早産児ビリルビン脳症やサラセミアなど新規10疾患含む48難病、医療費助成すべきか—指定難病検討委員会
2021.5.11.(火)
「早産児ビリルビン脳症」や「サラセミア」など新規の10疾患含む48の難病について、医療費助成の対象となる「指定難病」の要件を満たすか否かを検討する—。
5月10日に開催された厚生科学審議会・疾病対策部会の「指定難病検討委員会」で、こういった検討が始まりました。指定難病の要件を満たすと判断された疾患については、所定の手続きを経た後、今年度(2021年度)中に医療費助成の対象となる見込みです。
過去に「指定難病の要件を満たさない」と判断された疾病も、新研究結果等踏まえて審議
▽発症の機構が明らかでない▽治療方法が確立していない▽希少な疾病である▽長期の療養が必要である—という要件を満たす「難病」のうち、▼患者数が我が国で一定数(現在は18万人、人口の0.142%未満)に達していない▼客観的な診断基準、またはそれに準ずる基準が確立している—という要件を満たした【指定難病】は、患者の置かれている状況に鑑みて、重症の場合には医療費助成が行われます。
「がん」など他の施策体系が樹立している疾患は指定難病に該当しないこととされていますが、「▼髄膜▼脳▼脊髄▼脳神経▼その他の中枢神経系―に発生した腫瘍は、良性であっても『がん登録』の対象となり(がん登録推進法施行令第1条第2項)、指定難病には該当しない」「それ以外の部位に生じた腫瘍は、良性であれば『がん登録』の対象にならず、指定難病に該当する可能性がある(他の要件を満たすことが必要)」という基準の明確化も随時行われてきています(関連記事はこちら)。
ところで、ある疾病が指定難病の要件を満たすか否かは、研究班や学会の提出した情報をもとに、専門家で構成される指定難病検討委員会で判断されます。これまでに333疾患((2015年1月実施分:110疾患、2015年7月実施分:196疾患、2017年4月実施分:24疾患、2018年4月実施分:1疾患(あわせて5疾患を他の指定難病と統合)、2019年7月実施分:2疾患)が指定難病に該当すると判断され、一定の重症基準を満たす患者については医療費助成が行われています(ただし1疾患に複数病名が含まれているケースもあり、病名ベースでは1000超になると考えられる)。
今般、指定難病検討委員会には、「2021年度実施分」の候補として、次の48疾患が研究班や関係学会から情報提供されました。この中には、「初めて情報提供された疾患」(10疾患)と「過去に情報提供がなされたが、その当時は『指定難病の要件を満たさない』と指定難病検討委員会で判断されたが、新たな研究が進み、再度、情報提供された疾患」(38疾患)とが混在しています。
【神経・筋疾患】(9疾患)
▽MECP2重複症候群:乳児期早期からの筋緊張低下、重度の精神遅滞、発語発達不全、進行性痙性、反復性呼吸器感染、難治性痙攣を特徴とする疾患、2018年度に情報提供
▽自己免疫介在性脳炎・脳症:意識障害や痙攣、高次脳機能障害などが急性・亜急性に出現する病態を呈する脳炎・脳症、2017年度・18年度に情報提供
▽視床下部過誤腫症候群:先天性の奇形病変である視床下部過誤腫により引き起こされる疾患で「笑い発作」という特異なてんかん発作と、思春期早発症が特徴、2016年度に情報提供
▽(初)神経核内封入体病Neuronal intranuclear Inclusion disease(NIID):ユビキチンなどで陽性に染色される核内封入体が、中枢神経系および末梢神経系の神経細胞などに広く認められる神経変性疾患で、「物忘れ」や「四肢筋力低下」などさまざまな症状を呈する
▽(初)早産児ビリルビン脳症:神経毒性に起因する脳障害で、淡蒼球・視床下核・海馬・動眼神経核・蝸牛神経腹側核などに選択的な障害を認められる
▽特発性肥厚性硬膜炎:脳、脊髄硬膜の部分的またはびまん性の肥厚により、硬膜の肥厚部位に応じて頭痛、うっ血乳頭、脳神経麻痺、小脳性運動失調、対麻痺などの神経症状を呈する、2016年度・18年度に情報提供
▽脳クレアチン欠乏症候群:、脳内クレアチン欠乏により、知的障害、言語発達遅滞、てんかんなどを発症する疾患群、2016年度に情報提供
▽(初)反復発作性運動失調症:間欠的な運動失調を呈する希少疾患で、現在8つの病型が知られている
▽ランバート・イートン筋無力症候群:筋力低下と自律神経障害を主徴とする自己免疫疾患、2016年度・18年度に情報提供
