小児・AYAがん患者へ「効果のある未承認等の分子標的薬」を迅速投与できる仕組み、2024年1月18日スタート―患者申出療養評価会議
2023.12.25.(月)
小児がん患者、AYA世代のがん患者に対し「効果が期待される未承認・適応外の分子標的薬」を投与できる仕組みを事前に準備しておき、患者・家族の要望があったに際に迅速な投与を可能とする—。
その際、保険診療と保険外診療(未承認・適応外の分子標的薬)との併用を可能とする—。
12月21日に開催された患者申出療養評価会議で、こういった点が了承されました。年明け1月18日から適用されます。
がんゲノム医療で「適応外の抗がん剤が最適」とされた際に、患者申出療養を活用
患者申出療養は、傷病と闘う患者の「海外で開発された未承認(保険外)等の医薬品や医療機器を使用してみたい」という希望・申し出を起点に、当該医療技術(未承認の医薬品等)に一定の安全性・有効性があることを評価会議で確認した上で、保険診療との併用を許可する仕組みです(2016年4月スタート)。
これまでに、次の17種類の患者申出療養が認められています(ただし「1」「2」「3」「4」「5」「10」「11」の技術がすでに新規患者の登録を終了、さらに後述するように「7」「12」の技術も終了する)。
(1)腹膜播種・進行性胃がん患者への「パクリタキセル腹腔内投与および静脈内投与ならびにS-1内服併用療法」
(2)心移植不適応な重症心不全患者への「耳介後部コネクターを用いた植込み型補助人工心臓による療法」(関連記事はこちら)
(3)難治性天疱瘡患者への「リツキシマブ静脈内投与療法」(関連記事はこちら)
(4)髄芽腫、原始神経外胚葉性腫瘍または非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍患者への「チオテパ静脈内投与、カルボプラチン静脈内投与およびエトポシド静脈内投与ならびに自家末梢血幹細胞移植術の併用療法」(関連記事はこちら)
(5)ジェノタイプ1型C型肝炎ウイルス感染に伴う非代償性肝硬変患者への「レジパスビル・ソホスブビル経口投与療法」(関連記事はこちら)
(6)進行固形がん(線維芽細胞増殖因子受容体に変化を認め、従来治療法が無効、かつインフィグラチニブによる治療を行っているものに限る)患者への「インフィグラチニブ経口投与療法」(関連記事はこちら)
(7)早期乳がん患者への「ラジオ波熱焼灼療法」(関連記事はこちら)
(8)遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」(関連記事はこちらとこちら)
(9)HER2陽性の手術不能または再発の乳房外パジェット病患者に対する「トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ点滴静注用)静脈内投与療法」(関連記事はこちら)
(10)ROS1融合遺伝子陽性の進行性小児脳腫瘍患者に対する「エヌトレクチニブ(販売名:ロズリートレクカプセル)の経口投与療法」(関連記事はこちら)
(11)免疫グロブリンGサブクラス4自己抗体陽性難治性慢性炎症性脱髄性多発神経炎患者に対する「リツキシマブ追加投与療法」(関連記事はこちら)
(12)BRAFV600変異陽性の進行性神経膠腫を有する小児を対象とした「ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法」(関連記事はこちら)
(13)BRAF V600変異陽性の局所進行・転移性小児固形腫瘍に対する「ダブラフェニブ・トラメチニブの第II相試験」(関連記事はこちら)
(14)EZH2阻害薬の有効性が期待される標準治療がない、または治療抵抗性の小児・AYA悪性固形腫瘍に対する「タゼメトスタット療法」(関連記事はこちら)
(15)胸部悪性腫瘍に対する「経皮的凍結融解壊死療法」(関連記事はこちらとこちら)
(16)筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する「EPI-589再投与」の安全性に関する研究こちら)
(17)線維芽細胞増殖因子受容体阻害薬投与歴のある進行固形がん患者に対するペミガチニブ経口投与療法(関連記事はこちら)
