超希少がん「胞巣状軟部肉腫」に対する免疫チェックポイント阻害薬「アテゾリズマブ」(テセントリク)の有効性・安全性を確認—国がん
2025.2.25.(火)
超希少がんである「胞巣状軟部肉腫」について、切除不能な場合には、これまで有効な治療法がなかったが、今般、免疫チェックポイント阻害薬「アテゾリズマブ」(テセントリク点滴静注)の有効性・安全性が確認され、薬事承認を得られた。そこには患者申出療養のデータも含まれる—。
国立がん研究センターが2月20日に、こうした研究結果を発表しました(国がんのサイトはこちら)。
希少がんに対する産学共同プロジェクト「MASTER KEYプロジェクト」を活用
胞巣状軟部肉腫(ほうそうじょうなんぶにくしゅ)は、皮下組織や筋肉などの軟部組織から発生する悪性腫瘍です。全身のあらゆる部位に発生し、約60%は四肢(うち3分の2が太ももなどの下肢)に発生します(胞巣状軟部肉腫に関する国がんサイトはこちら)統計(2022年の全国骨・軟部腫瘍登録一覧表)によれば、2006-22年の17年間に登録された症例は263例と非常に稀で、AYA世代(一般的に15-39歳)での発症が目立ちます。
胞巣状軟部肉腫に対する治療法は「手術による完全切除」が基本です。切除不能の場合には、米国では2022年12月に免疫チェックポイント阻害薬の「アテゾリズマブ」(販売名:テセントリク点滴静注840mg、同点滴静注1200mg)について効能・効果が認められたものの、本邦ではドラッグ・ラグの状況が続いており、基本的には「緩和治療のみ」が実施されています。
そこで今般、国がん中央病院を含む4施設で「胞巣状軟部肉腫に対する免疫チェックポイント阻害薬『アテゾリズマブ』(テセントリク点滴静注)の有効性・安全性」を検討する第II相医師主導治験(ALBERT試験)を実施。▼本治験の成績(ここには「小児・AYA がんに対する遺伝子パネル検査結果等に基づく複数の分子標的治療に関する患者申出療養」のデータも含まれる)▼米国における臨床試験の成績—をもとに、免疫チェックポイント阻害薬「アテゾリズマブ」(テセントリク点滴静注)について、「成人および2歳以上の小児の切除不能な胞巣状軟部肉腫」に対する効能・効果が薬事承認されました(本年(2025年)2月20日)。
胞巣状軟部肉腫患者にとって、有効・安全な治療法の選択肢が生まれたことは、大きな朗報と言えるでしょう。
本研究は、希少がんに対する産学共同プロジェクト「MASTER KEYプロジェクト」の枠組みとして実施されました。希少がんでは、一つ一つの患者数が少なく、臨床試験もあまり行われてこなかったため「標準治療が十分に確立されていない」「新しい薬剤治療を受けられる機会が限られる」という問題があります。この問題に国がんと製薬企業が共同で取り組む研究が「MASTER KEYプロジェクト」で、本年(2025年)1月31日時点で▼固形がん:4096症例▼血液がん:494症例—の遺伝子情報や診療情報、予後データなどを網羅的に集積したデータベースを構築しています。このデータベースを活用し、すでに33件(うち実施中6件)の医師主導治験・企業治験を実施し希少な遺伝子変異に対するがん種横断的治療薬の開発にもつなげています。
この「MASTER KEYプロジェクト」の枠組みを用いて、国がんと製薬メーカー(中外製薬社)とが共同し、上述した「切除不能胞巣状軟部肉腫に対するアテゾリズマブ(テセントリク点滴静注)療法の多施設共同第II相医師主導治験」が実施されました。好発年齢である 16歳以上の切除不能な胞巣状軟部肉腫の患者20名を対象に、テセントリク点滴静注投与試験が行われ、有効性については「2名で完全奏効」が認められ(CTや内視鏡検査で「がんが完全に消失」した状態)、安全性については「主な副作用は発熱やリンパ球減少で、いずれもコントロール可能な事象であった」ことが報告されています。
我が国のがん対策のベースとなる「がん対策推進基本計画」(第4期)でも、「希少がん対策」が重要施策の1つに位置付けられており、「MASTER KEYプロジェクト」を活用した希少がん治療法開発などがさらに進むことに期待が集まります。

第4期がん対策推進基本計画の概要(がん対策推進協議会(1)1 240805)
【更新履歴】胞巣状軟部肉腫の症例数について「2006-15年に263例」と記載していましたが「2006-2022年に263症例」の誤りでした。また、統計名について「全国骨・軟骨腫瘍登録一覧表」と記載していましたが「全国骨・軟部腫瘍登録一覧表」の誤りでした。申し訳ございません。お詫びして訂正いたします。記事は訂正済です。
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