マンモ・エコー併用で、乳がんを発見しにくい高濃度乳房でも病変の正確鑑別が可能に―がん検診あり方検討会(1)
2021.3.18.(木)
乳がん集団検診(マンモグラフィ)の実施に当たり、「医師の問診」に変えて「医療従事者による質問」を可能とする指針見直しを行い、「医師確保」に苦労する乳がん検診の一層の推進を目指す―。
乳がん病変が隠れやすい高濃度乳房においても、「マンモグラフィ検査と超音波検査の併用」法により、正確に乳がん診断できる可能性が高い―。
また、自身の乳房を意識し、早期に「病変に気づく」ような生活習慣(ブレスト・アウェアネス)を普及していくことが重要である―。
「がん検診のあり方に関する検討会」(以下、検討会)が3月17日に開催され、こういった議論が行われました。検討会では「子宮頸がん検診」についても議論しており、別稿で報じます。
目次
乳がん検診、「問診に代わる質問を医師以外の医療従事者が行える」ように指針改正
乳がん検診については、これまでに次のような大きな見直しが行われ、現在では「40歳以上の女性に、マンモグラフィによる検診を原則とする」こととなっています。
▼50歳以上について問診・視触診・マンモグラフィによる検診を原則とする(2000年)
↓
▼40歳以上について問診・視触診・マンモグラフィによる検診を原則とする(2004年)
↓
▼40歳以上について「マンモグラフィ」による検診を原則と、「視触診」は推奨しない(2016年)
この点、胸部エックス線撮影にかかる集団検診(肺がん検診)では「医師の立ち合いを不要とする」こととなっています(2014年6月から)が、乳がん検診では、医師による「視診」「触診」が必要とされていただめに、引き続き「医師の立ち合いが必要である」とされているのです。
しかし、▼上述のように「視触診」が推奨されなくなったこと▼地方自治体から「医師確保が困難なために乳がん集団検診の実施が困難になっている」との声が強いこと▼乳がん検診の3割超が「子宮頸がん検診などの医師の立ち合いが必要な検査」とは別個に行われていること―などから、昨年(2020年)末の社会保障審議会・医療部会において「診療放射線技師法を改正、乳がん集団検診(マンモグラフィ)において医師の立ち会いを不要とする」方向が固められました(改正法案が国会に上程されている)。
ただし、「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」では、乳がん検診について「医師による立会い・実施が必要となる問診」を検診項目として位置付けています。つまり、上記の診療放射線技師法改正のみでは、「医師の立ち合いを不要とする」ことができないのです。
そこで検討会では、「医師以外の医療従事者(検査を実施する診療放射線技師など)でも必要な情報を得られる」ような工夫を凝らしたうえで、指針についても見直しを行い、「医師の立ち合いを不要とする」方針を決定しました。具体的には、次のような見直しが行われます。
▽乳がん検診の検診項目について、医師の立ち会いがなく、乳房エックス線撮影(マンモグラフィ検査)行う場合 は、問診に代わって医師以外の医療従事者による質問を可能とするため、基本的な質問項目(自記式も可)を明確化する
▽医師の立ち会いなしに乳房エックス線撮影(マンモグラフィ検査)を行う場合、市町村は検診実施機関に対し「緊急時や必要時に対応する医師」(責任医師)等を明示した計画書の作成・提出を求める
▽医師の立ち会いなしに乳房エックス線撮影(マンモグラフィ検査)を行う場合、検診実施機関には、▼撮影を行う医療従事者と責任医師との緊急時等における連絡体制の整備▼撮影時・緊急時に使用するマニュアルの整備▼従事者の教育・研修を受ける機会確保―を求める
▽医師の立ち会いなしに乳房エックス線撮影(マンモグラフィ検査)を行う場合、医師が、「医療従事者が行った質問の結果」「乳房エックス線写真の読影の結果」を総合的に判断して、精密検査の必要性の有無を決定し、受診者に速やかに通知する
検討会では若尾直子構成員(NPO法人がんフォーラム山梨理事長)から、「40歳以上50歳未満では、内外斜位方向撮影とともに頭尾方向撮影も併せて行う」旨の指針規定が守られていないケースがあるとの指摘を受け、▼50歳以上では内外斜位方向撮影(1方向撮影)▼40歳以上50歳未満では内外斜位方向撮影+頭尾方向撮影(2方向撮影)―を徹底する点も確認されています。
近く、指針の改正が行われます(厚生労働省健康局長通知の改正)。
