電子カルテ情報共有サービス、地域医療支援病院・特定機能病院・2次救急病院等に導入の努力義務を課す—社保審・医療部会(2)
2024.11.5.(火)
医療DXをさらに推進していくために「電子カルテ情報共有サービスの運用費用を誰がどのように負担するのか」、「重要な個人情報であり、情報の利活用について患者同意をどのように考えるのか」などを法令に規定する—。
また、電子カルテ情報共有サービスは、すべての医療機関等が参加し、すべての患者の情報が登録されることで真価が発揮される。ただし、医療機関等の負担も考慮し、例えば地域医療支援病院や特定機能病院などについて「電子カルテ情報共有サービス導入の努力義務」を課す―。
10月30日に開催された社会保障審議会・医療部会で、こういった方向が了承されました。さらに議論を深め、医療DX関連推進法案を固めます(オンライン診療の法制化に関する記事はこちら、産科医療補償制度の特別救済事業等に関する記事はこちら)。
電子カルテ情報共有サービスの運用費用は、メリットの享受度合いとセットで考える
Gem Medで繰り返し報じているとおり「医療DX」推進に向けた動きが加速化しています。診療情報(レセプト情報や電子カルテ情報、処方箋情報など)を集積し、患者自身はもちろん、全国の医療機関で共有・閲覧可能とする(医療DX)ことで、例えば「この患者にはAという薬が処方されている。今、Bという薬を処方しようと思ったが、併用に注意点があるので、別のB1という薬に変更しよう」、「この患者にXという検査を行おうと思ったが、すでに先週、別の医療機関でXを包含する検査を行っているようだ。その検査結果を活用しよう」、「私は●●の検査結果が改善していない、かかりつけの医師の指示をもとに生活習慣を改善しよう」といった具合に質の高い効果的・効率的な医療提供が可能になると期待されます。能登半島地震等では、こうした過去の診療情報を活かし「患者にどのような治療が行われ、どのような薬が処方されているのか」を把握し、適切な医療提供が可能となったとの実績もあがっています。
政府は昨年(2023年)6月2日に「医療DXの推進に関する工程表」(標準型電子カルテを2030年には概ねすべて医療機関での導入を目指すなど)を固め、厚労省もこの工程表に則り▼電子カルテ情報共有サービスの実現▼標準型電子カルテの普及▼医療・介護情報の2次利用推進—などの取り組みを進めています(「近未来健康活躍社会戦略」でも推進方針を明確化)。
このうち電子カルテ情報共有サービス等については、すでに「どのような情報を、どのような仕組みで共有するのか」などは固められており、今後、運用に向けた制度的な裏付け(コスト(費用)を誰が負担するのか、同意取得をどう考えるのかなど)を行う必要があります。そこで社会保障審議会の医療保険部会・医療部会で制度論議を始めています(関連記事はこちらとこちら)。
10月30日の医療部会では、厚生労働省医政局の田中彰子参事官(特定医薬品開発支援・医療情報担当)(医政局特定医薬品開発支援・医療情報担当参事官室長併任)から、年明け(2025年)の通常国会に提出する医療DX推進関連法案(医療法、健康保険法などに医療DXを総合的に推進する規定を盛り込む)の大枠が提案されました。
こうした内容について医療部会委員からは異論・反論は出ていません。もっとも、▼費用負担について、標準的な電子カルテが概ねすべての医療機関に普及する2030年頃までは「国」の責任とすべき(松本真人参考人:健康保険組合連合会理事(河本滋史委員:健康保険組合連合会専務理事の代理出席)▼費用負担は「メリット」を考慮して考える必要があるが、現時点では「どのようなメリットがあるか」の【想定】に過ぎない。メリットは標準的な電子カルテが普及して初めて目に見えてくる。その段階で費用負担を検討すべき(井上隆委員:日本経済団体連合会専務理事)▼「診療報酬」の形で患者に電子カルテ情報共有サービスの運用費用の負担をもとめることになれば、「給付と負担」の原則に反し、理解は得られない(佐保昌一委員:日本労働組合総連合会 総合政策推進局長)▼「診療所向けの標準型電子カルテシステム」開発が進んでいると聞くが、「中小病院向けの標準型電子カルテシステム」開発も急ぎ進め、電子カルテ情報共有サービスの稼働に間に合うようにリリースしてほしい(神野正博委員:全日本病院協会副会長)▼電子カルテ情報共有サービスによっても、医療機関の電子カルテ導入コストは下がらないようだ。「現場のコスト減、業務負担減」の視点で医療DXを推進してほしい(加納繁照委員:日本医療法人協会会長)▼医療機関経営は厳しく、電子カルテの改修費捻出も難しい。改修費が国の補助内容に収まるようにベンダーへの指導を行ってほしい(泉並木委員:日本病院会副会長)▼電子カルテ情報共有サービスをはじめとする医療DXのメリットをより分かりやすく国民に周知・広報し、理解を促していくべき(城守国斗委員:日本医師会常任理事)▼医療DX実現には全体でどの程度の費用が掛かり、現時点ではどの程度までをカバーしているのかなどを明確にし、医療現場や国民の理解を促進べき(島崎謙治委員:国際医療福祉大学大学院教授)▼電子カルテ情報の保存期間について「適切な期間」となっているか再度確認してほしい(望月泉委員:全国自治体病院協議会会長)▼将来的に訪問看護の指示書・計画書・報告書を電子的にやり取りできるようにしてほしい(勝又浜子委員:日本看護協会副会長)▼自治体サイドのシステム改修についても国が十分に支援を行ってほしい。またスケジュールについても柔軟に考えてほしい(村椿晃委員:全国市長会、富山県魚津市長)—などの注文がついています。
今後、こうした意見も参考に「具体的な制度設計」を厚労省で練っていくことになります。
また10月30日の医療部会では、次のような報告も行われています。
▽美容医療の安全性確保に向けて、例えば「業界ガイドラインを策定し、遵守を求める」「医療機関から都道府県への定期報告を求める」などの検討が進んでいる(厚労省サイトはこちら)
→医療部会委員からは「医学部卒業後にダイレクトに自由診療の美容医療部門に行く医師も増えており、医師偏在対策の面から何らかの対応を検討すべき」(神野委員、加納委員)、「美容医療でのミスを保険診療の中で後始末している面が少なからずあり、何らかの対応を検討すべき」(山崎學委員:日本精神科病院協会会長、松本参考人、島崎委員)、「美容だけでなく、『がん医療』等でも怪しげな自由診療がはびこっており、対応を検討していくべき」(松原由美委員:早稲田大学人間科学学術院教授)などの声も出ている
▽新たに「非密封放射性医療機器」が開発されており、人体への使用(治験)を可能とするために「医療法」に明確に位置付け、「非密封放射性医薬品のうち診療用放射性同位元素」と同様の規制をかける
(以下のいずれも満たす場合に使用可能とする)
・エックス線装置を使用したカテーテル挿入等を伴った非密封放射性医療機器・医薬品等の投与が必要な患者に対してエックス線診療室において使用する場合
・エックス線診療室において「厚生労働科学研究で作成した適切な防護措置・汚染防止措置」を講じた場合
【関連記事】
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