2022・23年度中に、民間含め全病院で「自院の機能・規模が妥当か」再検証を―地域医療構想・医師確保計画WG(1)
2022.3.3.(木)
地域医療構想の実現期限である2025年度の到来が迫っており、「公立病院」「公的病院」等はもちろん、民間病院も含めた全病院において、2022・23年度中に「自院の機能・規模が、地域医療構想に照らして妥当なものとなっているのか」の再検証を行ってほしい―。
再検証の状況は定期的に報告・公表することが求められ、来年度(2022年度)は2022年9月末・2023年3月末の状況を各都道府県から厚労省へ報告してもらい、各都道府県のホームページ等で公表することとする―。
3月2日に開催された「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」(「第8次医療計画等に関する検討会」の下部組織、以下、地域医療構想・医師確保計画WG)でこうした内容が概ね了承されました。厚労省は3月中に「通知」として発出し、都道府県や医療現場に「機能検証」の実施を促します。
コロナ感染症の流行で「公立・公的等病院」の再検証スケジュールが白紙に
2025年度には、いわゆる団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者に達するため、今後、急速に医療ニーズが増加していくと予想されます。従来型の医療提供体制(例えば、病院完結型の医療)では、増大し複雑化する医療ニーズに的確かつ効率的に応えることが難しくなるため、各地域において「2025年度の医療ニーズ」を踏まえた「地域医療構想の実現」が求められています。
地域医療構想は、地域(主に2次医療圏をベースとする地域医療構想調整区域)における将来(2025年度)の医療需要から、▼高度急性期▼急性期▼回復期▼慢性期等―の機能別必要病床数を推計した、言わば「将来の医療提供体制の設計図」という位置づけです。
各地域において、実際の医療提供体制が、この設計図にできるだけマッチしていくよう(つまり「地域医療構想が実現する」よう)に、データ(各病院の診療実績や意向などの「病床機能報告」)を踏まえたうえで、機能改革・連携強化に向けた論議を膝をつき合わせて行うことが求められています。
このように「2025年度に地域医療構想を実現する」ためには、地域内のすべての病院・有床診(一般病床・療養病床を保有する医療機関に限る)が、▼自院の機能や資源、考え方▼地域の医療資源や他院の動向▼地域の医療ニーズ(人口動態)—を勘案し、地域医療構想の実現に向けて「自院の機能は今のままで良いのか?ベッド数は今のままで良いのか?」などを検証(再検証)していくことが求められます。
この点、まず「公立病院・公的病院等における機能分化等の再検証」を行うことが求められていました。多くの地域では公立病院(県立病院や市立病院など)・公的病院(赤十字病院や済生会病院など)が急性期医療の基幹的役割を担っており、「まず地域で急性期医療の基幹的病院の立ち位置を明確にする」ことが医療提供体制改革を円滑に進めるための近道と考えられるためです(急性期機能の確定→回復期。慢性期機能の検討という順序で地域医療構想を実現していくことが効率的である)。
当初は「2018年度中に公立病院・公的病院等で機能の検証等を行う」こととなっていましたが、「形だけの機能改革論議や現状追認にとどまっているケースが少なくない」と指摘され、次の要件に該当する病院(436病院が該当)では、「役割は適切か」(民間で代替可能なのではないか)、「病床規模は適切か」などを再検証する仕組みを固めました(【再検証要請対象医療機関】と呼ぶ、関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
(A)診療実績が特に少ない公立・公的病院等
▼がん▼心疾患▼脳卒中▼救急▼小児▼周産期▼災害▼へき地▼研修・派遣機能―の9領域すべてで、地域における診療実績が下位3分の1の病院
(B)類似の機能を持つ病院が近接している公立・公的病院(人口100万人以上の地域医療構想区域にある病院については、別途、再検証方針等を定める)
自動車で20分以内の距離に、▼がん▼心疾患▼脳卒中▼救急▼小児▼周産期―の6領域すべてで、「診療実績が類似する病院」がある病院
この再検証のスケジュールについて、当初は▼再編統合が必要な場合には、2020年9月までに個別病院・構想区域で結論を得る▼再編統合が不要な場合には、2020年3月までに結論を得る―こととされていましたが、2020年初頭から新型コロナウイルス感染症が大流行したために「スケジュールについては白紙」とされ、「再検証スケジュールをどう再設定するか」が注目されていました(関連記事はこちら)。
