新型コロナで病院経営は逼迫、基本診療料の充実や概算請求等で下支えを―日病協
2020.6.5.(金)
新型コロナウイルス感染症患者を受け入れる病院では、人員配置の充実、病床整備、感染リスク対策などが必要となり、大きなコスト増となっているが、それ以外の病院でも感染拡大防止などに尽力している―。
その一方で、新型コロナウイルス感染症の影響により、病院では入院・外来ともに収益が大きく減少しており、このままでは経営が立ち行かなくなる。診療報酬上の手当てをさらに充実してほしい―。
日本病院会や全日本病院協会など15の病院団体で構成される日本病院団体協議会は6月3日に、厚生労働省保険局の濵谷浩樹局長に宛てて、こうした内容の要望書(新型コロナウイルス感染症への対応に係る診療報酬に関する要望書)を提出しました(日病のサイトはこちら)。
新型コロナで、コスト増・収益源が生じ、病院経営は危機的状況
新型コロナウイルス感染症にかかる緊急事態宣言は全都道府県で解除されていますが、一部地域でクラスター(集団感染)が発生し、東京都では患者数が再び増加傾向を示すなど、第2波・第3波への備え(感染拡大防止、医療提供体制確保など)が非常に重要となります。
医療提供体制に関しては、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の提言を踏まえて、感染患者が急増する可能性も考慮し▼各地域において新型コロナウイルス感染患者を受け入れるベッドを維持・確保する▼うち一部は「患者発生の場合、即時に受け入れられる」状況、つまり空床とする▼その他については、都道府県から新型コロナウイルス感染患者受け入れ要請があるまでは、これまで延期を要請してきた予定入院・予定手術を含めた一般の診療を行うことを可能とする―などの方針が明確化されました。
また、こうした医療提供体制を経済的に支えるために、診療報酬上の柔軟措置・特例も行われてきており、例えば、新型コロナウイルス感染症患者等を受け入れた医療機関の負担を考慮し、これまでに次のような点数算定が可能となっています。
(1)外来、在宅医療で、新型コロナウイルス感染症患者および疑い患者を診療した場合
→通常の点数(初診料や再診料、外来診療料)に加えて【院内トリアージ実施料】を算定可能(1回につき+300点)(関連記事はこちら)
(2)一般病棟等で、軽症の新型コロナウイルス感染症患者(確定患者のみ)を入院させた場合
→入院基本料等に加えて【救急医療管理加算】(1日につき+950点)・【二類感染症患者入院診療加算】(1日につき+250点)を算定可能(都合+1200点となる)(関連記事はこちら)
(3)一般病棟で、中等症の新型コロナウイルス感染症患者(確定患者のみ)を入院させた場合
→入院基本料等に加えて【救急医療管理加算】×3(1日につき2850点)・【二類感染症患者入院診療加算】(1日につき+250点)を算定可能(都合+3100点となる)(関連記事はこちらとこちら)
(4)ICU等で、重症の新型コロナウイルス感染症患者(確定患者のみ)を入院させた場合
→ICU等の入院料×3+【二類感染症患者入院診療加算】×4(または2)(例えば【特定集中治療室管理料1】のユニットでは、7日目まで都合+2万9422点となる)(関連記事はこちらとこちら)
(5)訪問看護において、新型コロナウイルス感染症患者および疑い患者を看護した場合
→通常の点数(訪問看護療養費)に加えて、訪問看護ステーションでは【【特別管理加算】(2500円)を、医療機関では【在宅移行管理加算】(250点)を算定可能(関連記事はこちら)
(6)PCR検査・抗原検査を保険適用し、PCR検査については▼無症候患者にも医師の判断で実施可能なことを明確化する▼DPCにおいて出来高算定を可能とする―(関連記事はこちらとこちらとこちら)
ただし、病院経営は非常に厳しい状況にあります。例えば、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の病院3団体調査によれば、今年(2020年)4月の医業利益率は新型コロナウイルス感染症患者を受け入れた病院ではマイナス11.8%に、病棟を閉鎖せざるを得なかった病院ではマイナス16.0%に落ちている(東京都の病院ではマイナス30%近い)ことが明らかになりました(関連記事はこちらとこちら)。
また、全国自治体病院協議会の調べによれば、新型コロナウイルス感染症患者を受け入れる自治体病院(県立病院や市町村立病院)において、今年(2020年)4月の医業収支が、前年同月に比べて平均8000万円超、最も厳しいところは7億円弱も減少していることが分かりました。
さらに、Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンの調査でも、すでに3月時点から外来・入院ともに多くの病院で患者減が始まっていたことが分かっています。
こうした状況を放置すれば、病院経営が逼迫し、破綻してしまうこともありえます。そうなれば、今後の第2波、第3波に対応することが不可能となることから、日病協では、さらなる診療報酬上の対応を行い、病院経営を下支えしてほしいと強く要望。具体的には、これまでの診療報酬上の対応に加え、次のようなサポートを行ってほしいと強く要望しています。
▽新型コロナウイルス感染症患者を受け入れているか否かにかかわらず、▼入院基本料▼初再診料▼外来診療料―を大幅に増額してほしい
▽新型コロナウイルス感染症患者の入院、院内感染発生や院内感染防止策として行った「休床 ・休棟」の措置等で大幅に収入が減少した病院において、「前年度の医療収入を基準とした診療報酬の概算請求」を可能としてほしい
▽新型コ ロナウイルス感染症対応が求められる当面の問の、「医療従事者等の医療法・診療報酬上の配置基準の緩和措置」を継続してほしい
▽▼重症度・医療・看護必要度▼在宅復帰率▼データ提出加算―の施設基準届け出等の基準値に関する「経過措置期間」について延長してほしい
▽特定入院料算定病棟への入院において、「PCR検査・抗原検査を含めた検査料の出来高算定」を可能としてほしい
▽新型コロナウイルス感染症対応が求められる当面の問の、「観血的手術・麻酔管埋症例における診療報酬上の加算」を設けてほしい
新型コロナウイルス感染患者を受け入れる病院では、例えば一般病床について感染拡大防止のために「多床室を個室化する」(4人部屋であれば3床を休止することになる)ことが求められるなどし、入院収益は大きく減少します。併せて予定手術等については延期(新型コロナウイルス感染症に医療資源を重点化する)することが求められます。また、患者の受診抑制などにより外来収益も減少しています。
こうした中では、「基本診療料の充実」「前年度実績を踏まえた概算請求」などによる下支えが不可欠であると日病協は強調します。
さらに、急性期病棟においては、患者構成が平時と大きく異なるために、例えば急性期一般1の施設基準にある「重症患者割合の基準値」(看護必要度Iで31%以上、看護必要度IIで29%以上)をクリアすることが難しい病院が少なからず出てくると予想されます。これらの基準値については「今年(2020年)3月31日時点で急性期一般1を届け出ている場合には、今年(2020年)9月までは満たしているものとみなす」との経過措置が設けられていますが、日病協では「経過措置の延長が必須である」と訴えています。
今後の厚労省の動きが注目されます。
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