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GemMed塾 大学病院本院群を取り巻く現況を解説 ~昨今の特定病院群・標準病院群の経営努力とは~

医師偏在是正に向け、例えば「●●科のサービスが特に過剰な地域」での診療報酬減算などを検討せよ―財政審

2024.11.20.(水)

規制的手法も含めた医師偏在対策を強力に進めるべき。例えば、「●●科のサービスが特に過剰な地域」について診療報酬の減算措置などを検討すべきである—。

地域医療構想の実現に向けて、都道府県知事の権限強化を図るべきである—。

介護老人保健施設や介護医療院でも、多床室の室料負担を導入すべき—。

来年度(2025年度)には、基本的に全品目を対象に「薬価の中間年改定」(薬価の引き下げ)を行うべきであり、新薬創出適応外薬解消等促進加算の累積控除なども適用すべき—。

11月13日開催された財政制度等審議会・財政制度分科会において、財務省がこうした提案を行いました(財務省サイトはこちらこちら(参考資料))。

近く「建議」として固められ、今後の社会保障審議会(医療部会、医療保険部会、介護保険部会)や中央社会保険医療協議会などでの議論にも影響を及ぼす可能性があります。

2025年度の薬価中間年改定の実施、地域医療構想実現なども強く要請

医療保険財政は厳しさを増しており、今後、さらに状況は深刻になっていきます。

背景の1つとして、まず「医療技術の高度化」があげられます。医療技術の高度化は、述べるまでもなく我々患者・国民に大きな恩恵をもたらしますが、一方で医療費の高騰を招きます。脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(1億6707万円)白血病等治療薬「キムリア」(3350万円)などの超高額薬剤の保険適用が相次ぎ、さらにキムリアに類似したやはり超高額な血液がん治療薬も次々に登場してきています。2022年度には月額1000万円を超える超高額レセプトが過去最高の1792件となりました。また、昨年(2023年)12月には新たな認知症治療薬「レケンビ」が保険適用され、間もなく新たな認知症治療薬「ケサンラ」が保険適用されます。

同時に、高齢化の進展も医療費高騰に大きく関係します。2022年度から人口の大きなボリュームゾーンを占める団塊世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が後期高齢者となります。後期高齢者は若い世代に比べて、傷病の罹患率が高く、かつ1治療当たりの日数が非常に長いため、高齢者の増加は「医療費の増加」を招いてしまいます。

このように医療費が高騰していく一方で、支え手となる現役世代人口は急速に減少していきます(2025年度から2040年度にかけて急速に減少する)。

ところで医療保険制度、介護保険制度においては財源の25%が国費である(関連記事はこちら)ことから、「医療費・介護費の増加」→「その25%に相当する国費支出の増加」→「国家財政の圧迫」につながっていると指摘されます。

そこで財政制度分科会では、「国家財政を健全化させる(端的に「入り」を増やし、「出」を抑える)ために、医療費や介護費の伸びを我々国民の負担できる水準に抑える」方策の検討を進め、提言を行っています。

11月13日の財政制度分科会では、財務省から社会保障改革に向けた次のような考え方が示されました。

【医療提供体制関係】
●医師偏在対策

▽医師偏在対策の策定と併せて、「骨太の方針2024」に沿って、「2026年度の医学部定員の上限(2024年度の医学部定員を超えない範囲で設定する)、2027年度以降の医学部定員の適正化の検討」を速やかに行うべき
→日本の社会経済全体での人材の有効活用との観点も踏まえて、「医師の担うべき業務の重点化や包括化」も進めるべき

▽希少な医療資源を可能な限り有効活用する観点からも「医療関係職種間でのタスクシフト・シェア」を進めるべき

▽病院勤務医から開業医へのシフトを促すことのないよう「診療報酬体系の適正化」を行うべき

▽医師偏在是正に向けた「新たな規制的手法」の導入に当たっては、外来医師多数区域での保険医の新規参入に一定の制限を設けることはもとより、「既存の保険医療機関も含めて需給調整を行う仕組み」の創設など、真に実効性のある医師偏在対策となるように踏み込んだ対応を行うべき

▽医師偏在対策として、「地域別診療報酬」の仕組みを活用し、報酬面からも診療所過剰地域から診療所不足地域への医療資源のシフトを促していくべき
→当面の措置として「診療所過剰地域における1点当たり単価(10円)の引き下げ」を先行させ、それによる公費の節減効果を活用して医師不足地域における対策を別途強化することも考えられる(関連記事はこちら

