2024年12月2日以降も「マイナ保険証を持っていなくとも、従来通りの保険診療を受けられる」点を十分周知せよ—社保審・医療保険部会(1)
2024.11.1.(金)
本年(2024年)12月2日に保険証の「新規発行」が停止され、「マイナンバーカードと保険証の一体化」が行われる。ただし、それ以降も「マイナ保険証を持っていなくとも、従来通りの保険診療を受ける」手段がさまざまある点をPRし、国民・医療機関等の混乱を避ける必要がある—。
もっとも「マイナ保険証での受診」が基本となるため、マイナ保険証の利用促進をさらに加速していく必要がある—。
10月31日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、こうした議論が行われました。また同日には、国民健康保険の保険料の賦課限度額・保険税の課税限度額を現在より3万円引き上げ「109万円」とする方針が固められました。今後、政令改正地方議会で条例改正などが行われます。
なお、同日の医療保険部会では「産科医療特別給付事業」なども議題に上がっており、別稿で報じます。
「マイナンバーカードでなければ保険診療を受けられないわけではない」点に留意を
医療DXの推進を目指し、「現行の健康保険証の新規発行を本年(2024年)12月2日に終了し、マイナ保険証(マイナンバーカードの保険証利用)を基本とする仕組み(マイナンバーカードと保険証の一体化)に移行する方針が固められ、「マイナンバーカードの保険証利用促進に向けた総合的な対策が順次進められています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
一体化まで「ほぼ1か月」となったことを受け、厚労省保険局医療介護連携政策課の山田章平課長は「12月2日以降の医療機関等の窓口における資格確認方法」について確認を行いました。
一部に「12月2日以降、従来の保険証は使えなくなる」などの誤解があるようですが、実際には次のような複数の方法で保険診療を受けることが可能です。
(1)マイナンバーカードと保険証の紐づけを行っている場合
→「マイナンバーカード」で保険診療を受ける(医療機関等窓口の顔認証付きカードリーダーシステムで資格確認)
(2)マイナンバーカードと保険証の紐づけを行っているが、何らかの事情でオンライン資格確認を行えなかった場合
▼「患者自身のマイナポータル画面(PDF含む)+マイナンバーカード」で保険診療を受ける(マイナポータル画面で資格情報を医療機関が確認する)
▼「医療保険者が交付した【資格情報のお知らせ】(A4の紙)+マイナンバーカード」で保険診療を受ける(『資格情報のお知らせ』で資格情報を医療機関が確認する)
▼「マイナンバーカードを提示するとともに、初診の場合には患者に【被保険者資格申立書】を記載してもらう、再診の場合には医療機関で過去の受診情報をもとに資格確認する」ことで保険診療を受ける(関連記事はこちら)
(3)マイナンバーカードを持っていない場合、マイナンバーカードと保険証との紐づけを行っていない場合
▼「保険証」(有効期限が切れるまで)で保険診療を受ける(従来と同じ)
▼「医療保険者が交付した【資格確認書】」で保険診療を受ける(保険証と同様に【資格確認書】を医療機関窓口に提示する)(関連記事はこちら)
また(2)の「マイナンバーカードと保険証の紐づけを行っているが、何らかの事情でオンライン資格確認を行えなかった場合」について、一部に「10割負担を求められた」との報道があります。
しかし、厚労省は従前より「初診の場合には【被保険者資格申立書】を記載してもらう、再診の場合には医療機関で過去の受診情報をもとに資格確認する」「マイナポータルの画面で資格確認を行う」ことなどにより保険診療を受けられる(1-3割負担とする)取り扱いを示しています。12月2日からは、これらに加えて医療保険者が交付する【資格情報のお知らせ】を医療機関窓口に提示する(マイナンバーカードと一緒に提示する)ことで保険診療を受けることも可能となります。
繰り返しになりますが、医療機関等では、「マイナンバーカードと保険証の紐づけを行っているが、何らかの事情でオンライン資格確認を行えなかった場合」であっても、安易に「10割負担を求める」のではなく(これは最終手段)、上記(2)のいずれかの対応をまずとって「1-3割の負担で受診を可能にする」対応が求められる点に留意が必要です。
なお、こうした点(マイナンバーカード以外でも保険診療を受けられる点など)が必ずしも十分に国民や医療機関等に理解されていない面であることを踏まえ、山田医療介護連携政策課長は、「マイナ保険証をまだ持っていなくとも、従来どおりの保険診療を受けられる」旨を、国民や医療機関等に改めて周知・広報する考えも示しています。
医療保険部会では、「『マイナ保険証をまだ持っていなくとも、従来どおりの保険診療を受けられる』旨のポスターなどを医療機関等に掲示すべき』(袖井孝子委員:高齢社会をよくする女性の会理事)、「医療機関側でも『マイナ保険証をまだ持っていなくとも、従来どおりの保険診療を受けられる』旨のポスター掲示などに努め、実質『これまでと何ら変わりなく保険診療を受けられる』点をPRしていく。ただし、これは『医療保険者』(健康保険組合や協会けんぽ、国民健康保険など)の仕事である点に留意すべき」(城守国斗委員:日本医師会常任理事)、「医療保険者が交付する【資格情報のお知らせ】を持参する患者は少数派であろう。マイナポータルの画面をスクリーンショットし、スマートフォンに保存しておくことなどを推奨してはどうか」(渡邊大記委員:日本薬剤師会副会長)などの注文がついています。
