第3期がん対策推進基本計画の中間評価を2020年度に実施、評価指標の検討始まる―がん対策推進協議会
2018.8.30.(木)
第3期のがん対策推進基本計画がスタートしていますが、第3期計画を踏まえたがん対策の進捗状況や効果を把握し、第4期計画につなげていくために「事業の評価」(中間評価)が不可欠となります。
8月30日のがん対策推進協議会では、早くも「中間評価」に向けた議論を開始しました。
2020年度に「第3期計画」の中間評価を実施、まず「評価項目」を固める
我が国のがん対策は、「がん対策推進基本計画」に則って実施されます。現在、第3期計画(2017年10月、2018年3月に閣議決定)が稼働しはじめたところです。この第3期計画の効果などを踏まえて、次の第4期計画(2024年度スタート予定)につなげることになりますが、第3期の計画終了を待って効果等を評価をしたのでは、第3期と第4期の間に隙間が生じてしまいます。
そこで、第3期計画では中間年の2020年度に「中間評価」を行い、その結果を踏まえて第4期計画につなげることになります(医療計画の中間見直しとも歩調を合わせることになる)。
がん対策推進基本計画の内容を固める「がん対策推進協議会」(以下、協議会)では、この「中間評価」に向けた「評価項目」を固める議論を開始しました。第3期計画の重要事項(がん予防、がん医療の充実、がんとの共生、基盤整備)のそれぞれについて具体的な評価項目を定め、これに基づいて各種の調査結果を分析し、「第3期計画に則ったがん対策の効果」を測定・評価することになります。
8月30日の協議会では、「がん予防」に関し、例えば▼がんの年齢調整死亡率(がん全体、および、がん種別)▼がんの罹患率(同)▼喫煙率▼受動喫煙の機会を有する者の割合▼ハイリスク飲酒者の割合▼運動習慣のある者の割合▼適正体重を維持している者の割合▼B・C型肝炎ウイルス感染率▼B型肝炎定期予防接種の実施率▼ヘリコバクター・ピロリ(いわゆるピロリ菌)の除菌治療歴と胃がん罹患との関係▼がん検診受診率▼精密検査受診率▼「指針に基づくがん検診」を実施している市区町村の割合▼「指針に基づかないがん検診」を実施している市区町村の割合▼職域のがん検診の精度管理(別途、手法の検討が必要)—などの評価項目案が、厚生労働省から提示されました。第2期計画の中間評価指標に比べて項目が増えており、「より精緻な評価を行いたい」との厚労省の意欲が伺えます。
この評価項目案そのものについては、審議時間の関係で議論が行われませんでした(次回の協議会で議論し、「がん予防」の評価項目を決定する予定)が、日本対がん協会から「がん検診の実情」についての報告が行われています。
日本対がん協会は、主に市町村や企業、保険者などからの委託を受けて「がん検診」を実施している公益財団法人です。2015年度には、胃・肺・大腸・乳・子宮頸がんをターゲットとして、全国で820万人を超える人に検診を実施。その中で、現在のがん検診には、例えば次のような課題があることが分かってきています。
▽大腸がんでは早期の発見割合が低めで、とくにに女性で低い
▽肺がんでは、特に男性で早期の発見割合が低い
▽乳がんでは、検診手法が多く(マンモグラフィー単独、超音波単独、マンモ+超音波など)、手法によって発見割合にバラつきがある(「マンモ+超音波」により40代で、早期の発見割合が高い傾向が伺える)
▽がん種によって精度管理にバラつきがある(乳がんでは精密検査受診率が91.0%にのぼるが、大腸がんでは70.8%にとどまる)
▽2016年度の検診受診率は、▼胃:男性46.4%、女性35.6%▼肺:男性51.0%、女性41.7%▼大腸:男性44.5%、女性38.5%▼乳:女性36.9%▼子宮頸:女性33.7%―にとどまっている(国民生活基礎調査より)
今後の議論では、こうした課題も踏まえて「がん検診の在り方や手法」などが重点的に議論・検討されることになるでしょう。
第3期計画の中間評価でも「患者体験調査」「緩和ケアに関する調査」を実施
