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小児・AYAがん患者へ「効果のある未承認等の分子標的薬」を迅速投与できる仕組み、メーカー協力で対象薬剤を拡大―患者申出療養評価会議

2024.2.26.(月)

小児がん患者、AYA世代のがん患者に対し「効果が期待される未承認・適応外の分子標的薬」を投与できる仕組みを事前に準備しておき、患者・家族の要望があったに際に迅速な投与を可能とする仕組みが、本年(2024年)1月18日からスタートしているが、対象となる分子標的を拡大する—。

2月22日に開催された患者申出療養評価会議で、こういった点が了承されました。

2月22日に開催された「第48回 患者申出療養評価会議」

患者申出療養において「がんゲノム医療」の知見蓄積し、新たな段階に進む

患者申出療養は、傷病と闘う患者の「海外で開発された未承認(保険外)等の医薬品や医療機器を使用してみたい」という希望・申し出を起点に、当該医療技術(未承認の医薬品等)に一定の安全性・有効性があることを評価会議で確認した上で、保険診療との併用を許可する仕組みです(2016年4月スタート)。

これまでに、次の18種類の患者申出療養が認められています(ただし「1」「2」「3」「4」「5」「10」「11」「7」「12」の技術がすでに新規患者の登録を終了)。
(1)腹膜播種・進行性胃がん患者への「パクリタキセル腹腔内投与および静脈内投与ならびにS-1内服併用療法」
(2)心移植不適応な重症心不全患者への「耳介後部コネクターを用いた植込み型補助人工心臓による療法」(関連記事はこちら
(3)難治性天疱瘡患者への「リツキシマブ静脈内投与療法」(関連記事はこちら
(4)髄芽腫、原始神経外胚葉性腫瘍または非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍患者への「チオテパ静脈内投与、カルボプラチン静脈内投与およびエトポシド静脈内投与ならびに自家末梢血幹細胞移植術の併用療法」(関連記事はこちら
(5)ジェノタイプ1型C型肝炎ウイルス感染に伴う非代償性肝硬変患者への「レジパスビル・ソホスブビル経口投与療法」(関連記事はこちら
(6)進行固形がん(線維芽細胞増殖因子受容体に変化を認め、従来治療法が無効、かつインフィグラチニブによる治療を行っているものに限る)患者への「インフィグラチニブ経口投与療法」(関連記事はこちら
(7)早期乳がん患者への「ラジオ波熱焼灼療法」(関連記事はこちら
(8)遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」(関連記事はこちらこちら
(9)HER2陽性の手術不能または再発の乳房外パジェット病患者に対する「トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ点滴静注用)静脈内投与療法」(関連記事はこちら
(10)ROS1融合遺伝子陽性の進行性小児脳腫瘍患者に対する「エヌトレクチニブ(販売名:ロズリートレクカプセル)の経口投与療法」(関連記事はこちら
(11)免疫グロブリンGサブクラス4自己抗体陽性難治性慢性炎症性脱髄性多発神経炎患者に対する「リツキシマブ追加投与療法」(関連記事はこちら
(12)BRAFV600変異陽性の進行性神経膠腫を有する小児を対象とした「ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法」(関連記事はこちら
(13)BRAF V600変異陽性の局所進行・転移性小児固形腫瘍に対する「ダブラフェニブ・トラメチニブの第II相試験」(関連記事はこちら
(14)EZH2阻害薬の有効性が期待される標準治療がない、または治療抵抗性の小児・AYA悪性固形腫瘍に対する「タゼメトスタット療法」(関連記事はこちら
(15)胸部悪性腫瘍に対する「経皮的凍結融解壊死療法」(関連記事はこちらこちら
(16)筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する「EPI-589再投与」の安全性に関する研究こちら
(17)線維芽細胞増殖因子受容体阻害薬投与歴のある進行固形がん患者に対するペミガチニブ経口投与療法(関連記事はこちら
(18)小児・AYAがんに対する遺伝子パネル検査結果等に基づく複数の分子標的治療(関連記事はこちら