もっとも、一部委員からは「マイナ保険証『以外』にも保険診療を受けられる手段がある」ことは、「マイナ保険証の利用推進を遅らせてしまうのではないか」との思いもあるようです。このため、例えば「マイナ保険証の利便性、安全性を国民にさらにPRすべき。また【資格確認書】は『マイナンバーカードを持っていない人』のみに発行し、『マイナンバーカードを持っているが保険証との紐づけを行っていない人』には『紐づけの促進』を図るべき」(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会会長代理)、「【資格確認書】では、過去の診療情報確認ができないなど、マイナ保険証に比べて機能が限定的である点などを広報し、マイナ保険証への移行を促していくべき」(藤井隆太委員:日本商工会議所社会保障専門委員会委員)といった声も出ています。
また、先の衆院選では「保険証発行停止の延期」などを公約に掲げる政党もありました。この点については「国民健康保険をはじめとする自治体のシステム改修が進んでいる。ないとは思うが、『マイナンバーカードと保険証の一体化』の基本方針に変更があれば、自治体は大混乱となる。基本方針の堅持をお願いする」と原勝則委員(国民健康保険中央会理事長)は強く要請しています。上述のとおり「12月2日の保険証新規発行停止」まで1か月であり、現時点での方針変更は実務的にも不可能である点に留意が必要です。
マイナ保険証の利用状況を見ると、昨年(2023年)12月に、直近では最も低い4.29%に低下しましたが、本年(2024年)に入ってから、1月:4.60%、2月:4.99%、3月:5.47%、4月:6.56%、5月:7.73%、6月:9.90%、7月:11.13%、8月:12.43%、9月:13.87%と上昇モードに入っていますが、まだまだ十分とは言えません。
山田医療介護連携政策課長は、▼顔認証付きカードリーダーで「顔認証」や「暗証番号」入力ができない場合の「目視確認」による本人確認について、複数回資格確認端末を操作しなければならないところ、来年(2025年)3月を目途に「運用改善」を行う(利便性の向上)▼福祉施設等におけるマイナンバーカードの取得・マイナ保険証の利用促進に向けた取り組みを行う▼マイナ保険証の方が、紙保険証よりも「レセプト返戻が少ない」ことなどの医療機関等のメリットをPRする—ことなどにより、マイナ保険証の利用促進を加速する考えも示しています。
国民健康保険料(税)の賦課(課税)限度額を3万円アップし、109万円に
10月31日の医療保険部会では、国民健康保険の保険料賦課・保険税課税限度額についても議論が行われました。
医療保険・介護保険などの社会保険では、「サービスを受けた量に応じた負担をする」という【応益負担】(サービスを多く受ければ受けるほど負担も大きくなる)と「経済力に応じた負担をする」という【応能負担】(所得が高ければ高いほど負担も大きくなる)を組み合わせて財源を確保しています(このほかに「公費」も投入されている、関連記事はこちら)。前者の【応益負担】としては患者負担(窓口一部負担)がありますが、年齢・所得によって1-3割に設定するなど【応能負担】の要素も取り入れられています。
また、毎月納める保険料(税)では【応能負担】の考え方に基づいた制度設計がなされ、「所得等の高い人が、より高額な保険料(税)を負担する」形となっています。ただし青天井に保険料(税)が上がっていけば、高所得者の中には「私の保険料は高すぎる。これでは医療保険に加入する意味がない。医療が必要になった際に自費で受けたほうが安上がりである。保険料(税)は負担しません」と考える人が出てきてしまいかねません。これでは社会保険制度が崩壊してしまうため、保険料(税)負担額には上限、つまり「一定所得以上の人は、それ以上に所得が高くなっても保険料(税)額は同額とする」という【賦課限度額】(上限額)の仕組みが設けられています。
賦課限度額は、そのときどきの医療保険加入者の所得状況によって変えていく必要があります。例えば、「医療費が増加する中で賦課限度額を変えない」こととすれば、高所得者の負担は変わりませんが、その分「中間所得層に負担がのしかかる」こととなってしまうのです。
この点、国民健康保険については「【賦課限度額】を見直す必要があるのか」を毎年度検討しており(例えば、上限を超過する高所得世帯の割合が1.5%程度以内までに収まるか、などを勘案する)、必要に応じて2-4万円程度の引き上げが行われてきています。
2025年度においては、医療費等の増加を見込んで「3万円」(基礎賦課分1万円、後期支援金等分2万円)引き上げ、保険料(税)の上限を「109万円」とする方針が固められました(今年度(2024年度)には「104万円から106万円への2万円引き上げ」が行われている)。
本年度(2024年度)中に関係政令の改正、税制の改正(国見健康保険「税」としている自治体が多い)を行い、それを踏まえて各自治体での条例改正を経て、来年度(2025年度)から新たな賦課限度・課税限度基準額が適用されることになります。
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