▽医師偏在対策をエビデンスベースで進めるために「診療科毎などの医師偏在指標」を早急に世に示すべき
→その上で、例えば「●●科のサービスが特に過剰な地域」について、都道府県や地域医療関係者が客観的・絶対的な形で判断できるような「医師偏在指標」に拠った基準を速やかに策定すべき(特定過剰サービス)
→適切なアウトカム指標導入とセットで「特定過剰サービス」に対する診療報酬の減算措置を導入すべき
→「特定過剰サービス」に係る保険給付については、アウトカム指標に応じた減算措置に加えて、各年度の「基準額」を超過した場合の精算措置導入も検討すべき

規制的手法による医師偏在対策を実行せよ3(財政審3 241113)

「●●科のサービスが特に過剰な地域」での診療報酬減算などを検討せよ1(財政審4 241113)

「●●科のサービスが特に過剰な地域」での診療報酬減算などを検討せよ2(財政審5 241113)

「●●科のサービスが特に過剰な地域」での診療報酬減算などを検討せよ3(財政審6 241113)



●地域医療構想の実現
▽今後、外来患者数が減少することを踏まえ「地域の外来機能における医療資源の集約化」を進めるべき

▽入院医療の需要低下に合わせ、地域医療構想の枠組みにおいて「病床全体の縮小をより一層進める」仕組みを設けるべき

▽「新たな地域医療構想」では、現状投影に基づく医療ニーズを入院・外来・在宅医療・介護の間で割り当てるという発想でなく、▼患者像の変化(需要面での変容)▼希少な医療資源の最大限活用—の観点から、「各医療機関における入院・外来機能の役割分担の明確化・集約化を加速させることによる地域医療提供体制の効率化(供給面での取組)」を反映した必要病床数や外来需要等の推計に立脚したものとすべき

▽「新たな地域医療構想」について、各医療機関が構想と整合的な対応を行うよう求めるなど「知事の権限強化」を図るべき

【医薬品関係】
▽「製薬業界のあるべき将来像」も視野に入れつつ、薬価制度上の評価のメリハリ付けを一層推進することで革新的新薬を開発・製造する製薬企業の成長をより一層促していくとともに、「革新性の低い新薬や長期収載品に依存する企業の再編」を促していくべき
→新薬創出適応外薬解消等促進加算の対象品目が「真に革新的なもの」となっているか不断に検証すべき

▽来年度(2025年度)の薬価中間年改定は、原則全ての医薬品を対象にして実勢価格に合わせた改定を実施すべき
→仮に一定の品目を除外するとしても、「安定供給確保に資する医薬品」など政策的対応の合理性があるものに限定すべき
→例えば「新薬創出等加算の累積額控除」や「長期収載品の薬価改定」などは革新性を失った医薬品の評価を適切に見直すルールであり、現役世代を含む国民負担軽減の観点や保険適用のタイミングによる不公平の解消の観点から、2025年度薬価中間年改定では「既収載品の算定ルールを全て適用」すべき
→現役世代の保険料負担軽減を含め国民皆保険制度の持続可能性を確保する観点から、少なくとも「価格や薬剤の種類によらず調整幅を一律2%としている」点のあり方を検討すべき

2025年度薬価中間年改定を実行せよ1(財政審1 241113)

2025年度薬価中間年改定を実行せよ2(財政審2 241113)



▽▼費用対効果評価を実施する薬剤の範囲や価格調整対象範囲の拡大▼費用対効果評価結果を「保険償還の可否判断に用いる」こと▼費用対効果評価の結果を各学会の診療ガイドラインや厚生労働省の最適使用推進ガイドラインなどに反映し、経済性の観点を診療現場にも徹底すること—を実施すべき

▽新規性に乏しい新薬に係る薬価収載時の評価方式である類似薬効比較方式(II)について、比較対象薬に後発医薬品も含めることも含め、具体的な見直しを早急に検討すべき

▽OTC類似薬の自己負担の在り方について、保険外併用療養費制度の柔軟な活用・拡大も含めて検討すべき
→医薬品の有用性に応じた自己負担率の設定、薬剤費の定額自己負担の導入を検討すべき

▽後発品の使用促進を、安定供給確保の観点も踏まえつつ継続するとともに、バイオシミラーについて、「バイオ先発品の一部選定療養化」も含めて、その推進に資する幅広い取り組みを強力に推進していくべき

