地域医療構想の実現に向け、都道府県に1-2か所の推進区域、全国に10-20か所のモデル推進区域を定め、国が技術的・財政的支援—厚労省
2024.4.9.(火)
地域医療構想の実現に向けて、2024年度前半に「都道府県に1-2か所の推進区域、全国に10-20か所のモデル推進区域(推進区域の中で選定)」を定め、2024年度・25年度に国が技術的・財政的支援を行う—。
厚生労働省が3月28日に通知「2025年に向けた地域医療構想の進め方について」を発出し、こうした考えを明確にしました(厚労省サイトはこちら)。
目次
2025年の地域医療構想実現に向けて、国・都道府県・医療機関の取り組みをさらに強化
2025年度に団塊世代がすべて75歳以上の後期高齢者に達することから、今後、急速に医療ニーズが増加・複雑化していきます(しかも状況は地域ごとに千差万別である)。この増加・複雑化する医療ニーズに的確に対応できるような医療提供体制の構築が強く求められ、その一環として【地域医療構想】の実現が目指されています(関連記事はこちら)。
しかし、2025年を目前に控えた中で、地域医療構想の実現状況を見ると「病床の必要量(必要病床数)と2025年の病床数見込みとの乖離」に関する分析や、「医療提供体制の課題解決に向けた工程表」作成度度合いなどに、地域間で大きなバラつきがあることが分かりました。
このため厚労省は3月13日の「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」(「第8次医療計画等に関する検討会」の下部組織、以下、ワーキング)に、2025年の地域医療構想実現に向けた動きを加速化するために、▼都道府県に1-2か所ずつ「推進区域」を▼「推進区域」のうち10-20か所程度を「モデル推進区域」—として指定し、国が「地域の医療提供体制の見える化」「都道府県がなすべき事項に関するチェックリストの作成」といった支援を行う方針を提示し、了承されました(関連記事はこちら)。
今般、この方針に沿って通知が発出されました。
まず、基本的な考え方として、「病床機能報告上の病床数」は「将来の病床数の必要量」に近づいているが、地域(構想区域)によっては、依然として両者に差が大きなことから、▼国・都道府県・医療機関の取り組むべき事項を明確化する▼関係機関が一体となって計画的に更なる取り組みを進める必要がある—ことが示されました。2025年の地域医療構想実現に向けて、いわば「ラストスパートをかける」イメージです。
さらに、その際には、▼新型コロナ ウイルス感染症禍で病床の機能分化・連携等の重要性が改めて認識された▼地域医療提供体制を確保しながら医師働き方改革を進めるために、医療機関の取り組みに加え、各構想区域における病床機能の分化・連携の取り組みなどが重要である—ことを十分に考慮すべき点も明示されています。地域において、限られた医療資源が散財してしまうこと避け、一定の集約化により「効果的かつ効率的な医療提供体制の構築を図る」点も重要な検討要素となります。もっとも、地域医療構想推進は「病床の削減や統廃合ありき」でなく、各都道府県が地域の実情を踏まえ主体的に取り組みを進めることが重要とも付言しています。
都道府県に1-2か所の推進区域、全国に10-20か所のモデル推進区域定め国が支援
こうした基本的な考えにのっとり、本年度(2024年度)から、次のような新たな取り組みを行うことが明示されました。その前提として、都道府県・医療機関において「2022・23年度に検証、見直し等を行った各医療機関の対応方針」に基づいて、構想区域ごとの▼年度目標の設定▼地域医療構想の進捗状況の検証▼当該進捗状況の検証—を踏まえた必要な対応等により、引き続きPDCAサイクルを通じて地域医療構想を推進すべきことは述べるまでもありません。
▽2024年度からの新たな取り組みとして、「病床機能報告上の病床数」と「必要量」の差異等を踏まえ、医療提供体制上の課題や重点的な支援の必要性があると考えられる「モデル推進区域(仮称)」、「推進区域(仮称)」を設定して、国がアウトリーチの伴走支援を実施する
(国の取り組み)
▼2024 年度前半に、都道府県あたり1-2か所の【推進区域(仮称)】、推進区域(仮称)のうち全国に10-20か所程度の【モデル推進区域(仮称)】を設定し、2024・25年度にモデル推進区域(仮称)においてアウトリーチの伴走支援(後述)を実施する
(都道府県の取り組み)
▼2024年度に「推進区域(仮称)」の地域医療構想調整会議で協議を行い、当該区域における「医療提供体制上の課題」「課題解決に向けた方向性」「具体的な取り組み内容」を含む【推進区域対応方針(仮称)】を策定し、2025年度に推進区域対応方針(仮称)に基づく取り組みを実施する
(医療機関の取り組み)
▼2024・25年度に、都道府県の推進区域対応方針(仮称)に基づき、各医療機関の対応方針について改めて必要な検証・見直しを行う
※「モデル推進区域(仮称)」「推進区域(仮称)」の設定方法、推進区域対応方針(仮称)等の詳細は追って国から通知する
※国で2025年度に、推進区域対応方針(仮称)の進捗状況を確認・公表する
さらに、国による支援を次のように強化する考えも明示されました(詳細は厚労省サイトをご参照ください、構想区域のデータに関するエクセルファイルなどをダウンロードできます)。。
【地域別の病床機能等の見える化】
