医療法のオーバーベッド特例活用し、「最先端医療技術を提供するためのオーバーベッド」を全国で認可へ―社保審・医療部会(2)
2021.10.6.(水)
現在、国家戦略特別区域において「最先端医療技術を提供するためのオーバーベッド」(基準病床数を超えるベッド整備)が認められているが、これを全国展開する。具体的には、がんや周産期医療などを提供するための「医療法上のオーバーベッド特例」の中に「最先端医療技術」を盛り込むことが考えられる―。
10月4日に開催された社会保障審議会・医療部会において、厚生労働省医政局地域医療計画課の鷲見学課長からこうした方針が報告されました。
ただし、野放図な増床を避けるため、「学会による技術の評価」「国による審査」「オーバーベッドの期間設定」などを考える必要があるのではないか、といった意見が委員から出ています。
医療法の「がん、小児医療提供などのためのオーバーベッド」を認める特例規定を活用
地域の医療提供体制は、都道府県の作成した「医療計画」(現在は2018-23年度を対象とする第7次計画、24年度からの第8次計画作成に向けた議論も始まっている)に基づいて整備されます。
医療計画には、▼5疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患)▼6事業(救急医療、災害医療、へき地医療、周産期医療、小児救急を含む小児医療、新たに「新興感染症」医療)▼在宅医療—に関する医療提供体制のほか、▼基準病床数▼医療従事者の確保▼医療安全の確保▼施設整備目標―などが定められます(医療法第30条の4第2項ほか)。
このうち基準病床数とは、言わば「地域における病床整備の上限量」です。公的医療保険制度が整備され、形の上では「安価な患者負担(1-3割の自己負担、さらに高額療養費制度で1か月あたりの負担額には上限が設けられている)のみで良質な医療を受けられる」我が国では、「供給」(=ベッド)が「需要」(=患者)を生む構造になっています(一部医療機関では、病床を埋めるために入院を促す行動をとることもある)。このため、地域の医療需要を踏まえてベッド数の上限を定めることが、医療費の過度な膨張を防ぐために必要となっているのです。
原則として、基準病床数を超えるベッド整備については、▼公的医療機関等では許可しない▼その他の医療機関では保険指定を行わない―こととされています。
ところで、国家戦略特別区域(以下、特区)においては、例外的に「世界最高水準の高度医療で、国内でその普及が十分でないものを提供する」場合にオーバーベッド(基準病床数を超えるベッド整備)が認められます。2014年の制度スタート以降、10事業者においてこの特例を活用したオーバーベッドが認められています。
今般、成長戦略フォローアップで「世界最高水準の高度医療を提供する事業を実施する場合のオーバーベッド特例を全国展開する」件について、2021年度中に検討し、結論を得ることとされました。
これを受け鷲見地域医療計画課長は、「医療法上の『オーバーベッド特例』を活用して、世界最高水準の高度医療を提供する事業を実施する場合のオーバーベッドを認める」方向で検討を進める考えを医療部会に報告しました。
上述のとおり、基準病床数を超えるベッド整備は原則として認められませんが、▼がんや循環器疾患▼小児疾患▼周産期疾患▼リハビリ▼救急医療▼中毒性等の精神疾患▼神経難病▼末期がん▼研究・研修▼後天性免疫不全症候群▼新興・再興感染症▼治験▼診療所の病床転換による療養病床―については、都道府県知事が必要性を認め、厚生労働大臣の同意を得られた場合に、例外的にオーバーベッドを認めることが可能という仕組みがあります。これが、上述した「医療法上のオーバーベッド特例」です(医療法第30条の4第11項)。
医療法施行規則第30条の32の2(医療法上のオーバーベッド特例を認められるケースリスト)を改正し、「世界最高水準の高度医療を提供する事業を実施する病床」についても、医療法上のオーバーベッド特例の1ケースに含めることになるでしょう。
もっとも「世界最高水準の高度医療」というくくりは曖昧に過ぎます。このため鷲見地域医療計画課長は、例えば、▼最先端医療の該当性について「関係学会の推薦」を得たもので、かつ保険適用されてない医療技術とする、など対象を明確化する▼医療法上のオーバーベッド特例の適用から「一定期間のみ病床設置を許可する」ものとし、期間経過後は当該ベッドは返上する(特例を受けない病床へ転換し、基準病床数以内に収めるなど)―などの縛りを検討する考えも示しました。
医療部会では「世界最高水準の医療を、国民が広く受けられるようにする」という考え方そのものに異論は出ていませんが、「曖昧に過ぎる基準などで、なし崩し的にオーバーベッドを全国で認めていくことにならないようにすべき」との注文がついています。
具体的には、▼「学会推薦」を必須事項とすべき(加納繁照委員:日本医療法人協会会長)▼学会にもバラつきがあり、「世界最高水準か否か」を審査する組織・体制が必要ではないか(佐保昌一委員:日本労働組合総連合会 総合政策推進局長)▼学会のバラつきを考慮し「日本医学会の同意があるもの」に限定すべき(今村聡委員:日本医師会副会長)▼特例の設置期間を明示する必要がある(時間が経てば技術は陳腐化する)(楠岡英雄委員:国立病院機構理事長)▼技術の鮮度が失われたものは返還してもらうべき(神野正博委員:全日本病院協会副会長)―などの意見が出されました。また永井良三部会長(自治医科大学学長)は「研究目的のベッドは本来の趣旨と異なると思うが、学会は『研究』を主眼としがちであり、学会推薦だけでは利益相反も含めた問題が生じる。技術の審査を行う仕組みが必要である」とコメントしています。
いずれの委員の意見・注文も「学会や医療機関が、世界最高水準という隠れ蓑を着て、医療・医学に詳しくない都道府県知事の目をくらまし、オーバーベッドを獲得する」という事態を危惧したものと言えます。
鷲見地域医療計画課長は、こうした意見・注文に耳を傾けるとともに、「審査などに時間がかかりすぎては、最先端医療を待っている患者のアクセスを阻害してしまう。スピードも重要である」と述べ、両者のバランスをとった検討を進める考えを示しています。
検討は、主に内閣府が事務局を務める「国家戦略特区ワーキンググループ」で進められ、厚労省から上記の意見・注文などが伝達されるとともに、逐次、検討状況が医療部会等になされる見込みです。最終的には、医療法施行規則(厚生労働省令)改正が必要なため、医療部会での審議が本年度(2021年度)中に行われる見込みです。
国家戦略特区のオーバーベッド特例技術、最新性や先端性を検証すべきではないか
ところで、上述のとおり、特区のオーバーベッド特例は10事業者で認められていますが、この取り扱いがどうなるのかは現時点では明らかになっていません。特区のオーバーベッド特例として存続するのか、新たな医療法上のオーバーベッド特例に移行するのか(その際には学会推薦などの基準を別途満たす必要が出てくる)、技術が相当程度普及したために特例を廃止するのか、さまざまな選択肢があり、内閣府の「国家戦略特区ワーキンググループ」で検討されることになるでしょう。
この点、楠岡委員は、10事業者における「特区のオーバーベッド特例」の中には、例えばda vinciシステムを用いたロボット支援下手術などすでに保険適用された技術もあり、「最先端は言い難い医療技術」が含まれているとし、「技術の最新性、先端性などを検証する必要がある」とも提言しています。この提言も、鷲見地域医療計画課長から内閣府や「国家戦略特区ワーキンググループ」へ伝達されることになるでしょう。
今後の検討状況に注目が集まります。
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