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GemMed塾 新制度シミュレーションリリース

「進行性胃がんへのパクリタキセル・S-1併用」療法、エビデンスないまま自由診療を継続することが適切か―患者申出療養評価会議

2022.7.22.(金)

1番目の患者申出療養である「腹膜播種・進行性胃がん患者へのパクリタキセル腹腔内投与および静脈内投与ならびにS-1内服併用療法」について、「今後、臨床研究を行う予定がない」中で「自由診療」としても実施されているが、これは好ましいと言えるのであろうか—。

10番目の患者申出療養である「ROS1融合遺伝子陽性の進行性小児脳腫瘍患者に対するエヌトレクチニブ経口投与療法」について、「がん細胞が際限なく増殖する患者であるが、腫瘍増大が認められなかった」との有効性が示唆される結果が出たが、「わずか1症例のみ」のデータであり、有効性・安全性の評価は困難である—。

7月21日に開催された患者申出療養評価会議で、こういった議論が行われました。

7月21日に開催された「第33回 患者申出療養評価会議」

S-1+パクリタキセル併用療法、自由診療での実施を問題視する声が再び

患者申出療養は、傷病と闘う患者の「海外で開発された未承認(保険外)等の医薬品や医療機器を使用してみたい」という希望・申し出を起点に、当該医療技術(未承認の医薬品等)に一定の安全性・有効性があることを評価会議で確認した上で、保険診療との併用を許可する仕組みです(2016年4月スタート)。

これまでに、次の12種類の患者申出療養が認められています(ただし「2」「3」「4」「5」の技術はすでに終了。また後述するように今般「10」の技術も終了)。
(1)腹膜播種・進行性胃がん患者への「パクリタキセル腹腔内投与および静脈内投与ならびにS-1内服併用療法」
(2)心移植不適応な重症心不全患者への「耳介後部コネクターを用いた植込み型補助人工心臓による療法」(関連記事はこちら
(3)難治性天疱瘡患者への「リツキシマブ静脈内投与療法」(関連記事はこちら
(4)髄芽腫、原始神経外胚葉性腫瘍または非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍患者への「チオテパ静脈内投与、カルボプラチン静脈内投与およびエトポシド静脈内投与ならびに自家末梢血幹細胞移植術の併用療法」(関連記事はこちら
(5)ジェノタイプ1型C型肝炎ウイルス感染に伴う非代償性肝硬変患者への「レジパスビル・ソホスブビル経口投与療法」(関連記事はこちら
(6)進行固形がん(線維芽細胞増殖因子受容体に変化を認め、従来治療法が無効、かつインフィグラチニブによる治療を行っているものに限る)患者への「インフィグラチニブ経口投与療法」(関連記事はこちら
(7)早期乳がん患者への「ラジオ波熱焼灼療法」(関連記事はこちら
(8)遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」(関連記事はこちらこちら
(9)HER2陽性の手術不能または再発の乳房外パジェット病患者に対する「トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ点滴静注用)静脈内投与療法」(関連記事はこちら
(10)ROS1融合遺伝子陽性の進行性小児脳腫瘍患者に対する「エヌトレクチニブ(販売名:ロズリートレクカプセル)の経口投与療法」(関連記事はこちら
(11)免疫グロブリンGサブクラス4自己抗体陽性難治性慢性炎症性脱髄性多発神経炎患者に対する「リツキシマブ追加投与療法」(関連記事はこちら
(12)BRAFV600変異陽性の進行性神経膠腫を有する小児を対象とした「ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法」(関連記事はこちら



6月23日の会合では、このうち「1」「10」の技術が主な議題にあがりました。

「1」の技術は、腹膜播種陽性または腹腔細胞診陽性の胃がん患者に対し▼S-1(テガフール、ギメラシル、 オテラシルカリウムを配合した抗がん剤、胃がんや大腸がんへの効能・効果が認められている)の内服▼パクリタキセル(胃がんや乳がんへの効能・効果が認められている)の経静脈・ 腹腔内投与―を併用する技術です。有害事象発現状況や全生存期間、奏効割合、腹腔洗浄細胞診陰性化割合を評価項目として本技術の「有効性」や「安全性」の確認を行い、将来的な保険適用を目指します。

しかし、「腫瘍の進行が確認されるか、有害事象により継続困難となるまで反復(継続)する」こととされているため、「技術の有効性・安全性の最終的な評価をいつ行えるのかが不明」な、いわば「宙ぶらりん」な状況です(全111症例中、本年(2022年)6月23日時点で「3症例」で継続中)。

このため患者申出療養評価会議では、以前から「安全性・有効性を一定の段階で適切に評価し、次のステップを考える時期に来ているのではないか」との指摘があります。実施医療機関でもある東大病院もこの指摘を受け止め、6月23日の前回会合に「中間評価報告書」を提示しました。「治療継続中の患者がいるために最終評価はできないが、すでに治療を完了した患者について評価を行い、現時点での有効性・安全性を確認した」ものと言え、そこでは「高齢者、PS不良例や既治療例等が含まれていたにもかかわらず先行研究(先進医療B、すでに終了)と遜色ない結果が得られ、本療法の有効性が示唆されている」と結論づけています(関連記事はこちら)。