→地域医療構想調整会議の分析・議論の活性化を図るため、都道府県別・構想区域別に▼病床機能報告上の病床数と必要量▼医療機関の診療実績▼医師数等の見える化—を行い、厚労省ホームページに掲載する
【都道府県の取り組みの好事例周知】
→各都道府県において、地域の実情に応じて、医療提供体制の実態や課題の把握、将来のあるべき医療提供体制の設定、地域医療構想調整会議等を活用した関係者との協議等において、独自の工夫を行いながら効果的な取り組みが進められており、その好事例を取りまとめる
【医療機関の機能転換・再編等の好事例周知】
→医療機関における機能転換・再編等の好事例について、構想区域の規模、機能転換・再編等の背景や内容、成果等を整理する
【支援策の周知】
→▼地域医療介護総合確保基金による財政支援▼重点支援区域における技術的・財政的支援▼再編検討区域における技術的支援▼都道府県のデータ分析体制の構築支援▼登録免許税・不動産取得税に係る税制上の優遇措置▼法人税・所得税に係る特別償却制度▼福祉医療機構による優遇融資等の支援▼地域医療連携推進法人制度の活用促進—などの支援策をまとめたリーフレット(都道府県向け・医療機関向け)を作成する
【都道府県等の取り組みに関するチェックリスト】
→都道府県等において、これまでの取り組み状況を振り返り、今後、必要な取り組みを実施できるようなチェックリストを作成する
【モデル推進区域(仮称)におけるアウトリーチの伴走支援】
→上記のとおり、国が全国に10-20か所程度のモデル推進区域(仮称)を設定し、データ分析等の技術的支援や地域医療介護総合確保基金の優先配分等の財政的支援を活用して、アウトリーチの伴走支援を実施する
重点支援区域は都道府県からの要請を待つが、モデル推進区域は国自らが積極支援
このほか、今般の通知では次のような点も明らかにしています。
▽各都道府県では、重点支援区域・再編検討区域による支援も積極的に活用してほしい(関連記事はこちら)
▽地域医療構想の取り組み状況を随時調査し、「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」等に報告・公表する
▽各都道府県においては「地域医療構想調整会議での議論の実施状況」を市町村へ報告してほしい
▽「新たな地域医療構想の検討」を始めている(関連記事はこちら)
ここで「モデル推進区域(仮称)」と「重点支援区域」との違いが気になります。両者ともに支援内容は「地域医療構想の実現に向けて国が技術的・財政的支援を行う」ものですが、重点支援区域は、医療機関・都道府県から国に対しての「支援してほしい」という要請を受けて設定されます。一方、「モデル推進区域(仮称)」は、詳細はまだ明らかにされていませんが、国が自ら「この地域に対し支援を行う」とするものです。
国視点に立てば、重点支援区域は「受動的」、モデル推進区域(仮称)は「能動的」と考えることができます。
地域医療構想の実現に向けた取り組みに地域差が大きいことは従前より分かっていましたが、国(厚労省)の中には「どうして取り組みを進めてもらえないのか」「地域医療構想調整会議でどういった議論が進んでいるのかは明確でない」といった思いがあったようです。
この点、重点支援区域は、医療機関・都道府県が「現状のままでは地域医療提供体制が立ち行かなくなる、崩壊の恐れがある」と認識、自ら「変革の必要がある」と強く意識し、そのうえで国への「支援してほしい」との要請を待つものでした。
このため、「現状のままでは地域医療提供体制が立ち行かなくなる、崩壊の恐れがある」との認識が薄い地域、自ら「変革の必要がある」との意識が薄い地域には、国が「支援をしたくてもなかなか行えない」という面があったと言えます。
今般の「モデル推進区域(仮称)」等の設定にあたっては、こうした地域にも支援の手が届くような仕組みを作る狙いもあるものと考えられます。
もっとも自治体等には「モデル推進区域(仮称)等に設定されれば、取り組みが遅れているところとのレッテルが張られてしまう」との危惧もあるため、厚労省は「都道府県等と十分に協議したうえで推進区域(仮称)・モデル推進区域(仮称)」を設定する」考えを明確にしています。
ところでGem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)では、機能再編や経営強化プランを策定する公立病院を支援するサービスメニューも準備しています。
GHCが「先行して新公立病院改革プラン改訂を行った病院」(市立輪島病院:石川県輪島市)を支援したところ、「入院単価の向上」「戦略的な病床機能強化の推進」などが実現されています。「経営強化」「機能強化」を先取りして実現している格好です。
GHCでは「膨大なデータとノウハウ」「医療政策に関する正確かつ最新の知識」をベースに「真に地域で求められる公立病院となるための経営強化プラン」策定が可能です。
●GHCのサービス詳細はこちら
従前より「地域単位での医療提供体制見直し」に着目してコンサルティングを行っているGHCアソシエイトマネジャーの岩瀬英一郎は「従来通りの考えにとどまらず、より緻密な分析を行い、戦略をもった検討をベースとして『地域に必要とされる公立病院の姿』を個々の病院の実情に合わせて検討する必要がある」と強調しています。
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