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GemMed塾 看護モニタリング

感染症対応では情報連携、看護師はじめ医療人材確保が最重要、課題検証し早急な改善を—第8次医療計画検討会

2021.11.17.(水)

新型コロナウイルス感染症をはじめとする新興感染症に適切に対応するためには、何よりも看護師の確保が重要である(例えばECMO管理が必要な重症者対応には「1対2」看護が必要)。例えば「一般病棟勤務→ICU勤務→一般病棟勤務」といったローテンションを強化し、平時には一般病棟に勤務するが、有事にはICU勤務が可能な看護師の増員を検討してはどうか―。

感染症専門病院は、感染症対応は効率的に行えるが、収束・終息時の一般病院への再転換に課題がある。病院の経営という視点も重要である―。

感染症対応では何よりも「情報連携」が重要であるが、一部自治体では管内のコロナ感染症患者受け入れ病院にも「どの病院に何名のコロナ感染症患者が入院し、空きベッドは何床あるのか」という情報連携がなかった。早急な改善が必要である―。

11月11日に開催された「第8次医療計画等に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった考えが医療現場から示されました。

11月11日に開催された「第5回 第8次医療計画等に関する検討会」

一般病棟・ICUの看護師ローテンションを強化し、有事にICU対応できる看護師を育成

2024年度からスタートする「第8次医療計画」に向けて、検討会は2022年度末までに各都道府県が医療計画を作成する際の拠り所となる「指針」を策定します(指針を踏まえて2023年度に都道府県が計画を作成し、2024年度から稼働させる、関連記事はこちら)。

Gem Medで報じているとおり、第8次医療計画では従前からの5疾病・5事業+在宅医療に加え、新たに「新興感染症に対応するための医療体制」を記載することになります(5疾病・6事業+在宅医療となる)。そこで現下の新型コロナウイルス感染症に医療現場や自治体はどう対応してきているのか、どういった点を医療計画に盛り込んでいくべきと考えているのか、などについて検討会でヒアリングが行われています(第1回目のヒアリングに関する記事はこちら、第2回目のヒアリングに関する記事はこちら)。今般、ヒアリング第3弾として、次の6病院・組織から意見の拝聴が行われました。
(1)東京大学医学部附属病院
(2)大阪市民病院機構 大阪市立十三市民病院
(3)沖縄県立八重山病院
(4)武蔵野赤十字病院
(5)国立病院機構
(6)神奈川県医師会

このうち(2)の十三市民病院は大阪市の松井一郎市長の指示で「コロナ感染症専門病院」となりました。一般病床224床(うちHCU5床)・結核病床39床の病院ですが、コロナ感染症には手厚い看護体制が必要となるため、当初は「90床」に制限、さらに感染が急拡大した第3波の折には「70床」にまで絞り込みが行われました。

このように「自院で通常よりも手厚い看護配置を実現する」ためには、一部病棟・病床を閉鎖し、そこに配置されていた看護師をコロナ病床に配置転換することが必要となります。とりわけ、重症患者受け入れが求められる場合には「一般病棟を臨時ICU化する」(その際には1対1、1対2といった通常の7倍、14倍の看護配置が必要となるケースも少なくない)ために、多くの一般病床・病棟を閉鎖する必要があります。

ただし、ある日突然「コロナ重症患者対応をICUで行ってほしい」と指示されても、ICU経験のない看護師は困ってしまいます。この点、東大病院の瀬戸泰之病院長は「普段からICUでトレーニングをできればよいが、そうした取り組みは事実上不可能である。ICU経験のある看護師を増やすために、一般病棟勤務とICU勤務経験のローテンションを強化することを考えている。これにより、通常は一般病棟で勤務しながら、有事にICU勤務が可能となる看護人材を増やしていきたい」との考えを示しました。看護師確保が困難な中で注目すべき構想と言えるでしょう。

またICUにおいても、「看護師でなくとも可能な業務」(例えばシーツ交換、清掃など)について看護補助者が担える環境が整えば、ICU看護師の負担が相当軽減されます。この点、武蔵野赤十字病院の泉並木院長は「自院ではレッドゾーン(感染区域)での業務を買って出てくれる看護助手や外部業者がおり、感染管理看護師(ICN)指導の下でシーツ交換や清掃などの業務を担ってくれた」と報告。従前から日本看護協会の提唱する「感染管理看護師の教育」の重要性を再確認できるエピソードと言えるでしょう。

