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コロナ禍のがん検診は「住民検診」で落ち込み大、精検含め受診状況の迅速な把握を―がん検診あり方検討会(1)

2021.8.13.(金)

昨年(2020年)4月・5月には、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえて緊急事態宣言が初めて発出され、がん検診受診が大きく落ち込んだ。しかし、その後に検診受診は回復してきている。もっとも、職域検診の受診は概ねコロナ禍前水準をキープできているが、住民検診は落ち込んでいる―。

また、検診は受診するが、「精密検査を控えている」との懸念もある。精密検査を含めた検診の受診状況をスピーディに把握できる仕組みが今後求められる―。

「がん検診のあり方に関する検討会」(以下、検討会)が8月5日に開催され、こうした議論が行われました。検討会では「がん検診」に係る指針の見直し(乳がん検診について診療放射線技師のみで実施可能とするなど)についても議論しており、別稿で報じます。

検診後の「要『精密検査』受診」に従わないケースが懸念される

新型コロナウイルス感染症の猛威は衰えるところを知りません。4度目の緊急事態宣言は範囲も期間も拡大されています。そうした中では、「『医療機関を受診すると、コロナウイルスに感染してしまうのではないか』と考えた患者が受診を抑制する」、あるいは「コロナ感染リスクの高い内視鏡検査などを延期する」などの減少が生じています。

「がん」についても、コロナ禍で「検査控え→発見数の減少→手術件数の減少」が生じていることが、各種調査で判明しており、「患者の予後に悪影響が出ないか」が懸念されています。

●一般社団法人CSRプロジェクトによる「新型コロナウイルス感染症拡大が及ぼした がん患者への影響調査」結果に関する記事はこちら
●Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)分析に関する記事はこちら(2020年7月)こちら(2020年6月)こちら(2020年5月)こちら(2020年4月)こちら(2020年3月)



国立がん研究センター「社会と健康研究センター検診研究部」室長の高橋宏和参考人は、各種のデータ(主に2020年夏・秋までのデータ)から「がん検診の状況」を分析し、今年(2021年)3月の「がん対策推進協議会」に報告。そこでは「最初の緊急事態宣言が出された、昨年(2020年)4月・5月には検診実施件数が大きく落ち込んだが、その後、回復してきている」ことなどが報告されました。

さらに今般、2020年度まで(2021年3月まで)のデータが明らかになってきたことから、高橋参考人から「2020年度におけるがん検診の全体像」について中間報告が行われました。

そこでは、次のような点が明らかになっています。

【聖隷福祉事業団の調査】
▽5大がん(胃・大腸・肺・乳房・子宮頸部)検診は、昨年(2020年)5月には前年同期の40%程度にまで落ち込んだが、その後回復し、6月以降は前年並みの水準に戻っている

▽職域健診では5大がんの検診実施率は前年度(コロナ感染症前の2019年度)並みだが、住民健診では9割前後に落ちている

がん検診の実施状況に関するデータ(その1)(がん検診あり方検討会(1)1 210805)



【宮城県対がん協会】
▽胃・大腸・乳房・子宮頸部の4種類のがん検診は、昨年(2020年)5月には前年同期の20%未満にまで落ち込んだが、その後回復し、昨年(2020年)秋以降は前年同期比120%にまで回復・増加している

▽職域健診では4がんの検診実施率は前年度(コロナ感染症前の2019年度)並みだが、住民健診では9割前後に落ちている

がん検診の実施状況に関するデータ(その2)(がん検診あり方検討会(1)2 210805)



【日本総合検診医学会、全国労働衛生団体連合会】
▽がん検診を含む、健診・検診全体では、昨年(2020年)4月・5月には前年同期の20%程度にまで落ち込んだが、その後回復し、昨年(2020年)秋以降は前年同期比120-140%にまで回復・増加している

▽がん検診(その他健診の大部分を占める)の実施率は、前年度(コロナ感染症前の2019年度)に比べて8割程度にとどまっている

がん検診の実施状況に関するデータ(その3)(がん検診あり方検討会(1)3 210805)



