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高齢者の保健・介護予防対策等の要となる自治体保健師は増員傾向だが地域格差、がん検診受診率は低調—2023年度地域保健・健康増進事業報告

2025.3.26.(水)

地域保健事業に従事する自治体保健師は、新型コロナウイルスなどの感染症対応・保健事業の充実などを目指しても含めて増員が進んでいるが、地域格差が若干拡大してしまった—。

市町村の実施する「がん検診」の受診率は、依然として「低い水準」で推移しており、受診勧奨の強化に向けた取り組みの強化が必要である―。

厚生労働省が3月25日に公表した2023年度の「地域保健・健康増進事業報告の概況」から、こうした状況が明らかになりました(厚労省サイトはこちら)。

地域保健事業に従事する自治体保健師、前年度から増加したが地域格差は若干拡大

「地域保健・健康増進事業報告」は、保健所・市区町村ごとに保健政策がどのように展開されているのかの実態を調べるものです。

2025年度には団塊世代がすべて75歳以上の後期高齢者に達することから、急速な医療ニーズの増加・複雑化が生じるため、こうした状況にマッチする効果的・効率的な医療提供体制を地域ごとに構築するため【地域医療構想】の実現、【地域包括ケアシステム】の構築が求められています(関連記事はこちら)。

さらに2025年以降、高齢者人口そのものは大きく増えない(高止まりしたまま)ものの、▼85歳以上の高齢者比率が大きくなる(重度の要介護高齢者、認知症高齢者の比率が高まる)▼支え手となる生産年齢人口が急激に減少していく(医療・介護人材の確保が極めて困難になる)—ことが分かっています。少なくなる一方の若年世代で、多くの高齢者を支えなければならず、「効果的かつ効率的な医療提供体制」の構築がますます重要になってきます。

また、こうした人口構造の変化は地域によって大きく異なり、ある地域では「高齢者も、若者も減少していく」ものの、別の地域では「高齢者も、若者もますます増加していく」、さらに別の地域では「高齢者が増加する一方で、若者が減少していく」など区々です。

このため「健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されない期間)の延伸、寿命と健康寿命との格差縮小」が、これまで以上に重要な政策課題となり、そこでは保健所・市区町村の保健政策の役割がますます重要になっていきます(関連記事はこちら)。

また上述のように、医療・介護ニーズに増大に向けて、地域ごとに▼住まい▼医療▼介護▼予防▼生活支援―の各サービスを総合的・一体的に提供する【地域包括ケアシステム】の構築も重要な政策課題となります。そこでは、健康維持や疾病・介護予防といった分野で大きな役割を果たす保健師への期待がますます高まってきていること、新型コロナウイルス感染症をはじめとする新興感染症対策の強化が強くもとめられていることなどからも、本報告の重要性を伺うことができます。

2023年度の事業報告を見ると、保健所・市区町村の地域保健事業に携わる保健師は2万9005名で、前年度に比べて445名の純増となりました。内訳を見ると、▼都道府県保健所:4165名(前年度から81名増員)▼政令市・特別区:9119名(同249名増員)▼政令市・特別区以外の市町村:1万5721名(同115名増員)―となっています。コロナ感染症対策、保健事業の強化を進めるために「都道府県や政令市などでの保健師配置強化」が進んでいることが分かります。

2019年の健康保険法等改正では、健康寿命の延伸を目指し「高齢者の保健事業と介護予防事業を、市町村が一体的に行う」ことが可能となりました。保健事業・介護予防一体的実施の要として「自治体の保健師」(市町村保健師)に期待が集まっており、感染症対応以外でも、保健師の役割に期待が集まっていることは述べるまでもありません。

また都道府県別に人口10万人当たりの配置状況を見てみると、全国平均は23.2名で前年度に比べて「0.4名の増員」となりました。最多は島根県の49.8名(前年度に比べ1.8名増員)で、高知県45.6名(同1.2名増員)、鳥取県41.5名(同1.8名増員)、和歌山県40.6名(同0.6名増員)、長野県38.5名(同0.5名減員)がトップ5となっています。

