登録しやすい環境をさらに整える。あわせて登録者には「指定難病登録者証」(仮称)を発行し、福祉サービスの円滑利用を可能にしたり、重症化した場合には速やかに医療費助成が行われるようにするなど、「登録へのインセンティブ」の仕組みを設ける―。

このような取り組みによって「重症者から軽症者まで悉皆性のある指定難病のデータベース」を構築し、NDB(Naitonal Data Base)などの他の公的データベースとの連結解析を行い、病態解明や治療法開発などにつなげる―。

12月19日に開催された難病・小児慢性特定疾病研究・医療ワーキンググループで、こういった内容の取りまとめが行われました。

12月19日に開催された、「第5回 難病・小児慢性特定疾病研究・医療ワーキンググループ」

「限られた予算の中での資源の重点化」との制度趣旨に鑑み、医療費助成対象は「限定」

難病に対する「医療費助成」や「医療提供体制・研究体制の構築」などの対策は、2015年1月に施行された難病法(難病の患者に対する医療等に関する法律)に基づいて実施されています。難病法附則では「施行後5年以内を目途に、施行状況を勘案して必要があれば見直しに向けた検討を行う」旨が規定されており(小児の難病である「小児慢性特定疾患」対策を規定する改正児童福祉法でも同様の見直し規定がある)、厚生労働省は施行から5年を迎える来年(2020年)1月をゴールに据え、難病等の制度見直しに向けた検討を進めています。

見直し論議として、厚生科学審議会・疾病対策部会「難病対策委員会」と、社会保障審議会・児童部会「小児慢性特定疾患児への支援の在り方に関する専門委員会」との合同会議で論点整理を行い(合同部会の議論に関する記事はこちらこちらこちら)、さらに▼医療費助成の在り方、治療研究の推進、医療提供体制の整備に向けた技術的事項などを検討する「難病・小児慢性特定疾病研究・医療ワーキンググループ」▼療養生活の環境整備、就労支援、福祉支援、小児の自立支援の在り方などに関する技術的事項などを検討する「難病・小児慢性特定疾病地域共生ワーキンググループ」―を設け、今秋(2019年秋)から個別具体的な検討を行ってきました。

前者の「難病・小児慢性特定疾病研究・医療ワーキンググループ」では、(1)医療費助成制度(2)医療提供体制(3)調査・研究―の主に3項目について議論を深め、今般、取りまとめを行いました。

まず(1)の医療費助成制度に関して、現在は▼対象疾患▼重症度―の2つの軸で対象患者を限定しています。限られた予算の中で「より支援の必要性の高い難病患者」に手厚い重点的な支援を行うためです(対象者を広げれば1人当たりの支援が薄くなり、重症患者へ十分な支援を行えなくなってしまう)。

対象疾患については、(i)発症の機構が明らかでない(ii)治療方法が確立していない(iii)希少な疾病である(iv)長期の療養が必要である(v)患者数が我が国で一定数(現在は18万人、人口の0.142%未満)に達していない(vi)客観的な診断基準、またはそれに準ずる基準が確立している—という「6要件」が設けられており、これは制度見直し後も維持されることになります。患者団体サイドからは「指定難病でない難病と闘う患者にも多くの苦労があり、対象疾患をより広く考えてはどうか」との考えも出されましたが、制度の趣旨である「限られた予算の中では、より支援の必要性の高い患者に重点化に支援を行うべき」との考えで意見がまとまりました。

ただし、「医学・医療が進歩し治療法が明らかになってきた疾患」「患者数が増加してきた疾患」について、指定難病から除外すべきかという議論も行われました。制度の趣旨である「限られたた予算の中での重点的な支援」という考え方に鑑みれば、上記「6要件」を満たさなくなった疾患について指定難病から除外する仕組みを設けることが妥当と考えられます。このためワーキングでは、「調査研究および医療技術の進展による治療方法の進歩に伴い、長期の療養を要しなくなるなど、指定難病の要件に合致しない状況が生じていると判断される場合には、医療費助成の趣旨・目的に照らし、対象疾病の見直しについて検討する」方向が明確にされました。もっとも、「見直しを行う際には、一定の経過措置等について検討する」ことになります。



なお、対象疾患に関しては、いわゆる「トランジション」問題も論点となりました。「小児特定慢性疾患として医療費助成の対象となっているが指定難病となっていない」疾患の患児については、「20歳を迎えた段階で医療費助成が打ち切られてしまう」という課題があるのです(小児慢性特定疾患は756疾患、指定難病は333疾患)。

この点、ワーキングでは▼小児慢性特定疾病のうち指定難病の要件を満たすものについて、対象から漏れることのないよう、着実に指定難病に指定していくため、国が「指定難病に指定されていない小児慢性特定疾病」について患者の実態把握や客観的指標に基づく診断基準等確立のための調査研究を強化する▼指定難病の医療費助成の対象とならない場合でも、小児期から成人期にかけてシームレスに適切な医療が受けられる体制づくりなどを進める―方向を示しました。

なお、後者の「シームレスな医療」提供の拠点となる移行期医療支援センターは、今年(2019年)4月時点で、▼埼玉県立小児医療センター▼千葉大学医学部附属病院▼大阪母子医療センター―の3施設とどまっており、さらなる整備が期待されます。

医療費助成の対象となる「重症者」の基準、疾患毎のバラつきを是正

一方、重症度については、専門家で構成される厚生科学審議会・疾病対策部会「指定難病検討委員会」が研究班の研究成果をもとに検討・設定を行いますが、医療費助成の対象疾患が数多くなるにつれ「疾患ごとに重症度の基準にバラつきがあるのではないか」との課題が出ています。

