小児・AYAがん患者へ「効果ある未承認等の分子標的薬」を迅速投与する仕組み、製薬メーカー協力で対象薬剤さらに拡大―患者申出療養評価会議
2024.5.24.(金)
小児がん患者、AYA世代のがん患者に対し「効果が期待される未承認・適応外の分子標的薬」を投与できる仕組みを事前に準備しておき、患者・家族の要望があったに際に迅速な投与を可能とする仕組みが、本年(2024年)1月18日からスタートしている—。
製薬メーカーの協力を得て、対象となる分子標的をさらに拡大する(計8種類)—。
5月23日に開催された患者申出療養評価会議で、こういった点が了承されました。
進行性神経膠腫小児へのダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法、京大病院等でも実施
患者申出療養は、傷病と闘う患者の「海外で開発された未承認(保険外)等の医薬品や医療機器を使用してみたい」という希望・申し出を起点に、当該医療技術(未承認の医薬品等)に一定の安全性・有効性があることを評価会議で確認した上で、保険診療との併用を許可する仕組みです(2016年4月スタート)。
これまでに、次の18種類の患者申出療養が認められています(ただし「1」「2」「3」「4」「5」「10」「11」「7」「12」の技術がすでに新規患者の登録を終了)。
(1)腹膜播種・進行性胃がん患者への「パクリタキセル腹腔内投与および静脈内投与ならびにS-1内服併用療法」
(2)心移植不適応な重症心不全患者への「耳介後部コネクターを用いた植込み型補助人工心臓による療法」(関連記事はこちら)
(3)難治性天疱瘡患者への「リツキシマブ静脈内投与療法」(関連記事はこちら)
(4)髄芽腫、原始神経外胚葉性腫瘍または非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍患者への「チオテパ静脈内投与、カルボプラチン静脈内投与およびエトポシド静脈内投与ならびに自家末梢血幹細胞移植術の併用療法」(関連記事はこちら)
(5)ジェノタイプ1型C型肝炎ウイルス感染に伴う非代償性肝硬変患者への「レジパスビル・ソホスブビル経口投与療法」(関連記事はこちら)
(6)進行固形がん(線維芽細胞増殖因子受容体に変化を認め、従来治療法が無効、かつインフィグラチニブによる治療を行っているものに限る)患者への「インフィグラチニブ経口投与療法」(関連記事はこちら)
(7)早期乳がん患者への「ラジオ波熱焼灼療法」(関連記事はこちら)
(8)遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」(関連記事はこちらとこちら)
(9)HER2陽性の手術不能または再発の乳房外パジェット病患者に対する「トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ点滴静注用)静脈内投与療法」(関連記事はこちら)
(10)ROS1融合遺伝子陽性の進行性小児脳腫瘍患者に対する「エヌトレクチニブ(販売名:ロズリートレクカプセル)の経口投与療法」(関連記事はこちら)
(11)免疫グロブリンGサブクラス4自己抗体陽性難治性慢性炎症性脱髄性多発神経炎患者に対する「リツキシマブ追加投与療法」(関連記事はこちら)
(12)BRAFV600変異陽性の進行性神経膠腫を有する小児を対象とした「ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法」(関連記事はこちら)
(13)BRAFV600変異陽性の局所進行・転移性小児固形腫瘍に対する「ダブラフェニブ・トラメチニブの第II相試験」(関連記事はこちら)
(14)EZH2阻害薬の有効性が期待される標準治療がない、または治療抵抗性の小児・AYA悪性固形腫瘍に対する「タゼメトスタット療法」(関連記事はこちら)
(15)胸部悪性腫瘍に対する「経皮的凍結融解壊死療法」(関連記事はこちらとこちら)
(16)筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する「EPI-589再投与」の安全性に関する研究こちら)
(17)線維芽細胞増殖因子受容体阻害薬投与歴のある進行固形がん患者に対するペミガチニブ経口投与療法(関連記事はこちら)
(18)小児・AYAがんに対する遺伝子パネル検査結果等に基づく複数の分子標的治療(関連記事はこちら)
5月23日の会合では、「8」「13」「18」「6および17」「18」の技術を議題としました。
まず「18」の技術について見てみましょう。
我が国でも「がんゲノム医療」が推進されてきており、次のような流れで進められています。
▽患者の同意を得た上で、患者の遺伝子情報・臨床情報を「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT、国立がん研究センターに設置)に送付する
↓
▽C-CATで、送付されたデータを「がんゲノム情報のデータベース」(がんゲノム情報レポジトリー・がん知識データベース)に照らし、当該患者のがん治療に有効と考えられる抗がん剤候補や臨床試験・治験などの情報を整理する
↓
▽がんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)において、C-CATからの情報を踏まえて当該患者に最適な治療法を選択し、これに基づいた医療を提供する
ただし、遺伝子パネル検査により有効な抗がん剤が見つかる可能性は現時点では1割弱にとどまっており(関連記事はこちら)、また「有効な抗がん剤が見つかったものの、保険適応外(当該がん種への効能効果が薬事承認されていない)・未承認(本邦での使用が薬事承認されていない)であった」というケースも少なくありません。
