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感染症対応医療体制を迅速確保できるよう、強制力持つ法令の整備を検討してはどうか—第8次医療計画検討会

2021.11.8.(月)

新型コロナウイルス感染症をはじめとする新興感染症に適切に対応するためには、何よりも看護師の確保が重要である(例えばECMO管理が必要な重症者対応には「1対2」看護が必要)。このため、専門知識・スキルを持つ看護師の育成等を進めるとともに、ICUなどにも看護補助者配置を進めることなどを検討してはどうか―。

感染拡大のスピードがさらに速い新興感染症の登場も予想されるが、その際に、迅速に医療提供体制を確保するためには「一定の強制力を持つ法整備」が必要になるのではないか。「救える命を救えない」事態が生じないよう、今後、検討していく必要がある―。

また今般のコロナ感染症では、当初は「高齢者が罹患し重症化する点への対応」が重要であったが、ワクチン接種が進むにつれ「中等症、軽症の若人対応」に重点がシフトしてきた。このように重要政策ポイントが流動化する点をも考慮した医療提供体制を考えていく必要がある―。

11月5日に開催された「第8次医療計画等に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった考えが医療・自治体現場から示されました。

11月5日に開催された「第4回 第8次医療計画等に関する検討会」

感染症に対応できる看護人材の育成・確保が最重要課題の1つ

2024年度からスタートする「第8次医療計画」に向けて、検討会は2022年度末までに、各都道府県が医療計画を作成する際の拠り所となる「指針」を策定します(指針を踏まえて2023年度に計画作成し、2024年度から稼働させる、関連記事はこちら)。

第8次医療計画では、これまでの5疾病・5事業+在宅医療に加え、新たに「新興感染症に対応するための医療体制」を記載することになります(5疾病・6事業+在宅医療となる)。このため検討会では、現下の新型コロナウイルス感染症に医療現場や自治体はどう対応してきているのか、どういった点を医療計画に盛り込んでいくべきと考えているのか、などを、現場の医療機関・自治体などから意見聴取(第1回目のヒアリングに関する記事はこちら)。今般、ヒアリング第2弾として、次の2団体・2自治体から意見を拝聴しました。
(1)日本看護協会 鎌田久美子常任理事
(2)日本赤十字社 医療事業推進本部 田渕典之副本部長
(3)福井県 健康福祉部地域医療課 池上栄志副部長、宮下裕文副部長
(4)大阪府 健康福祉部 藤井睦子部長

まず(1)日看協、(2)の日赤からは「人材、とりわけ看護人材の確保」が最重要ポイントであったことが強調されました。

コロナ感染症の重症患者では人工呼吸器やECMOによる呼吸管理が必要となり、ICUの看護配置を「1対2」などへと増強することが求められます。通常のICUでは「2対1」看護ですから、「1対2」看護とするためには、通常の4倍の看護師確保が必要です。また、一般病棟である急性期一般1を臨時のICUに一時転換するためには、「7対1」から「1対2」へと「14倍」に看護配置を増強する必要があります。

こうした人材を院内で調達するためには、「一部ベッドを休床し、そこに配置されていたスタッフをICUに集約する」必要があります。例えば日看協は、こうした事態を踏まえて▼平時からの看護職員配置を手厚くする(1床当たり看護職員配置数は、米国4.1、英国3.1等に対し、日本は0.9にとどまる)▼人工呼吸器装着患者等のケアを行える看護師を育成する▼ICU等にも看護補助者配置を行う▼マネジメント可能な高スキル人材を育成する―ことを提言しています。

また日赤でも同様の問題意識をもち、地域における▼感染症に対応できる医療体制の構築▼看護師の量的確保と広域派遣を行える仕組みの構築—を進めるとともに、個別医療機関において▼感染症患者を受け入れる環境の整備▼感染症対応を行える人材の育成・活用―を行うことが重要であると訴えています。

感染症に対応するベッド・人材確保のため「強制力を持つ法整備」なども検討してはどうか

自治体、とりわけ都道府県ではコロナ感染症対応の拠点として▼入院患者を受け入れる医療機関の確保▼入院の調整▼人材確保▼軽症患者を受け入れる宿泊療養施設の確保と、施設への医療人材配置▼医療機関間の連携調整(例えば回復患者の後方病院への転院調整など)—など膨大な業務を行うこととなりました。

中でも、第3波・第4波・第5波で短期間に多数の新規感染者が発生し、死亡例も少なくなかった(他都道府県の1.5倍)大阪府では、「感染の波の度に状況が変わる点」に苦慮したことが藤井健康福祉部長から報告されました。例えば、当初は「高齢者が罹患し、重症化する」ケースが多かったために、重症者を受け入れる病床(ICUなど)の確保が最重要課題となりました。しかしワクチン接種が進むにつれて高齢の重症患者は減少し、「若人を中心とした中等症、軽症患者への対応」へと重要課題が移っていきました。また死亡者が多い背景といて「高齢者施設等でクラスターが発生し、罹患患者が重症化する前に死亡する」という事例が少なくなかった点も藤井健康福祉部長は指摘。

今後の新興感染症対策においても、▼時間とともに対応の鍵(重点政策事項)が「流動化」していく点にどう対応していくか▼重症化する前に亡くなる患者にどう対応していくか―をしっかり考えておくことが重要であると強調しています。