感染症収束時には「感染症病床から一般病床に戻した後の患者確保」が一つの検討課題に

ところで、上述したように十三市民病院は「一般病院 → コロナ専門病院」となりました。しかし、コロナ感染症が落ち着く中で、さらに今後、コロナ感染症が収束・終息に向かった場合には「コロナ専門病院 → 一般病院+コロナ病院 → 一般病院」へと再転換が行われます。また、コロナ専門病院に限らず、「一般病床等 → コロナ病床 → 一般病床等」という転換が迫られるベッドが全国に数多あります。

この点、十三市民病院の西口幸雄病院長からは「一般病院・一般病床等に戻した後も、患者さんからは『怖い、入院して良いのか躊躇した』との声が寄せられる。コロナ収束後に患者が自院に戻ってきてくれるか、非常に心配している。コロナ感染症専門病院化にそうしたリスクも伴う」との率直な声が出されました。効率的な感染症対応という面では「一部医療機関にコロナ感染症患者を集約化する」ことが求められますが、収束・終息に伴う「一般病院等への転換」という要素を踏まえると「多くの医療機関にコロナ感染症患者を分散させ、個々の医療機関の負担を軽減する」ことも重要となります。これらを組み合わせ、「感染拡大のフェイズに合わせて、医療提供体制の在り方を分けて考えていく」ことも重要です。

感染症対応では「情報連携」が最重要、一部自治体では病院にすら情報共有がなかった

さらに、コロナ感染症に限らず、今後の別の新興感染症が流行する可能性があります。医療関係者の中には「感染力が非常に強い(空気感染する)新型の麻疹」登場を懸念する声もあります。

こうした新興感染症にどう的確に初動対応していくかが非常に重要です。時間の経過とともに病原体や対処法などが明らかになっていきますが、相手(病原体)が分からず、どう対処すればよいのかも不明な中で「どのように対応し、次のフェイズにつなげていくか」を可能な範囲で平時から検討し、必要な準備を行うことが求められます。

この点、十三市民病院では「自院には感染症専門医がおらず、そうした中で院内で情報収集・情報共有に努めた。この院内での情報共有が非常に重要であった。納得してもらえず退職された医療従事者もいるが、残ってくれたスタッフが『そういう状況であれば頑張ろう』と団結してくれ、そのベースが情報共有であった」と西口病院長は振り返ります。

また武蔵野赤十字病院は、我が国で感染初期であった「クルーズ船」患者対応の時点からコロナ感染症対応に協力しており、そこでは「ICT」(インフェクションコントロールチーム、感染制御チーム)の役割が非常に大きかったことが報告されています。ICTには感染管理認定看護師をはじめ多職種が参画し、院内の感染症制御、スタッフの教育などに尽力します。やはり平時からの準備が、有事にものを言うことが確認できます。泉院長は「今後もスタッフの教育に力を入れていく」考えを強調。

関連して「有事の際にこそ、地域医療支援病院の役割・機能に期待が集まる。普段からの訓練が重要であり、そうした点からも地域医療支援病院の指定要件に災害や感染症などへの対応体制を加えることを検討する必要があると思う」との考えを述べています。

さらに泉院長は「東京都では、コロナ患者受け入れ病院にすら『どの病院に何人のコロナ患者が入院し、余力は何床あるのか』という情報共有がなかった。情報がなければ地域連携も難しい」と述べ、少なくとも医療従事者には詳細な情報を共有すべきと訴えました。この点、東京都では「コロナ感染症患者の受け入れ状況」などを把握できなかった(患者数が多く把握しきれなかった)可能性が指摘されています。つまり「第5波では制御不能、医療提供体制崩壊の直前」にまで達していた可能性があり、早急な検証と対策構築が求められるでしょう。



検討会では、3回のヒアリング内容を整理し、現場の意見を第8次医療計画などに反映させていく考えです。



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