【皮膚・結合組織疾患】(6疾患)
▽青色ゴムまり様母斑症候群:全身の静脈性血管奇形と消化管疾患を中心とした内臓疾患の合併を特徴とする、2018年度に情報提供
▽化膿性汗腺炎(hidradenitis suppurativa):炎症性、再発性、消耗性の皮膚毛包性疾患であり、思春期以降に発症する、2017年度・18年度に情報提供
▽限局性強皮症:皮膚とその深部(皮下組織、筋、骨、頭部では脳や眼)に炎症と線維化による硬化性変化を呈する疾患、2017年度・18年度に情報提供
▽掌蹠角化症:主として先天的素因により、手掌と足底の過角化を主な臨床症状とする一連の疾患群、2017年度・18年度に情報提供
▽(初)穿孔性皮膚症(perforating dermatosis):経表皮的に変性した真皮成分が外部に排出される現象を病因の中心・特徴とする疾患群の総称、▼後天性反応性穿孔性膠原線維症▼蛇行性穿孔性弾性線維症▼キルレ病▼穿孔性毛包炎—の4疾患から構成される
▽無汗(低汗)性外胚葉形成不全症:毛髪、歯牙、爪、汗腺の形成不全を特徴とする遺伝性疾患、2017年度・18年度に情報提供
【免疫系疾患】(1疾患)
▽慢性活動性EBウイルス感染症:遷延あるいは再発する伝染性単核症様症状を示し、末梢血および病変組織に高レベルのEpstein-Barrvirus (EBV) が検出される疾患、2017年度・18年度に情報提供
【循環器系疾患】(4疾患)
▽川崎病性巨大冠動脈瘤:乳幼児期発症の川崎病に罹患した結果生じた巨大冠動脈瘤、2018年度に情報提供
▽原発性リンパ浮腫:リンパ管の先天的低形成・無形成や機能不全により、四肢、特に下肢を中心にリンパ浮腫を発症し慢性的に経過する疾患、2015年度に情報提供
▽中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV):。心筋細胞、血管平滑筋細胞、内皮細胞、骨格筋細胞、多型核白血球、腎尿細管上皮細胞、膵島細胞等に中性脂肪 (TG) が蓄積し、心不全、心筋症、不整脈、冠動脈疾患、骨格筋ミオパチー、慢性腎臓病、耐糖能障害などを呈する、2015年度に情報提供
▽不整脈源性右室心筋症:右室優位の心拡大と心 機能低下、右室起源の重症心室性不整脈を特徴とする、2017年度・18年度に情報提供
【血液系疾患】(6疾患)
▽グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠乏症:赤血球酵素異常症の1つで、日本においては最も頻度が高い、2017年度・18年度に情報提供
▽口唇赤血球症(脱水型遺伝性有口赤血球症):赤血球膜陽イオンチャネル遺伝子の活性化変異などにより溶血性貧血を発症する、2017年度・18年度に情報提供
▽(初)サラセミア:グロビン遺伝子(HBA1、HBA2、HBB)またはグロビン遺伝子の発現制御領域における変異により、α鎖・β鎖間に合成量の不均衡が生じて発症する先天性溶血性貧血
▽(初)自己免疫性後天性凝固第X10因子欠乏症:血液凝固に必要なタンパク質である凝固因子が著しく減少し、自然にあるいは軽い打撲などでさえ重い出血を起こす疾病
▽ピルビン酸キナーゼ(PK)欠乏性貧血:先天性溶血性貧血の1つで、グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠乏症に次いで頻度が高い、2017年度・18年度に情報提供
▽不安定ヘモグロビン症:先天性溶血性貧血の1つ、2017年度・18年度に情報提供
【腎・泌尿器系疾患】(4疾患)
▽先天性低形成腎(Congenital hypoplastic kidney):腎実質の発生異常で、腎臓の大きさが小さくネフロン数も少ない、2017年度・18年度に情報提供
▽ネフロン癆:に常染色体劣性遺伝性疾患で、小児期発症の希少疾患、2017年度・18年度に情報提供
▽バーター症候群/ギッテルマン症候群:先天性尿細管機能障害によって生ずる症候群で、低カリウム血症などを引き起こす、2017年度・18年度に情報提供
▽ロウ(Lowe)症候群:先天性白内障、中枢神経症状(精神運動発達遅滞)、Fanconi 症候群(低分子蛋白尿、近位尿細管性アシドーシス、低リン血症など)を3主徴とする伴性劣性遺伝疾患、2016年度・18年度に情報提供
【骨・関節系疾患】(2疾患)
