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GemMed塾 病院ダッシュボードχ 病床機能報告

腫瘍内科医によるがん化学療法、がんゲノム医療の質向上、患者満足度向上などどう進めるか―がん対策推進協議会(1)

2021.10.12.(火)

がん治療成績は年々向上しており、今後は、そこに加えて「患者の満足度」などのQOLの視点も重要さを増していく―。

がんゲノム医療については、量の拡大よりも「質の向上」が重要となるのではないか。全国での整備よりも「集約化」を考えていく必要があるのではないか―。

がん化学療法について、腫瘍内科医が実施しているケースはまだまだ少ないが、腫瘍内科医の育成・配置はなかなか進まない。また、乳がんや泌尿器がんでは「1診療科で治療を完結する」ケースが少なくないが、その場合、どうしても最新治療技術の導入などが遅くなってしまう。こうした点をどう解決していくべきか―。

10月7日に開催された「がん対策推進協議会」(以下、協議会)で、こういった議論が行われました。

がん治療成績は向上を続けており、今後は「患者のQOL向上」の重要性が増していく

我が国のがん対策は、5年を1期とする「がん対策推進基本計画」に沿って実施され、現在、第3期計画(2017年10月、2018年3月に閣議決定)が稼働しています。第3期計画が終了した後は、次の第4期計画へバトンタッチすることになりますが、「第3期計画が終了してから、その効果等を評価し、第4期計画を策定する」のでは、第3期計画と第4期計画との間に隙間が生じてしまいます。

そこで、第3期計画の途中で「中間評価」を行い、その結果を踏まえて第4期計画策定に向けた議論をしていくこととなっています。

第4期がん対策推進基本計画策定に向けたスケジュール(がん対策推進協議会1 201016)



協議会では、140項目の「中間評価の指標」を設定し、各種の成果データ(例えば5年生存率や死亡率、拠点病院の整備数、標準治療の実施割合)をもとに、第3期計画の分野別施策(▼予防▼医療▼強制▼基盤整備—)それぞれについて「中間評価」を行っています(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちら)。

第3期がん対策推進基本計画の達成状況を評価(中間評価)するために140項目の評価指標が設定された(がん対策推進協議会2 201016)



10月7日の会合では、▼がんとの共生(就労支援など)▼基盤整備(人材育成や研究など)▼がん医療の充実―の各分野について、中間評価に向けた議論を行いました。本稿では、「がん医療の充実」のうち、▼全体▼ゲノム医療▼手術・放射線・薬物・免疫の各療法の充実―に焦点を合わせ、他の事項は別稿で報じることとします。



まず、がん医療全体に関しては、▼がんの5年生存率▼がんの年齢調整死亡率▼医療の進歩を実感する患者の割合▼納得いく医療を受けられた患者割合▼診断・治療全体の総合的評価▼医療従事者が耳を傾けてくれたと感じた患者の割合―が評価指標となっています。

生存率や死亡率は徐々に「良くなってきている」ことがデータ上も明らかとなっており、医療従事者の努力が伺えます。今後も医療・医学技術の進歩が進む中で「さらに治療成績などが向上する」と期待されます。この点、「がんの種別に詳細に治療成績を見ていく必要がある」との方向で協議会の議論が動いています(ただし、諸要素を勘案した結果が最終の死亡率・生存率である点にも留意が必要)。

その一方で、いわゆる「患者満足度」に関連する指標を見ると、例えば「医療の進歩を実感する患者の割合」については2014年度調査では80.1%であったものが、2018年度調査では75.6%に低下しており、その理由・背景などを探る必要がありそうです。

がん医療全体の評価指標と成績(がん対策推進協議会(1)1 211007)

がんゲノム医療、「アウトカム評価」「集約化」をどう考えていくべきか

ゲノム医療については、2019年6月に遺伝子パネル検査(100程度の遺伝子変死を一括して検出できる検査)が保険適用されたことを受け、急速に進んで来ています。指標としては▼ゲノム医療を提供する医療機関数▼遺伝医学の専門医師数▼遺伝カウンセリング技術者数▼遺伝子パネル検査を受けた患者数▼C-CAT(がんゲノム情報管理センター)に登録された患者数―などが設定され、いずれも「向上」している状況を確認できます。

がんゲノム医療の評価指標と成績(がん対策推進協議会(1)2 211007)



この点、患者代表の1人として参画する長谷川一男委員(肺がん患者のワンステップ理事長、日本肺がん患者連絡会理事長)は「体制整備が指標となっているが、今後は、アウトカムに関する指標も検討すべきではないか」と提案しています。例えば、遺伝子パネル検査の結果を踏まえて、適応外の抗がん剤投与がなされた患者数などが、アウトカム指標の1つとして考えられそうです。

しかし、がん医療の専門家の意見を見ると「アウトカム向上が最終目標であるが、現時点では時期尚早ではないか」との声が多数のようです。もう少し症例を積み上げながら、アウトカム指標として何が相応しいのかを検討し(上記の適応外薬にたどり着いた患者を指標とするのかも含めて)、データを分析していくことになりそうです。