12月21日の会合では、18番目の患者申出療養として「小児・AYAがんに対する遺伝子パネル検査結果等に基づく複数の分子標的治療に関する患者申出療養」が承認されました。
Gem Medでも繰り返し報じているとおり、我が国でも「がんゲノム医療」が実施・推進されてきています。がんゲノム医療は次のような流れで進められます。
▽患者の同意を得た上で、患者の遺伝子情報・臨床情報を「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT、国立がん研究センターに設置)に送付する
↓
▽C-CATで、送付されたデータを「がんゲノム情報のデータベース」(がんゲノム情報レポジトリー・がん知識データベース)に照らし、当該患者のがん治療に有効と考えられる抗がん剤候補や臨床試験・治験などの情報を整理する
↓
▽がんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)において、C-CATからの情報を踏まえて当該患者に最適な治療法を選択し、これに基づいた医療を提供する
ただし、遺伝子パネル検査により有効な抗がん剤が見つかる可能性は現時点では1割弱にとどまっており(関連記事はこちら)、また「有効な抗がん剤が見つかったものの、保険適応外(当該がん種への効能効果が薬事承認されていない)・未承認(本邦での使用が薬事承認されていない)であった」というケースも少なくありません。
適応外・未承認の抗がん剤を使用する場合には、原則として「一連の治療すべてが自己負担」となり(混合診療の禁止)、患者の経済的負担が非常に重くなります。このため治療をあきらめざるを得ないケースも生じえます。
そこで、患者の経済的負担を軽減し、円滑に「未承認・適応外の抗がん剤にアクセス」可能とするために患者申出療養制度が設けられました。通常診療部分は医療保険を使って1-3割負担、未承認・適応外の医薬品費などは保険外の自己負担とするものです。
2019年秋には8番目の患者申出療養として「遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する『マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療』」が設けられました(関連記事はこちら)。しかし「小児がん、AYAがん患者では、この仕組みを利用しにくい」との声があり、今般、小児版の仕組みが設けられるものです。
あらかじめ▼国立がん研究センターで、いわば『患者申出療養の計画』の雛形作成までを準備しておく▼多くの抗がん剤(分子標的薬)を使用可能とする手続きを踏んでおく—こととし、実際に患者から「未承認・適応外の抗がん剤を使用したい」と要望があった際、速やかにこの仕組みに沿って「未承認・適応外の医薬品を患者申出療養の中で使用できる」ような体制を整えます。
対象患者は、「標準治療がない、または標準治療に不応・不耐であり、次の(a)(b)いずれかに該当するゼロ歳から29歳のがん患者」です。
(a)遺伝子パネル検査(我が国で保険適用済み・評価療養として実施)を受け、actionableな遺伝子異常を有することが判明している。かつ、エビデンスレべルD以上と判定されたactionableな病的バリアンスと、それに基づく治療選択肢を提示したエキスパートパネル報告書、およびその根拠となった遺伝子パネル報告書がある
(b)我が国または海外(FDA(アメリカ食品医薬品局)またはEMA(欧州医薬品庁))で薬事承認された分子標的薬(▼我が国で成人には薬事承認されているが小児では承認されていない(小児の用法用量の記載がない)医薬品▼海外(FDAまたはEMA)で小児に薬事承認されているが、我が国で小児に薬事承認されていない医薬品—)の適応がん種と病理学的に診断されている
このうち(a)は成人の仕組み((8)の技術)と同様ですが、小児では(b)のケースも患者申出療養の対象となります。
対象となる抗がん剤(分子標的薬)は、これまでに明らかにされた、ノバルティスファーマ社の▼グリベック錠▼ヴォトリエント錠▼ジャカビ錠▼メキニスト錠—に加えて、中外製薬社のテセントリク点滴静注が無償提供されます。製薬メーカーの協力により、徐々に対象薬剤が拡大していくと見込まれます。