2月2日の会合では、「8」「13」「18」の技術について、実施計画の見直しなどを承認しています。

まず「8」の技術について見てみましょう。

我が国でも「がんゲノム医療」が推進されてきています。がんゲノム医療は次のような流れで進められます。
▽患者の同意を得た上で、患者の遺伝子情報・臨床情報を「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT、国立がん研究センターに設置)に送付する

▽C-CATで、送付されたデータを「がんゲノム情報のデータベース」(がんゲノム情報レポジトリー・がん知識データベース)に照らし、当該患者のがん治療に有効と考えられる抗がん剤候補や臨床試験・治験などの情報を整理する

▽がんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)において、C-CATからの情報を踏まえて当該患者に最適な治療法を選択し、これに基づいた医療を提供する
がんゲノム医療拠点病院等指定要件ワーキンググループ1 190527

がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議2 190308



ただし、遺伝子パネル検査により有効な抗がん剤が見つかる可能性は現時点では1割弱にとどまっており(関連記事はこちら)、また「有効な抗がん剤が見つかったものの、保険適応外(当該がん種への効能効果が薬事承認されていない)・未承認(本邦での使用が薬事承認されていない)であった」というケースも少なくありません。

適応外・未承認の抗がん剤を使用する場合には、原則として「一連の治療すべてが自己負担」となり(混合診療の禁止)、患者の経済的負担が非常に重くなります。このため治療をあきらめざるを得ないケースも生じえます。

そこで、2019年秋に8番目の患者申出療養として「遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する『マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療』」が設けられました(関連記事はこちら)。

抗がん剤ごと実施計画の雛形を準備しておき、標準治療を終えた、あるいは標準治療のないがん患者が希望した場合、迅速に「奏効する可能性がある」抗がん剤にアクセスできるような環境を整えておくものです。製薬メーカーの協力により、投与対象可能な抗がん剤の種類が増えてきています(メーカーから無償提供される)。

今般、中間解析結果(15症例)をもとに、一部の抗がん剤について次のような対応を行うことが了承されました。

▽グリベック錠(一般名:イマチニブメシル酸塩)
→無効中止の要否を検討する閾値を下回った場合に該当したため、新規患者登録を終了し、今後追跡を行った上で統計解析を実施する(ただし、すでに実施計画に組み込まれている患者の治療は継続する)

▽ベージニオ錠(一般名:アベマシクリブ)
→無効中止の要否を検討する閾値を下回った場合に該当したため、新規患者登録を終了し、今後追跡を行った上で統計解析を実施する(ただし、すでに実施計画に組み込まれている患者の治療は継続する)

▽ゼジューラ錠(一般名:ニラパリブトシル酸塩水和物)
→無効中止の要否を検討する閾値を下回った場合に該当したが、新規患者登録を継続する



前2剤については、いわば「有効性に関する十分なデータが得られる見込みがなく、別の薬剤の可能性を探る」ことになるイメージです。一方、後1剤では「一部症例に効果が現れているため、新規の患者登録を継続する」ものです。がんゲノム医療に関する知見が、患者申出療養の中でも蓄積され、着々と「新しいステージに進んでいる」ことが伺えます。

小児がん患者「最適な抗がん剤」を届ける技術、新たな抗がん剤が無償提供される

また「18」の技術は、「8」技術の小児版と言えるかもしれません。

あらかじめ▼国立がん研究センターで、いわば『患者申出療養の計画』の雛形作成までを準備しておく▼多くの抗がん剤(分子標的薬)を使用可能とする手続きを踏んでおく—こととし、実際に患者から「未承認・適応外の抗がん剤を使用したい」と要望があった際、速やかにこの仕組みに沿って「未承認・適応外の医薬品を患者申出療養の中で使用できる」ような体制を整えます。

