4月には新型コロナで外来・入院ともに患者大激減、がん医療へも影響が拡大―GHC分析第2弾
2020.6.19.(金)
4月時点で前年同月に比べて入院患者数は平均15%以上減少しており、▼予定入院における白内障・ポリペク等の減少は非常に高く、減少率はさらに拡大している▼がん患者のような「治療を待てない患者」にも影響が見られる―。
Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)が行った「4月診療分データの分析」(分析第2弾)から、こういった状況が明らかになりました。
GHCでは、新型コロナウイル感染症が病院経営に及ぼしている影響分析の「第1弾」として3月分のデータ分析結果を公表しましたが、今回の「第2弾」からは「さらに新型コロナウイルス感染症の影響が、広範囲の病院に及び、かつ影響の度合いも大きくなっている」ことが確認できます。
今回も前回同様に外来の分析はGHCシニアマネジャーの湯原淳平、入院の分析は同じくマネジャーの冨吉則行が担当し、米国グローバルヘルス財団理事長のアキよしかわが総括しました。「第1弾」ではまだ新型コロナウイルス感染症の影響が限定的であった3月時点で既に、感染症が病院経営に大きな影響を及ぼしていることが明らかになりましたが、今回の第2弾では「4月に入りさらに外来・入院ともに患者数の減少は大きく拡大した」ことがわかりました。GHCでは医療機関特別支援企画として新型コロナの影響分析レポートを無償提供しています。近日中に参加病院へ分析結果をお送りします。参加申し込みがまだの病院もぜひ、ご参加ください。
目次
2020年4月、ほぼ全ての病院で外来症例数が減少、最大でマイナス40%に
今回は分析「第2弾」として、「2019年4月」と「2020年4月」のデータを比較しています。安倍晋三内閣総理大臣が緊急事態宣言を行ったのが4月7日であり、今回の分析「第2弾」(4月分データ)では、医療機関に対する新型コロナウイルス感染症の大きなインパクトが捕捉できました。今回の分析結果からは(1)医療機関側(医療提供側)による患者受け入れの制限(予定手術の延期など)だけではなく、(2)感染を恐れて病院受診を見合わせる患者(需要側)の受療行動の抑制の2つの影響があることが分かります。
まず外来診療への影響を見てみましょう。GHCへデータ提供をいただいている病院について、「今年(2020年)4月の外来症例数が、前年同月(2019年4月)に比べてどのように変化したのか」を見てみてみました。
前回の3月分データでも8割ほどの病院で外来症例数に減少がみられましたが、4月分の調査ではその影響が拡大し、わずか1病院を除き、ほぼ全ての病院で外来の症例数が減少。また、減少率も3月の「最大20%程度」から、4月には「最大40%」へと大きく拡大していることが分かりました(図1)。
4月における外来症例減少率の平均は17.3%で、減少率が10%を越える医療機関が全体の9割近くに、20%を超えるも全体の4割近くに上っています。
また病床規模別(図2)、開設主体別(図3)に見てみても、前年同月比の「外来患者減少」は全ての病床規模、開設主体の病院に、例外なく影響を及ぼしていることが分かります。
2020年4月、入院症例数も激減し、全体ではマイナス15.4%に
「第1弾」の分析では、まだ新型コロナの影響が限定的であった3月でも入院症例数の減少が一定程度見られましたが、今回の「第2弾」の4月分データの分析では、入院症例が激減していることがわかりました(図4)。「第1弾」と同様に、「今年(2020年)4月の入院患者数が、前年同月(2019年4月)に比べてどの程度変化したのか」を見てみると、すべての病床規模で症例数(患者数)が激減していることが分かります。青のグラフが「3月時点の前年同月比較」、赤のグラフが「4月の前年同月比較」を示しています。3月分データでは全体では4.0%の減少にとどまりましたが、4月分データの分析では全体でマイナス15.4%と激減しており、とりわけ200床台の病院では19.1%と大きな減少率を示しています。
次に予定入院と緊急入院に分けて入院症例の増減を見てみましょう(図5)。新型コロナウイルスへの感染防止のために「予定入院・手術の延期」検討が要請されたことに鑑みれば、予定入院症例数が前年比で減少することは容易に想定できますが、緊急入院症例も減っていることが再確認できました。しかも減少率は、予定入院(12.0%減)よりも緊急入院(19.0%)の方が大きいことも改めて確認されました。ここでも200床台の病院で影響が大きいことが見てとれます(予定入院で13.8%減だが、緊急入院で23.8%減)。