「高濃度乳房とそれ以外」との区分は不適切、「乳房の変化に気を付ける」生活習慣を
また3月17日の検討会では「超音波乳がん検診」の在り方も議題となりました。
上述のとおり乳がん検診は「乳房エックス線撮影(マンモグラフィ検査)」が原則となっています。しかし、この検査法では「若い女性に比較的多い『高濃度乳房』において乳がんを発見しにくい」という課題があります。いわゆる高濃度乳房では、マンモグラフィ検査において「乳腺が白く描出され、腫瘤(病変)が隠れてしまう」ケースが少なくないのです。
ただし笠原善郎参考人(福井県済生会病院副院長、同院乳腺外科・女性診療センター診療部長)からは、「高濃度乳房とそれ以外に分け、前者は不安である」といった理解は不適切で誤っていること、「乳腺の濃度は『薄い』ものから『極めて高濃度』なものまでバリエーションに富んでおり、高濃度になるほど病変が隠れやすいが、高濃度でなくとも病変が隠れるケースがある」こと強調。
後述するように、「高濃度乳房でも乳がんの病変を正確に判断する」ことを目指し、超音波検査の併用などの研究が進められていますが、標準的な検査に位置づけられるまでには時間がかかりそうです。
このため笠原参考人は、偽陰性(乳がんであるが「乳がんでない」と判定されてしまうケース)対策として「ブレスト・アウェアネス」を啓発することを提案しています。
ブレスト・アウェアネスとは、「乳房を意識する生活習慣」の意味で、(1)自分の乳房の状態を知る(2)乳房の変化に気をつける(しこり、分泌物、形状変化などを自身で視触診する)(3)変化に気づいたらすぐ医師に相談する(4)40歳になったら「2年に1回」乳がん検診を受ける―ことがポイントです。笠原参考人や中川恵一構成員(東京大学医学部附属病院放射線科准教授、がん対策推進企業アクションアドバイザリーボード議長)は、「検診とアウェアネスとを車の両輪として進める必要がある。将来的には、乳房(ブレスト)に限定せず『キャンサー・アウェアネス』(がんを意識する生活習慣)に取り組んでいく必要がある」と提言しました。
マンモ・エコーの併用で、高濃度乳房でも「正確に乳がん発見」可能
「高濃度乳房で隠れやすい乳がん病変であっても正確に鑑別できる」検査手法の開発に期待が集まります。この点、検討会の大内憲明座長(東北大学大学院医学系研究科客員教授、東北大学名誉教授)を中心に、「超音波検査による乳がん検診の有効性を検証する比較試験(J-START)」という研究が2007年度からスタートしています。
「乳房エックス線撮影(マンモグラフィ検査)単独の場合」(以下、マンモ単独)と「乳房エックス線撮影(マンモグラフィ検査)と超音波検査を併用した場合」(以下、マンモ・エコー併用)とで、どれほど正確に乳がんを発見できるかなどを調べる研究です。
すでに40歳代の7万2717症例について解析を行っており、そこでは「マンモ・エコー併用」のほうが「乳がん患者をより多く発見できる」(感度がマンモ単独では77.0%だが、マンモ・エコー併用では91.1%)というメリットがある一方、「マンモ・エコー併用」では「乳がんでない患者を乳がんと判定してしまうケースも多い」(特異度がマンモ単独では91.4%だが、マンモ・エコー併用では87.7%)というデメリットもあります。しかし大内座長は「現場ではマンモ画像とエコー画像の相互判定を行うことで特異度を上げている」(つまり、「乳がんでない患者を乳がんと判定してしまう」ケースを減らしている)工夫が行われていることも併せて紹介しています。
また、研究では▼マンモグラフィでは、非浸潤がん(DCIS)を見つけやすい▼超音波検査では、早期の浸潤がん(IDC Stage I)を発見しやすい▼マンモ・エコー併用により「高濃度乳房」でも、それ以外と同等の感度を得ることができる―ことが明らかになってきています。
「マンモグラフィ検査と超音波検査の併用」が乳がん患者の正確な発見に効果的である可能性が示唆されています。2年後に研究が完了するため、その後の解析結果を待って「指針の見直し」などが検討されることが期待されます。ただし、データには「50歳以上症例が含まれていない」(研究は高濃度乳房の多い40歳代を対象としている)などの限界もあり、他の研究結果と組み合わせて「マンモ・エコー併用の指針への盛り込み」を検討していくことになるでしょう。
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