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「標準的な出産費用の自己負担無償化」を医療保険の中でどう実現すべきか、「標準」には何を含めるべきか—社保審・医療保険部会（3）

2025.11.24.（月）

2026年度を目途に「標準的な出産費用の自己負担無償化」を実現するが、医療保険制度の中でどういった給付体系とするべきか。その際、「標準」の中にどういったサービス・ケアを含めるべきか―。

11月20日に開催された社会保障審議会・医療保険部会では、こういった議論も行われています（同日の2026年度診療報酬改定基本方針論議の記事はこちら、入院時の食事負担に関する記事はこちら）。なお、同日には「OTC類似薬にかかる保険給付の在り方」について患者団体から意見聴取も行われています。

11月20日に開催された「第204回社会保障審議会医療保険部会」

「標準的な出産費用の自己負担無償化」をどういった仕組みで実現すべきか
「OTC類似薬を保険給付範囲から除外する」考え方には、患者団体が強く反発

「標準的な出産費用の自己負担無償化」をどういった仕組みで実現すべきか

Gem Medで報じている通り、我が国では少子化が進行しており、2023年には、1人の女性が生涯出産する子の数に相当する合計特殊出生率が全国で1.20、東京都では0.99にまで落ち込むという衝撃的なデータが示されました（関連記事はこちらとこちら）。

少子化の進行は、「社会保障財源の支え手」はもちろん、「医療・介護サービスの担い手」が不足することを意味します。さらに社会保障制度にとどまらず、我が国の存立そのものをも脅かします（国家の3要素である「領土」「国民」「統治機構」の1つが失われ、日本国そのものが消滅しかねない）。

そこで、「子ども未来戦略」を受け、「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」で次のような議論の整理が行われました。

▽2026年度を目途に、産科医療機関等の経営実態等にも十分配慮しながら「標準的な出産費用の自己負担無償化」に向けた具体的な制度設計を進める

▽出産に伴う診療・ケアやサービスには、「医師等の判断に基づき実施されるもの」（言わば、必要不可欠なコア部分）と、「妊産婦が希望し選択するもの」（言わばオプション部分）があると考えられ、その選別と情報公開の徹底を含め、それぞれに対する支援のあり方を検討する

この考え方に沿って医療保険部会でも議論が始まり（関連記事はこちら）、11月20日の会合では厚生労働省保険局保険課の佐藤康弘課長から（1）給付体系をどう考えるか（標準的な出産において「妊婦の自己負担が発生しない」ような給付方式の在り方、出産費用の地域差・施設差、産科医療機関の経営状況等も踏まえや給付内容など）（2）「標準的なケース」の範囲（軽微なものも含めた何らかの医療行為（保険診療）が行われている点、個室料・祝い膳・写真撮影・足形・エステなどのアメニティ部分をどう考えるか）（3）妊婦自身が納得感を持ってサービスを選択できる環境をどう整備するか―という論点が提示されました。

このうち（1）の給付体系については、▼分娩の46％に対応している一次施設（産科クリニックなど）を守る観点で検討すべき。その際、数時間で済むお産から2、3日かかるお産まであり、一律の価格設定は困難ではないか。一方、細かく1つ1つの行為に値決めすることも非現実的である。拙速に結論を出せば周産期医療体制は崩壊してしまう。新たな財源の確保も視野に入れるべき（石渡勇専門委員：日本産婦人科医会会長）▼地方の産科クリニックがつぶれてしまうような仕組みは避けてほしい。無理に「現物給付」にこだわるべきではない。我々の調査では、1回のお産に平均140万円の医療資源が投下されている（亀井良政専門委員：日本産科婦人科学会常務理事）▼地域・施設で出産費用にばらつきがあり、周産期医療提供体制の維持も踏まえて検討すべき（伊奈川秀和委員：国際医療福祉大学医療福祉学部教授）▼現物給付化が望ましく、公費からの別途支援も検討すべき。その際、「一律」の点数（給付）とすることが妥当である（林鉄兵委員：日本労働組合総連合会副事務局長）▼「現物給付化＋自己負担部分への公費支援」、「他の給付との整合性をとった全国一律の点数（給付）」が望ましい。産科医療提供体制の確保は、医療保険ではなく、税財源（補助金）で解決すべき（佐野雅宏委員：健康保険組合連合会会長代理）▼給付内容は「全国一律」とすべきだが、あわせ「周産期医療提供体制が壊れない」ような費用設定を勘案すべき（城守国斗委員：日本医師会常任理事）▼地域の周産期医療体制が確保できるような評価・仕組みが必要である（島弘志委員：日本病院会副会長）—との意見が出ています。委員間で「コンセンサスが得られている」とは言い難い状況のようです。

また（2）の「標準的なケース」に関しては、▼「アメニティ部分」は給付の対象外とする▼医学的に妥当な範囲を調査結果に基づいて決定する―という大きな方向について、委員間の意見は一致していると見ることができます。

