新型コロナの重症度分類を整理、肺水腫のある重度者(H型)ではECMO使用等を―厚労省
2020.5.20.(水)
厚生労働省は5月18日に事務連絡「『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第2版』の周知について」を示しました。最新の知見を踏まえたもので、医療従事者間で広く活用されることが期待されます(厚労省のサイトはこちら(手引き第2版)とこちら(改訂のポイント))。
改訂部分も含めて手引き全体を眺めてみましょう。
目次
新型コロナ患者の「重症化」を鑑別するマーカーを整理、血栓症の発症に留意を
まず新型コロナウイルス感染症の臨床像に関しては、多くの症例で▼発熱▼呼吸器症状(咳嗽、咽頭痛、鼻汁、鼻閉など)▼倦怠感―などが見られ、また「嗅覚障害・味覚障害を訴える患者も多い」ことが従前から知られています。
これまでのデータでは、80%程度が「軽症のまま治癒」しますが、20%は「肺炎症状が増悪」し、うち5%程度は「集中治療が必要となる」、さらに2-3%では「致命的な状態に陥る」(高齢者で致死率が高い)ことも明らかになっています。
このため第2版では「重症化マーカー」の主要項目を記載。具体的には▼Dダイマー(血栓の発症を診断する指標)の上昇▼CRP(炎症の指標)の上昇▼LDH(臓器損傷の指標)の上昇▼フェリチン(貧血の指標)の上昇▼リンパ球の低下(免疫の不全)▼クレアチニンの上昇(腎機能の低下)―が有用と考えられます。
あわせて新型コロナウイルス感染症の合併症として、▼血栓症▼川崎病様の症状(高熱、両側の眼球結膜充血、真っ赤な唇とブツブツの舌、体の発赤疹、手足の腫れ、首のリンパ節の腫れ)―が見られることも紹介。血栓症については若年患者・軽症患者でも生じる可能性があり、留意が必要です。
なお、手引きでは、従前より「無症状であっても胸部CTに異常所見を認めることがある」など、胸部CTの有用性を指摘しています(すりガラス陰影などに留意)(関連記事はこちら)。
新型コロナの診断、PCR検査に加え、新たな抗原検査も保険適用
診断にあたっては、従前からの PCR検査に加えて、新たに抗原検査が保険適用されています。
ただし抗原検査について感度に問題もあるため、▼抗原検査で陽性となった場合には新型コロナウイルス感染症の確定診断とする▼抗原検査で陰性となった場合には、医師がPCR検査の実施の是非を判断する(少なくとも5月中は陰性症例すべてでPCR検査を実施)―ことになります(関連記事はこちら)。
また「抗体検査」については、現在は確定診断のための検査には指定されていません。
重症患者を「比較的軽度のL型」と「重度のH型」に分類、H型ではECMO使用を
第2版では、新たに次のような「重症度分類」が作成され、重症度に応じた診療を実施するよう医療現場に要請しています。
【軽症】
▼酸素飽和度(SpO2)96%以上、呼吸器症状なし・咳のみで息切れのない状態
→多くは自然軽快するが、急激に病状が進行することもあり、リスク因子(高齢や基礎疾患ありなど)のある患者では「入院」とする
【中等症I】(呼吸不全なし)
▼酸素飽和度(SpO2)93%超96%未満、息切れがあり、肺炎所見が見られる状態
→入院の上で慎重な観察を行い、発熱や呼吸器症状への対症療法を実施する
→「低酸素血症でも呼吸困難を訴えない」ケースのあることに留意する
→一般検査・尿検査、生化学検査、血清検査、凝固関連、血液培養などを必要に応じて行う(上述した重症化マーカーにも留意)
→細菌感染併発が疑われる場合には、喀痰検査ののち抗菌薬投与を開始する
→抗ウイルス薬の投与を考慮する
【中等症II】(呼吸不全あり)
▼酸素飽和度(SpO2)93%以下である
→酸素マスクや経鼻カニューレによる酸素投与を行う
→呼吸不全の原因を推定し、ネーザルハイフロー(鼻から高流量・高精度の酸素を投与する呼吸療法)やCPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)などは避け、エアロゾルの発生を抑制する
