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小児・AYA世代がん患者等の妊孕性温存療法を費用助成、エビデンス構築目指す―がん対策推進協議会(2)

2021.3.15.(月)

来年度(2021年度)から、43歳未満のがん患者等について、一定の要件を満たした場合には「妊孕性温存療法」(卵子保存など)に係る医療費の一部を助成するとともに、「原疾患の状況」「妊娠・出産の状況」「卵子等保存の状況」などのデータを集積し、エビデンス構築を目指す―。

3月11日に開催された「がん対策推進協議会」(以下、協議会)では、こういった報告も行われました。

また、2023年度からの「第4期がん対策推進基本計画」の中で、小児がん拠点病院やがん診療連携拠点病院の指定要件に「妊孕性温存に関する事項」を加えるべきとの提言も行われています。

小児がん拠点病院等の指定要件に「妊孕性温存」に関する事項を追加すべきとの提言も

医学・医療水準の高度化などにより、がん患者の生存期間が延伸しています。そうした中では「がん患者の妊孕性温存」が非常に重要なテーマとなります。とりわけ小児やAYA世代(定義は明確でないが、概ね15-39歳)のがん患者にとっては、がん治療終了後の「わが子を持ちたい」という思いに応えることが非常に重要です。我が国のがん対策のベースとなる「がん対策推進基本計画」(第3期)でも、国に対して、▼関係学会と協力し、治療に伴う生殖機能等への影響など、世代に応じた問題について医療従事者が患者に対して治療前に正確な情報提供を行い、 必要に応じて適切な生殖医療を専門とする施設に紹介できるための体制を構築する▼がん患者の更なるQOL向上を目指し、医療従事者を対象としたアピ アランス支援研修等の開催や、生殖機能の温存等について的確な時期に治療の選択ができるよう、関係学会等と連携した相談支援・情報提供のあり方を検討する―よう要請しています。

妊孕性温存療法としては、例えば患者の▼胚(受精卵)▼未受精卵子▼卵巣組織▼精子―を採取し、長期的に凍結保存する手法などが開発されていますが、「費用が高額であり、若い世代のがん患者には経済的負担が大きい」(保険外診療となる)、「技術の有効性に関するエビデンスが必ずしも十分に構築されているとは言えない」という課題もあります。

そこで厚生労働省は「小児・AYA世代のがん患者等に対する妊孕性温存療法に関する検討会」(以下、検討会)を設置、来年度(2021年度)から予算事業として「妊孕性温存療法研究促進事業」を展開することを決定しました。

その大枠は、妊孕性温存療法にかかる費用の一部助成を行う(患者の経済的負担軽減)とともに、技術に関するデータを蓄積し、その有効性を検証することで、「若いがん患者等が希望をもって病気と闘い、将来、子どもを持つことの希望を繋ぐ取り組みを全国展開する」ものです。

3月11日の協議会では、検討会座長である吉村泰典参考人(慶應義塾大学名誉教授、福島県立医科大学副学長)から、事業の詳細が紹介されました。

まず、本事業のターゲットとなるのは「がん」や「造血器細胞移植が実施される再生不良性貧血等」「アルキル化製剤が投与される全身性エリテマトーデス等」の43歳未満患者に対する妊孕性温存療法は次の5技術です。
(1)胚(受精卵)凍結
(2)未受精卵子凍結
(3)卵巣組織凍結
(4)精子凍結
(5)精子凍結(精巣内精子採取術)



これらの技術はさまざまな施設(病院、クリニック)で実施されていますが、本事業では次の要件を満たした施設をターゲットに据えています(医療機関の申請に基づいて、都道府県が要件を審査し、指定を行う)。当初は施設を絞って研究を行い、そこで有効性等に関するエビデンスを固め、全国に要件を広めていくイメージと言えます。

▽がん等の治療と生殖医療の連携体制がとれていること。具体的には都道府県で「がん・生殖医療の連携ネットワーク体制」が構築されていること

▽「日本産科婦人科学会の医学的適応による▼未受精卵子▼胚(受精卵)▼卵巣組織―の凍結・保存に関する登録施設」、または「日本泌尿器科学会が指定した施設であり、かつ都道府県が指定した医療機関」であること

▽原疾患の治療実施医療機関(例えばがん手術を実施した病院など)と連携して、患者への▼情報提供▼相談支援▼精神心理的支援―を行うこと

▽原疾患の治療実施医療機関では、医学的適応判断に加えて、自施設あるいは他施設と連携して、患者への▼情報提供▼相談支援▼精神心理的支援―を行うこと



「原疾患の担当医師」(がん治療等の担当医)と「生殖医療の専門医師」(妊孕性温存療法の担当医)とで「どの患者を本事業の対象とするか」などを検討します。患者・家族には十分な説明を行うとともに、同意を得ることが必要です(患者が未成年者の場合には保護者の同意が必要)。



本事業の対象者に選定された場合には、下表のように医療費の一部助成が行われます。所得制限は設けられていません。

妊孕性温存療法の医療費が一部助成される(がん対策推進協議会(2) 210311)



また、技術の有効性等を検証するために、次のデータを定期的(年1回以上)に収集します。
▽事業参加時点の▼原疾患の診断・治療に関する項目▼妊孕性温存療法に関する項目―など
▽フォローアップ時点の▼原疾患の転帰情報▼妊娠・出産に関する項目▼保存検体の保管状況に関する項目―など



これらデータの蓄積を待って、▼妊孕性温存療法ごと・保存期間ごとの妊娠・出産に至る割合(有効性)▼妊孕性温存療法を受けた患者の原疾患治療成績、生殖補助医療の合併症(安全性)―をアウトカム指標として解析を行い、エビデンス構築を目指します。

2021年度の事業規模は11億円で、国が2分の1を補助します。





関連して、鈴木直参考人(日本がん・生殖医療学会理事長)からは、次期(2023年度からの第4期)のがん対策推進基本計画の中に「がん診療連携拠点病院、小児がん拠点病院の指定要件の中に『がん・生殖医療の連携ネットワークの管理運営等の業務』を追加すべき」と提言しました。上述のように、現在の「第3期がん対策推進基本計画」には「妊孕性温存療法に関する記述」が盛り込まれています。協議会において小児・AYA世代のがん患者代表委員から「がん治療の前に妊孕性温存療法を知っていれば、妊孕性を失わずに済んだかもしれない」との発言があり、これに多くの委員が共感したことが、記載の端緒になっていることが厚労省健康局の正林督章局長からも紹介されました。

当時の協議会にも同席していたた鈴木参考人は、「がん・生殖医療の連携ネットワークを活用することで、がん等の主治医と生殖医療専門医との密接な連携が可能となる」と強調し、上記の要件化を強く求めています。



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