「適応外の抗がん剤」治療で効果があると判明した患者が、一刻も早く患者申出療養を申請できるよう、臨床研究中核病院で「下準備」を進めておく



対象患者は、「標準治療がない、または標準治療に不応・不耐であり、次の(a)(b)いずれかに該当するゼロ歳から29歳のがん患者」です。
(a)遺伝子パネル検査(我が国で保険適用済み・評価療養として実施)を受け、actionableな遺伝子異常を有することが判明している。かつ、エビデンスレべルD以上と判定されたactionableな病的バリアンスと、それに基づく治療選択肢を提示したエキスパートパネル報告書、およびその根拠となった遺伝子パネル報告書がある

(b)我が国または海外(FDA(アメリカ食品医薬品局)またはEMA(欧州医薬品庁))で薬事承認された分子標的薬(▼我が国で成人には薬事承認されているが小児では承認されていない(小児の用法用量の記載がない)医薬品▼海外(FDAまたはEMA)で小児に薬事承認されているが、我が国で小児に薬事承認されていない医薬品—)の適応がん種と病理学的に診断されている

このうち(a)は成人の仕組み((8)の技術)と同様ですが、小児では(b)のケースも患者申出療養の対象となります。

小児がん等に最適な分子標的薬使用を可能とする新たな仕組み1(患者申出療養評価会議1 230921)

小児がん等に最適な分子標的薬使用を可能とする新たな仕組み2(患者申出療養評価会議2 230921)



抗がん剤(分子標的薬)としては、これまでにメーカーの協力により、次の5種類の薬剤が対象となっています(無償提供)。
▽グリベック錠(一般名:イマチニブメシル酸塩)
▽ヴォトリエント錠(一般名:パゾパニブ塩酸塩)
▽ジャカビ錠(一般名:ルキソリチニブリン酸塩)
▽メキニスト錠(一般名:トラメチニブ ジメチルスルホキシド付加物)
▽テセントリク点滴静注(一般名:アテゾリズマブ(遺伝子組換え))

さらに今般、新たに次の2薬剤について製薬メーカーから無償提供されることとなり、実施計画の見直しが了承されました(上記と含め、合計7薬剤となる)。
▽カボザンチニブ(販売名:カボメティクス錠)
▽バレメトスタット(販売名:エザルミア錠)



患者申出療養の中で「小児がん患者にも奏効する」可能性が伺えれば、そのデータも踏まえて「適用拡大」(→メーカーにとっては販路拡大)につながる可能性もあります。今後も、製薬メーカーの協力により対象薬剤が拡大していくことに期待が集まります。

クラウドファンディングによる研究資金確保、「透明性確保」も今後の重要課題

また、「13」の技術は、保険適用済みの遺伝子パネル検査によって「BRAF V600変異陽性」と判明した局所進行・ 転移性小児固形腫瘍のある生後12か月-15歳の小児患者に対し、適応外である▼ダブラフェニブメシル酸塩(タフィンラーカプセル)▼トラメチニブ・ジメチルスルホキシド付加物(メキニスト錠)―を併用投与するものです。

昨秋(2023年11月)に、両剤の使用が「体重26kg以上の者」に対し保険適用となったことなどを受け、次のような実施計画の見直しが了承されました。

▽患者申出療養制度において使用する医薬品からダブラフェニブカプセルとトラメチニブ錠を除外する(26㎏以上の小児について)
▽対象疾患に「組織球症」を追加する
▽対象疾患から「結腸・直腸がん」を除外する
▽資金源にクラウドファンディングによる研究費を追記する(2000万円強を獲得でき、うち1950万円を患者負担減に充てる)



なお、2月22日の患者申出療養評価会議では「クラウドファンディングによる資金獲得」について、「今後の研究資金源として期待されるが、内容(出資者など)が見えにくくなる恐れがありそうした点をクリアにしていく必要がある」などの意見が多数の構成員から出されています。



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