【GHC】医師が変わらない理由と行動変容促す3つの戦術|選ばれる病院の条件(1)
2025.12.4.(木)
病院の大再編時代が到来した今、生き残れる「選ばれる病院の条件」とは何か――。3回シリーズの連載企画で検証していきます。
初回は「経営」をテーマに、診療科ごとに経営改善を目指す取り組み「診療科ヒアリング」にフォーカスします。ただ、各分野の専門家である医師の診療内容に「改善」を提案することは、極めて難しいです。「医師が変わってくれない」などとする声は各方面から聞こえてきます。本稿では医師が変わらないたった一つの理由を明らかにするとともに、そんな医師の行動変容を促す3つの戦術について解説します。(本記事はGHC主催ミニウェビナー「選ばれる病院の条件 ~経営・診療・信頼を変える3つの戦略~第1回 病院の実力を“見える化”する~診療科ヒアリングでわかる強みと課題~」の内容から一部抜粋して構成されています)。
改善提案も「聞いてくれない」「スルー」
「部長に伝えても現場の医師に話が下りていなかった」
経営改善を推進する院内関係者が、各診療科に改善提案をしたものの、話を聞いてもらえなかったり、聞いてはもらえたものの「スルー」されたりするというお悩みは、我々コンサルタントがよく受ける相談の一つです。
「診療科ヒアリング」は当社の造語で、データ分析を起点に各診療科の経営改善を目指す一連の取り組みを指します。病院は診療科ごとに抱える課題が異なり、改善方法も異なります。また、各診療科の専門家である医師は当然、改善すべき根拠が明確でなければ、自らの診療内容を見直すことはありません。そこで診療科ごとに他病院の診療内容と比較できるベンチマーク分析を用いて、診療科ごとに経営改善の道筋を探っていきます。この診療科ヒアリングは、当社のコンサルティングにおいて最も重視する改善活動の一つとなります。
ただ、冒頭のような失敗事例もよく聞きます。一方で我々コンサルタントの感覚からすると、病院や診療科によっては改善に時間がかかるケースもあるものの、多くの医療現場で飛躍的な改善成果を実感いただけることが多いです。そこで本稿では我々コンサルタントが「診療科ヒアリング」をする際のポイントについて整理していきます。
なぜ「対話の扉」が閉じられてしまうのか
まず、医師が変わってくれない理由について確認していきます。
最初に答えを言ってしまうと、医師からすると「診療科ヒアリング」は「『変わってほしい』と責められる場」と感じることが理由です。医師もさまざまなので、ほかにもさまざまな理由は考えられますが、失敗パターンの根底にある最大の理由はこの一択と考えていいです。
よく考えてみてください。各診療科の経営改善を目指すため、ベンチマーク分析を活用して課題を探り、「うちの病院はほかの病院とここが違うから変えてほしい」と言われ続けるのです。医師たちは皆、それぞれの信念に基づいて診療にあたっています。医師それぞれの診療には、必ず「そうする理由」が背景にあります。にもかかわらず、医師たちの信念や診療の背景は二の次で、「データ武装」した関係者たちから「変わってほしい」と繰り返され続けるのです。それでは話を聞いてもらえなかったり、スルーされたりするのも仕方がないと思いませんか。
「診療科ヒアリング」を行う上でまず認識してもらいたいのは、「病院の強みや弱みは相対的なものである」ということです。当社が推奨する他病院と比較するベンチマークでは、病院の弱みだけではなく、強みも見えてきます。他病院と比較して分かった「差異」は、病院それぞれの特徴であり、選ばれる病院になるためのヒントが隠されているのです。伸ばすべき領域は伸ばし、改善すべき領域は改善することで、選ばれる病院として目指すべき本当の戦略が見えてきます。
ですから、「診療科ヒアリング」ではまず、専門家である医師に現状を教えてもらうという姿勢を貫いてください。その上で何よりも重要なことは、当該医師への感謝と称賛を忘れないでください。もっと分かりやすく言うと、医師を「褒めて」ください。これは心にもないお世辞を言えということではありません。他病院との「差異」の発見こそが改善活動のスタートラインであり、「診療科ヒアリング」の入口なのです。このことを意識してから「診療科ヒアリング」のスタートを切らないと、せっかくの改善の機会が、ただただ「責められる場」と感じられてしまい、「対話の扉」を閉じられてしまうことになりかねません。
「気づく」→「語る」→「決まりを作る」
「診療科ヒアリング」をスタートする上での心構えを把握した上で、正しい「診療科ヒアリング」の流れについて確認していきます(以下図表)。最初のステップは、「気づきを与える」です。
前述の他病院との「差異」は、医師自身が気づいていない場合が多いです。まずは、その差異が自病院の特徴であることに気づいていただきましょう。その際に重要なことは、それが良い悪いではなく、単に「差異」であることをフラットに伝えることです。経営の視点で見てマイナスなことであったとしても、それが選ばれる病院の条件の一つになる可能性は否定できません。もしそうなら、改善すべき点はそこではなく、別にある可能性が高いです。
この気付きはベンチマーク・データによる可視化で行っていくのですが、そこで注意してもらいたいのは、「医師が語れる粒度まで掘り下げて可視化する」ということです。これは次のステップの「医師自身が語る」を想定しています。「差異」から何かに気付いてもらいたいのは、この「語る」に結び付けたいからです。データは医療現場の「鏡」であり、数字は診療プロセスの結果です。このデータが詳細であればあるほど、医師はそこからの「気づき」「こだわり」「事情」「理念」などを語ることができます。この語りを通じてのみ、何を伸ばすべきなのか、何を改善すべきなのかを、経営視点ではじめて検討することができます。
このように医師自身が語ったことをベースに、病院ごとに目指すべき本当の病院戦略を検討し、それを実現していくための決まりを一つひとつ決めていくのです。
まとめと関連サービスのご紹介
「診療科ヒアリング」について、医師が変わらない理由と行動変容を促す3つの戦術を見てきました。ここで見てきたことは進め方の概要であり、改善活動を行っていく中ではさまざまな乗り越えるべき課題が出てきます。ただ、医師自身に語ってもらい、それをベースに病院戦略を検討していくという「診療科ヒアリング」の基本スタンスさえを押さえておけば、改善活動の進め方の方向性としては間違っていません。
当社では多くの病院での「診療科ヒアリング」の支援実績があります。ご興味がある方は以下の関連サービス、事例をご確認ください。また、本コラムのベースとなった病院経営に関するミニウェビナーは、原則、毎月開催しています。ご興味のある方は以下のイベントカレンダーをご確認ください。GHCクライアントの皆様は「病院ダッシュボードχ(カイ)」あるいは「病院ダッシュボードχ ZERO」にログイン後、画面右上の「学ぶ」→「オンデマンド動画」をクリックしてミニウェビナーの動画をご視聴いただけます。