こうした要件を満たす患者・家族から「効果があると予測される抗がん剤(分子標的薬)を使用したい」との要望があった場合に、医師からの十分な説明と患者サイドの同意(安全性が十分に確認されていないことなど)を経て、適応外の抗がん剤(分子標的薬)投与がなされます。事前に1つ1つの抗がん剤について「当該薬剤を使用する場合の患者申出療養計画」を作成しておき、ここにマッチする患者が現れた場合には、この計画に沿って迅速に当該薬剤を用いた治療が開始されるイメージです。
各薬剤について「30症例」(6症例で中間解析を実施)を対象とし、投与後(追跡期間1年間)のデータ(用量制限毒性(Dose Limiting Toxicity, DLT)相当の有害事象発現割合、有害事象発生割合、奏効割合、病勢制御割合、無増悪生存期間、全生存期間、薬物動態パラメータなど)を収集し、将来の適応拡大(小児の用法用量追加→保険適用の拡大)を目指します。
この仕組みで得られたデータも活用し、「抗がん剤(分子標的薬)の小児等への適応拡大」などが進めば、がん対策の中で大きな問題となっている「小児におけるドラッグラグ・ロス」について解消の糸口が見えてくるとともに、何よりも「現在、闘病中の小児がん患者やその家族」が最適な治療法へアクセスできる環境が整います。
本技術は「国立がん研究センター中央病院」(東京都中央区)で実施されますが、「がんゲノム医療中核拠点病院かつ小児がん中央機関または小児がん拠点病院である医療機関」での共同実施も予定されています。この要件を満たす医療機関としては、▼北海道大学病院▼東北大学病院▼名古屋大学医学部附属病院▼京都大学医学部附属病院▼九州大学病院―があげられます(関連記事はこちら(がんゲノム医療中核拠点病院)とこちら(小児がん拠点病院等))。この点について患者代表として会議に参画する天野慎介構成員(全国がん患者団体連合会理事長)は「小児患者、家族の負担を考慮し、できるだけ近くの小児がん拠点病院等でゲノム医療を受けられるようにしてほしい」と要望しています。患者サイドとして当然の要望ですが、「小児がん患者は少数であり、多くの施設に症例が分散してしまえば、医療の質が低下してしまう」危険もあります。「患者のアクセス」と「医療の質」とのバランスをとった実施施設拡大が求められます。
年明け1月17日に関係法令の整備(告示改正)が行われ、翌1月18日から本制度がスタートします。小児がん・AYAがんの患者・家族には「効果的な治療法にアクセスしやすくなる」朗報と言えます。
このほか12月21日の患者申出療養では、次のような点も議論されました。
▽7番目の技術「早期乳がん患者へのラジオ波熱焼灼療法」)について、当該技術が保険適用されたため、患者申出療養から削除する(関連記事は「早期乳がん患者へのラジオ波熱焼灼療法」)
→天野構成員から「再発リスク」を考慮し、保険適用後にも適切な追跡調査などを行ってほしいとの要望が出ている
▽11番目の技術「免疫グロブリンGサブクラス4自己抗体陽性難治性慢性炎症性脱髄性多発神経炎患者に対するリツキシマブ追加投与療法」についての総括報告書を受領
→症例数が少なく統計的に「有効性・安全性」を示すことはできないが、5症例中4例(80%)で、日常生活を送る上で大きな変動と考えられる評価スケール1点以上の変動(改善)が認められたこと、別に行われた医師主導治験で被験者の67%で有効性が認められた(プラセボ群では20%)ことを参考に「本技術の有効性」などを考えていくべきとの議論が行われている
▽12番目の技術BRAFV600変異陽性の進行性神経膠腫を有する小児を対象としたダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法」について、4症例で実施継続しているが、今般、ダブラフェニブ・トラメチニブの保険適用拡大が承認され、4症例すべてが保険適用拡大対象となったことから、本技術を終了する
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