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1番目の患者申出療養「進行性胃がんへのパクリタキセル・S-1併用療法」最終評価、対象患者絞り標準治療との比較を―患者申出療養評価会議

2024.4.26.(金)

1番目の患者申出療養「腹膜播種・進行性胃がん患者への『パクリタキセル腹腔内投与および静脈内投与ならびにS-1内服併用療法』」には、一定の有効性があり、安全性は相当程度確保されていると評価できる—。

4月25日に開催された患者申出療養評価会議で、こういった総括報告書の評価が行われました。構成員からは「対象を絞ったうえで、標準治療との比較試験を早期に行うべき」との声が出ており、厚生労働省から、実施施設である東京大学医学部附属病院に伝達されます。

4月25日に開催された「第49回 患者申出療養評価会議」

「対象患者を絞って標準治療との比較試験を行い、有効性・安全性を確認せよ」との声

患者申出療養は、傷病と闘う患者の「海外で開発された未承認(保険外)等の医薬品や医療機器を使用してみたい」という希望・申し出を起点に、当該医療技術(未承認の医薬品等)に一定の安全性・有効性があることを評価会議で確認した上で、保険診療との併用を許可する仕組みです(2016年4月スタート)。

これまでに、次の18種類の患者申出療養が認められています(ただし「1」「2」「3」「4」「5」「10」「11」「7」「12」の技術がすでに新規患者の登録を終了)。
(1)腹膜播種・進行性胃がん患者への「パクリタキセル腹腔内投与および静脈内投与ならびにS-1内服併用療法」
(2)心移植不適応な重症心不全患者への「耳介後部コネクターを用いた植込み型補助人工心臓による療法」(関連記事はこちら
(3)難治性天疱瘡患者への「リツキシマブ静脈内投与療法」(関連記事はこちら
(4)髄芽腫、原始神経外胚葉性腫瘍または非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍患者への「チオテパ静脈内投与、カルボプラチン静脈内投与およびエトポシド静脈内投与ならびに自家末梢血幹細胞移植術の併用療法」(関連記事はこちら
(5)ジェノタイプ1型C型肝炎ウイルス感染に伴う非代償性肝硬変患者への「レジパスビル・ソホスブビル経口投与療法」(関連記事はこちら
(6)進行固形がん(線維芽細胞増殖因子受容体に変化を認め、従来治療法が無効、かつインフィグラチニブによる治療を行っているものに限る)患者への「インフィグラチニブ経口投与療法」(関連記事はこちら
(7)早期乳がん患者への「ラジオ波熱焼灼療法」(関連記事はこちら
(8)遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」(関連記事はこちらこちら
(9)HER2陽性の手術不能または再発の乳房外パジェット病患者に対する「トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ点滴静注用)静脈内投与療法」(関連記事はこちら
(10)ROS1融合遺伝子陽性の進行性小児脳腫瘍患者に対する「エヌトレクチニブ(販売名:ロズリートレクカプセル)の経口投与療法」(関連記事はこちら
(11)免疫グロブリンGサブクラス4自己抗体陽性難治性慢性炎症性脱髄性多発神経炎患者に対する「リツキシマブ追加投与療法」(関連記事はこちら
(12)BRAFV600変異陽性の進行性神経膠腫を有する小児を対象とした「ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法」(関連記事はこちら
(13)BRAF V600変異陽性の局所進行・転移性小児固形腫瘍に対する「ダブラフェニブ・トラメチニブの第II相試験」(関連記事はこちら
(14)EZH2阻害薬の有効性が期待される標準治療がない、または治療抵抗性の小児・AYA悪性固形腫瘍に対する「タゼメトスタット療法」(関連記事はこちら
(15)胸部悪性腫瘍に対する「経皮的凍結融解壊死療法」(関連記事はこちらこちら
(16)筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する「EPI-589再投与」の安全性に関する研究こちら
(17)線維芽細胞増殖因子受容体阻害薬投与歴のある進行固形がん患者に対するペミガチニブ経口投与療法(関連記事はこちら
(18)小児・AYAがんに対する遺伝子パネル検査結果等に基づく複数の分子標的治療(関連記事はこちら



4月25日の会合では、「1」「8」「6」「17」の技術を議題としました。

まず「1」の技術について見てみましょう。

(1)の技術は、腹膜播種陽性または腹腔細胞診陽性の胃がん患者に対し▼S-1(テガフール、ギメラシル、 オテラシルカリウムを配合した抗がん剤、胃がんや大腸がんへの効能・効果が認められている)の内服▼パクリタキセル(胃がんや乳がんへの効能・効果が認められている)の経静脈・腹腔内投与―を併用する技術です。有害事象発現状況や全生存期間、奏効割合、腹腔洗浄細胞診陰性化割合を評価項目として本技術の「有効性」や「安全性」の確認を行い、将来的な保険適用を目指しています。

1番目の患者申出療養「腹膜播種・進行性胃がん患者への『パクリタキセル腹腔内投与および静脈内投与ならびにS-1内服併用療法』」の概要



すでに新規の患者組み入れが終了し、東大病院から「すべての対象患者の治 療を終了した。患者申出療養としての実施計画を取り下げる」との報告がなされていました(関連記事はこちら)。

全症例(109症例)を対象に解析を行った「総括報告書」からは、次のような状況が明らかにされています。
【患者背景】
▽年齢34-83歳(中央値62歳)
▽ECOGのパフォーマンスステータス(PS)は、▼「ゼロ」(全く問題なく活動できる):63例▼「1」(肉体的に激しい活動は制限されるが歩行可能で、軽作業や座っての作業は行える):40例▼「2」(歩行可能で自分の身の回りのことはすべて可能だが作業はできない):6例—
▽腹膜播種陽性:96例、腹膜播種陰性・腹腔洗浄細胞診陽性:13例
▽前治療なし23 例、前治療あり86例