ただし、細部については意見が割れる可能性もあり（委員ごとに思い描く「標準的なケース」は必ずしも一致しない）、今後「具体案」を見ながら調整していくことが必要でしょう。

なお、この点に関連して佐藤保険課長は▼分娩から産後入院の経過例（代表例ではない）▼分娩に係る療養の給付の推計—に関するデータを示しています。

後者は、主に中小企業の会社員とその家族が加入する協会けんぽにおける出産育児一時金等のデータとレセプトデータを用いて「分娩時に診療報酬を算定している」ケースの件数・給付額を推計したものです（80.9％のお産で何らかの診療報酬算定が行われている）。

ここから全保険者分に換算すると、約1431億9660万円分の保険診療が出産に付随して提供されていると推計されます（正常分娩に際して付随して行われた保険診療が103億5369万円分、帝王切開などの異常分娩にかかる保険診療が1328億4291万円分となる）。

分娩から産後入院の経過例（代表例ではない）（社保審・医療保険部会（3）1　251120）

分娩にかかる「療養の給付」（医療利用）の推計（社保審・医療保険部会（3）2　251120）

こうした「保険診療」、つまり医療行為を「標準的なお産のケース」に含めるか否かなども今後検討していく必要があります。標準ケースに医療行為を含めれば自己負担はゼロとする方向で検討されますが、そうでなければ3割負担を別途、患者が負担することになるでしょう。また標準ケースに医療行為を含めた場合に、「1つ1つの診療行為を出来高算定可能とするのか、標準ケースの中で包括評価するのか」といった細かい論点も出てきます。

あわせて異常分娩（帝王切開による分娩など）について、「3割負担部分も含めて無償化するのか」などの論点も生じてくることになるでしょう。

この点については、▼まず、どのような診療行為を、どのような理由で行っているのかを明確にする必要がある。また無痛分娩を医療保険の中でどう考えるかも慎重に検討すべき（佐野委員）▼安全性を確保した自宅出産の評価、無痛分娩の評価などもしっかり考える必要がある（島委員）▼既存の産科医療機関が「納得できる」形での標準ケース設定が必要となる。軽微な医療について患者の自己負担をどう考えるかは十分に検討する必要がある（城守委員）—といった意見が出されました。こうした意見も踏まえて「細かい論点」が整理され、1つ1つの論点について「具体的な制度」化に向けた議論が進められることになるでしょう。

さらに（3）では、アメニティ部分なども含めた費用がどの程度かかるのかなどの詳細な情報を「出産なび」に掲載していくべきとの意見が多数出ています。

この点に関連して、▼「アメニティ部分が不要である」と考える妊婦は、それを利用せずに安価な費用でお産ができる（アメニティを自由選択できる）環境を整えてほしい（新居日南恵専門委員：manma理事）▼詳細な明細書発行（現物給付部分、アメニティ部分を含めて）を産科医療機関に義務付けるべき（林委員）▼妊婦が必要としている情報を計算することが重要である（城守委員）—との意見が出ています。

「OTC類似薬を保険給付範囲から除外する」考え方には、患者団体が強く反発

また11月20日の医療保険部会では、OTC類似薬の保険給付の在り方について患者団体からの意見聴取も行われています。

意見は多岐にわたりますが、患者団体からは「OTC類似薬を保険給付から除外し、類似のOTC薬（一般用医薬品）を使用せよとする仕組みには反対である」との声が一律に出ています。

今後、「OTC類似薬について、保険給付の在り方を他の医療用医薬品と変える」（例えば「通常の医薬品は3割負担であるところ、OTC類似薬は4割・5割負担などとする」ことや、「OTC類似薬を使用する場合には、3割負担＋別の患者特別負担を求める」など）ことをどう考えるかという議論が進みそうです。

この点について医療保険部会委員からは▼患者負担が過重にならない制度設計を考える必要がある（城守委員）▼どういった薬剤を念頭に置くのかを明確にした議論が必要ではないか（中村さやか委員：上智大学経済学部教授）—などの声が出ています。

2002年の改正健康保険法等附則で「7割給付を維持する」とされている点を考慮すれば「OTC類似薬の患者負担を4割・5割などに引き上げる」ことは難しそうです。

となると、医療上の必要性なく「長期収載品」を使用した場合の患者特別負担（選定療養費）と類似の仕組みが考えられそうですが、「OTC類似薬」（医療用医薬品）と「OTC医薬品」（一般用医薬品）とは「同じ薬」ではなく、「後発品のように長期収載品を代替できる関係にはない」点をどう考えるのか、さらに議論が必要でしょう（選定療養は、いわば「贅沢医療」部分は患者自身が負担すべきとされ、OTC医薬品（一般用医薬品）で代替が難しいOTC類似薬使用を「贅沢医療」と言えるかどうかは慎重な検討が必要となる）。