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「がん検診への新規検査項目」プロセスを明確化、職域がん検診の精度向上などにむけ法整備を検討すべき—がん検診あり方検討会

2024.7.10.(水)

がんの早期発見に重要な「がん検診」について、医学・医療の進展を踏まえて「新規検査項目」などが順次導入されてきているが、その導入プロセスが必ずしも明確になっていない。今後、導入プロセスの明確化を図っていく必要がある—。

がん検診の中で重要な役割を果たす「職域検診」であるが、精度管理が十分でない、科学的根拠に基づく手法で行われていないケースもあるなどの課題がある。こうした課題を解決するために、法整備を検討する必要がある—。

がん検診のあるべき姿と実態の間には依然として乖離があり、定期的にフォローアップをしたうえで、乖離を解消する方策などを検討していく必要がある—。

7月4日に開催された「がん検診のあり方に関する検討会」(以下、検討会)で、こうした議論が行われました。がん検診の充実に向けた議論がさらに熱を帯びていきます。

がん検診への新規項目導入などについて、プロセスの明確化を図る

我が国の死因第1位を独走する「がん」については、早期に発見し、早期に治療を行うことが「死亡率の低下、生存率の向上」にとって極めて重要です。早期発見のために極めて重要な「がん検診」については、例えば▼2016年に「胃がん」について胃内視鏡検査による実施を加える▼2023年に「子宮頸がん」についてHPV検査単独法による実施を加える(関連記事はこちら)—などの改善が図られてきています(現在のがん検診に関する指針はこちら)。

がん検診へは新規項目導入などの改善・充実が図られてきている(がん検診在り方検討会1 240704)



こうしたがん検診の改善(新検査項目の導入など)は「科学的根拠に基づいて有効性が認められたか否か」が判断根拠となり、国立がん研究センターの各種がん検診ガイドラインの改定に基づいてを行われていますが、「判断プロセスなどが明確でない」との指摘もあります。

この点、我が国のがん対策の基礎となる「第4期がん対策推進基本計画」(昨年(2023年)3月閣議決定、関連記事はこちら)では、「科学的根拠に基づくがん検診の実施」に向けて次のような方針を掲げています。

▽現在、がん検診分野における研究開発進展は著しく、より▼正確に▼低侵襲に▼簡便に▼安価に「がんを発見できる方法」が提案されている一方で、それらの対策型検診への導入に当たっては、死亡率減少効果の確認や実施体制の確保に時間を要すること、導入までのプロセスが不透明かつ煩雑であることが指摘されている

(取り組むべき施策)
(1)国は、がん検診の進捗・課題を整理するため、諸外国における取り組みとの経年的な比較調査を実施する仕組みについて検討する
(2)国は、より効率的・効果的ながん検診の実施を推進する観点から、指針に基づくがん検診の科学的根拠に基づいた効果検証を進めるとともに、対策型検診の項目の導入に係るプロセスの明確化等について検討する
(3)国は、指針に基づかないがん検診に係る効果検証の方法について検討するとともに、指針に基づかないがん検診の効果検証を希望する関係学会や企業等と地方公共団体のマッチングを促進する仕組みについて検討する
(4)国は、我が国における組織型検診の構築に向け、科学的根拠に基づくがん検診の実施に向けた取組により精度管理を向上させつつ、課題を整理しその対応を検討する



今般、上記(2)の方針に基づき、「検討会において対策型検診の項目の導入に係る標準的なプロセスを整理する」ことが厚生労働省から提案され、了承されました。

具体的な検討は今後を待つ必要がありますが、厚労省は、科学的根拠に基づくがん検診項目の導入プロセスを明示・公表している「英国の例」も参考に、具体的な「がん検診の新規項目導入プロセス」を検討する考えを示しています。英国では、各種データや論文、関係者(検診実施者など)との協議などをもとに▼既存項目と比べて有効性はどの程度か▼倫理的問題はないか—などを評価し、新規の検診項目を導入すべきかどうかを検討しています。

英国における、がん検診への新規項目導入プロセスの概要(がん検診在り方検討会2 240704)