昨年(2020年)夏・秋以降、がん検診の実施状況は「全体では、コロナ禍前の水準にまで戻ってきている」状況が伺えますが、高橋参考人は「職域検診に比べて、住民検診で減少が大きい」点を懸念しています。

職域検診は、言わば「勤め先の健康診断などの一環として行われるがん検診」で、例えば事業主(社長など)や上司から「検診を受診する」よう強く勧められます。このため、会社員などでは、コロナ感染症の流行が一定程度の落ち着きを見せた昨年(2020年)夏・秋から、がん検診を受診することが多くなったと考えられます。

一方の住民検診は市町村の行うがん検診で、市町村からの案内を受けて、住民自らが「検診を受けよう」と思うことが重要です。このため、事業主や上司からの勧奨がなく、「コロナ感染症がもう少し収束するのを待ってから、検診を受けよう」と後回しにしてしまっている可能性が考えられます。



この点、中山富雄構成員(国立がん研究センター「社会と健康研究センター検診研究部」部長)は「データを見ると、全体としては検診受診率の落ち込みは小さいものの、『精密検査を受けていないのではないか』という指摘もある。例えば内視鏡検査を受けるにあたっては、比較的人口の多い地域にある設備の整った病院に行かなければならないが、感染が怖いので内視鏡検査を控える、などの事例があるのではないかと懸念されている。その辺を追跡調査する必要がある」と指摘。

しかし、精密検査までを含めた検診データが整理されるまでには時間がかかります。このため検討会では、「オランダでは週ごとに検診状況を確認できる仕組みが構築されていると聞く。我が国でも、スピーディに検診受診率などを把握できる仕組みを検討する必要がある」という意見が、大内憲明座長(東北大学大学院医学系研究科客員教授、東北大学名誉教授)や松田一夫構成員(福井県健康管理協会副理事長)、羽鳥裕構成員(日本医師会常任理事)らから示されました。今後の重要な検討事項に据えられるでしょう。

国がん中央病院、コロナ患者受け入れで「重症の患者患者」受けられなかった可能性も

また高橋参考人からは、国立がん研究センター中央病院(東京都中央区)における次のような診療データが参考値として報告されています。

【1日平均入院患者数】
▽2016-19年度の平均:535.4人
▽2020年度:482.4人(前4年度平均に比べて9.9%減)

【1日平均外来患者数】
▽2016-19年度の平均:1489.2人
▽2020年度:1408人(前4年度平均に比べて5.5%減)

【1日平均「新規」入院患者数】
▽2016-19年度の平均:45.9人
▽2020年度:46.6人(前4年度平均に比べて1.5%増)

【平均在院日数】
▽2016-19年度の平均:11.7日
▽2020年度:10.3日(前4年度平均に比べて0.12日短縮)

【手術件数】
▽2016-19年度の平均:5589.5件
▽2020年度:5097人(前4年度平均に比べて8.8%減)

【内視鏡件数】
▽2016-19年度の平均:1万7033.5件
▽2020年度:1万5029件(前4年度平均に比べて11.8減)

【内視鏡治療件数】
▽2016-19年度の平均:5929件
▽2020年度:5246件(前4年度平均に比べて11.5%減)

国がん中央病院の診療実績、コロナ禍の前後で大きく変化している(がん検診あり方検討会(1)4 210805)



このうち「在院日数が短縮している」背景について、高橋参考人は「詳細な分析はこれからである」としたうえで、「東京都におけるコロナ感染拡大を受け、国がん中央病院でも、コロナ感染症患者を受け入れている。このため、在院日数が長期化する『がんの重症患者』受け入れがしにくくなった可能性がある」と推測しています。

これは、がん患者にとっては厳しく辛い話であり、今後の「感染症蔓延時における医療機能の分化(役割分担)と連携の強化」を考える際に、極めて重要な論点になると考えられます。例えば血液がん患者など、免疫抑制剤を投与する治療法を選択する場合には「感染管理」が極めて重要となります。このため、こうした患者が多く入院する病院では「感染種患者を受けない」という機能分化を考えることも1つの選択肢となってくると思われます。

今後の「医療計画(新興感染症対策が盛り込まれた)」基本指針論議などの動きに注目が集まります。



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