2025年度が迫る中、公立・公的等病院にとどまらず、全病院での再検証が求められる
昨年(2021年)12月には厚労省・総務省・地方3団体(知事会、市長会、町村会)との協議が開かれ、2022年度・23年度において「地域医療構想に係る民間医療機関も含めた各医療機関の対応方針の策定や検証・見直し」を行う方針が固まりました(関連記事はこちら)。
今般、この方針を受け厚労省から地域医療構想・医師確保計画WGに、「対応方針の策定、検証・見直し」に関し次のような内容を通知に盛り込んではどうか、との考えが提示されました。
▽2022年度・2023年度において▼公立▼公的▼民間―医療機関における対応方針の策定や検証・見直しを行う
▽公立病院については、病院ごとに「公立病院経営強化プラン」を具体的対応方針として策定したうえで、地域医療構想調整会議で協議する(関連記事はこちら(国と地方の協議の場)とこちら(全国自治体病院協議会の記者会見))
▽民間医療機関を含めた機能再検証論議を活性化するため、必要に応じて以下の観点も参照するとともに、「重点支援区域」の選定によるデータ分析等の技術的支援なども活用する
▼高度急性期・急性期機能:厚労省の診療実績の分析に含まれていない手術の一部や内科的な診療実績、地理的要因を踏まえた医療機関同士の距離
▼回復期機能:回復期リハビリテーションとそれ以外の機能について、算定している入院料、公民の違いを踏まえた役割分担、リハビリの実施状況、予定外の入院患者の状況
▼慢性期機能:介護保険施設等への転換の意向や転換の状況
▽地域医療構想調整会議等の運営にあたっては、コロナ感染症対策に留意する(オンライン開催なども検討する)
▽地域医療構想調整会議等の検討状況について、2022年度に関しては「2022年9月末」「2023年3月末時点」の状況を下記様式で各都道府県が厚労省に報告し、各都道府県のホームページ等で公表する
これまでは、上述した「急性期機能を十分に果たしているか疑問とされる公立・公的等医療機関」(当初424病院、最終的に436病院)について機能の再検証を行うこととされていましたが、地域医療構想の実現期限である2025年度が迫ってきていることも踏まえ「地域のすべての医療機関」において、「地域医療構想(=地域の将来の医療提供体制像)に照らして、自院の機能や規模などは妥当なのか、機能転換の必要はないのか?規模縮小の必要はないのか?などを検証する」ことが求められます(最終的に全医療機関の機能検証が必要となることから、「当初のスケジュール(2025年度までの地域医療構想実現)に沿っただけ」と見ることもできる)。
こうした通知内容の考え方について反対意見は出ていませんが、岡留健一郎構成員(日本病院会副会長)や幸野庄司構成員(健康保険組合連合会理事)からは「数字だけの報告では、地域医療構想調整会議議論が形骸化してしまうのではないか?より詳細に、どういった検討を行い、どのような結論に至ったのかなどの報告を求めてはどうか」との提案・注文が出されています。
「地域によっては『数字合わせ』論議に終始してしまっている」という状況を踏まえた、非常に重要な提案です。しかし、詳細な内容の報告・公表を求めた場合、「●●市民病院の機能をどう転換し、規模を何床に縮小する」などの特定がの事実上可能になってしまい、実質的な議論がかえって阻害されてしまうというデメリットもあるようです(医療機関数の少ない地域などでは、どの医療機関を指しているのかが極めて分かりやすく、特定を恐れて議論がかえって形骸化してしまう可能性もある)。
そこで厚労省医政局地域医療計画課の担当者は、「厚労省への報告、各都道府県における公表」に関しては上述様式の通りとし(つまり全体の動向のみの公表にとどめる)、これとは別に「地域医療構想調整会議の詳細な議論状況など」を厚労省が把握する工夫を行う、との考えを明らかにしています。
厚労省は詳細を詰め、3月中(2021年度中)に通知を都道府県等に宛てて発出する考えです。
なお、地域医療構想の実現は、上述のとおり「2025年度」を目指しており、「その先(2026年度以降)の医療提供体制改革をどう考えていくか」(例えば2040年度を目指した新たな地域医療構想など)を早急に議論すべきとの指摘が地域医療構想・医師確保計画WGの構成員から数多く出されています。この点については別稿で報じます。
【関連記事】
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