前述したように、「中間評価」は、各種の調査結果を「中間評価指標」に基づいて分析・評価する形で行われます。
調査は、大きく3種類に分けられます。
(1)医療に関する調査(がん診療連携拠点病院の状況報告や、医療施設調査など)
(2)がんに関する調査(がん登録や、国民健康・栄養調査など)
(3)患者・家族に関する調査(患者体験調査、遺族調査、世論調査など)
(3)のうち「患者体験調査」とは、がん患者等に対し、▼がんはどの部位に生じたか▼どのような治療(手術、化学療法、放射線療法など)を受けたか▼受診から、がんと診断されるまでに、どの程度の期間がかかったか▼診断から治療開始までに、どの程度の期間がかかったか▼病気や療養生活について誰に相談したか▼主治医からセカンドオピニオンの説明はあったか、またセカンドオピニオンを受けたか▼治療開始前に「不妊の影響」について説明を受けたか▼精子・卵子保存を実施したか▼費用の面で治療内容の変更・断念をしたことがあるか▼職場でがんであることを話したか▼就労継続について病院の医療者と話し合う機会があったか▼がん相談支援センターを知っているか▼「ピアサポート」が何か知っているか、また利用したか―などをアンケート方式で聞くものです。
第2期計画の中間評価でも患者体験調査が7404名の患者等を対象に実施され、がん診療連携拠点病院であっても「セカンドオピニオンや妊孕性(精子・卵子保存等)への説明が不足している」「身体的・精神的苦痛を持つ患者が一定数いる」「『家族に負担がかかっている』と感じる患者が少なくない」「がん相談支援センターは、利用者の満足度は高いが、認知度が低い」ことなどが明らかとなり、現在の第3期計画の端々に反映(対策の充実)されています。患者の声が半ばダイレクトに施策に反映される、極めて重要な調査と言えます。
第3期計画では、上記のような項目に沿って、より広範に患者体験調査が実施される予定です(今年(2018年)10月頃に調査票を発送する予定)。この点、8月30日の協議会では、「個人情報である点や患者の気持ちなどに配慮した調査となるよう工夫してほしい」(山口建会長:静岡県立静岡がんセンター総長)などといった要望が出されています。
また(1)の医療に関する調査の一環として、医療従事者(医師・看護師)や施設(がん診療連携拠点病院・一般病院)を対象に「緩和ケア」に関する調査が実施されます。「がんと診断されたときからの緩和ケア実施により、治療成績が向上する」といったエビデンスを踏まえ、第3期計画でも「緩和ケアの推進」は重要テーマの1つとなっています。がん診療連携拠点病院については今年(2018年)3月から、一般病院についても今年9月から調査が行われ、新たに「経口オピオイド(麻薬性鎮痛薬)使用に当たり、便秘に備えて下剤を処方しているか」「オピオイド内服患者に、具体的な鎮痛薬の使用方法(突出痛の場合のレスキュー薬使用など)を説明しているか」「薬物療法で疼痛が緩和しない場合、神経ブロック(麻酔薬の注射)の適応があるかを緩和ケア医や麻酔医に相談しているか」などの点も調べることになります。
なお、第2期計画における中間評価でもこの調査が行われており、例えば「がん診療連携拠点病院に比べて、一般病院の医師・看護師は、緩和ケアに関する知識が不十分で、緩和ケア実施に困難を感じる傾向にある」ことや、「日本緩和医療学会による緩和ケア研修(PEACH研修)の受講者は、緩和ケアの知識が高く、緩和ケア実施の困難感が低い」ことなどが明らかになりました。これを踏まえ、8月30日の協議会では「一般病院の医師等が緩和ケア研修を積極的に受講できるよう、医師会と連携などを促進すべき」といった指摘が出されています。
協議会では、2020年度中に「中間評価」結果を公表すべく、急ぎ「中間評価指標」の決定に向けた議論を継続していきます。
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