このため、井田博幸構成員(東京慈恵会医科大学小児科学講座教授)の研究では「疾患群ごとに共通の基準を導入できる可能性がある」ことが分かっており、「重症度基準の見直し」が検討されます。ワーキングでは「まずは、同様の症状等を評価する場合には、可能な限り当該症状等を評価する客観的指標の標準化を図ることが適当である」との考えを明確にしており、今後、指定難病検討委員会で基準見直しを詰めていくことになります。

医療費助成の対象とならない患者のデータ集積を進める

ところで、医療費助成対象を限定した場合、「軽症の指定難病患者等のデータ収集が難しくなる」という大きな課題が生じます。医療費助成を申請するためには「臨床調査個人票」(通称、臨個票)を主治医が作成し自治体に申請することが必要ですが、臨個票作成には多くのコスト(時間と手間、患者負担)がかかるため、「この患者は軽症なので、手間をかけて臨個票を作成しても医療費助成は受けられない」と考え、臨個票作成を作成しないケースが少なからずあると指摘されます。

このように軽症患者の臨個票が作成されない場合、当然ながら軽症者のデータが集積されません。これは、難病の病態解明や治療法開発といった研究を大きく阻害してしまいます。このため「いかに軽症患者のデータ収集を進めるか」が重要論点となっているのです。

ワーキングでは、この重要論点についてさまざまな角度(軽症者にも医療費助成を行うべきか、医療費助成以外の支援として何が考えられるか、臨個票作成負担をどのように軽減できるか、など)から検討を行い、次のような方針を固めました。

▽臨個票作成の負担軽減を図る(現在「毎年」の記載を求めているが作成頻度を低くし(例えば数年に一度など)、記載事項も簡素化するなど)

▽データ提供は、現行と同じく「患者の同意」を前提とする仕組みを維持する

▽データ提供を行った患者へ「指定難病登録者証」(仮称)を発行する(指定難病患者として臨床データが国のデータベースに登録されたことを証明するもの)
▼「指定難病登録者証」(仮称)を有する患者については、各種福祉サービスが円滑に利用できるように運用上の工夫を行う
▼例えば、急な重症化がみられた場合に円滑に医療費助成が受けられる仕組みを設ける
▼提供したデータの研究における活用状況や成果を患者側にフィードバックするなど、「患者側がデータ登録の意義を理解しやすい仕組み」を設ける

▽地方自治体の負担軽減を図るため、まず「現行の仕組みのオンライン化」を進めるためのロードマップを国で作成し、早急に具体的な取り組みを進める
▼オンライン化の実現に当たっては、都道府県等による登録センターへのデータ登録のみならず、「指定医が診断時に直接データの登録を行う仕組み」も検討する



現行制度でも「医療費助成の対象とならない患者」のデータ登録の仕組みは設けられており、「より登録しやすい仕組み」へと進化させる内容と言えます。

なお、「医療費助成の対象とならない患者」のデータ登録を阻む要因の1つになっている「文書料」について、患者会代表の伊藤たてお参考人(日本難病・疾病団体協議会理事)は「軽減や国による補助」を強く求めています。しかし、他制度との公平性・整合性を考慮すると「国による補助」は難しく、また国が費用の目安を示すことも許されません(自由価格ゆえ、国や医師会などが目安等を示すことは「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」に抵触する可能性がある)。

難病医療連携拠点病院、各都道府県での設置を進めよ

また(2)の難病医療提供体制については次のような方向が示されました。

▽患者がどこに暮らしていても、疾病の特性に応じて早期の診断がつき、適切な治療が受けられるよう、まず「難病診療連携拠点病院の各都道府県における設置」を目指す(今年(2019年)4月1日時点で【難病診療連携拠点病院】は32都府県・65医療機関、【難病診療分野別拠点病院】は14県・33医療機関にとどまる)

▽遺伝学的検査の分析的妥当性、臨床的妥当性、臨床的有用性を確保しつつ、通常の診療の中で必要な遺伝子検査が適切に行われるよう、引き続き、保険診療の対象となる疾病を検討していく(2020年度診療報酬改定に向けた中央社会保険医療協議会の議論はこちら

▽国において移行期医療の実態や課題の把握を行い、今後の移行期医療支援センターの設置促進のための対応について財政支援のあり方を含めて検討する

難病法に「データベース」規定を整備し、他DBとの連結環境を整える

さらに(3)の調査・研究は、治療法の確立を目指す極めて重要な論点です。ワーキングは次のような方向を示しています。

▽個人情報保護に十分に配慮しつつ、 NDB(National Data Base、医療レセプトと特定健康診査のデータを格納)や他の公的データベース(介護保険総合DB(介護レセプトと要介護認定データを確認)やDPCDB(急性期入院医療(DPC)データを格納)との連結解析データなど治療研究に有用なデータの提供が促進されるよう、指定難病患者DBおよび小児慢性特定疾病児童等DBについて法律上の規定を整備し、▼収集▼利用目的▼第三者提供―のルール等を明確に定める

▽連結解析に当たっては「個人単位化される被保険者番号の履歴」を活用し、個人情報保護の観点から匿名性を担保するため所要の措置を講ずる

さらに、調査研究に当たっては「できる限り多くの指定難病の患者からデータが収集される」ことが極めて重要であり(調査研究の前提とも言える)、上述のような「医療費助成の対象とならない患者」のデータ収集を推進するために、▼患者の理解を求める▼地方自治体の負担を軽減する―ことなども重要な視点として強調されています。



ワーキングでの意見取りまとめは、もう一つのワーキンググループ(難病・小児慢性特定疾病地域共生ワーキンググループ)の意見(12月26日に取りまとめの予定)と合わせて親組織である合同会議に報告されます。厚労省健康局の宮嵜雅則局長は「年明けから合同会議を開き、制度改正内容を詰める」考えを明確にしました。

 
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