なお、体制整備に関する指標とその評価について石岡千加史委員(東北大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学分野教授、東北大学病院腫瘍内科長、日本臨床腫瘍学会理事長)は「ゲノム医療に関しては、拠点病院と異なり『集約』が現時点では重要ではないか」と指摘し、第4期計画において「体制整備指標の見直しを検討すべき」との考えを示しています。がんゲノム医療が本格的にスタートしたのは2019年6月からで、また、対象患者は「標準治療が終了した患者、標準治療のない患者」に限定されています。そうした中では限られた症例を「一定の施設に集約し、知識・技術の向上を目指す」段階にあると石岡委員は強調していると考えられます。

関連して山口建会長(静岡県立静岡がんセンター総長)は「正しいがんゲノム医療情報への到達が非常に重要であると思う。怪しげな、科学的根拠のない治療法などの情報がインターネット等にあふれている。第4期計画では、正しい情報提供、情報共有が非常に重要な視点になると考えている」との考えを強調しています。

化学療法の実施体制(腫瘍内科医の育成・配置など)も今後の最重要論点の1つ

また、がん医療の技術的な側面に目を移すと、例えば▼診療ガイドラインの数▼患者用診療ガイドラインの数▼内視鏡手術の割合▼術後30日以内の死亡率▼IMRT加算などの取得割合▼放射線治療専門医の配置割合▼化学療法を内科医が担当している割合▼臨床研究・先進医療の枠組みで免疫療法を実施している割合▼科学的根拠のある免疫療法について、国民が必要な情報を取得できている割合―などが評価指標に設定されています。

手術療法の評価指標と成績(その1)(がん対策推進協議会(1)3 211007)

手術療法の評価指標と成績(その2)(がん対策推進協議会(1)5 211007)

放射線・薬物・免疫療法の評価指標と成績(がん対策推進協議会(1)5 211007)



このうち、従前より問題視されているの「化学療法を内科医が担当している割合」です。がん診療連携拠点病院であっても、その割合は、2018年度には30.0%、2019年度には28.9%にとどまっており、7割の拠点病院では「外科医等主導の下で抗がん剤治療が行われている」のが実態です。

この点、石岡委員は「学会理事長がこんなことを言っては叱られるかもしれないが、化学療法に携わる内科医の育成・配置の推進に向けて、さまざまな取り組みを行っているが、『万策尽きた』状況とも言える。委員諸氏や国の知恵・力をお借りしたい」と要望しました。

関連して土岐祐一郎委員(大阪大学大学院医学系研究科外科学講座消化器外科学教授、日本癌治療学会理事長)は「例えば乳がんや泌尿器のがんなどでは、手術から抗がん剤投与までのすべての治療を1つの診療科で完結するところもある。この場合、最新の免疫療法(免疫チェックポイント阻害剤を用いた治療など)の知識がどうしても遅れてしまう。この問題についても検討が必要ではないか」と提案しています。

第4期計画に向けて、「化学療法の実施体制」が最重要課題の1つになりそうです。



このほか次のような意見も出ています。

▼がん患者が高齢化する中で、「すべての患者に対して標準治療を実施すべきか」という論点がある。標準治療がフィットする患者も減少してくる(石岡委員)

▼放射線治療の成績(診療報酬算定など)について、実感よりも極めて高く、カサ増しが行われていないか。がん診療連携拠点病院からの現況報告もチェックする必要があるのではないか(茂松直之委員:慶應義塾大学医学部放射線科学教室教授、日本放射線腫瘍学会理事長)

▼乳がん治療において、「必須」とも言える放射線治療(リンパ節転移が多いハイリスク患者では放射線治療が必須である)がなされていないケースが増えているようだ。再発リスクの高まりが懸念される(茂松委員)

▼我が国では、医学物理師の国家資格化・配置が遅れ、これが放射線の過少・過誤照射につながっている。欧米では放射線治療において医学物理師が関与することが必須であり、今後の放射線治療の質向上に向けて検討していくべきである(茂松委員)

▼小児がん患者への高度な放射線治療について、地域格差が大きい(北海道では重粒子線治療を行える施設がなく、西日本でも限定的)。そうした点もチェックしていく必要があるのではないか(大賀正一委員:九州大学大学院医学研究院成長発達医学分野教授、日本小児・血液がん学会理事長)

▼我が国では、がん診療連携拠点病院や都道府県の拠点病院などに指定されていない小規模病院でがん手術が行われているケースも少なくない。そうした病院での治療成績(術後死亡率など)もチェックしていく必要があるのではないか(土岐委員)



こうしたデータ、意見を踏まえて、今後「中間評価案」が示される見込みです。中間評価の内容が、第4期計画にも大きな影響を及ぼすと考えられ、その内容に注目が集まります。



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