構成員からは、今後の検討に向けて▼学会や医会との協力、我が国の特性(高齢化の進展、かかりつけ医機能を果たす医療機関の整備など)なども考慮する必要がある(黒瀨巌構成員:日本医師会常任理事)▼新規検査項目については、(1)科学的根拠があり、被検者の不利益が小さいかどうかの判断(2)自治体が運用可能かどうかの判断(3)国策として導入すべきかどうかの判断—が必要となる。検討会でどこまでを担うかを明確すべき。また、がん検診については、国立がん研究センター以外にも、学会がガイドラインを示している。どのガイドラインの、どの部分を採択し、どの部分を採択しなかったのか、その理由をはなぜかなどを明示することが重要である。それを怠れば国民が不信感を抱き、受診にブレーキがかかってしまう点に留意すべき(松坂方士構成員:弘前大学医学部附属病院准教授、医療情報部副部長)▼新規検査項目導入プロセスの明確化などで、これまでのがん検診とどのように運用が変わるのかなども明確化するとよい(井上真奈美構成員:国立がん研究センターがん対策研究所副所長)▼がん検診における、国・都道府県・市町村などの役割も明確化するとよい(若尾直子構成員:がんフォーラム山梨理事長)—などの意見・提案が出ています。こうした意見等も参考に、今後、議論を深めていきます。

職域のがん検診の諸問題解決には、法整備が必要不可欠

ところで、がん検診には、大きく「市町村の実施する住民検診」と「事業所等で行われる職域検診」があります。

検診受診者の3―6割は、後者の「職域検診」を受けており、非常に重要な役割を担っていますが、▼医療保険者(健康保険組合、協会けんぽなど)や事業者ごとにがん検診の種類、検査項目、年齢等が様々である▼胃がん・子宮頸がん・乳がん・大腸がんにおいては、「希望者へのオプション」あるいは「一定条件下」で提供されることが多い(必ずしも全員が受けているわけではない)▼要精密検査対象者を把握している医療保険者はおよそ3割程度にとどまっている▼「科学的根拠に基づくがん検診」について理解できないまま検診内容を決定している医療保険者もある▼内容は理解はしていても、マニュアル通りに実施できていない医療保険者もある▼被扶養者で受診率が低い—などの課題も従前より指摘されています(関連記事はこちらこちら))。

医療保険者にがん検診の実施方法にはバラつきが大きい(がん検診あり方検討会(2)2 230130)

子宮頸がん・乳がんについては「オプション」で実施する医療保険者が多い(がん検診あり方検討会(2)3 230130)

がん検診の費用について医療保険者が全額または一部を補助するケースが多い(がん検診あり方検討会(2)4 230130)

医療保険者による要精検情報の把握状況などは芳しくない(がん検診あり方検討会(2)5 230130)



こうした状況の背景について、検討会では「職域でのがん検診には明確な法的根拠がない(職域検診は労働安全衛生法に基づいて行われるが、その中に『がん』の項目が明確に規定されていない)。このため、例えば要精密検査対象者を把握することも難しい(検診結果は重要な個人情報であり、被検者自身の同意なしに医療保険者等が収集・解析等することはできない)」、「検診項目を『科学的根拠があるもの』へと、従前から変えようとしても、企業サイドから反発が出ることもある。例えば『科学的根拠に基づき、●●検診は従前は30歳以上であったが、40歳以上とする』などの見直しをしようとしても、企業から『なぜ対象を狭めるのか』と反発が出ることもある」といった状況が報告されました。

こうした事態を打開するために、「職域のがん検診について、法整備を正面から考えるべき」旨の見解が、中山富雄構成員(国立がん研究センターがん対策研究所検診研究部部長)や松田一夫構成員(福井県健康管理協会がん検診事業部長)、中川恵一構成員(東京大学大学院医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授)、河本伊津子構成員(倉敷市保健所副参事(兼)健康づくり課長)らから強く出されています。

がん検診のあるべき姿と実態との乖離を解消する方策の検討が必要

さらに、7月4日の検討会では、今後のがん検診の全体の改善に向けて、▼第4期がん対策推進基本計画の内容や、直近の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」改正等(厚労省サイトはこちら)を踏まえ、2024年度版「がん検診事業のあり方について」を発出する▼今後の報告書(がん検診の精度管理・事業評価に関する考え方)の見直しの頻度等を、がん対策推進基本計画の見直しに合わせる—といった方針が固められました。

上述のように、医学・医療の進展に伴って「がん検診の内容」は改善・充実されてきています。しかし、例えば胃がん検診における胃内視鏡検査(2016年導入)については、4割の自治体で導入されていないなど、「実態が指針に追いついていない」状況もあります。

このため、▼地域によって医療資源の状況が異なり、当然、がん検診の内容にも差が出るが、放置は許されない。一定の期間を置いたうえで、あるべき検診について示し、その状況をフォローしていくことが重要ではないか(黒瀬構成員)▼あるべき姿と実態との乖離状況を詳しく把握し、どうすれば適切ながん検診が進むのかという対策も検討していくべき(松田構成員)—などの意見が出されています。



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