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医療法人の事業報告書等、2022年度からG-MISで届け出、23年度から都道府県HP等で公表―社保審・医療部会(1)

2021.11.4.(木)

現在「紙」ベースで行われている毎年度の医療法人の事業報告等について、2022年度から「G-MISへの電子データアップロード」による届け出とし、2023年度からは「都道府県ホームページ等で閲覧可能とする」などのデジタル化を行ってはどうか―。

ただし、このデジタル化によって届け出内容や閲覧方法などが変わるわけではなく、例えば都道府県が必要と考えれば「閲覧者には氏名や身分を明かさせるルールを設ける」「閲覧のみ可能とし、データコピーや印刷などは不可とするルールを設ける」などの運用とする必要がある―。

11月2日に開催された社会保障審議会・医療部会で、こういった議論が行われました。なお、同日は診療報酬改定に向けた基本方針策定論議なども行われており、別稿で報じます。

11月2日に開催された「第82回 社会保障審議会 医療部会」

全国の医療法人の「データベース」を構築し、経営改善に向けた支援・指導などへの活用も

医療法人には、会計年度が終了するごとに次の書類を都道府県知事に届け出ることが義務付けられています。保険診療が公的性格を色濃く帯びていること(財源の7―9割は国民の税金、医療保険加入者の保険料・税で賄われている)、健全な経営を確保する必要性のあること(経営が不安定になれば地域医療に多大な影響が出てしまう)などを踏まえた義務です。
▼事業報告書
▼財産目録
▼貸借対照表
▼損益計算書
▼監査報告書
▼関係事業者との取り引きの状況に関する報告書
▼その他の書類

(参考)
医療法第52条第1項
医療法人は、厚生労働省令で定めるところにより、毎会計年度終了後三月以内に、次に掲げる書類を都道府県知事に届け出なければならない。
一 事業報告書等
二 監事の監査報告書
三 第五十一条第二項の医療法人にあつては、公認会計士等の監査報告書

医療法人には事業報告書等などを都道府県に届け出る義務がある(医療部会(1)2 211102)



ところで、この報告・届け出は現在「紙」ベースで行われており、▼医療法人・都道府県の双方に事務負担が生じている▼国や都道府県において医療法人の経営実態を把握しにくい―という不都合が生じています。このため、厚労省は▼事業報告書等の届け出について「電子データのアップロードによる届け出」を可能とする▼届け出データを集積したデータベースを構築する―考えを示しました(いわゆる【デジタル化】)。

具体的には、各医療法人が医療機関等情報支援システム(G-MIS)へ「事業報告書などを電子媒体でアップロードできる」ような仕組みに改修するととともに、全国の医療法人の事業報告書等情報をすべて電子化した状態で国に蓄積し「全国規模の医療法人データベース」を構築します。なお、電子データでのアップロードが困難な医療法人については、従来どおり「紙」ベースでの届け出を可能とし、都道府県で電子化を行う形がとられます。

【デジタル化】によって事務負担が軽減されるとともに、データベースを活用して国や都道府県で「経営改善、経営効率化に向けた分析」などを行い、医療法人にデータのフィードバックを行うなどの取り組みも可能になってきます。例えば、経営状況の芳しくない医療法人について、国や都道府県が「経営状況が良い医療法人の集団と、経営状況が厳しい医療法人の集団とを比較」し、「●●の取り組みを行うことで経営改善が期待できる」などの支援(情報提供)や指導などを行うことも期待できそうです。

こうした方向に医療法部会委員から反論は出ていません。厚労省は必要な法令改正(医療法施行規則などの改正)、G-MIS改修などを行い、「来年(2022年)3月末以降が会計年度となる」医療法人事業報告書等(来年(2022年)6月末が都道府県知事への提出期限)からデジタル届け出を可能とする考えです(来年3月末より前に会計年度が閉まる医療法人では、翌年度からデジタル届け出が可能となる格好)。