逆にワースト5は、東京都13.4名(前年度から増減なし)、神奈川県の13.6名(同0.6名増員)、埼玉県16.3名(同0.2名増員)、大阪府16.9名(同0.4名増員)、愛知県17.6名(同0.6名増員)となりました。大都市部では住民人口が多いため、どうしても「人口10万人当たり保健師数」は低くなってしまいます。

最多の島根県と最少の神奈川県との格差は「3.72倍」で、前年度(3.69倍)に比べて0.03ポイント拡大してしまいました。格差拡大の背景には「大都市で人口増加スピードがあがり、保健師確保が追い付かない」「地方では人口減が進み、結果、人口比保健師数が多くなっている」ことなども考えられますが、
「人口10万人当たりで4倍近い保健師配置の格差はお大きすぎる」と指摘する識者もおられます。今後、大都市で高齢化が急速に進んでいく点も考慮し「保健師確保」を強化していく必要がありそうです。

自治体保健師の配置状況1(2023年度地域保健・健康増進事業報告1 250325)

自治体保健師の配置状況2(2023年度地域保健・健康増進事業報告2 250325)



このほか、保健所・市区町村の地域保健事業に携わる常勤の医療専門職の配置状況を見てみると、▼医師:847名(前年度に比べて14名減員)▼歯科医師:115名(同13名増員)▼薬剤師:3259名(同15名増員)▼理学療法士:124名(同10名減員)▼作業療法士:102名(同2名増員)▼管理栄養士:3939名(同80名減員)▼助産師:283名(同11名増員)▼看護師:820名(同15名増員)▼准看護師:59名(同11名減員)―などとなっています。職種により増減があり、各自治体で「保健福祉計画を推進していくにあたり、どのような職種がどの程度必要なのか」を戦略的・計画的に練る必要があります。

各専門職種の配置状況1(2023年度地域保健・健康増進事業報告3 250325)

各専門職種の配置状況2(2023年度地域保健・健康増進事業報告4 250325)

市町村による「がん検診」の受診率は依然として「低い水準」で推移

次に、市区町村が実施したがん検診の受診率を眺めてみると、次のような状況です。

▽胃がん:6.8%で前年から0.1ポイント低下、「0-10%未満」の自治体が59.0%、「10-20%未満」が34.1%、「20-30%未満」が5.0%など(受診率30%未満が98.1%)

▽肺がん:5.9%で前年から0.1ポイント低下、「0-10%未満」の自治体が60.3%、「10-20%未満」が33.1%、「20-30%未満」が5.5%など(同98.9%)

▽大腸がん:6.8%で前年から0.1ポイント低下、「0-10%未満」の自治体が56.7%、「10-20%未満」が37.2%、「20-30%未満」が5.0%など(同98.9%)

▽子宮頸がん:15.8%で前年から増減なし、「0-10%未満」の自治体が9.2%、「10-20%未満」が54.7%、「20-30%未満」が29.2%など(同93.1%)

▽乳がん:16.0%で前年から0.2ポイント低下、「0-10%未満」の自治体が4.0%、「10-20%未満」が45.4%、「20-30%未満」が35.1%など(同84.5%)

がん検診の状況(2023年度地域保健・健康増進事業報告5 250325)



コロナ禍でがん検診を実施できない・受診できない状況もあると思われますが、「受診率の低さ」に驚かされます。最も有効ながん対策の1つに「早期発見・早期治療」があり、多くの自治体で「がん検診の受診率向上」に向けた対策をしっかり練って実践していくことが重要です(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちらこちらこちら)。



また、2022年度に市区町村が実施したがん検診における要精密検査者のうち、「がんであった者」の「がん検診受診者」に対する割合は、▼胃がん:0.09%(前年度から0.01ポイント低下)▼肺がん:0.03%(同増減なし)▼大腸がん:0.15%(同増減なし)▼子宮頸がん:0.02%(同0.01ポイント低下)▼乳がん:0.33%(同増減なし)―という状況です。精度向上に向けた一層の取り組みに期待が集まります(関連記事はこちら)。

がん精密検査の状況(2023年度地域保健・健康増進事業報告6 250325)



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