【有害事象(grade3以上)などの安全性】
▽白血球減少:17%
▽好中球数減少:30%
▽貧血:8%
▽発熱性好中球減少症:10%
▽下痢:4%
▽食欲不振:3%

▽重篤な有害事象が36件報告されたが、全て既知の有害事象であり、処置により軽快・回復し、治療関連死亡はなかった

▽腹腔ポート関連合併症として「ポート感染」「カテーテル閉塞」など既知の合併症が11例(10.1%)に認めたが、全例がポート抜去・ポート再固定により回復

【生存期間中央値などの有効性】
▽全体:19.6か月(95% CI 16.3-23.8か月)
▽腹膜播種陽性例:18.7か月(95%CI 15.8-23.2か月)
▽腹膜播種陰性・腹腔洗浄細胞診陽性例:37.0か月(95% CI 12.8か月-未達)

▽標的病変を有する8例における奏効割合:38%(95% CI 9%-76%)
▽治療開始前に「腹腔洗浄細胞診陽性」であった74例における腹腔洗浄細胞診「陰性化」割合は70%(95% CI 59%-80%)



4月25日には、こうした総括報告書を踏まえた本技術の評価が行われました。評価案は次のような内容です。

【有効性】
▽従来の医療技術と同程度(最終評価のためには、現在の標準的治療を対照においた比較試験が必要)(主担当の山口俊晴構成員:がん研究会有明病院名誉院長)
▽従来の医療技術よりもやや有効(先行試験から対象を少し広げた中で「ほぼ同様の効果」が認められており、標準治療と比較しても、全生存時間においてはやや有効と考えられる)(副担当の手良向聡構成員:京都府立医科大学大学院医学研究科生物統計学教授)

【安全性】
▽軽い副作用、合併症があるが、あまり問題なし(カテーテル留置に関わる合併症は全身化学療法では起こり得ないことに留意する必要あり)(山口構成員)
▽軽い副作用、合併症があるが、あまり問題なし(先行試験から対象を少し広げた中で、有害事象の発現頻度はとくに上昇していない。有害事象はすべて管理可能なものであり、腹腔ポート関連合併症もすべて回復しており、安全性は許容できる範囲である)(手良向構成員)

【技術的成熟度】
▽当該分野を専門とし、数多くの経験を積んだ医師、または医師の指導の下であれば実施できる(カテーテル留置や管理に関しては一定の経験を積む必要がある)(山口構成員)
▽当該分野を専門とし、経験を積んだ医師、または医師の指導の下であれば実施できる(全国19施設において、とくに問題なく治療が実施されていた)(手良向構成員)



上記の総括報告書における有効性・安全性の結果からも分かるように、「一定の有効性が認められる」「安全性は相当程度担保されている(ただし適切なポート管理などが必要)との評価がなされています。

この点、評価の主担当者でもある山口構成員は、「腹膜播種陰性・腹腔洗浄細胞診陽性例と腹膜播種陽性例とを一緒にして研究を行ったために、有効性が見えにくくなっている可能性がある。ターゲットを絞り(例えば腹膜播種陽性例のみとするなど)、標準治療と比較試験を行えば良い結果が出る可能性があると期待できる」とコメント。また、患者代表として参画する天野慎介構成員(全国がん患者団体連合会理事長)も「有効性が認められるのであれば早期の保険適用が望まれ、標準治療よりも劣るのであれば以後の技術実施は控えるべきである。早期に追加の比較試験を行うべき」と要望しました。

本技術の実施施設である東大病院では「何らかの形で追加の試験を行う」予定とされており、福井次矢座長(東京医科大学茨城医療センター病院長)は「患者申出療養評価会議として『早期に標準治療と本技術との比較試験を行ってほしい』とのコメントがあったことを東大病院に伝達する」よう厚労省に指示しました。今後の東大病院の動きに注目が集まります。



このほか4月25日の会合では、次のような点も了承されました。

▽「8」の技術(遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」)について、がん研究会有明病院(東京都江東区)を協力医療機関に追加する
→本技術は「すべてのがんゲノム医療中核拠点病院で実施する」ことが実施計画に定められており、がん研有明病院が、2023年4月より「がんゲノム医療中核拠点病院」に指定されたことなどを受けたもの(関連記事はこちら

▽「6」の技術(進行固形がん(線維芽細胞増殖因子受容体に変化を認め、従来治療法が無効、かつインフィグラチニブによる治療を行っているものに限る)患者への「インフィグラチニブ経口投与療法」)について、終了後に対象患者が「本技術の実施計画書に定められた要件を満たしていない」ことが判明
→本患者は、「17」の技術(線維芽細胞増殖因子受容体阻害薬投与歴のある進行固形がん患者に対するペミガチニブ経口投与療法)の対象者でもあり、実施施設である名古屋大学医学部附属病院において「事実関係の詳細な調査」「認定臨床研究審査委員会(CRB)や倫理審査委員会で技術実施の可否の再検討」などを行った上、それらの情報をもとに患者申出療養評価会議で実施の可否などを改めて検討する

関連して渡辺弘司構成員(日本医師会常任理事)は、「患者申出療養に限らず、医療一般において、医師には『当然』のことであっても、患者には『当然でない』ことがいくつもある。医師は『説明した』つもりであっても、患者は『きちんと理解、納得していない』ことも往々にしてある。『同意書を取得する』ことが重要なのではなく、『患者に理解し、納得してもらう』ことの重要さを医療者全員が理解しなければならない」旨を強調しています。



なお、患者申出療養の申請手続きなどについて「簡略化する」通知が3月下旬に示されたことも厚労省から報告されています(関連記事はこちら)。



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