適応外・未承認の抗がん剤を使用する場合には、原則として「一連の治療すべてが自己負担」となり(混合診療の禁止)、患者の経済的負担が非常に重くなります。このため治療をあきらめざるを得ないケースも生じえます。
そこで、2019年秋に8番目の患者申出療養として「遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する『マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療』」が設けられました(関連記事はこちら)。
抗がん剤ごとに、いわば「実施計画の雛形」を準備しておき、標準治療を終えた、あるいは標準治療のないがん患者が希望した場合、迅速に「奏効する可能性がある」抗がん剤にアクセスできるような環境を整えておくものです。
ただし、小児患者やAYAがん患者では「この仕組みを利用しにくい」との声があり、本年(2024年)1月から「小児版の仕組み」が設けられるました(関連記事はこちら)。
成人の仕組み((8)の仕組み)と同様に、あらかじめ▼国立がん研究センターで、いわば『患者申出療養の計画』の雛形作成までを準備しておく▼多くの抗がん剤(分子標的薬)を使用可能とする手続きを踏んでおく—こととし、実際に患者から「未承認・適応外の抗がん剤を使用したい」と要望があった際、速やかにこの仕組みに則って「未承認・適応外の医薬品を患者申出療養の中で使用できる」ような体制が整えられています。
対象患者は、「標準治療がない、または標準治療に不応・不耐であり、次の(a)(b)いずれかに該当するゼロ歳から29歳のがん患者」で、すでに「4名」の患者について、患者申出療養制度に基づく適応外・未承認の抗がん剤治療が開始されています。
(a)遺伝子パネル検査(我が国で保険適用済み・評価療養として実施)を受け、actionableな遺伝子異常を有することが判明している。かつ、エビデンスレべルD以上と判定されたactionableな病的バリアンスと、それに基づく治療選択肢を提示したエキスパートパネル報告書、およびその根拠となった遺伝子パネル報告書がある
(b)我が国または海外(FDA(アメリカ食品医薬品局)またはEMA(欧州医薬品庁))で薬事承認された分子標的薬(▼我が国で成人には薬事承認されているが小児では承認されていない(小児の用法用量の記載がない)医薬品▼海外(FDAまたはEMA)で小児に薬事承認されているが、我が国で小児に薬事承認されていない医薬品—)の適応がん種と病理学的に診断されている
使用対象となる抗がん剤(分子標的薬)としては、これまでにメーカーの協力により、次の7種類の薬剤が対象となっています(無償提供、関連記事はこちら)。
▽グリベック錠(一般名:イマチニブメシル酸塩)
▽ヴォトリエント錠(一般名:パゾパニブ塩酸塩)
▽ジャカビ錠(一般名:ルキソリチニブリン酸塩)
▽メキニスト錠(一般名:トラメチニブ ジメチルスルホキシド付加物)
▽テセントリク点滴静注(一般名:アテゾリズマブ(遺伝子組換え))
▽カボザンチニブ(販売名:カボメティクス錠)
▽バレメトスタット(販売名:エザルミア錠)
さらに今般、新たに次の薬剤について製薬メーカーから無償提供されることとなり、実施計画の見直しが了承されました(上記と含め、合計8薬剤となった)。
▽ザーコリカプセル(クリゾチニブ)
本制度(患者申出療養)の中で「小児がん患者にも奏効する」可能性が見えてくれば、そのデータも踏まえて「適用拡大」(→メーカーにとっては販路拡大)につながる可能性もあります。今後も、製薬メーカーのさらなる協力により対象薬剤が拡大していくことに期待が集まります。
このほか、5月23日の会合では次のような方針も決定されました。
▽「8」の技術「遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する『マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療』」(上述した(18)技術のベースとなる成人版の仕組み)について、実施医療機関に「がん研究会有明病院」(東京都江東区)を追加する(内容は前回会合で了承されており、今回は実施計画見直しの報告が行われた)
▽「13」の技術「BRAFV600変異陽性の局所進行・転移性小児固形腫瘍に対する「ダブラフェニブ・トラメチニブの第II相試験」について、実施医療機関に「京都大学医学部附属病院」(京都府京都市)および「国立がん研究センター中央病院」(東京都中央区)を追加する
→現在、北海道大学病院で実施されているが、実施医療機関を拡大することで患者の通院・入院負担を軽減し、研究参加者の登録促進を図る(関連記事はこちら)
▽「6」の技術(進行固形がん(線維芽細胞増殖因子受容体に変化を認め、従来治療法が無効、かつインフィグラチニブによる治療を行っているものに限る)患者への「インフィグラチニブ経口投与療法」)について、終了後に対象患者が「本技術の実施計画書に定められた要件を満たしていない」ことが判明
→本患者は、「17」の技術(線維芽細胞増殖因子受容体阻害薬投与歴のある進行固形がん患者に対するペミガチニブ経口投与療法)の対象者でもあり、実施施設である名古屋大学医学部附属病院において「事実関係の詳細な調査」「認定臨床研究審査委員会(CRB)や倫理審査委員会で技術実施の可否の再検討」などを実施
→名大病院において再発防止策(患者情報収集の徹底、患者・家族への教育の徹底など)を実施するとともに、実施計画や患者説明文書等に「試験の参加基準を満たしていないことが判明した場合には、臨床試験を中止する」旨を明記するとともに、患者から再同意を取得する(関連記事はこちら)
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