▽2型コラーゲン異常症関連疾患:軟骨基質を形成する2型コラーゲンの異常により、軟骨内骨化が障害され四肢、体幹ともに短縮する疾患、2016年度・18年度に情報提供
▽カムラティ・エンゲルマン症候群(骨幹異形成症Camurati-Engelmann病):頭蓋骨・上腕骨・大腿骨・脛骨・腓骨等の過剰な膜内骨化による骨皮質の肥厚と長管骨骨幹部の紡錘形肥大、近位筋の筋力低下、四肢痛を特徴とする骨系統疾患、2016年度に情報提供
【内分泌系疾患】(1疾患)
▽マッキューン・オルブライト症候群:皮膚カフェオレ斑、線維性骨異形成症、ゴナドトロピン非依存性思春期早発症を3主徴とする疾患群、2017年度・18年度に情報提供
【代謝性疾患】(3疾患)
▽アポリポタンパクA-1欠損症:角膜混濁、皮膚病変、心血管病変などを特徴とする、2015年度に情報提供
▽>家族性低βリポタンパク血症(FHBL)1(ホモ接合体):は家族性に低コレステロール血症を来す疾患、2018年度に情報提供
▽ホモシスチン尿症:先天性アミノ酸代謝異常症の一種であるホモシステインが血中に蓄積することにより発症し、全身性に神経系、骨格系、血管系が障害される疾患、2017年度・18年度に情報提供
【消化器系疾患】(4疾患)
▽肝外門脈閉塞症:肝門部を含めた肝外門脈の閉塞により門脈圧亢進症に至る症候群、2016年度・18年度に情報提供
▽進行性家族性肝内胆汁うっ滞症:乳児期に発症し、常染色体劣性遺伝形式をとる家族性の肝内胆汁うっ滞症で、遷延性黄疸として発症し、成長障害、肝不全へと進行する、2015年度に情報提供
▽先天性胆道拡張症:総胆管を含む肝外胆管が限局性に拡張する先天性の形成異常で、膵・胆管合流異常を合併するもの、2017年度・18年度に情報提供
▽短腸症(短腸症候群):中心静脈栄養に依存する短小腸による腸管吸収機能不全症候群で、高度の栄養障害や脱水が認められる、2017年度・18年度に情報提供
【耳鼻科疾患】(3疾患)
▽痙攣性発声障害:、内喉頭筋の不随意収縮により発話における音声の異常を来す疾患、2018年度に情報提供
▽(初)先天性咽頭狭窄症:上、中咽頭腔が安静時に正常の約半分以下まで狭窄し、かつそれに起因する症状を有する状態
▽ワーデンブルグ症候群:聴覚障害および色素異常症を呈することが知られており、毛髪、肌、虹彩などの全身の色素異常、部分白子症や、先天性神経性難聴、内眼角離解を呈することが特徴、2015年度の情報提供
【先天異常・遺伝子疾患】(5疾患)
▽(初)CASK異常症:頭部MRIで橋小脳低形成を認める重度の知的障害、小頭症、特徴的な顔貌を特徴とする先天異常症候群
▽(初)コーエン症候群:乳幼児期からの筋緊張低下、知的障害、特徴的顔貌、体幹部肥満、網膜ジストロフィーなどの眼異常、間欠的好中球減少症を主要症状とする先天異常症候群
▽ハーラマン・ストライフ症候群:特徴的な顔貌(小顎症・狭い鼻堤)、均衡型低身長、疎な毛髪、小眼球症や先天性白内障等の眼症状を特徴とする疾患、2016年度に情報提供
▽ピット・ホプキンス症候群:重度の知的障害、成長障害、特徴的な顔貌、覚醒時の過呼吸・息詰め呼吸を特徴とする先天異常症候群、2018年度に情報提供
▽(初)ベックウィズ・ヴィーデマン (Beckwith-Wiedemann) 症候群:臍帯ヘルニア、巨舌、巨体を3主徴とする先天異常症候群
指定難病検討委員会では、これら38疾患について、詳細に「指定難病の要件を満たしているか」を審議(3回程度、非公開で審議する予定)。上述した要件の「すべて」を満たすと判断されれば、今年度(2021年度)中に新たな指定難病として告示され、一定の重症者には医療費が助成されることになります。
脊髄性筋萎縮症や重症筋無力症など、既存の指定難病182疾患について診断基準等見直し
また指定難病検討委員会では、既存の指定難病(333疾患)のうち、▼脊髄性筋萎縮症(指定難病の告示番号3)▼重症筋無力症(同11)▼全身性エリテマトーデス(同49)▼発作性夜間ヘモグロビン尿症(同62)▼ウェルナー症候群(同191)▼フェニルケトン尿症(同240)—など182疾患について「診断基準等の見直し」を検討します。
関係学会等から最新の医学的知見に基づく「診断基準等の改訂案」が示されたもので、こちらも今後、3回程度の審議を経て、2021年度中に見直しが行われる見込みです。
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