再検証対象医療機関の4割で機能転換・ダウンサイジング・再編など進む―地域医療構想・医師確保計画WG
2021.12.6.(月)
「公立病院・公的病院等における機能分化等の再検証」が求められているが、対象436病院の4割にあたる175病院で機能転換・ダウンサイジング・再編統合などが進められている―。
残りの6割の医療機関では、新型コロナウイルス感染症対策を踏まえて「自院の地域での役割」を検証する必要などがあり再検証が進められている最中である―。
また、436病院全体でみても「機能転換(急性期病床から回復期病床への転換など)」や「ダウンサイジング」が急速に進んでいる状況も確認できる―。
こうした状況を踏まえ、さらにコロナ感染症が収束していない中で「どのように地域医療構想の実現に向けた取り組みを進めていくべきか」を国・都道府県・医療現場でさらに検討していく―。
12月3日に開催された「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」(「第8次医療計画等に関する検討会」の下部組織、以下、地域医療構想・医師確保計画WG)でこうした議論が行われました。今後、厚労省と都道府県等で「地域医療構想の実現に向けた取り組みをどう進めるか」の協議を進め、現実的な対応案を地域医療構想・医師確保計画WGで検討していくことになります。
目次
地域医療構想の実現に向けて、まず「各地域での進捗状況」などの実態を把握
2025年度には、いわゆる団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者に達するため、今後、急速に医療ニーズが増加していくと予想されます。従来型の医療提供体制(例えば、病院完結型の医療)では、増大し複雑化する医療ニーズに的確かつ効率的に応えることが難しくなるため、各地域において「2025年度の医療ニーズ」を踏まえた「地域医療構想の実現」が求められているのです。
地域医療構想は、地域(主に2次医療圏をベースとする地域医療構想調整区域)における将来(2025年度)の医療需要から、▼高度急性期▼急性期▼回復期▼慢性期等―の機能別に病床必要量を推計した、言わば「将来の医療提供体制の設計図」です。各地域では、実際の医療提供体制が、この設計図にできるだけマッチしていくよう(つまり「地域医療構想が実現する」よう)に、データ(各病院の診療実績や意向などの「病床機能報告」)を踏まえて関係者で膝をつき合わせた医療提供体制改革議論を行っていきます。
2025年度が目前に迫る中で「地域医療構想の実現に向けた取り組み」を早急に進める必要がありますが、現在、新型コロナウイルス感染症対策に行政・医療現場が邁進している状況もあり、地域医療構想・医師確保計画WGでは、▼「公立病院・公的病院等における機能分化等の再検証スケジュールを検討する」さらに「地域医療構想の実現に向けた取り組みを考える」ために、まず各地域においてこれらの検討・取り組みの状況・実態を把握する▼2024年度からの新たな「医師確保計画」作成等に向けて、まず現行「医師確保計画」の成果等の実態を把握する―ことを決定。今般、前者の実態調査結果がまとめられ、その報告が行われました。
4割・175病院で機能転換やダウンサイジングを決定
まず、「公立病院・公的病院等における機能分化等の再検証」状況を見てみましょう。当初は424病院が再検証対象でしたが、精査の結果「436病院」が再検証対象となっています。
このうち、▼83病院(19%)が「地域医療構想調整会議で機能転換・ダウンサイジングなどの合意が得られ、措置済である」▼92病院(21%)が「地域医療構想調整会議で機能転換・ダウンサイジングなどの合意が得られている」▼237病院(54%)が「再検証を行っている最中である」▼24病院(6%)が「急性期病床等を廃止し、再検証の対象外となっている」—ことが分かりました。
前2者(措置済、合意済)について合意の内容を見ると、▼病床機能の見直し:94病院▼病床数の見直し(ダウンサイジングなど):67病院▼複数医療機関の再編・統合:24病院▼機能転換等:14病院▼従前どおり(機能転換もダウンサイジングなども行わない):44病院—となりました。
「機能転換もダウンサイジングなども行わない、従前どおりとする」と結論づけた44病院については、「現下・将来の医療ニーズ」と「現在の病院機能・キャパシティ」とが合致していると判断したケース、「地域住民が機能転換等に反対している」ケースなどがあります。