緊急入院症例数が減少してる背景については、「第1弾」でも指摘したとおり「患者が新型コロナウイルス感染を恐れ、救急車を呼ぶことへの心理的抵抗が高くなっている」ことがまず考えられますが、後述するように「衛生面の向上(手洗いの励行など)や、外出自粛などによる肺炎や小児におけるウイルス性腸炎などの感染症罹患の減少」、「軽度症例での救急搬送要請の減少(言わば受療行動の適正化)」なども要因となっていると推測されます。
がん患者への影響も生じ、胃がんはマイナス7.3%、乳がんはマイナス3.4%
次に予定入院と緊急入院に関して、「症例数の多い診断群」(DPC上6桁)を見てみましょう(図6)。予定入院で「症例数の減少幅」が大きいのは、前回同様に▼白内障、水晶体の疾患(020110):16.6%減、▼狭心症、慢性虚血性心疾患(050050):26.5%減、▼小腸大腸の良性疾患(060100):19.6%減―で、やはり「白内障手術」「心カテ検査」「ポリペク」について「施術の延期」が検討・実施されていることが伺えます。これらの疾病群に依存度の高い病院にとっては、新型コロナの影響が大きく、経営状況にも大きな影響を与えています。
3月分データに基づく「第1弾」では「『がん』に関する予定入院は、前立腺がんの予定入院以外は大きな影響を受けていない」とご報告しました。ただし、今回の4月分データをみると、「治療を待てない患者」であるはずのがんにおいても、▼胃の悪性腫瘍(060020):7.3%減▼結腸(虫垂を含む)の悪性腫瘍(060035):1.0%減、▼乳房の悪性腫瘍(090010):3.4%減▼膀胱腫瘍(110070):4.8%減―と減少していることが分かりました。
また定期的な治療が必要な慢性腎不全症例も9.1%減少しています。
治療をある程度、延期することが可能な「白内障手術」「心カテ検査」「ポリペク」だけではなく、がんや慢性腎不全においても予定入院の減少がみられる点が気になります。この点、「2019年には4月末から5月初めにかけて『10連休』という特殊要素(4月に予定入院を繰り上げて手術を実行した可能性)があり、2018・19・20年の3か年でみると、『2018年と2020年』との比較では『2019年と2020年』ほどの減少はない」ことが分かりますが、「化学療法(ケモセラピー)や検査入院、一部の内科的な手術」については、やはり症例数の減少が見られることから、さらに慎重な検証と対策が求められると考えられます(各医療機関におけるより詳細な分析報告は、無償分析にご登録いただいた医療機関にお届けします)。
また緊急入院では、3月分データと同様に、肺炎(040080)の症例数が大幅に減っていることが分かります。3月分データでは15%減でしたが、今回の4月分データでは37.5%減に減少幅が拡大しています。
さらに▼ウイルス性腸炎(060380):73.0%減▼急性気管支炎、急性細気管支炎、下起動感染症(その他)(040090):78.0%減―と前年同月比で70%以上激減している傷病もあります。気管支炎の減少などは、緊急事態宣言で保育園や幼稚園、学校が閉鎖され、子供たちの罹患(友人等からの感染)が減少したことも一因かと思われます。
また3月分データでは、「がん」と同様に、基礎疾患が大きく関与する「脳梗塞や心不全」の症例数にはあまり変動が見られませんでしたが、今回の4月分データでは脳梗塞(010060)では14.1%減、心不全(050130)でも13.5%減の減少が見られます。この点、「新型コロナウイルス感染症が、地域の救急搬送・医療提供体制にダメージを与えていないか」を検証する必要もあるでしょう。
なお、医療機関受診の必要性が低い患者が、新型コロナウイルス感染症を契機に「受療行動を適正化している部分もあるのではないか」と見る識者もおられます。
今回は、4月分データの分析結果をご報告しましたが、4月には「外来・入院ともに大きな影響がでている」ことが確認されました。前回の3月分データ分析と同様に入院症例数が大きく落ち込んでいる医療機関に共通しているのは、予定入院における白内障やポリペクの割合が非常に高いことです。ただし、今回の調査ではがん患者のような「治療を待てない患者」に対しても影響が及んでいることが示されました。
症例数(患者数)減少の背景には、このようにさまざまな要素があると考えられ、詳細な分析と、それに基づく対策の立案が必要でしょう。
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