【医療保険制度関係】
▽普通調整交付金の配分方法について、実際に要した医療費ではなく「各都道府県の年齢構成等を勘案して算出した標準的な医療費」を前提とする仕組みに改めるべき

▽後期高齢者医療制度においても、財政運営の主体を都道府県とすることを検討すべき

▽国民健康保険の保険料水準については、都道府県内での被保険者間の受益と負担の公平性を確保する観点から、遅くとも2030年度までに全都道府県で「納付金ベースでの保険料水準の統一」が実現するよう、必要な取り組みを早急に進めるべき

▽現在保険料の賦課対象とされていない金融所得のうち、本人の選択によって保険料の賦課対象となるかどうかが変わり得るもの(上場株式の配当など、預貯金の利子などは含まれない)については、公平性の観点から「保険料の賦課ベースに追加」し、負担能力の判定に活用すべき
→NISAなどの非課税所得(NISA口座で管理される金融資産は1800万円(簿価残高)まで非課税)は、保険料においても賦課対象としないことを前提とする

▽医療保険における入院時生活療養費等の負担能力の判定に際して、介護保険の補足給付との違いや保険者の事務負担等も踏まえつつ、「金融資産を勘案する方策」を早急に検討すべき
→医療・介護保険における負担の在り方全般について、マイナンバーを活用して金融資産の保有状況も把握し、「負担能力を判定するための具体的な制度設計」検討を進めるべき

▽後期高齢者のうち「現役並み所得」(3割負担となる)の判定基準について、現役世代との公平性を図り、世帯収入要件を見直すべき

▽高額療養費制度について、世代間・世代内での負担の公平化、負担能力に応じた負担の確保などの点から、物価・賃金の上昇など経済環境の変化も踏まえ、必要な見直しを検討すべき

【介護関係】
▽訪問介護事業について引き続き【処遇改善加算】の確実な取得を促しつつ、現場のニーズ等を踏まえた人材確保策を推進すべき

▽2023年度補正予算で措置した介護テクノロジー導入・協働化等支援事業(351億円)などを活用してICT機器の導入・活用推進するとともに、▼経営の協働化・大規模化▼特別養護老人ホーム等における人員配置基準の更なる柔軟化—に取り組むべき

▽【処遇改善加算】の取得促進とあわせて、好事例の横展開による職場環境の整備や生産性向上等に取り組むことで「人材の定着」を推し進めるべき

▽「人材紹介会社に対する指導監督の強化」とともに、ハローワークや都道府県等を介した「公的人材紹介の充実」を図るべき

介護人材紹介会社の規制強化(財政審7 241113)



▽所得だけでなく金融資産の保有状況等の反映、きめ細かい負担割合の在り方の検討を進めたうえで、「2割負担の対象者の範囲拡大」、「利用者負担の原則2割化」「現役世代並み所得(3割)等の判断基準見直し」を検討すべき(関連記事はこちら

▽居宅と施設の公平性、施設間の公平性の観点から、介護老人保健施設・介護医療院についても「多床室の室料相当額を基本サービス費等から除外する」見直しを進めるべき(関連記事はこちら

▽公正・中立なケアマネジメントを確保する観点から、「質を評価する手法の確立と報酬への反映」、「居宅介護支援への利用者負担導入」を行うべき

▽軽度者(要介護1・2)に対する訪問介護・通所介護についても地域支援事業への移行を 目指し、段階的にでも、生活援助型サービスをはじめ、地域の実情に合わせた多様な主体による効果的・効率的なサービス提供を可能にすべき

▽自治体のローカルルールの実態把握を行った上で、国民の利便性向上に資するよう「介護保険外サービスの柔軟な運用」を認めるべき



すでに相当程度議論されている事項も含まれていますが、今後、社会保障審議会(医療部会、医療保険部会、介護保険部会)や中央社会保険医療協議会などで議論が活発化していくこととなり、今後の議論の行方に注目する必要があります。

その際、重要となるのが「財務省が社会保障費の伸びを抑制する姿勢を極めて強く打ち出している」という点です。国の財政(=我々国民の財布)には限界があり「必要なので青天井に社会保障費を用意・支出できる」わけではありません。▼医療技術の高度化▼高齢化の進展—などにより医療・介護費が増加を続けます。一方、現役世代は急激に減少していくため、「支え手」(費用の支え手、サービスの担い手)が減っていきます。このため、「医療・介護などの支出を抑えなければいけない」「負担(保険料や自己負担)を上げていかなければならない」ことは、火を見るよりも明らかである点にも留意した議論が必要です。



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