なお、再検証対象医療機関(436病院)、合意・措置済医療機関(前2者、175病院)について総病床数・機能別(高度急性期、急性期、回復期、慢性期等)の病床数を見ると、例えば▼総病床数は大きく減少している(2017年から2025年にかけて436病院では5万7000床、合意・措置済の175病院では3万床の減少見込み)▼急性期病床のシェアが減少(同じく436病院では61%→49%で12ポイント減少、175病院では64%→49%で15ポイント減)し、回復期病床の割合が増加(同じく436病院では17%から30%で13ポイント増)、175病院では18%→32%で14ポイント増)している―ことが分かりました。全体として「ダウンサイジング・機能転換」が進んでいることが分かります。ただし、後述する今村知明構成員(奈良県立医科大学教授)のコメントどおり「病床削減等が必要な地域もあれば、逆に病床強化等が必要な地域もあり、全国集計して「病床が減っている」ことに大きな意味はないとの見方もある。地域ごとに評価していくことがさらに重要である」。
コロナ禍で再検証が進まない病院が6割、一部構成員から「遅すぎる。厚労省でメッセージ発信を」との声も
一方、「再検証の最中」である237病院では、▼1回以上調整会議を実施している:122病院▼調整会議が行えていない:83病院▼コロナ禍で再検証が議題に上がっていない:49病院—という状況ですが、「地域医療構想調整会議としては議論していないが、すでに医療機関の中では機能転換等を検討している」「コロナ感染症の経験を踏まえて改めて検討する」(コロナ禍で医療機関の役割などを見直す必要があるため)といったところもあり「何もしてない」というケースは少ないと見られます。
ただし、幸野庄司構成員(健康保険組合連合会理事)は「団塊の世代が75歳に到達し始める2022年度はもうすぐそこに迫っているが、地域医療構想調整会議の進み具合は十分と言えない。再検証対象病院の議論がこのように『遅い』のであれば、民間病院の議論はもっと遅れることを本当に心配している。厚労省では『いついつまでに再検証を終え、機能転換等の合意を得る必要がある』と強いメッセージを出す必要があるのではないか」と強く要請しています。
地域の人口構成・疾病構造が変化する中で「医療提供体制改革は待ったなしである」する幸野構成員の指摘には頷ける部分が多くあります。今般のコロナ感染症対応でも「病院、とりわけ急性期機能が散在してしまっており、重症者対応が十分に行えていない。急性期機能の集約化、多機能との連携強化に向けた医療提供体制改革が必要である」との点が強く認識されています。
しかし、コロナ感染症は収束しておらず、非常に感染力が強いとされる「オミクロン株」の登場により「今冬に第6波が到来する」可能性も懸念されています。そうした中で「いついつまでに地域医療構想調整会議を開催し機能分化論議を進めよ」と期限等を切った要請を行っても、自治体や医療機関等が対応しきれないことになりえます。また仮に対応した場合「形だけの、意味のない協議結果」が示されることにもなりかねません。
そこで厚労省は「今後の地域医療構想実現に向けた取り組み」について、今般の調査結果等も踏まえて都道府県等と協議し、それを踏まえて「改めて地域医療構想・医師確保計画WGで対応案を考える」方針を提示しています。協議の中で、例えば「コロナ感染症対応の経験を積み、コロナ対応と地域医療構想の実現とを両立できそうである」と判断されれば、「●年●月までに再検証を終えよ」と要望することができるかもしれませんが、逆に「コロナ対応に四苦八苦しており、地域医療構想の実現に向けた取り組みを進めようにも手が回らない」ことが分かれば、期限付きの要請は行わず別の手立て(都道府県の支援策)などを考えることになるでしょう。
なお、この点に関連して、▼東京都や大阪府など今後も人口増(=医療ニーズ増)が予想される地域では医療提供体制の機能強化を検討する必要があり、そうしたメッセージも適切に発していく必要がある。「病床削減」を強調しすぎるべきではない(今村構成員)▼2025年度に向けて「病床数の帳尻をどう合わせるか」という議論に終始している地域医療構想調整会議もあるという。地域の医療ニーズに医療提供体制をマッチさせていくという地域医療構想の目標や趣旨などを改めて明確にする必要がある(伊藤伸一構成員:日本医療法人協会会長代行)▼ベッド数と医師数とは密接に関連する。ベッド数だけでなく地域の医師確保数なども勘案して医療提供体制改革論議を進めなければならない(大屋祐輔構成員:全国医学部長病院長会議理事)▼そろそろ「2025年の先」を見据えた新ビジョンについて議論すべき時期に来ている(尾形裕也座長:九州大学名誉教授、猪口雄二構成員:日本医師会副会長)—といった意見がでています。今後の「現実的な対応案」がどのように練られるのか、今後の状況を注視することが重要です。
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