さらに藤井健康福祉部長は「今般のコロナ感染症では、感染拡大スピードがそれほどでなかったために、医療提供体制を整えていくことができたが、さらに感染スピードの早い感染症が発生した場合に備えて、医療提供体制確保(病床・医療従事者確保)のために『一定の強制力を持つ』法整備が必要ではないか」との問題提起を行っています。

今般のコロナ感染症では飛沫感染・エアロゾル感染が主な感染拡大毛色と考えられていますが、「例えば新型の麻疹のような空気感染する新興感染症の発生」を懸念する研究者も少なくありません。空気感染となれば、感染拡大スピードは今般のコロナ感染症の比ではないことは明らかです。

コロナ禍では、都道府県から医療機関に対して「コロナ感染症患者をすぐさま受け入れる即応病床」「1週間程度でコロナ感染症患者対応に切り替えられる準備病床」の確保を要請し、また補助金等で経済的インセンティブを付与することで、対応病床を確保してきました。しかし、これは「協議」となるため、「自院ではそうした対応は行えない」と拒否されるケースも少なくありません。

この点について、例えば新興感染症の拡大が一定基準を超えた場合には、強制的に一般病床を感染症対応病床に切り替え、人材の集約化を可能とできるような法制上の対応が必要になるのではないかと藤井健康福祉部長は考えているようです。もちろん、事前に医療機関等の十分な調整を行うとともに、迅速な経済的補填を行うべきことは述べるまでもありません(藤井健康福祉部長も事前の十分な協議が必要であると強調している)。

ただし、我が国では民間医療機関が大多数を占めており、「感染症患者受け入れ」を強制されることには少なからぬアレルギー反応があるようです。例えば、▼強制的な感染症患者受け入れ義務を課すことは、「一般医療を制限する」ことにつながる。平時から感染症患者を受け入れるキャパシティを設けておくべきではないか(谷口清州オブザーバー:三重病院院長、厚生科学審議会感染症部会委員)▼強制力を強めれば、逆に現場でサボタージュが起きるなど医療提供体制が脆弱化する恐れもある。医療従事者への教育が、強制力の前に必要になるのではないか(猪口正孝オブザーバー:全日本病院協会常任理事、救急・災害医療提供体制等に関するワーキンググループ構成員)—といった意見が出ています。

もちろん医療機関と一口に言っても、様々な機能・役割を地域で果たしています。感染症患者の急性期対応を行えない病院、能力はあっても「感染症以外患者の対応」を行うために感染症患者を受け入れることが難しい病院もあります。また強制力にもさまざまなレベルがあります。今後「どうすれば感染症急拡大時に、円滑に感染症対応病床を確保できるか」という視点に立ち、様々な角度から方策を検討していくことが必要です。藤井健康福祉部長は「もし強制的なベッド確保・人材確保が可能であれば、この患者を救えたであろうに、という事態が生じないよう。今後議論を進める必要がある」と強く提案しています。

大阪府では、今後の感染症対応に備えて「強制力を持つ医療提供体制確保」の重要性を説いている(第8次医療計画検討会2 211105)

自治体・医療機関・介護施設等の日頃からの顔の見える関係構築も重要ポイント

また、大阪府では「中等症から重症に悪化した患者について、自院で(他院へ転院させず)相当程度対応可能な病院があることを踏まえ、新たに『中等症・重症一体型』病院を整備する」など、医療現場と行政とが緊密に連携して機動的な対応を行っていることが藤井健康福祉部長から報告されています。平時から自治体・医療機関、さらに介護施設なども含めた人的ネットワークを構築しておくことの重要性が再確認できます。

関連して、小児や妊産婦など特殊な背景を持つ患者への対応について「感染症対応を想定することまでは困難だが、平時から医療ネットワークを構築しておくことで、感染症発生にもそのネットワークを軸に患者受け入れ体制を迅速に整えることが可能」であった旨も報告されています。

大阪府では、中等症・重症一体型病院を設けて、コロナ患者対応を行っている(第8次医療計画検討会1 211105)



感染症対応の拡大は、一方で「一般医療の制限」につながる可能性もあります。この点、患者サイド、医療提供サイドの納得・協力も非常に重要となります。福井県医師会長の池端幸彦参考人は「福井県では、関係する病院長の間で会議を行い、一般医療制限に対する問題が生じないよう十分な調整を行った」ことを紹介しています。

上述の強制力を持つ対応が可能になったとしても、こうした調整が必要不可欠となります。地域医療機関の間で「顔の見る関係」を構築しておくことの重要性をここでも確認できます。



他方、福井県からは、「医師が感染症患者の画像診断データ、血液検査結果、SPO2値等を踏まえてメディカルチェックを行う、重症化リスクなどを鑑別した」ことが報告されました。この鑑別により「重症化リスクがあるために病院での入院加療とする」「重症化リスクが小さいために宿泊・自宅とする」という患者の振分けが行われましたが、結果「重症化リスクが低いにも関わらず重症化し、宿泊・自宅から病院への搬送が必要になった」ケースは皆無であったとのことです。全国レベルでこうした振分けを行うことができれば、医療機関の負担を抑えることが可能となるでしょう。その際には「医師による鑑別」が必要不可欠となるため、どう協力を得ていくかなどが重要な検討課題となりそうです。



検討会では、今後も「コロナ感染症に対応した医療現場からの意見聴取」を継続。現場の意見を第8次医療計画などに反映させていく考えです。



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