→「高度医療を行える施設への転院」を検討することも必要である
→急速に増悪(肺浸潤影の急速進行など)する場合には、ステロイドやトシリズマブ(販売名「アクテムラ」、関節リウマチ等への効能効果が認められており、新型コロナウイルス感染症では「適応外使用」となる)の投与を検討する
→酸素マスク使用等でもSpO2が93%を維持できなくなった場合、挿管を考慮する(通常よりも早めの挿管、人工呼吸管理が望まれる)
→細菌性肺炎、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)、敗血症、心筋障害、不整脈、急性腎障害、血栓塞栓症、胃炎・胃十二指腸潰瘍の併発に留意する
【重症】
▼ICUへの入室や人工呼吸器が必要な状態
▼比較的軽症のL型(肺水腫が生じていないなど)と重度のH型(肺水腫があるなど)に分類される
→比較的軽症のL型では、1回換気量制限は必須でなく、換気量を抑える(多すぎる場合には肺障害が生じる)ために鎮静剤や筋弛緩剤の使用を検討する
→重度のH型では、一般に治療抵抗性であり「ECMO(体外式膜型人工肺)による管理」を行う
→L型からH型への移行の判定は難しく、適切な対応には「集中治療の専門知識と監視体制」が必要不可欠となる
このように重症者への対応には専門的な治療が必須となるため、第2版では▼気管挿管手技の幅広い経験を持つスタッフを治療チームに含める▼重症患者への人工呼吸においてはL型・H型のそれぞれに応じた戦略をとる▼ECMOにより管理の実施▼血液浄化療法の考慮▼血栓症対策(Dダイマーが正常上限を超える場合には、ヘパリンなどの抗凝固療法を実施する)―などを十分に考慮するよう求めています。
レムデシビルを特例承認したほか、薬物療法の研究が進む
また薬物療法に関しては、「レムデシビル製剤」(販売名:ベクルリー点滴静注液100mg、同点滴静注用100mg)が特例で薬事承認されたことを紹介(メーカーから無償提供され、保険診療の中で評価療養として使用可能)(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
あわせて、本邦で治験・特定臨床研究が実施されている医薬品として、▼ファビピラビル(アビガン錠、新型インフルエンザ治療薬)▼シクレソニド(オルベスコ、気管支喘息治療薬)▼ナファモスタットメシル酸塩(ナファモスタット、急性膵炎やDIC等の治療薬)▼トシリズマブ(アクテムラ、関節リウマチ等治療薬)▼サリルマブ(ケブザラ、関節リウマチ治療薬)―があることを紹介しています。
このほか諸外国においては、▼ロピナビル・リトナビル配合剤(カレトラ、HIV感染症治療薬)▼ヒドロキシクロロキン(プラケニル、エリテマトーデス治療薬)▼イベルメクチン(スクロメクトール、腸管糞線虫症や疥癬の治療薬)▼ステロイドホルモン▼アジスロマイシン(ジスロマック等、抗菌剤)▼カモスタット(フオイパン等、慢性膵炎等治療薬)▼ネルフィナビルメシル酸塩(HIV感染症治療薬)―などの新型コロナウイルス感染症への効果等について研究が進められています。
院内感染防止策の徹底を、例外的にN95マスク等の滅菌再利用も認める
さらに第2版では、院内感染防止策のさらなる強化の必要性も指摘しており、▼個人防護具の確保と適切な使用▼換気▼環境整備(備品等のアルコール消毒等)▼廃棄物の管理▼患者寝具類の洗濯・消毒▼食器の取り扱い(他の患者と分ける必要はなく、洗浄・消毒・乾燥を徹底する)▼死後のケア▼職員の健康管理―の徹底を改めて求めるとともに、「N95マスクの例外的取り扱い」(滅菌による再利用)、「ゴーグル等の個人防護具の例外的取り扱い」(効率的使用)―などについて詳説しています(関連記事はこちら)。
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