15番目の患者申出療養、標準治療を実施できない胸部悪性腫瘍に対する「経皮的凍結融解壊死療法」を承認―患者申出療養評価会議
2023.3.31.(金)
15番目の患者申出療養として「胸部悪性腫瘍に対する経皮的凍結融解壊死療法」について、追加報告を受けて承認する—。
3月24日に持ち回り開催された患者申出療養評価会議で、こういった点が了承されました。
標準治療を実施できない胸部悪性腫瘍について「凍結・融解」を繰り返し壊死させる技術
患者申出療養は、傷病と闘う患者の「海外で開発された未承認(保険外)等の医薬品や医療機器を使用してみたい」という希望・申し出を起点に、当該医療技術(未承認の医薬品等)に一定の安全性・有効性があることを評価会議で確認した上で、保険診療との併用を許可する仕組みです(2016年4月スタート)。
これまでに、次の14種類の患者申出療養が認められています(ただし「2」「3」「4」「5」「10」の技術はすでに新規患者の登録を終了)。
(1)腹膜播種・進行性胃がん患者への「パクリタキセル腹腔内投与および静脈内投与ならびにS-1内服併用療法」
(2)心移植不適応な重症心不全患者への「耳介後部コネクターを用いた植込み型補助人工心臓による療法」(関連記事はこちら)
(3)難治性天疱瘡患者への「リツキシマブ静脈内投与療法」(関連記事はこちら)
(4)髄芽腫、原始神経外胚葉性腫瘍または非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍患者への「チオテパ静脈内投与、カルボプラチン静脈内投与およびエトポシド静脈内投与ならびに自家末梢血幹細胞移植術の併用療法」(関連記事はこちら)
(5)ジェノタイプ1型C型肝炎ウイルス感染に伴う非代償性肝硬変患者への「レジパスビル・ソホスブビル経口投与療法」(関連記事はこちら)
(6)進行固形がん(線維芽細胞増殖因子受容体に変化を認め、従来治療法が無効、かつインフィグラチニブによる治療を行っているものに限る)患者への「インフィグラチニブ経口投与療法」(関連記事はこちら)
(7)早期乳がん患者への「ラジオ波熱焼灼療法」(関連記事はこちら)
(8)遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」(関連記事はこちらとこちら)
(9)HER2陽性の手術不能または再発の乳房外パジェット病患者に対する「トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ点滴静注用)静脈内投与療法」(関連記事はこちら)
(10)ROS1融合遺伝子陽性の進行性小児脳腫瘍患者に対する「エヌトレクチニブ(販売名:ロズリートレクカプセル)の経口投与療法」(関連記事はこちら)
(11)免疫グロブリンGサブクラス4自己抗体陽性難治性慢性炎症性脱髄性多発神経炎患者に対する「リツキシマブ追加投与療法」(関連記事はこちら)
(12)BRAFV600変異陽性の進行性神経膠腫を有する小児を対象とした「ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法」(関連記事はこちら)
(13)BRAF V600変異陽性の局所進行・転移性小児固形腫瘍に対する「ダブラフェニブ・トラメチニブの第II相試験」(関連記事はこちら)
(14)EZH2阻害薬の有効性が期待される標準治療がない、または治療抵抗性の小児・AYA悪性固形腫瘍に対する「タゼメトスタット療法」(関連記事はこちら
3月17日の前回会合では、15番目の患者申出療養として「胸部悪性腫瘍に対する経皮的凍結融解壊死療法」の審議が行われました。
標準治療(手術、放射線治療)の適応とならない▼最大径3.5㎝以下の肺悪性腫瘍(転移性・原発性)▼同じく10㎝以下の縦隔悪性腫瘍・胸膜悪性腫瘍・胸壁悪性腫瘍—に対し、局所麻酔下・CTガイド下に凍結針を穿刺し、凍結機器「Visual-ICE」を用いて「凍結→融解」を3サイクル施行し、壊死を狙うものです。
すでに本技術を保険外で実施している慶應義塾大学病院では「保険適用までの間にも、本技術の実施を希望する患者がおり、経済的負担を軽減するために患者申出療養として実施することを認めてほしい」と申請しています。
標準治療を実施できない胸部悪性腫瘍患者に対し「治療法選択の幅を広げる」ものであること、海外でも一定の成果が得られている技術であることなどから、本技術の内容そのもの対し異論・反論は出ませんでしたが、「実施計画の中に、安全性(合併症として気胸が相当程度発生しうる(胸腔ドレーン留置が必要な気胸が2割弱発生している)点など)に関する記述が十分になされておらず(患者同意取得文書には十分な記載ある)、一部追加する必要がある」ことなどが問題となり、継続審議となりました(関連記事はこちら)。
この点、慶大病院から▼計画書に「海外の臨床研究において、Grade2の気胸が23.0%の治療手技で認められた」「慶大病院ではこれまでに18.0%の治療手技で気胸が認められ、11.2%で胸腔ドレーンの留置を施行し、うち0.6%で『胸腔ドレーンを介して胸腔内にピシバニールを散布することで胸腔内の癒着を惹起する処置』(胸膜癒着療法)を要した」などのリスクについて追記する▼「胸腔ドレーン留置した気胸事例のうち、ほとんどで気漏が自然停止し 、ごく一部で胸膜癒着療法を行ったが、外科的治療(手術)を要した症例はなかった」旨を報告する▼「これまでに慶大病院において、2002-16年に臨床研究として本技術が227例実施され、一定の有効性・安全性が確認されている」ことを報告する—旨の追加回答が寄せられました(厚労省サイトはこちら)
これを踏まえて患者申出療養評価会議が持ち回り開催され、「患者申出療養として承認する」(=保険診療と保険外診療の併用を認めることを「適」と考える)旨の結論が得られています。
本技術の概要は以下の通りで、上述のとおり「標準治療を行えない胸部悪性腫瘍患者」にとって治療の選択肢が広がることになると期待されます。
【対象患者】次のいずれをも満たす患者
▽胸部悪性腫瘍(原発巣あるいは転移巣の組織学的診断を得られている症例)
▼転移性肺腫瘍は、TNM分類のIV期に相当すること
▼原発性肺悪性腫瘍、縦隔・胸膜・胸壁悪性腫瘍は、初回治療以降の再発病変であること
▽標準治療の適応がない症例
▼手術への耐術能がない
▼病変の局在や放射線照射歴(2度目の放射線治療は行えない)などから放射線療法の適応がない
▼組織型から放射線療法や化学療法の効果が期待できない
▽治療標的病変数:3個以内
▽治療標的病変の最大径
▼肺悪性腫瘍:3.5cm以下
▼その他の胸部悪性腫瘍:10cm以下
▽治療標的病変以外に活動性病変がない
▽同意取得時の年齢が18歳以上79歳以下
▽ECOG performance status:0-2
▽試験治療を担当する放射線診断医、試験治療および標準治療である手術を担当する呼吸 器外科医、標準治療である放射線療法を担当する放射線治療医、標準治療である化学療法を担当する呼吸器内科医が参加する合同カンファレンスにて「適応がある」と判断すること
▽試験治療を担当する放射線診断医が技術的に施行可能と判断すること
▽患者本人から文書にて同意を得られていること
【評価項目】:主要項目は▼安全性については「Grade3以上の早期有害事象発生割合」(CTCAEver.5.0)▼有効性については「1年局所制御割合」「全生存期間」(RECISTガイドライン改訂版version 1.1)—とする
【症例数見込み】:20症例
【予定期間】:2026年9月まで
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