デジタル化で「現在の都道府県が設けている閲覧ルール」を変更するものではない

ところで、医療法人から都道府県に届け出がなされた事業報告書などは「公表」され、地域住民などが都道府県の窓口などで「閲覧」することが可能です。届け出の【デジタル化】に合わせて、厚労省は「閲覧」についても【デジタル化】を進めてはどうか、との考えを示しました。

具体的には、都道府県のホームページなどで、届け出が行われた医療法人事業報告書などの「閲覧」を可能とするものです。

この点、医療部会では▼閲覧者が匿名で、つまりどこの誰か明らかでない人間が情報にアクセス可能とするのは問題ではないか。行き過ぎた詮索や営業活動などに使われるのは遺憾ではないか▼今の未成熟なネット事情を見れば、誰でも閲覧できる状況とすれば想定外の問題が生じる可能性が高い。医療に専念しなければならない一方で、そうした想定外の問題への対応をしなければならないとなれば医療法人経営が立ち行かなくなる―といった意見が、例えば今村聡委員(日本医師会副会長)、加納繁照委員(日本医療法人協会会長)、相澤孝夫委員(日本病院会会長)、神野正博委員(全日本病院協会副会長)らから相次ぎました。

ただし、現在でも医療法人事業報告書等の閲覧方法は都道府県によって異なり、例えば「自由に、誰でもが閲覧できるような形にしているケース」「閲覧をするためには都道府県の窓口に氏名・身分などを明かして申請しなければならないケース」「閲覧のみ可能としているケース」「コピーも可能としているケース」など様々であり、厚労省は「運用は都道府県に委ね、国で『申告なしに公表しなければならない』『データのコピー・印刷などを可能にしなければならない』などのルールを決めることはない」旨の考えを示しています。

例えば、「閲覧をするためには都道府県の窓口に氏名・身分などを明かして申請しなければならない」というルールを設けている都道府県では、【デジタル化】後も、当該データにアクセスするためには「氏名や身分などを明らかにする必要がある」というルールが設けられることになりそうです(例えば、都道府県サイトに登録を行い、認証キーを取得しなければ当該データにアクセスできない仕組みを設けるなど)。

逆に、今でも「誰でも自由に閲覧可能、コピーも可能」といったルールを設けている都道府県では、【デジタル化】後も、当該データへのアクセスは自由、データのコピー・印刷も可能といったウールを設けることになるかもしれません。

厚労省は「【デジタル化】によって閲覧などの運用を変えるものでもなく、変える考えもない」旨を明確にするとともに、上述した「無制限の閲覧可能は問題である」旨の意見を示した委員とさらに調整を行い、意見を踏まえて省令改正内容などを詰めていく考えを示しています。厚労省は「2023年度から閲覧のデジタル化(都道府県ホームページなどでの閲覧)を開始する」考えです。



また、【デジタル化】によって届け出の内容などが変更となることもありません。現在の「紙」ベースでの届け出内容を、そのまま「G-MIS」へアップロードする形に変更されるのみです。

デジタル化のイメージ(医療部会(1)1 211102)



この点について松原由美委員(早稲田大学人間科学学術院准教授)は「我が国では優れた医療サービスが国民全体に遍く提供されているが、医療費が低く抑えられるなど『医療機関の犠牲』の上に成り立っている。これを改善するためには診療報酬や各種補助の増額が必要になり、その財源は国民・企業に求めなければならない(つまり負担増)。その際には、医療法人(とりわけ病院)が『会計の透明性を確保している』ことが重要となる」とし、将来的には、より詳細な経営データの届け出・公表が必要になるとの考えを示しています。今般のデジタル化では、届け出・公表内容の変更は行われませんが、将来的には重要な検討テーマの1つになる可能性があります。





これまで述べてきたように、医療法人事業報告書等について▼届け出のデジタル化▼全国的なデータベースの構築▼閲覧のデジタル化―が行われますが、厚労省はその先を見据えて「届け出内容を公表する全国的な電子開示システムを構築する」構想も持っていることを明らかにしています。ただし、現時点では構想の詳細は明らかにされておらず「将来的な検討課題」という位置づけで、今後の議論に注目が集まります。



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