しかし、「先行研究では『優越性は示されなかった』との結果が出ているが、今般の中間報告では『優越性がある』との誤解を招く記載ぶりとなっている」などの批判が出されました(関連記事はこちら)。

さらに7月21日の会合でも、福井次矢座長(東京医科大学茨城医療センター病院長)から、改めて上記の点(「既存技術と比べた優越性あり」との誤解を招きかねない)について「不適切である」との指摘が出たほか、直江知樹構成員(名古屋医療センター名誉院長)から「中間報告では『高齢患者が多いにも関わらず先行研究と遜色ない結果云々』とあるが、これは『良い成績である』と暗に述べていると考えられるが、資料からは見いだせない。やはり不適切である」旨の指摘がなされました。

他方、患者代表の立場で参画する天野慎介構成員(全国がん患者団体連合会理事長)は「東大病院では自由診療で本技術を実施している。有効性・安全性に関する研究を続け薬事承認・保険適用を目指しているのであれば、一時的に自由診療での実施も認めて良いかと思えるが、東大病院サイドは『今後、臨床研究を行う予定はない』(企業側の協力が得られないため)との考えを示している。どのような考えで自由診療での本技術継続をしているのか確認すべき」と要望。

また、山口俊晴構成員(がん研究会有明病院名誉院長)も「製薬メーカーのサポートがなければ研究を進められないのはいかがなものか。関連学会が本技術や東大病院をどうサポートしようと考えているのかなども確認してはどうか。現状(エビデンス構築をしない)のまま自由診療で本技術を継続実施することは不適切ではないか」と提案しています。

こうした意見を踏まえて福井座長は、厚生労働省に対して、東大病院や関連学会に▼中間報告書の更なる修正(6月23日の前回会合での指摘を踏まえて修正がなされているが、今般の7月21日会合の指摘を踏まえてさらに修正が求められている)▼本技術を自由診療で継続する点—などについて確認するよう指示しました。

東大病院や関連学会の回答を待つ必要がありますが、「患者申出療養としての本技術について、治療継続中の患者がいるために『即時の中止』を求めることは難しい」「東大病院に対して『自由診療での本技術実施の中止』を求めることはできない」点に留意が必要です。今後、東大病院や学会が「自由診療を継続するのか否か」などに注目が集まります。

なお、中間報告書については「書きぶりに『思い入れ』が強く出すぎている。より中立的・科学的な記載とすべき」との指摘が出ているのみで、「本技術に有効性・安全性で問題がある」と指摘されているわけではない点にも留意が必要です。

ROS1融合遺伝子陽性・小児脳腫瘍へのエヌトレクチニブ投与、有効性が示唆されるが・・・

また「10」の技術については最終評価報告書が提出され、了承されました。

ROS1遺伝子と他の遺伝子が融合した「ROS1融合遺伝子」が陽性の患者では、▼ROS1融合遺伝子からROS1融合タンパクが生成される→▼ROS1融合タンクががん細胞を増殖させるスイッチを入れてしまう→▼がん細胞が限りなく増殖する—状態となってしまいます。こうしたROS1融合遺伝子陽性の進行性小児脳腫瘍については、現時点で有効な標準治療がなく、患者の予後は不良であるのが実態です。

この点、同じくROS1融合遺伝子陽性である別がん種(切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん)について「エヌトレクチニブ投与の有効性」が確認されている(効能・効果が認められている)ことを踏まえ、患者サイドから「小児脳腫瘍にも有効である可能性が海外治験で明らかとなっている」(脳腫瘍の縮小が見られた)ことを踏まえた希望があり、名古屋大学医学部附属病院で患者申出療養として実施されました。

今般、その結果について次のような最終評価が行われました。

【有効性】
→「Stable disease」 (SD、治療の前後でがんの大きさ(長径)がほぼ変わっておらず、腫瘍の増大が認められない)状態を得ることができたことは本治療法の有効性を示唆する
→しかし1例のみの報告であり本治療法の有効性を評価することは困難

【安全性】
→便秘以外の重篤な有害事象を認めなかった
→しかし1例のみの報告であり、本治療法の安全性を評価することは困難



「がんが際限なく増殖すると考えられる患者において、腫瘍の増大が認められない」結果が得られたことは朗報と言えそうです。

しかし、わずか「1例のみ」の結果であり「安全性・有効性を確認する」ことは困難です(患者申出療養に内在される大きな課題)。この点、最終評価を担当した五十嵐隆座長代理(国立成育医療研究センター理事長)は、「今後、複数の症例での検討で有効性・安全性を示唆する結果が得られた場合には、薬事承認申請の効率化に資する可能性がある」と期待を寄せています。

なお、「10」の技術は終了しており、今後、「同じ技術を患者申出療養として行いたい」と考える患者が現れた場合には、改めて「実施計画を作成し、患者申出療養評価会議の審査を受ける」ことになります。



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